イタリア解説Euro Sport版「2014中国杯~羽生結弦FS」

羽生結弦選手の演技と6分間練習中の解説です。

ハンヤン選手との衝突事故が世界中に衝撃を与えたこの試合の解説は、一部物議を招きかねない発言があり、掲載すべきかどうか正直、かなり迷いました。

 私はファン同士の対立は不毛だと思いますし、そういったことを煽ることを望んでいません。ましてや何の関係も責任もない選手当人に批判の矛先が向くようなことは絶対にあってはならないと思っています。

でも実況のマッシリアーノさんは得点が表示されて号泣する羽生君を見ながら「もう一度言う、こういう感動に誰のファンだとかいう壁はないはずだ」と言っていました。私には日本のファンがイタリア解説の動画を見ていることを知っているマッシミリアーノさんが私達に切々と訴えかけているように思えました。技と美を競うフィギュアスケートでファン同士の対立や誹謗中傷は愚かしいことだと訴える彼の言葉は、イタリアがサッカーの過激なサポーターの対立で死傷事件も起こるような国だからこそ説得力があり、心に深く響くものでした。

どうか解説者の真意を理解し、良識と広い心を持って読んで下さるよう願い致します。

coc実況:マッシミリアーノ・アンベージ
解説:アンジェロ・ドルフィーニ

<男子フリー第1グループ6分間練習中>
(要約)

羽生がショートで2つのジャンプでミスがあったにも関わらず得点が高かった理由について説明しよう。
まず、羽生はスケーティングの質がずば抜けている。滑らかで伸びとスピードがある。
エッジが深く、膝を深く屈伸させ、上下にメリハリを付けて滑る。
だから演技構成点のSkating skillsで高い評価を受けている。

それからあの驚異的な美しいトリプルアクセル。イーグルから直接跳び、着氷後すぐにまたイーグルで滑り続けていた。こんなトリプルアクセルは初めて見た。本当に信じられない。
当然、GOEで高い加点が付き、Transition(繋ぎ)の評価も高くなる。
他の選手とは比べものにならないぐらい繋ぎが満載で非常に高難度なプログラムである。4Tが3Tになってしまったけれど、明確なステップを踏んでから跳んでいたので、ここでもGOEでプラスの加点をもらっている。

例えばマキシム・コフトゥンの4Tは素晴らしいジャンプだったけれどステップがなかった。現行のルールではステップからの単独ジャンプはショートプログラムの必須要素だからステップがなかった場合、GOEで3点、最低でも2点減点されるべきなのに、コフトゥンの4Tにはプラスの加点が付いていた。これはおかしなジャッジで議論されるべきだ。
カナダ大会でも同じことがあったから(ロシアのメンショフ選手のステップ無し4Sに加点)、新ルールが導入されたばかりでジャッジも混乱しているのかもしれない。

羽生の最大のミスは3Lzでステップアウトになり、コンビネーションにならなかったことだ。でも別の見方をすればかえって良かったのかもしれない。もし彼があそこで3Lz-3Tを決めていたら、3Tが2回になってコンビネーションジャンプの得点が0点になり、もっと悲惨なことになっていた。

<男子フリー第2グループ6分間練習中断中>
(要約)

 イタリア放送では6分間練習開始直後にコマーシャルになり、放送が再開されるとリンクに選手の姿はなく、スタッフがリンクを整備していました。なので解説も視聴者も事故のことは知らず、何か氷に問題があったんだろうと思っていました。羽生君の身にあのような恐ろしいことが起こったとは夢にも思わないマッシミリアーノさんとアンジェロさんは羽生君の凄さを熱く語り続けていました(涙)。

今シーズン、羽生はフリーで4回転トゥループを1本増やし、しかもコンビネーションで跳ぶという新しい試みに挑戦する。 これまでに入ってきた情報と彼の公開練習から察するに、今季の羽生のフリープログラムのTES基礎点(ジャンプ、スピン、ステップのGOE無しの合計点)は95点に達する計算になる。これは驚異的な数値だ。
最も戦略的な構成のハビエル・フェルナンデスでさえ基礎点90点に達するのがやっとで、他の選手はもっと低い。羽生の基礎点に最も近い構成の選手を探すにはジュニアカテゴリーに目を向けなければならない。中国のボーヤンが91点で最も高い。超絶難度マニアのもう一人の選手にカナダのケヴィン・レイノルズもいるが、ご存じのようにもう何年も前から体調に問題があり、慢性的な回転不足に苦しんでいる。

いずれにしても羽生はシニアデビュー時から毎年、着実に構成を上げてきている。彼の技術構成の進化の過程についてはNeveitaliaのウェブサイトで詳しく説明しているので是非読んでほしい(こちら>>)。

つまり羽生がジャンプを全部降りたら、誰も彼に勝てない。いや、問題は羽生がミスをしても勝てないということだ。だって羽生のミスって言ったってせいぜい4Sぐらいだろう。他のジャンプではほとんどミスがない。彼の最大の武器は後半の3Aコンビネーションで絶対に失敗しないということだ。彼の3Aのクオリティは素晴らしく高い加点が付くからもの凄い点数を稼ぐことが出来る。
彼は止まった状態からでも3Aを跳ぶことが出来る。

(ここで6分間練習が再開され、リンクに選手が5人しかいないこと、羽生君が包帯姿だということに解説が気付き、何かアクシデントがあったことを知る)

<ハンヤン選手のキス&クライ>

マ:ハンヤンの演技中、羽生がリンクサイドからエールを送っていた。ハンヤン選手はリンクに向かう前に羽生に握手を求めていた。

ア:同じ境遇にある2人だからこそ、互いに相手を気遣ったのだろう。

フリー演技動画>>

Elena Cさんが動画を投稿してくれました!
ありがとうございます!Grazie mille!

 

<羽生選手の演技前>

マ:今度は羽生が挑戦する。ご覧の通り、頭に包帯を巻いている。

ア:ウォームアップ中のこの事故は本当に衝撃的でショッキングだった。

この事故はグランプリシリーズ、もしかしたらシーズン全体に影響を及ぼすかもしれない・・・そうならないことを望んでいるけれど。
ブライアン・オーサーの18歳の弟子に何が出来るか見守ろう

マ:新しいフリープログラムを初公開する
振付けはシェイ=リーン・ボーン
曲はフィギュアスケート界だけに限らずクラシック音楽の名曲
アンドリュー・ロイド・ウェバーの「オペラ座の怪人」

今日、村上の演技で既に聴いた曲だ

今シーズンはボーカル入りバージョンが沢山使用されている
羽生はこのバージョンを使うと思わないけれど演技を見てみよう

<演技中>

ア:4S転倒

ア:4T・・・2つ目のミス

ア:3F

ア:2本目の4Tに挑戦するか見てみよう、いやプログラムを変更した。3Lz-2T

ア:3A転倒

ア:3A-1Lo-3S

ア:3Loで4度目の転倒・・・結弦には可哀想だが回転も足りなかったように見えた。

ア:これでかなり消耗したように見えた

2本目のルッツ

3Lzで再び転倒・・・残念ながら

結弦は本当に最後の最後までチャレンジし続けた。感動的だ・・・

<演技後>

マ:なんだかんだ言って技術点は一位だよ。
彼に大いなる敬意を!
彼は何か途方もない、感動的なことをやり遂げた。

ア:死力を尽くし、何一つあきらめなかった。

5回転倒があった演技は勿論出来のいいパフォーマンスとは言えないし、そのことは正直に言わなくちゃいけない。でも見てよ、まだ顎から血が出ている

マ:それにアンジェロ、彼には持病の喘息の問題があることも忘れちゃいけないよ。

だからあらゆる面で困難だった

ア:でも彼は一秒たりとも投げ出さなかった。全てのトリプルジャンプと冒頭の2本の4回転ジャンプを跳んだ。

結弦が3Aで転倒するなんて異常だし、彼がどれだけひどい状態だったか分かるだろう。

マ:2位で終われるチャンスはまだ残っている。演技構成点にもよるけれど。

万全な状態での演技じゃないことは一目瞭然だし、そういうことが考慮されるべきでもない。
僕はジャンプの数を数えることすら忘れてしまっていたけれど、跳び過ぎの問題があったか分からないけれど

ア:いや、彼は3Aを2本、4T2本ではなく3Lz2本にしたから問題ない。
無論、トリプルループは回転を見直す必要があるし、転倒によるマイナス5も計算に入れなければならない

(リンクサイドに戻った羽生君がオーサーの胸に倒れこむ)

ア:結弦はもう立っていることすら出来ないようだ。

マ:さっきFacebookに寄せられた情報をセルジョが教えてくれた。キス&クライでハンヤンのコーチが今からすぐに病院に行くから準備しなさいと言っていたらしい。
おそらく羽生も同じコースを辿るだろう。

ア:彼らは戦場から生還したんだ。頭を打っている

しかも彼のは非常に高難度なプログラムだ。こんな負傷して状態で・・・特に頭を打っている場合、リスクは更に高くなる

どうかすぐに結弦の検査を行って下さい。勿論、適切な処置をしてくれると信じているけど、彼はリスクを冒して演技した。

演技に関しては相対的だったのもしれないけれど

・・とにかく一刻も早く必ず結弦の健康状態を検査してくれるようお願いします。

(キス&クライ)

マ:この際、グランプリシリーズはそれほど重要ではない。無理をしてシーズン全体を危険にさらすべきではない。
でも彼は挑戦した。

それにしても転倒はあったけど非常に野心的なプログラムだった。8トリプル+2クワドを跳んだのかな?

ア:いや3Aで転倒してコンビネーションにならなかったから2クワド+7トリプル。

クワドで2度転倒し3Aを含むトリプルジャンプで3回転倒したけれど、でも絶対に諦めずに挑戦し続けたことは感嘆に値するし、プログラムの最初から最後まで全てのジャンプを回り切った。
これ以上を要求するのは難しい。

観客は彼を評価し、氷上に無数のプレゼントを投げ込んだ。

見てご覧よ、まだ顎から出血している。本当に困難な状況だったんだ

それにこういう事故があると当事者は気が動転する。事故後しばらく震えが止まらないはずだ。
バイク事故を起こした直後に演技するようなものだからね。

マ:傍観者の僕達がこれほどショックを受けているのだから、当事者はどれだけ動揺しているか。

今日ばかりは他の選手のファンも皆、羽生のこの状況を可哀想だと思ってくれていることを願うよ。

昨日、羽生ファンと高橋ファンは対立しているという話を読んだ。高橋ファンは羽生のことをパラサイトとかそれに近いあだ名で呼んでいるらしい。

そういう誹謗中傷が珍しくない他のスポーツなら分かるけど、フィギュアスケートはそういう世界ではない。誰のファンとか関係なく、特に選手が素晴らしいパフォーマンスを行った場合には讃えるべきだ。

ア:今日、2人の若者、ハンヤンと羽生が困難を乗り越えて全身全霊をかけた演技をし、我々はその姿に感嘆させられた。

(得点が表示される)

マ:見てよ。結構いい点が出たよ。

ア:勿論、羽生にとっては低い点だけれど。

マ:そうだね、だって彼はフリー200点、総合300点を狙える選手なのだから。

グランプリシリーズで優勝したことのないマキシム・コフトゥンにとっては大チャンスだ
ジュニアではファイナルで優勝したことがあるけれど、今日は優勝することが可能だ

(羽生君号泣)

マ:羽生の涙はフィギュアスケートを愛する皆の涙だ。

もう一度言う。こういう感動に国旗はない、羽生ファンだとか高橋ファンだとかコストナー・ファンだとかという壁はない。そんなことは超越している。そうだろう?

ア:彼の涙・・・感動的なシーンだ。

結弦がパフォーマンスの後に感極まって泣くのを見るのはこれが初めてじゃないけれど、今回は今までとは違った感情があるのだろう・・・

マ:でも彼の気持ちは理解できるよ。

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