イタリア解説EuroSport[スケカナ2022:女子FSハイライト」

今シーズンのグランプリ大会の中で最もハイライトの多かった大会、スケートカナダの女子フリーから。
日本の3選手を中心に興味深かった部分を抜粋します。

解説:
マッシミリアーノ・アンべージ(M)冬季競技アナリスト、ジャーナリスト
マリカ・ポーリ(P)元スケーター、コーチ、衣装デザイナー

<第1G6分間練習>

M:今大会で最も見どころが多いのが女子シングルの試合だ。
昨日のショートでもハイライトが幾つもあった。
フリーも第1グループと第2グループ共に見どころがある。
第1グループの注目は河辺愛菜だ。彼女には高いポテンシャルがあり、今シーズンの新星になれるかもしれない。ただここまでノーミスの演技を揃えられずにいる。
国際大会の経験は少ない選手だが、彼女には注意して欲しい。練習では3アクセルを頻繁に成功させている。(3アクセルは)誰もが跳べるエレメントではない。
この試合では多くの3アクセルが見れるだろう。もう一人の日本人、樋口新葉も3アクセルを跳ぶ予定だ。ロシアの3選手も3アクセルを跳ぶ。
アリサ・リウも昨日のショートで3アクセルに挑戦し、成功まであと少しだった。
昨日の女子ショートは歴史的な大会だった。何故なら上位3選手が全員3アクセルを着氷したからだ。僕が記憶する限り、これまで国際大会の女子の試合でこのような事が起こったことはなかった。

(その後、プレロテのフリップとルッツの話題になり、ISUが何の手も打たなかったために、この4年間でこの跳び方が蔓延してしまったと苦言していますが、以前、別の大会で訳した内容とほぼ同じなので訳しません)

<河辺愛菜FS>
M:お誕生日おめでとう、河辺愛菜
今日17歳になった彼女は、このハイレベルなフリープログラムを自分自身にプレゼントした。
3アクセルを含む8トリプル+2アクセル
8トリプルが可能なのは選ばれたごく数人の女子選手だけだ。

P:極上のプログラムだったわ。
幾つかのジャンプの回転は見直さなければならないけれど、昨日のショートをリベンジしたわ。

M:彼女にとって素晴らしいターニングポイントになる。
昨日は最下位だったけれど、今日のこのフリーは上位に入るプログラムだ。
3アクセルはおそらくqだが、このジャンプが振付の中に如何に自然に挿入されていたか注目して欲しい。前に長い中断はなく、フロー(流れ)の中で跳んでいる。見事だ。

このプログラムは130点を大きく超えるだろう。
ショート12位の選手の演技だ。こんなことはグランプリ史上初めてだから、河辺愛菜は誕生日にある意味で歴史を作った。

<三原舞依FS>
M:次は国際大会の経験が豊かな選手の登場だ。
既にグランプリで2度表彰台に乗ったことのある三原舞依。
彼女は競技人生において無数の問題を乗り越えなければならなかった。
ようやく健康と信じる意欲を取り戻したように見える。
彼女の目標は五輪代表の座を掴むことだ。

(演技後)
M:傑出した演技だった。
繊細で軽やか
上半身のコントロール力が素晴らしく、このプログラムを自分のものにしていることを示した。いずれにしても昨シーズンから持ち越したプログラムだから、スタート地点において有利だ。

P:演技構成点で正しく評価されることを願っているわ。
彼女は素晴らしいスケーターだから、実施している内容に相応しい評価を貰うべきだわ。
私の意見では昨日は・・・少し過小評価だったと思うわ

M:事実を言えば、彼女はいつも過小評価されている。
その理由は以前説明した。
比較対象として河辺を例に挙げると、彼女のスケーティングは三原に比べてずっとエネルギッシュだ。そして、こういうタイプの方が確かにジャッジ受けする。

P:私の見方ではエネルギッシュな印象を与える滑りの方がスピードを認識し易いのだと思うわ。
一方、エッジワークの精度が高いと、ブレードが良く滑るので、たった2回のクロスオーバーでリンクの反対側まで移動出来ます。これもスケーティングのクオリティが高い証なのだけれど・・・

M:パワフルなジャンプを跳ぶタイプではないことも、彼女がPCSで評価され切れない原因かもしれない。
これは女子定番の7トリプル+2アクセル2本のプログラム。全てのエレメントが綺麗に実施されたから、高得点が出るはずだ。

P:スピンからステップシークエンスまで全てのエレメントのクオリティが髙かったわ。

M:これらは彼女の出身地である神戸のスクールの特長だ。

<第2G6分間練習>
M:樋口新葉は(五輪代表選考に向けて)頭一つ抜けるために足りないものが何一つないスケーターだ。彼女のスケーティングのクオリティに注目してして欲しい。類稀なクオリティだ。過去15年間でスケーティングのクオリティにおいて彼女より優れた日本の女子スケーターを探すとすれば、浅田真央ぐらいしかいない。おそらく宮原も。
そして彼女だ。

<樋口新葉FS>
M:次は樋口新葉だ。
その豊かな才能を引き出せるかどうか見てみよう

P:これまでここ一番の大会で実力が発揮出来ないことがよくありました。
今シーズンは彼女のシーズンになるか、オリンピックの切符を掴んで、(オリンピックで)良い結果を獲得出来るか見てみましょう。

(演技後)

M:いつも「あと少し」が足りないのが残念だ。

P:完璧な演技だったから2ルッツが残念だわ。

M:ルッツは子供の頃から新葉のジャンプだ。
一つの大会で2人の日本人スケーターが3アクセルを降りたのを僕は今まで見たことがない。河辺が跳び、樋口が跳んだ。

つまりこの大会では出場選手中6人もの選手が3アクセルを飛ぶことが出来る。こんなことは未だかつてなかった

P:もはや上位を狙うには少なくとも3アクセルを入れなければならなくなったわ。

<エリザベータ・トゥクタミシェワFS>
M:彼女は14歳の時、まさにここカナダでグランプリデビューのスケートカナダで優勝し、あれから10年経った今もここにいて、一度も出場したことのないオリンピック代表の座を賭けて最後まで戦い抜くつもりだ。
一番の目標は出場すること。そしてもしそれが叶えば重要な結果を持ち帰ること。

P:もし出場出来れば重要な順位を獲得出来るでしょう。

(演技後)

M:心身共に万全からは遠い状態だと彼女は言っていたけれど、ここでは実力を見せつけた。
冒頭の2本の3アクセルの出来は素晴らしかった。
3アクセル2本だから、ここまでに3アクセルを跳んだ選手達に比べるとハードルは断然高くなった。

P:長い助走からだけれど。
彼女の3アクセルと、今日は上手く行かなかったアリョーナ・コストルナヤの3アクセルを比較すると、コストルナヤは難しいステップから実施していたわ。ステップが(得点面で)助けになるかならないかは別の問題だけれど、トゥクタミシェワはとても美しい3アクセルを2本決めたわね。

M:しかし大目に見てこのジャンプにGOEを何点あげられると思う?
+1~2点だろう。
つまり、助走が長過ぎるからエフォートレスではない。
高さと幅についても議論しなければならない。

P:間違いなく幅はなかったわ。

M:踏切りと着氷が良いで+1、空中姿勢が良いで+2
「音楽に合っている」は考慮出来ない。
長い助走から跳んでいたから「ジャンプの前のステップ」は当てはまらない。
「長い助走」の-1が適用される可能性があるから、最終的に+1だろう。
もし「長い助走」のマイナスが適用されなければ+2。
これが分析結果だ。
勿論、彼女は基礎点の高いこのジャンプを綺麗に実施したから、大きな得点源にはなる。
そして、ここまでに見た選手達に比べると彼女は静止している事が多い。つまり手では何らかの動作を行っているが、足ではフィギュアの動きを何もせずに数メートル進んでいる時間が何度もある。

P:トランジションもあまりないわね。
後半のための体力を温存するための戦略でしょうけれど。
結果的に全てのジャンプを問題なく実施出来たから、この戦略は吉と出たけれど

M:結論として、彼女は安定した演技を続けてきたことで、ここでは230点を超えるだろう。
何故ならおそらくこのフリーは150点を超えるからだ。
151点が出た。昨日のショートと合わせると322.88だ。
しかしトゥクタミシェワのPCSが71点で、樋口とコストルナヤが67.5点だったこと、そしておそらく三原が65点だったことについても長々と議論しなければならない。

P:非常に長い議論をね・・・

<カミラ・ワリエワFS>
M:恐るべき演技だ
今日ここまで見た選手の中で、彼女を超えられる得点を握っていたのはネイサン・チェンだけだ。

P:表現力でもどれほど上達したか見て欲しいわ。
昨シーズンは顔の表情で伝えることがあまり出来ていなかったけれど、今はプログラムを楽しんでいる。
4トゥループは彼女にとってまるで朝食のように簡単なジャンプだし、今シーズン導入された4サルコウも素晴らしいジャンプになったわ。
3アクセルは彼女にとって簡単なジャンプではないけれど、降りることが出来た。

M:TESの速報値は105.70だった。だから技術点だけで3点も自己ベストを更新している。
そして演技構成点は何点あげればいい?これは各項目9.5点に値するプログラムだ

P:同感だわ。
トゥクタミシェワのプログラムより断然優れていたわ

M:これは180点に値するフリー
ショートの84点を足すと260を超える得点だ。
女子フィギュアスケートでは未だかつて見たことのない次元に突入する。
260点はグランプリの男子の試合で優勝出来る得点だ。しかも彼女は女子のPCSの係数で260点に達するのだ。つまり女子で300点が現実になろうとしている。
300点は、羽生とネイサン・チェンという意味だ。

180.88点
未だかつて見たことのない代物だ。ひれ伏す以外ない。
彼女に勝てるのはアレクサンドラ・トゥルソワだけが、フリーでクワドを5本成功させなければならない。そ例外に彼女に勝つ方法はない。
今大会男子で2位だったジェイソン・ブラウンは男子のPCSの係数で259.55だ。

P:カミラが男子カテゴリーで競技していたら、ネイサンの1位は保証されなかったでしょう。

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☆マリカさんはネイサンのプログラムについて前半にあまり何も入っていない「ミニマリスト」のプログラムと評していました😅

河辺愛菜ちゃんを初めて見たのは昨シーズンのNHK杯ですが、以来ちょっと注目していました。エネルギッシュでスピード感のある演技、日本の若い選手にありがちな子供っぽさというか、ジュニアっぽさがない、華がある子だなと。
昨シーズンは成功率があまり高くなかったものの、3アクセルが跳べることも彼女に興味を引かれた理由の一つでした。この時はまさかその翌シーズン、北京代表になるとは思いませんでしたが、今後楽しみなポテンシャルを持つ選手だと思っていました。
しかし紀平梨花ちゃんの代わりに急遽出場したNHK杯で2位になった時、ひょっとしたら五輪代表選考のダークホースになるかも、と思ったのです。
NHK杯は梨花ちゃん、トゥルソワ、ウサチョワといった表彰台候補が怪我で軒並み欠場/棄権し、結果的に穴場大会になったのでラッキーではありましたが、いわゆる運を「持ってる」ことも、スポーツでは重要だと私は思います。そして巡ってきたチャンスをしっかりモノに出来るかどうかもその選手の才能なのです。
全日本ではショートとフリーで3アクセルをクリーンに決めた唯一の選手でした。そして私が感心したのは後半の3フリップに3トゥループを付けて、前半3-3に出来なかったコンビネーションをリカバリーしたことです。五輪代表選考会という重圧のかかる試合でプログラム終盤のフリップにダブルではなく3トゥループを付けるのは誰にでも出来ることではありません。

女子3人目の選考は難航したようですが、実績よりポテンシャルを重視し、若い愛菜ちゃんにチャンスを与えた日本スケ連の決定は、ポテンシャルより実績を重視してイリヤ・マリニンではなく、ジェイソン・ブラウンを選んだ米スケ連と対照的と言えます。
愛菜ちゃんは今後の躍進が楽しみな選手なので、夢の大舞台で伸び伸びと演技出来ればいいですね。このオリンピックでの経験はこの後ミラノまでの4年間に繋がっていくと思います。

一方、五輪シーズンのアサイン運がいつも悪過ぎると思うのが三原舞依ちゃんです。
平昌シーズンも強豪選手が揃ったグランプリ大会にばかり当たり、良い演技だったにも拘わらず二大会とも僅差で4位でした。今シーズンも2大会4位。イタリア大会はPCSで彼女に相応しい評価が与えられていたら3位だったと思います。
全日本では2アクセル-3トゥループのコンビネーションでまさかのミス。彼女らしくない本当に珍しいミスでした。勝負の世界はシビアとは言え、難病を乗り越えてここまでに頑張ってきた舞依ちゃんの血の滲むような努力を思うと切ないです・・・
個人的に五輪代表は愛菜ちゃんで良かったと思いますが、せめて世界選手権は舞依ちゃんを選出してあげて欲しかった・・・

樋口新葉ちゃんはジュニア時代から好きで一番応援している選手なので、全日本はショートからもう祈る気持ちで見ていました。フリーで今シーズン彼女の鬼門だった後半の3Lz-3Tが決まった瞬間、涙腺崩壊です!😭
最後のステップシークエンスとコレオシークエンスは圧巻のワカバワールドに引き込まれました。
新葉ちゃんの演技には見る者を引き込み、感動させる力があります。

平昌シーズンの中国杯のダイジェストの中でアンジェロさんは新葉ちゃんの演技についてこのように評しています:

一番の違いは、これが最も僕の心に残るプログラムの一つだということだ。非常に鮮烈なインパクトを受ける。見る者を引き込む、より説得力のある演技。彼女のプログラムにはより魂がある

イタリア解説EuroSport版「2017中国杯ダイジェスト~女子FS」

そう、新葉ちゃんの演技には魂がある。だからこそこれほど引き込まれ、感動させられるのです。
そんな新葉ちゃんはイタリアを始めヨーロッパのスケートファンの間で大人気です(Wakababyと呼ばれています)。
フランス国際でも新葉ちゃんへの拍手喝采が一番大きかったですよね。
オリンピックではショートとフリーで3アクセルを決め、ライオンキングで世界を魅了して欲しいです!

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち