ポッドキャストKiss&Cry第6-8回「テクニカルパネルの仕事~他」

ポッドキャスト第6回からジャッジの話が非常に興味深かったので翻訳します。

 

第6回の内容は以下の通り:

  1. 女子シングル:残念だったスケートカナダは中国杯の打ち上げ花火の序章だった。より興味深いプログラムを分析し、最終結果がテクニカルパネルやジャッジの採点基準に左右されたかを理解する
  2. 既にヒエラルキーが明確になったペア総評、男子シングルでは数人のビッグネームがグランプリファイナルにさよならを告げた
  3. アイスダンス:ヴァ―チュ/モイア組とパパダキス/シゼロン組の遠隔比較。名古屋ファイナル進出選手を決定する様々な順位組み合わせ
  4. 羽生結弦と全ての現世界チャンピオンが集結する大注目の大阪NHK杯
    カロリーナ・コストナーとカペッリーニ・ラノッテも出場
  5. 視聴者からの質問コーナー

 

この中から1)を翻訳します。
国際テクニカルスペシャリストでもあるアンジェロさんが演技中にテクニカルパネルが実際に行う作業を具体的に説明してくれています。
非常に長いので抜粋・要約します

視聴>>

出演
マッシミリアーノ・アンベージ(M)(伊ユロスポ実況/ウィンタースポーツジャーナリスト)
アンジェロ・ドルフィーニ(A)(国際テクニカルスペシャリスト/元イタリア男子シングル・ナショナルチャンピオン/伊ユロスポ解説/コーチ)

 

M:ここまでの3大会、女子は非常にハイレベルだった。カナダ大会ではミスする選手が多かったが、ロステレコム杯と中国杯は非常にハイレベルで樋口は主役の一人だった。

中国杯では優勝候補だったザギトワがショートプログラムのミスで出遅れたこともあり、僅差の戦いとなり、結果的に白熱した面白い大会になった。
現在、GOEは勝敗を左右する重要な鍵になっている。GOEの差は蔑ろにされがちだが、実は基礎点の差より大きな差を付けることが出来るのだ。

そこでコントロールパネルの判定基準が大会によって統一されていないという問題が浮き彫りになる。

A:女子シングルと男子シングルでは基準の統一性はほとんど見られない。

  • 特に回転不足判定の基準に関して
  • それからエッジエラーの判定

この2つがジャッジングの判定に統一性があるか否かを判断する上でパラメータになる

スケートカナダのコントロールパネルは非常に厳格だった

例えばソツコワは多くのジャンプが回転不足判定された。幾つかのジャンプは妥当な判定だが、ギリギリ許容範囲になり得るジャンプも容赦なく回転不足にされた。
このようなコントロールパネルではアメリカの女子選手達は非常に不利になる

中国杯はエッジ判定の許容範囲が広く、フリップがフラット気味な樋口やラジオノワには有利だった。

回転不足に関しては厳し目だったが幾つかの回転不足ジャンプは見逃され、特にラジオノワとザギトワはこれで恩恵を受け、結果的にラジオノワに3位、ザギトワに優勝をもたらした。

M:コントロールパネルは非常に重要だ。

何人かの選手達はコントロールパネルが誰かによって表彰台に乗れるか5位以内にも入れないかほど結果が大きく左右される。
顕著なのがアシュリー・ワーグナーやカレン・チェンなどのアメリカの女子選手達だ

いずれにしてもこのように判定基準にバラつきがあることは正しいことではない。
解決策を見つけるべきだ

何故なら万が一オリンピックでコントロールパネルの判定にこのようなバラつきがあったら、無数の議論を招きかねない

中国杯のコントロールパネルはオリンピックの男子シングルのコントロールパネルと全く同じメンバーだ

A:これは非常に大切な事だから、このコントロールパネルにとってはチームを結成し、一緒に仕事をしてみて、全てが上手く機能するか確認することは非常に重要なことだ。
つまりこの大会のコンセプトはこのコントロールパネルのメンバーを一緒に働かせてみて、オリンピックに相応しい正しいジャッジングが出来るかどうか試すことだった。

何故ならオリンピックは最も重要で注目を浴びる大会だから、間違いなく詳細までミクロ単位で分析される。だからこそ優秀なコントロールパネルが求められるのだ

だからこのコントロールパネルがオリンピックに向けて統一された判定基準を設定することは疑わないけれど、君が言うように試合やコントロールパネルによって基準が変動することは危険だし、このような判定基準のバラつきは選手達のジャンプ構成や戦略の決定を困難にする。

例えば樋口は試合で3フリップに!さえ付かなかったら、当然、このジャンプをショートに定着させるだろう。でも別の試合で突然、eが付いたら選手やコーチは混乱してしまう。

M:いずれにリスクを回避するために彼女はショートの3フリップを3ループにすべきだ。確かに基礎点は0.20点下がるけれどGOEで稼げる。先ほども言ったように多くの選手にとってGOEは勝敗を分ける鍵になる

特に樋口は今シーズンのここまでのグランプリ前半戦においてGOEで最も高い評価を得た選手の一人だ。

3フリップではGOEをあまり稼げないにもかかわらず

何故ならコントールパネルだけでなく、ジャッジも踏切のエッジが明確でないジャンプに+2や+3を与えるのは難しいからだ
でも樋口は他のジャンプでは高いGOEを獲得している

A:猛スピードから跳ぶ高さのあるスペクタクルなジャンプだからね

いずれにしても判定のバラつきは選手を混乱させる。だから近い将来、判定基準を統一するための解決策を見つけることが望まれる。

M:つまり唯一の解決策は機械判定?

A:いや、機械を導入するにしても、決して簡単なことではない。勿論、可能ではあるけれど、ジャンプの入り/出のアングルと踏切が確実にビデオに映るようにしなければならないし、適用するのは簡単ではない。
僕の意見では判定基準を正確に設定し、ジャッジングに統一性を与えるために各シーズンの初めにスペシャリストとコントローラーを教育/トレーニングするというのも解決策の一つだと思う。

M:コストは別として、電子ゴニオメーター(測角器)は現在における2つの大きな問題を解決する上で非常に有益なツールになる

  • 1つ目は回転不足ジャンプ
  • 2つ目はプレローテーション

現在、男子シングルには離氷時に氷上で半回転以上の回転を稼ぎ、時には着氷時にも少し回転を稼ぎ、空中では3回転と少ししか回っていない4回転ジャンプでGOE+2をもらう選手がいる。実質ほとんど3回転ジャンプなのに4回転ジャンプと見なされている。これは解決しなければならない深刻な問題の一つだ。

A:これは短期間で解決できる問題ではないから今シーズン中に対策が見つかるとは思わないけれど、間違いなく研究され、何らかの対策が講じられることになるだろう
電子ゴニオメーター(測角器)を設置するにしても、どこに配置するかが鍵になるし、選手のブレードがいつ氷に触れているか正確に見極めることは簡単なことではない

例えばスロー映像の前のコマで選手はまだ空中にいて、次のコマでもう着氷している場合、この2コマ間のギャップによって選手のブレードが正確にどのタイミングで氷に触れたか分析するのは難しくなる
このような場合、ジャッジはどう判断するか?
選手に有利な判定を下す

M:三原舞依のフリーの3Fを例にテクニカルパネルが実際にどんな仕事をするか説明しよう。

仮に僕がテクニカルパネルだとしてこのジャンプを見て3Fとコールする。次のプロセスは?

A:基本的にもしアシスタントテクニカルスペシャリストとテクニカルコントローラーが君のコールに同意した場合、君は次の要素をコールする。

もし彼らの誰かがこのジャンプに疑問を持った場合には、『レビュー』をコールし、特定のジャンプについてリプレイを見ることが出来る。レビューをコールする際、疑問の内容(回転不足、不明確なエッジ等)を明確にする。こうすることでデータオペレーターは問題の部分(踏切のエッジ、または着氷)をフォーカスした適切なビデオセグメントを選んでテクニカルパネルに見せることが出来る。

M:勿論、エッジが原因でレビューをコールしたら、回転不足も判明するということもあり得るし、勿論その逆もある。

今回のケースでは、三原舞依は後半に予定していた3Fがギリギリで前半のジャンプと判断され、ボーナスを受けることが出来なかった
彼女は正確には1:58に踏み切り、2:00(おそらく2:00:1)に着氷した
つまり前半ギリギリで離氷し、後半に着氷した。

こういう場合どうなるのかな?

A:テクニカルスペシャリストが何時この要素をコールし、データオペレーターが何時この要素をコンピュータに入力したかによる
もしこの2人が迅速に作業し、2分より前にこの要素をコール/入力した場合、ボーナスを受けることが出来ない。

M:この小数点差は結果的に三原舞依の最終順位にも影響を与えることになった。

回転不足判定についてはポッドキャスト第3回でも視聴者からの「プレローテーションしているジャンプについてどう思うか?」という質問に答えて議論しています。
何人かの読者の方からこの部分を翻訳して下さいというリクエストを頂きましたが、ロシアのスケートスクールで教材にされるほど技術的に模範的でクリーンなジャンプを跳ぶ羽生君の名前は当然出てきませんので翻訳しませんが、英訳チームが全文を英訳してくれています。読みたい方はノーカット英語版をどうぞ

K&C英語版エピソード3>>

 

そしてKiss&Cry第8回でもフランス杯の宇野昌磨選手の4Fに対する視聴者の質問に答えて再びこのテーマに触れています。
この時のアンジェロさんの考察が非常に興味深かったので、大まかな内容を要約します。

K&C第8回視聴>>

A:女子選手は男子より回転速度がずっと速いので分かりにくいけれど、スロー映像を見ると実はほとんどの女子選手が3フリップと3ルッツの踏切の際、氷上で少し回転してから離氷している。
だからプレロテは全て回転不足ということにしてしまうと、コストナーの3フリップなどごく僅かの例外を除く、女子選手のほとんどのルッツまたはフリップが回転不足になってしまう。
メドヴェデワやザギトワのルッツとフリップもそうだし、ミーシン門下は多くの選手が昔からこの技術でジャンプを跳んでいる。

そもそもフリップとルッツはジャンプの性質上、多少のプレロテは仕方がない
問題は程度なのだ。どこまでを許容範囲にするか
例えば氷上で明らかに半回転、あるいはそれ以上回っている選手は実質3.5回転、または2.5回転しかしていないわけで、更に着氷後にも回転を稼ぐ4回転ジャンプはもはやほとんど3回転ジャンプだ。

でも僕にとって宇野昌磨の4フリップの一番の問題はプレロ―テーションではなく、
本来トゥジャンプであるはずのフリップをフルブレードで踏み切っていて、ほとんどエッジジャンプのループと同じ跳び方になってしまっていることだ。
こうなると単なる回転の問題だけでは済まされない。プレロテ云々以前にジャンプ技術に大きな問題があると言わざるを得ない。

プログラムの中でループ、フリップ、ルッツを跳んでいても、実際にはループを3回跳んでいるようなものだ。宇野ほど顕著じゃないけれどフェルナンデスの3ルッツもそうだ。
選手が4F、3Lzと申告している以上、テクニカルスペシャリストはこれらの要素をループとコールするわけには行かず、でも実際にはループのようなジャンプに見えるわけだから、彼らも困惑するだろう。

男子ではプレロテのないクリーンなジャンプを正しい技術で跳び分ける選手達が存在する。
だからこのようなジャンプを回転不足判定にしないどころか、GOEでプラス評価まで与えると、正しいジャンプを跳ぶ選手が間接的にダメージを被ることになる。
何らかの措置を取るべきだ。

 

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ちなみに回転不足/エッジ判定はスケカナ→激辛(男子は甘目)、ロステレ→辛目、中国杯→辛目(ただしバラつき有)、NHK杯→甘目、フランス杯→激甘、スケアメ→激甘だったそうです。
ファイナルは女子ショートでの回転不足の超甘判定に色々なところから批判が巻き起こったそうで、フリーは厳しくなりましたが、男子はフリーも大して是正されず

逆にギリギリ回転が足りていても回転不足判定にされてしまうケースもあります。
マッシミリアーノさん達はロステレSPの羽生君の4Loはスローで見ると1/4未満の回転不足で許容範囲じゃないかと言っていました。

同じように足りているのに回転不足判定された例としてお二人が何度か言及しているのが2014年埼玉世界選手権ショートの羽生君の4T

2016年NHK杯ショートのアンナ・ポゴリラヤ選手の3Lz-3Tの回転不足判定はスキャンダルだと言っていました。

でもお二人曰く、史上最も不可解な疑惑の判定の一つは、どこから見てもクリーンなジャンプだったのに回転不足にされた2013年NHK杯ショートの織田信成さんの4T-3Tに対する判定だそうです。

ジャッジも人間なので間違うことはあるのかもしれませんが、ISUのルールには1/4以上の回転不足はUR、1/2以上の回転不足はDGとはっきり書いてある訳ですから、せめて基準は統一して欲しい

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