ポッドキャストKiss&Cry II第6回「NHK杯:羽生結弦の印象」

今週水曜日に放送されたポッドキャスト第6回から(先週の第5回は時間がなくて結局訳せませんでした・・・)

主に以下のテーマについて議論されました

  1. NHK杯で起こったことを分析しよう。羽生結弦の演技に対する評価は?
  2. 今年のグランプリは史上最高レベルだった見なしていいか?
  3. オリンピック/世界選手権からのロシア人選手追放のリスクについて何が起こっているのか分析する
  4. タラソワ/モロゾフの敗退によって巻き起こった議論。ファイナル進出基準に関するルールを見直すべきか。

例のよって鬼のように長いので(137分)、とりあえず羽生君に関する部分を抜粋・要約します。

Listen to “Kiss & Cry Reloaded – Puntata 6” on Spreaker.
出演者
フランチェスコ・パオーネ(司会)(F)
マッシミリアーノ・アンベージ(ジャーナリスト、冬季競技アナリスト)(M)
アンジェロ・ドルフィーニ(元ナショナルチャンピオン、国際テクニカルスペシャリスト)(A)

F:今シーズンのグランプリ6戦から受けた印象は?

M:間違いなく史上最高のハイレベルなグランプリ大会だったと思う。
そしてトップ選手とそれ以外の選手達の差がここまで激しかったグランプリシリーズも僕が記憶する限り、これまでになかったと思う。

特に男子シングルにおける差は驚異的だった。
羽生はネイサン・チェンに大差をつけ圧倒的な1位通過だった。
そのネイサン・チェンとその他の全ての選手達の間にも大差が開いた。
これが今季グランプリにおける結果を分析しながら、僕が真っ先に思ったことだ。

A:そしてもう一つは女子シングルにおけるロシアの若い選手達による技術革命だ。
シニア1年目の3人の選手が6戦全てを制した。
同じコーチに師事する6人の選手だ。

M:これは全カテゴリーにおいて史上初めての快挙だ。
90年代末に男子シングルでロシアの選手が6戦全てを制したことがあったが(その中にはまだ年若いヤグディンとプルシェンコも含まれていた)、同門下ではなかった。
しかも90年代は一人の選手がグランプリ3大会に出場することが出来たから今とは状況が違う。
同じことが先シーズンのジュニアの女子シングルで起こった。
主役は同じくこの3人でトゥルソワが40点の大差をつけて1位通過したが、ファイナルで優勝したのは意外にもコストルナヤだった。

A:今シーズンは状況が少し違う。
僕はファイナルの優勝候補はトゥルソワだと思うけれど、彼女のプログラムはリスクも大きい。
いずれにしても女子シングルにおける圧倒的なロシア天下を見せつけた非常に大きな意味を持つグランプリシリーズとなった。

P:NHK杯における羽生結弦の演技について

M:僕は全体的にポジティブだったと思う。
僕達は羽生を十数年に渡って追いかけているけれど、この大会で彼は2つの顔を見せた。

ショートプログラムではよりプログラムに没頭しており、幾つかの小さなミスはあったものの、演技だけでなく、リンクに入る時、または出る時などの仕草からも、よりリラックスしているように見えた。
一方、フリーではより緊張して硬くなっていて、神経質になっていたとは言わないが、不安があるように見えた。
プログラム開始前の彼を見ればこのことがよく分かる。
冒頭のポーズで静止していられなかった。これを見て、僕はいつもの羽生ではないと気が付いた。
しかし、彼は何の問題もなく4ループを決め、4サルコウも成功。
彼がやってのけたことを見たら(笑)

特に後半は驚異的だった。
何もないところから2つの高難度コンビネーションを引き出してみせた。
しかし、細かい点を注意深く観察するとベストの羽生ではなかったことが分かる。
もしかしたらリンクに彼を抑制する何かがあったのかもしれない。

彼は「また怪我をするのが怖かった」と言っていた。
過去に起こったことを考えたら、頭の中にトラウマという名の亡霊がいるのは当然だ。

でも僕は結果的にこの大会はポジティブだったと思う。
幾つかの点において改善の余地はあるけれど、彼にはどこをどう修正したらいいのか分かっているに違いない。

何よりも4ループの安定感を取り戻したことが重要だった。
練習で彼はこのジャンプを高い確率で成功させていたし、本番よりクオリティの高いジャンプを何本も着氷していた。

このことはファイナルに向けて彼の自信になっただろう。
いずれにしてもここまでの2戦を見れば彼の今季グランプリは並外れていたことが分かる。
グランプリ2戦4プログラムのトータルスコアの記録を塗り替えた。
これまでも羽生が記録保持者だった。
今シーズン、ネイサン・チェンがその記録を更新したけれど、羽生はどちらの大会でも彼の得点を上回り、その記録を蹴散らした。
だからポジティブな大会だったと思う。

アンジェロの意見も聞こう。
そして後ほど改善できる点について詳しく分析しよう。幾つかのエレメントでは明らかに伸びしろある。

A:体力の消耗が激しい技術的に非常に複雑で難しいプログラムだ。
それに、自国で開催されるNHK杯は羽生にとって特別な大会だと思うから、より緊張するのも当然だ。

幾つかのエレメントのクオリティは完璧ではなかった。
4ループ、彼は試合では堪えることが多いけれど、実際にはもっと綺麗に跳べるジャンプだ。
一番大きなミスは4トゥループで、彼はその後の要素を変更してリカバリーしたけれど、振付を一部削らざるを得なくなった。
僕達は構成を臨機応変に変える選手のトランジションについてよく議論しているけれど、これは今回の羽生にも当てはまる。

しかしながら、グランプリ2戦でこれほど安定している彼を見たのはおそらく初めてのことだ。
2戦4プログラム合計の記録がこのことを顕著に物語っている。

M:2大会連続300点越えは尋常ではない。

ショートプログラムでは世界最高得点を更新出来たかもしれない。
実施、スケートカナダより小数点及ばず、彼の持つ世界最高点まで僅かだった。

僕の見方ではスピンのGOEでの取りこぼしによって世界最高得点に届かなかったのではないかと思う。
GOEでジャッジによってかなりバラつきのある要素だった。
レベル要件は満たしていたから、レベル4だったが、問題はクオリティだ。
正確に実施された最後のコンビネーションスピン以外の2つのスピン、フライングキャメルと足換えシットスピンだ。
フライングキャメルでは明らかに移動していた。

A:回転軸が維持されていなかった。
これはGOEでマイナス1~3に相当するミスになる。

M:「トラベリング」と呼ばれるミスだ。

ここでスピンのGOEの項目と、どんな風に計算されるか解説しよう。
まずプラス要件(全部で6項目)が幾つあるかを判断する。
そしてマイナスの要素があった場合、プラスから引いていく。
スピンでも∔4/∔5の必須要件が存在する。

(1) Effortless。開始から終了まで無駄な力が入っていないこと
(3) Good Speed、スピン中の回転速度、または回転速度の加速が十分

この2つの項目は解釈が簡単だ。
そして解釈が難しい3つ目の項目、
(2) 良くコントロールされた明確なポジション

この項目は別の項目
(4) 回転軸が維持されている
とリンクしていると解釈出来るかもしれない。

A:良くコントロールされていれば、結果として回転軸も維持される。
だから、完全にコントロール出来ていないとトラベリングすることがあるから、(2)を満たしていないと判断されるかもしれない。

M: この他に
(5)創造的でオリジナリティがある
(6)要素が音楽に合っている
という項目がある
前者はジャンプ同様、入りや出に工夫が凝らされている、意表を突いた入り方などが評価される項目だ。

さて、羽生結弦のフライングキャメルで0を付けたジャッジがいた。
どういう解釈をしたら0になるのか?
まず明らかにトラベリングしていたから(4)が足りないと判断された。
更にジャッジによっては(2)もないと判断したのかもしれない。

A:難しいポジションから次のポジションに移る時の姿勢が良くなかったから、スピンのマイナス要素「拙劣な/ぎこちない美しさを損ねる姿勢」も適用されたのかもしれない。

M:有名なアメリカジャッジとドイツジャッジにとってはそうだったみたいだね。

A:だからプラス要件の(2)がないと判断され、最高でも+3からスタートする。
そこから-1/-3に相当する「トラベリング」と「拙劣な/ぎこちない美しさを損ねる姿勢」でマイナスされたと解釈するとGOE0/+1は全く的外れな評価ではないということになる。
だからフライングキャメルについてはルール上、説明を付けることが出来る。

足替えシットスピンについては、最初の足での姿勢が完璧な低姿勢ではなく、少しトラベリングもあったから、マイナスの要素もあった。プラス項目からマイナス要素が引かれることを考慮すると、+4/+5のスピンではなかった。
だから多少の自由裁量はあったにしても、それほどスキャンダラスな採点ではなかったと僕は思う。

M:つまり羽生はスピンのGOEで小数点を取りこぼした。
ジャンプでも最初の2つのジャンプ要素がスケートカナダより小数点低かった。
トリプルアクセルは+4が2人で、あとは∔5
4サルコウは∔3から+5
これについて君はどう思う?

A:4サルコウはスケートカナダの方が着氷後の流れが良かった。
3アクセルは見事だったけれど、空中の軸が少し曲がっていた。
ロステレ杯のサマリンの4ルッツと同じ印象だった。

M:つまり5点満点だね。

A:そうだね(爆笑)
でも5点を与えなかったジャッジを批判しようとは思わない。
あくまでの今回のショートプログラムについては、だけれど。
つまり正当化出来なくはない評価だ。

M:でもマイナスの要素はなかった。
そしてプラス要件6項目の内、5項目は満たしていた。
だからあの3アクセルはいずれにしても+5が妥当だった。
勿論、最終的な得点に与えた影響は小数点だけれど、世界最高得点更新の可否は小数点によって左右される。

P:視聴者からの質問
ジャッジ達の羽生のGOEに対する解釈がルール上、説明が付くということはよく分かりました。
でも彼だけこれほど細かく厳しくチェックされるのですか?
他の選手達の実施の乱れやミスはなぜ見逃されるのですか?

M/:(爆笑)

M:ジャッジ達は羽生に「完璧」を求めている。
自分達の前にいるのが並外れた選手であることを知っている。
だからほんのわずかな乱れでも彼に対しては厳しくチェックされる。
当然、このような採点傾向は受け入れがたいことだ。

ショートのスピンについては、厳し過ぎるジャッジは2人だった。
残りのジャッジは+3、数人が+4の妥当な評価だった。

でも僕が怒りを覚えるのは、彼が非常に綺麗な3アクセルを跳び、少なくともプラス要件5項目を満たしていても+4が与えるジャッジがいるということだ。
NHK杯でもオータムクラシックでもそうだった。
僕には理解出来ない。

僕が思うにジャッジの思考がこうなんじゃないかな?

非常に素晴らしい∔5、素晴らしい∔4、自分は好きだけど確かではない+3、着氷が完璧じゃないように見えたけれど無難に∔1/∔2
そしてステップアウトのような明らかにミスしたらマイナス

僕の勘違いであることを願っているけれど
ルールが求めているのはこのような評価ではない。

勿論、ジャッジの仕事は非常に難しいし、短時間で多くのことを同時に評価しなければならない。
でもNHK杯について言えば、羽生に厳しい採点をしたのはアメリカジャッジだった。
これが偶然だと思う?

A:絶対に偶然じゃないね

M:いずれにしてもジャッジの国籍が公開されるようになったとはポジティブなことだと思う。
どの国のジャッジがどんな採点をしたかチェックし、是正することが可能になった。
NHK杯ではアメリカジャッジは羽生に対して極端に厳しい点を出した

A:確かに厳し目だったけれど、怒りを覚えるほどのジャッジングではなかった。
確かに、3アクセルの∔4については僕達の中ではスキャンダルだけれど(笑)、誤審ではない。
重箱の隅をつつくような厳しい評価ではあったけれど。

むしろ前回のポッドキャストで議論したように、これまでの大会で他の選手達に与えられた評価が見当違いで、全く合理性がなかった。
羽生に対して誤審はなかったと僕は思う。ただ非常に厳しかった。

でもこれまでの大会では何人かの選手に対して完全に尺度の狂った得点が与えられている。
僕が真っ先に思い浮かべるのはサマリンのPCSだ。
彼のPCSは非常識な評価だと思う。羽生の3Aに対する∔4は非常識ではない。
サマリンの演技構成点83~84点は僕にとっては説明不可能な評価だ。

M:でもNHK杯の採点表を詳しく見ると、例のアメリカジャッジの評価はPCS5項目全てで他のジャッジと剥離している。
このジャッジは別の選手に羽生より高い得点を出した。
これはどう説明する?
問題はここなのだ。

A:確かにこのような評価を見ると衝撃を受ける

M:衝撃的だし、疑問を呈するべきだと思う。

そしてISU幹部の対応にも議論の余地がある。
ISU副会長のラケルニクはジャッジによってGOEに3点ほど左右するのは仕方がないと発言した。
いや、仕方がないわけがない。GOEには客観的な側面があるからそんなに差が開くべきではない。
これが1スケートファンの発言なら笑って済まされるけれど、ルールを作ったISU幹部の発言となると事は深刻だ。この採点システムに欠陥があることを自ら認めているようなものだからだ。
(ジャッジやコントールパネル等への)内部通知に関するルールを徹底し、このような状況に対する是正措置を講じるべきだ。

P:視聴者からの質問
羽生の構成について
ファイナルはこのままの構成で行くとして、その後の大会で構成を変えると思いますか?
全日本または四大陸選手権で4アクセルを入れてくるでしょうか?

M:それは誰にも分からない。
でもファイナルから全日本まではあまり時間がない
例年に比べて1週間早まったから2週間しか間がない。

NHK杯後の彼の発言は謎めいていて、どちらにも取れる言い方だった。
一つ確実なことは彼が靴の中の小石を取り除きたいことだ。
つまりネイサン・チェンに敗れた埼玉世界選手権の雪辱を果たしたい。

彼がこのままの構成で勝てると判断したら、このまま変えないだろう。
実際、ここまでの試合を見ると今の構成で勝てると思う。
もし彼がファイナルまでに何かを加える必要があると思ったとしたら、構成を変えることは彼にとってそれほど大きな問題はないと思う。

でもこの時期、どこをどう変更するのか僕には正直分からない。
フリーを分析すると、3ルッツへの軌道は4ループにも適していると思う。
でも正直、彼の戦略は僕には分からない。

A:僕は彼が構成を変更するとは思わない。
正直に言って、これはクリーンに滑れば勝てる構成だ。

僕は今シーズンはずっとこの構成で行くと思うけれど、4アクセルや4ルッツの確率が上がったら構成を大きく変えてくる可能性はある。
いずれにしても既に究極難度のプログラムだ。

僕は新たな4回転ジャンプを入れるとしたらもっと先だと思うけれど・・・僕が間違っているかもしれないし
いずれにしても四大陸より前ということはないと思う。

M:先シーズンに比べてネイサン・チェンと羽生の基礎点+GOE満点の差は少なくなった。
現時点ではノーミス対ノーミスなら羽生の方が高い得点を獲得できる。
GOEとPCSの全ての項目において羽生が上回っているからだ。
勿論、これがスタートラインでミスがあれば順位が入れ替わる可能性はある。
女子の試合でも同じことが言える。

*******************
前回のポッドキャストではサマリンの4Lz-3TのGOEとPCSについて長々と議論されました。

<ルッツのGOE>
ハイスピードから実施された幅と高さのあるスペクタクルなジャンプなので思わず+5を押したくなる気持ちは分からなくないが、冷静に分析すると3項目のプラス要件しか満たしていたかった。だから+3が妥当。

<PCS>
M:リンクをグルグル周回しながらジャンプを跳んでいるだけ、音楽はBGM、トランジションは僅かしかない
A:その僅かなトランジションも初歩的で簡単なものばかり。エッジが全く使えていない。
スケーティングは見ていて苦痛になるレベル

と取り敢えずボロクソでしたw

スケアメとロステレ杯では清々しいほど自国選手に盛っていましたので、日本も対抗して自国選手に気前よく点を出すかな~?と思っていましたが、全くなかったですね・・・

羽生君の得点も辛いな~と思いましたが、山本草太君のPCSの低さにびっくりしました。
確かにトランジションはあまり多くありませんが、スケーティングの質は高いですし、Interpretationのクオリティも高かったと思います。
正直、ミスを連発したジェイソン選手とPCSで12点も差が開くとは思いませんでした。

でも昨シーズンのNHK杯ではあからさまな贔屓採点がアメリカのアナリストを始め、多くのスケート関係者やファンから非難を浴びたそうなのです。

マッシミリアーノさんは男子フリーの6分間練習中に次のように述べています:

「僕はイタリアジャッジのヴァルテルに賛辞を贈りたい。
彼は転倒などの大きなミスがあった場合、PCSの上限を下げるというルールを正しく理解し、適切な得点を与えた唯一のジャッジだった。スケートファンだけでなく、アメリカの有名アナリストを始めとするスケート関係者が男子ショートの採点を批判した。
この選手はこのような助けを必要としていないし、むしろ人気という点において、このような贔屓採点は選手にダメージを与えることになる」

この批判が日本スケ連に届いたのかどうかは分かりませんが、そんなこともあって今大会は全体的に自国選手に厳し目だったのでしょうか。
いずれにしても、厳し目でも甘目でも全選手に対して同じ基準を適用して欲しいです。
多少の誤差は仕方がないとして、ルールブックに評価基準が明記されているのですから。

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