ロシア人エキスパートによる男子上位選手のショートプログラム難度分析(その2)

前回に引き続きロシアのファンが作成したマニアックな分析データ。
SPの3つのジャンプ要素の入りと、プログラム全体のトランジションの難度を選手ごとに詳しく分析しています。

 

ロシア語原文>>
ロシアのブロガー、Yulenaさんの分析です

英訳版>>
(翻訳者はMarina Khevkhさんです)

基本的に原文のロシア語ではなく英訳版から和訳しましたが、英訳のニュアンスが曖昧だと思った箇所はロシア語原文も参考にしました。

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SPの単独ジャンプの入りのGIF画像を以下に紹介する。連続したステップからただちに実施されているジャンプと、ステップ中に休止がある、あるいはステップのないジャンプとの違いがよく分かる。

 羽生結弦の4S(難しい入り、ジャンプ直前にステップ+難しい出) Yuzuru4S

パトリック・チャンの3ルッツ(難しい入り、ジャンプ直前にステップ)
Patrick3Lz

ミカエル・コリヤダの3ルッツ(難しい入り、ジャンプ直前にステップ)
Koriyada3Lz

アダム・リッポンの3Lz (難しい入り、入りでステップ、しかしジャンプ前に休止)
Rippon3Lz

宇野昌磨の4T(ステップ中に休止)
Shoma4T

ジン・ボーヤンの4T (ステップ中に休止)
Boyang4T

SPのジャンプ要素の入り

羽生結弦
スプレッドイーグル-スリーターン-モホーク-4サルコウ- アウトサイド・スプレッドイーグル
チョクトー –モホーク –シャッセ- スリーターン 4T3T
バウアー-スリーターン—シャッセ- カウンター-3A-チェンジエッジ-カウンター

ハビエル・フェルナンデス
フローティング -簡単なターン-スリーターン 4T3T
スリーターン-モホーク-スリーターン モホーク4S
ハーフジャンプ-ランゲ-スリーターン-バウアー-クロス -チェンジエッジ 3A

ボーヤン・ジン
モホーク-4LZ-3T
チェンジエッジ-ロッカ-チェンジエッジ-3A
モホーク-スリーターン- シャッセ-モホーク-シャッセ-モホーク 4T

ミカエル・コリヤダ
シャッセ-モホーク-簡単なターン-スリーターン-モホーク 4T3T
シャッセ-ブラケット-ロール- 3A
ベスティ-ロッカー-シャッセ 3lz

パトリック・チャン
モホークへのフローティング-簡単なターン-スリーターン-4T3T
スリーターン-モホーク- シャッセ- ロールド-3A
ハーフジャンプ-チョクトー-モホーク-クロスロール-モホーク-3Lz

アダム・リッポン
シャッセ-モホーク-スリーターン 3F3T
シャッセ-ロールRBO-3A
スプレッドイーグル-シャッセ-ウォーリー-シャッセ-チョクトー-3Lz

宇野昌磨
チョクトー –シャッセ-チョクトー-シャッセ-簡単なターン-スリーターン 4T
いずれの場合も昌磨は本物のチョクトーではなく、チョクトー『もどき』を実施している(最初の足を氷から離さず、両足で実施)
スプレッドイーグル 3A –チェンジエッジ-ファンスパイラル
シャッセ-モホーク 3F2T

それでは、これらの各プログラムにおけるPCSのTR(トランジション)の基準を分析してみよう:

羽生結弦のSPは最も多様性に優れている。片足トランジションが最も多く、ランニングステップとクロスオーバーが最も少ない。
トランジションはプログラム全体の至るところに満遍なく分散されている。スケーティングの技に加え、彼はスプレッドイーグル、バウアー、ハーフジャンプなどのフィギュアスケーティングの技もトランジションに使用しており、トランジションの多様性は非常に良い(very good)。繋ぎのステップと要素は腕/身体の動きと共に実施されており、動作の変化を伴っている。難しいトランジションが主流だが、簡単なステップは、腕と身体の動きを伴って実施されている。 – トランジションの難度は非常の良い(very good.)。トランジションはプログラムに巧く組み込まれている(要素間、難しい入り/出)。結弦は3つの全てのジャンプ要素を難しい入りから実施している。3つの内、2つのジャンプ要素は出も難しい。トランジションの複雑さは非常に良い(very good)。トランジション実施のクオリティは非常に良い(very good)。腕、上半身全体、頭の動きが音楽に合っている。

多様性:非常に良い

難度:非常に良い

複雑さ:非常に良い

クオリティ:非常に良い

 

パトリック・チャンのSPにおけるトランジションの多様性は非常に良い(very good)。
スケーティングの技による繋ぎが主流で、片足トランジション、フィギュアスケーティングの要素(ランゲ、ハーフジャンプ)が十分に含まれている。ランニングステップとクロスオーバーは少なく、トランジションの難度は非常に良い(very good)。身体、腕、頭の動作と共に実施され、常に方向転換を伴っている。簡単なステップの後にバランスよく難しいステップが続いている。トランジションの複雑さは良い( good)。パトリックのプログラムにはトランジションが豊富に含まれているが、その多くはジャンプの前後以外の部分に集中しており、ジャンプの入り/出は難しくない。4T3Tと 3Aへの入りは簡単である。出の難しいジャンプはない。3Lzだけ難しい入りから跳んでいる。トランジション実施のクオリティは 非常に良い(very good)。

多様性:非常に良い

難度:非常に良い

複雑さ:良い

クオリティ:非常に良い


ハビエル・フェルナンデス
のプログラムにおける多様性は良い(good)。ランニングステップ、片足トランジション、繋ぎの要素(スプレッドイーグル、ターンサンドハーフジャンプ)の比率は同じぐらい。音楽の特徴とスタイルに合ったスケーティングステップが幾つかある。クロスオーバーは少ない。トランジションの難度は良く(good)、巧く分散されている。繋ぎのステップは腕と身体の動きと共に実施され、方向転換を伴っている。トランジションの複雑さは良い(good)。3つの内、2つのジャンプ(4Sと3A)は難しい入りから実施されている。出が難しいジャンプはない。トランジション実施のクオリティは良い(good)。特にスペイン舞踊スタイルの腕と頭の動きが良い。

多様性:良い

難度:良い

複雑さ:良い

クオリティ:良い

 

アダム・リッポンのSPにおけるトランジションの多様性は普通(medium)より上である(良いに近い)。片足トランジションの前に両足トランジションとクロスオーバーを入れている。フィギュアスケートの様々な技を使ったトランジション(ランゲ、スプレッドイーグル、ウォーリー、一覧にないジャンプのハーフジャンプ)を豊富に入れている。トランジションの難度は良い(good)。ステップと要素も実施中、身体と腕の動きを豊富に入れており、常に方向転換を伴っている。

トランジションの複雑さは良いに近い。トランジションは要素の間に分散されており、入り/出は難しくない。3Lzだけ難しい入りから実施されている。トランジション実施のクオリティは良い(good)。

多様性:普通より上

難度:良い

複雑さ:良いに近い

クオリティ:良い

 

ミカエル・コリヤダのSPのトランジションの多様性は良いに近い。このスケーターの片足トランジションの多さは、羽生、チャン、フェルナンデスに次ぐ名誉ある第4位である。

トランジション、ステップ、要素(バウアー、ベスティ、ハーフジャンプ)の数は十分である。トランジションの難度は良い(good)。方向転換、身体/腕の動きを伴うトランジションの数も十分である。トランジションの複雑さは良い(good)。繋ぎの要素は様々な要素の中に巧く分散されており、その中には3Aと3Lzの難しい入りも含まれる。ジャンプの入りで彼はステップとターンだけでなく、一覧にないスケーティングの技も入れている。トランジション実施のクオリティは良い(good)。

多様性:良いに近い

難度:良い

複雑さ:良い

クオリティ:良い

 

ボーヤン・ジンのプログラムのトランジションの多様性は普通(medium)である。繋ぎのステップだけでなく、繋ぎの要素(ランゲとハーフジャンプ)も入れている。両足トランジション、簡単なステップ(モホークとシャッセ)を使っており、クロスオーバーとランニングステップの数はそれほど多くない。トランジションの難度は普通(medium)。繋ぎのステップ中における頭、腕/身体の動きは十分である。トランジションは方向転換を伴っている。トランジションの複雑さは普通(medium)である。繋ぎの技は3A以外(これは嬉しいサプライズだった)簡単である。トランジション実施のクオリティは普通(medium)だが、年若い選手が頑張っている。

多様性:普通

難度:普通

複雑さ:普通

クオリティ:普通

 

宇野昌磨のプログラムのトランジションの多様性は普通(medium)である。両足トランジションと大量のランニングステップ及びクロスオーバーを使っており、方向転換に珍しいトランジションを組み合わせている(例:モホークとスリーターン、またはスプレッドイーグル)。身体の動きは十分豊富である。トランジションは普通(medium)。トランジション中の方向転換の頻度は十分ではない。トランジションの複雑さは普通より上(higher than medium)。ほとんどの繋ぎ要素は要素間に集中しており、ジャンプ要素の入り/出には含まれていない。例外は3Aの入りと出である。トランジション実施のクオリティは良い(good)。

多様性:普通

難度:普通

複雑さ:普通より上

クオリティ:良い

 

興味深いことに、何人かのトップスケーター達は、SP、LPの両プログラムで同じ種類のジャンプを同じ入り/出から跳んでいる(パトリックの4Tと3A、ハビエルの4Tと4S) 。このことから同じ入りから跳ぶ方がより簡単でやり易いことが理解出来るが、両プログラムの幾つかのトランジションの難度について話すのはいささか困難になる。SPにおけるクワドの数と要素前のトランジションの難度を考慮すると、最も難度が高く、多様性に優れたプログラムを滑っているのは羽生結弦で、彼の次に難しいのがハビエル・フェルナンデスのプログラムである。

最後に、最も美しく独創的な幾つかのトランジションを伴うジャンプ(入り-ジャンプ- 出)を共有したい

羽生結弦の3A (GOE +3)

ハビエル・フェルナンデスの3A ( GOE 2.57)

ミカエル・コリヤダの3A (GOE 2.14)

☆ 画像はロシア語元ページからお借りしました。ありがとうございます!

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SPの単独ジャンプの前のステップの有無はイタリア・ユロスポのマッシミリアーノさんとアンジェロさんが大好きなメインテーマで、試合の度に嬉々として議論を繰り広げています。
彼らの解説によると、単独ジャンプにクワドを跳ぶ主要選手の中で

  • 明確なステップからただちにジャンプを跳んでいる(加点が付くジャンプ)→羽生選手、フェルナンデス選手
  • 一応、ステップらしきものを入れているが、ステップとジャンプの間が開き過ぎていて『ステップからただちに跳ぶ単独ジャンプ』の定義に当てはまるか議論の余地がある(GOEで多少減点されるべき)→宇野選手、テン選手、ボーヤン選手
  • ジャンプの前にステップを入れていないし、入れる気もない(GOEー3をデフォルトにすべき)→コフトゥン選手、メンショフ選手

だそうです。

アンジェロさんは、「特にショートでは最も基礎点の高いジン・ボーヤンを含めて誰も羽生結弦には太刀打ちできない。いや、近づきすらしない。結弦に次いで繋ぎの多いパトリックですら彼のスペックでは結弦ほど密度の濃いプログラムを滑ることは出来ない(パトリックは3Aと4Tの前に助走が必要なため)」と力説していましたが、この分析を見ると確かにその通りですね。

全ての要素が完全に振付けの一部になっていて、ビジュアル的には助走や休止が全くない。
海外の解説者達に、現代のフィギュアスケートの『完璧』に到達してしまったと言わしめる意味がよく分かります。

この素晴らしいデータを作成して下さったロシアの作者と英訳して下さった翻訳者に心から感謝します。
ありがとう!
Heartfelt thanks to Russian author and translator!:embrace:
сердечное спасибо!

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