ロシア人エキスパートによる男子上位選手のフリープログラム難度分析(その2)

前回の続きです。
各選手のフリープログラムにおけるトランジションとジャンプの入り方/出方について詳しく解析しています。

 

ロシア語原文>>

英訳版>>
(翻訳者はMarina Khevkhさん)

ロシア語の原文ではなく英訳版から和訳しています

PCSのその他の基準:前述のプログラムについてtransitions/linking footwork(トランジション/繋ぎのフットワークについて分析してみよう。

ハビエル・フェルナンデスのプログラムにおけるトランジションの難度は優れている(good)。繋ぎ要素はステップ、ホップを使った片足でのトランジションへと繋がっている(ホップは当たり前の動きと見なされているが)。トランジションは手と身体の動き、方向転換を伴って実施されている。トランジションの複雑さは良く(good)、うまく分散されている。

これらには要素への難しい入り方/出方が含まれ、ジャンプ要素への入り方は全体的に難しい。2本の4S(単独及びコンボ)は両方ともスリーターンとモホークから実施され、全ての3回転ジャンプをステップから跳んでいる。4Tの入り方は簡単である(チェンジエッジ、ステップ、スリーターン)。3A(単独及びコンボ)は両方同じタイプの入り方で実施されている(「意表を突く」入り方に分類出来る)。3A2T の出は難しい(スリーターン)。ハビエルはコンボ3F-1lo-3Sを難しい入り方から跳んでいる(ウォーリー、Chotcaw、チェンジエッジ、ホップ、スリーターン)。

トランジション実施のクオリティは良い(good)

羽生結弦のプログラムにおけるトランジションの難度は非常に優れており(Very Good)、ステーティング・トランジションから片足のトランジションとその他の繋ぎ要素へ繋がっていく。これらのトランジションは常に頭と身体の動き、方向転換を伴って実施されている。

結弦は各要素の間にトランジションを入れている:身体の動きを使ったトランジションからのポーズ、両手を高く上げてスリーターン(2回)、アウトサイドエッジでのベスティ、カウンター。
トランジションの複雑さは非常に優れている(very good)。

8つのジャンプ要素は全て多様性に富んだ難しい入り方から実施されている。とりわけ3Fは出も高難度である(チェンジエッジ、カウンター、スリーターン)。ジャンプ要素の入り方は様々で、これらが組み合わされている(ステップでは片足のトランジションと繋ぎ要素を使っている)。例えばワンループコンボ(3A/1Lo/3S)の入り方(スプレッドイーグル>バウアー>スリーターン>スリーターン>スリーターン>チェンジエッジ)や4Tの入り方(ベスティ>シャッセ>Chotcaw>スリーターン)。結弦は3A3T のコンボを繋ぎ要素、両足のトランジション、2ステップ(スプレッドイーグル、ロッカ―、スリーターン、モホーク、シャッセ)を含む複雑な入り方から実施している。
トランジション実施のクオリティは非常に良い(very good)
手、身体、胴体、頭の動きが音楽にピッタリ合っている。

 

ボーヤン・ジンのプログラムにおけるトランジションの難度は普通(medium)である。
両足のトランジション、ランニングステップ、クロスオーバーが主流で、繋ぎ要素には簡単なステップが導入され、フィギュアスケーティング要素のトランジションが使われている。
ボーヤンはインサイドエッジのバウナーに繋がって行くランゲを入れ、方向転換を伴う繋ぎ要素を行っている。プログラム後半の要素間のトランジションではクロスオーバーからカウンター、更にスリーターンを行っている。
ボーヤンのプログラムにおけるトランジションの複雑さは普通(medium)で、トランジションはプログラム要素の間に集中している。ジャンプ要素の入り方はシンプルで、プログラムの3本の4回転ジャンプはモホークから実施されており、4ルッツと2本の3アクセルはロールから跳んでいる。
トランジション実施のクオリティは普通(medium)。

 

コリヤダのプログラムのおける難度は普通より上(goodに近い)である。一連の簡単なステップが繋ぎ要素へと変わり、身体、手、頭の動き、方向転換を伴って実施されている。
例えばコリヤダは胴体と腕を動かしながらインサイドエッジのベスティを行い、そこから一連のステップへと繋げている。全ての繋ぎ要素は身体、手、頭の動きを伴っている。
コリヤダのプログラムにおけるトランジションの複雑さは「良い」(good)に近い。
トランジションは主に要素の間に分散されており、入り方が難しくないのは4Tと3Aだけで、繋ぎ要素も入っている(スプレッドイーグル、モホーク)。ジャンプの出は難しくない。私はスパイラル、ベスティ、モホーク(2回)を組み合わせた彼の3Loの入り方が好きだ。
トランジション実施のクオリティは良い(good)。

 

パトリック・チャンのトランジションの難度は優れている(good)。頭と手の動きを伴い、常に方向転換しながら実施されている。簡単なステップから片足のトランジションとその他の繋ぎ要素へと繋がって行く。
パトリックはCogステップからスリーターンに繋がるトランジションを実施している。クロスオーバーの後、カウンターターンからアウトエッジのベスティに繋げている。
パトリック・チャンのトランジションの複雑さは優れている(good)。トランジションの大部分は要素の間に集中しており、ジャンプの入り方/出方は難しくない(3回転ジャンプを除く)。ウルトラCの全てのジャンプ要素は全て1種類の簡単な入り方から実施されている:2本の4T(単独及びコンボ)はフリーレッグ/スリーターンのランゲから、2本の3A(単独及びコンボ)はロールから、3Sと3Fの入り方は同じタイプ(モホーク、シャッセ、スリーターン、Chotcaw)。コンボ3Lz-2T-3Loの入り方は難しい(一連のモホーク+Chotcaw)、 3Loは入り方(スパイラル>モホーク-Chotcaw-シャッセ)だけでなく出(ランゲ)も難しい。
トランジション実施のクオリティは非常に良い(very good)。

 

アダム・リッポンのフリープログラムにおける難度は普通より上(goodに近い)である。
簡単なステップから繋ぎ要素(ランゲ、スプレッドイーグル)に繋いでいる。
トランジションは身体と手の動き、方向転換を伴っている。アダムは簡単なステップから美しいトランジションを実施している。これらのトランジションでは胴体、頭、手の動きを同時に行っており、実施の難度が上がるためTRに反映されるべきである。
アダム・リッポンのプログラムにおけるトランジションの複雑さは「良い」(good)に近い。
トランジションの大部分は要素の間に集中しているが、一部の要素については難しい入り方を取り入れている。4Lzと2本の3Aは簡単な入り方から実施されている。3回転ジャンプは複数の動きを組み合わせた入り方(ステップだけでなく、繋ぎ要素も使っている)から跳んでいる。例えば、3lz 2T 3LoのコンボはスプレッドイーグルとChotcawから実施されている。
3Sは一連のモホークから跳んでいる。出が難しいのは3Loだけである(スリーターン)。 トランジション実施のクオリティは良い(good)。

 

宇野昌磨のプログラムにおけるトランジションの難度は普通(medium)である。
両足のトランジションが主流でクロスオーバーからスリーターン、簡単なステップ、繋ぎ要素(バウアー、スプレッドイーグル、ループ、ヒッチキック)に繋げている。
トランジションは難度を上げるために身体、手、頭の動きを伴って実施されている。
昌磨は手と頭の動きを伴うバウアー、シャッセ、両手を上げたスリーターン、ランニングステップ、モホークを行っている。スリーターン、クロスオーバー、スリーターンから音楽に合わせて手と頭を動かすユニークなスプレッドイーグルに繋げている。
昌磨のプログラムにおけるトランジションの複雑さは普通(medium)である。
トランジションは要素の間に集中しており、各要素の前には難しい入り方を入れていない。3回転ジャンプについても同様である。2本の4T(単独及びコンボ)と2本の3A(単独及びコンボ)はいずれも同じタイプの入り方(スリーターンとロール)から跳んでいる。ジャンプの出は難しくない。
トランジション実施のクオリティは「良い」(good)に近い

 

PCSの項目、Transition/Linking footwork(要素の前と間のトランジションの難度、頻度、難度、多様性)の全ての基準を評価した結果、最も難度の高いプログラムを実施しているのは羽生結弦である。そしてハビエル・フェルナンデスとパトリック・チャンが彼に続く。

ショートプログラムとフリープログラムを解析した結果、興味深いことに気が付いた:
羽生結弦はショート、フリー共に4回転ジャンプと3アクセルを含む全種類のジャンプを全て違う入り方から実施している唯一のスケーターだと言うことだ。
どちらのプログラムでも羽生結弦は4S、4T 、3Aをそれぞれ異なる複雑な入り方から、そして全ての要素の前と間にトランジションが散りばめられた高難度なプログラムの中で跳んでいる。

これはよりリスクの高い道だが、プログラムに一体感を与え、ジャンプ要素を振付けの一部のように見せる効果がある。

以上だ。ご拝読ありがとう!

***********************************

これを読むと羽生君が如何に異次元かがよく分かります。
ちなみに同じようなことをスケカナ直後のポッドキャストでマッシミリアーノさんとアンジェロさんが熱弁しています。

そのポッドキャストはこちら>>

マッシミリアーノさん達も結弦は転倒のリスクが高くなるにも関わらず、難しいジャンプの入り方とトランジションにこだわり続けている。でもそれらが全て綺麗に決まった時、別次元の演技になると言っています。

ただ勝ちにこだわるなら、羽生君ならもっと楽に勝てる方法は幾らでもあるような気がするのですが、彼は決してそうしない。
あくまでも厳しい道を選び、自分が理想とするフィギュアスケートを追い求め、妥協を許さず、貪欲に進化しようとする。
だからこそ世界中の解説者や専門家がことごとく彼に夢中になり、レジェンド、宇宙人、超常現象、神と呼び、「この競技を変革した」、「歴史を塗り替えた」と称賛し、世界タイトルを逃してもイタリアの新聞で「天使が落下した」と形容されるんだと思います。

フィギュアスケートは4回転ジャンプの数と難度だけじゃない

 

この素晴らしいデータを作成して下さったロシアの作者と英訳して下さった翻訳者に心から感謝します。
ありがとう!

Heartfelt thanks to Russian author and translator!:embrace:
сердечное спасибо!

Comments are closed.