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ロレンツォ・マグリ「人々が亡くなっているのにISUは決断してくれなかった・・・前編」

OA Sportに掲載されたダニエル・グラッスル君のコーチでテクニカルスペシャリストでもあるロレンツォ・マグリさんのインタビューです。

イタリアにおける競技としてのフィギュアスケートのシビアな状況など、非常に興味深い内容でした。

 

原文>>

 

ロレンツォ・マグリ:「人々が亡くなっているのにISUは決断してくれなかった。イタリアにフィギュアスケートは存在するのか?時々自問自答することがある」

ファブリツィオ・テスタ(2020年5月20日)

 

ロレンツォ、イタリアのコーチの中で最も表立ってモントリオール世界選手権の中止を要求したのはあなたでした。
ISUが決定を下すまでの数日間、あなたにとって一番困難だったことは何ですか?

 

おそらく、単純に私がイタリア人だからかもしれません。

タリンの世界ジュニア選手権でも既に嫌な空気を感じていました。
この時、既に我々の国では感染が広がり始めていましたから。

このため、我々はイタリアからのフライトが制限されることを恐れて大会の大分前に出発しました。しかも、幸か不幸か我々は機能的な空港が存在せず、移動の際、常に旅の手配が面倒なボルツァーノに住んでいましたから、世界選手権の前から既に不安でした。

中国で仕事をしている私の同僚がそこで起こっていることを報告してくれていましたから、私は個人的に状況が悪化することを直感していました。

従って、我々はこの点においても他の人達より敏感になっていました。

残念ながらエストニアではあまり良い結果を得られませんでした。

この点については、現実性と実用性の欠如、選手、特に未成年者の場合の選手視点でのメンタル管理が欠けていたと私は思います。

 

タリンの世界選手権が終わった後、あなたはカナダに出発せず、状況が明確になるのを誠実に待つことにしたんですね。

 

世界ジュニア選手権の後、どう行動するのか判断するのは非常に困難でした。

特にイタリアでは既に死者が出始めていましたから、ISUがはっきりした態度を取らないことは、我々や選手に対する敬意に欠けているように私には思えました。

そして多くの人々(イタリア代表チームもISUのメンバーも)が出発しましたが、結局、世界選手権には出場せずに終わりました。

我々はカナダに出発せずにいるために、合計3週間タリン(しかも、ここでは週末は練習することが出来ませんでした)に留まり、ここでISUの決定を待ちました。
つまり、我々はヨーロッパに留まって答えを待ったのです。

 

かなり困惑させられる状況でしたね。特にモントリオール世界選手権の中止が正式に発表された後、ノッティンガム(イギリス)でシンクロナイズドスケーティングの世界ジュニア選手権が平常通りに開催されたことを考えると・・・

 

私はISUの運営の仕方には賛同出来ません。

彼らは主にジャッジとテクニカルパネルの準備を優先して行う傾向にあり、コーチ達のことは考えてくれません。

これは私がISUのテクニカルパネルでもあり、両方の立場にあるから言えることです。

彼らはコーチ達は既に稼いでいると考えているのでしょうが、我々や選手達のための育成システムは存在しません。

ISUは予算、イメージ、広告スペースと放送権の販売ばかりに専念している印象を受けます。

これらは全てビジネス関連のプロジェクトであり、スポーツ倫理や、我々がスポーツ価値の原理と定義している多くの価値が失われています。

例を挙げると、例えばトゥトベリーゼ・チームの少女達のような非常に若い選手達が短い(それどころか非常に短い)「競技人生」に対応して特定レベルのパフォーマンス、能力、そして何よりも成績を維持するために必要な生活水準については考慮されていません。

これはロシアだけでなく、各国の連盟と、そしてISU自体にも関わる問題です。

その一方でフィギュアスケートは今でも利益を生む人気スポーツですから、多くのベテラン選手達(イタリアの選手さえも)が注目され、アイスショーに招待されるために現役を引退したがりません。

 

 

それに、あなたは(新型コロナによる)このような状況において蔑ろにされてしまっているあなたのカテゴリーやコーチ達に対する国の経済的支援に関する批判をご自分のソーシャルチャンネルで遠慮なく発信するようになりましたね。

 

事実を言うと我々は国からあまり考慮されていませんし、存在しない「マイナースポーツ」と見なされることに慣れています。

この分野には多くのボランティアが存在します。ただし、私が設立したスケートクラブYoung Goose Academyでは専門家の人材全員に報酬を払うようにしており、このようなボランティアは受け入れていません。

自分で組織すればするほど、物事は上手く運びます。
実際、結果を見れば、イタリアを牽引するクラブは巧く組織されており、ある程度プロフェッショナルな環境であることが分かります。

その一方で、配属と言うものが現実的に存在しないので、CONI(イタリアスポーツ委員会)と比較すると組織として弱いのです。このことは自分に存在感がないことに気付くこのように状況において思い知らされます。

そして自問自答するのです。

「私の存在意義は一体?」

私は税金を支払い、自分に出来る範囲で収入を得ていますが、これを自分の主要な職業にしている私が、年収1万ユーロの人々の仲間入りをするわけには行きません。

現実的に他の仕事に就いた方が良ければ、そう言って下さい。

このような状況における管理の問題は幾つもあります。

私は何年間かミラノでフランカ・ビアンコーニと仕事をしました。

その後、異なったより小さな環境を選んでボルツァーノに移住する決意をしました。

そして上手く行きました。

しかしながら、成果という点においてはクラブは順調で、結果も出していますが、それでも私は自分がナショナルチームの一員とは思えないのです。

自分が費やしている全ての時間、この瞬間、私を助けてくれる多くの専門家にも拘らず、私は孤独だと感じています。

ローマで欧州レベル4の資格を持つ同僚達と共にスポーツ科学学部を実施していますが、私は他の一流コーチ達と同じ立場で、我々は全員対等です。

しかし、サッカー界を見ると、我々と共に講義さえ行っていないというのに、大分以前から、何の疑問も持たずに、「私は5月4日から練習を始める」と発言出来る力があるのです。

イタリアのフィギュアスケート界には多くのパーツが欠けています。

イタリアスケート連盟(FISG)の内部においても、不満を述べ、要求し、質問する勇気を持たなければなりません。

連盟内の我々の技術委員会にはコーチが一人も含まれていません。

フランカ・ビアンコーニ、ガブリエーレ・ミンチョ、エドワルド・デ・ベルナルディスと言ったイタリアを代表するコーチが一人も入っていない理由が私には理解出来ません。民主的な方法で選出されることを条件に、彼らの誰かが名を連ねるべきです。

 

スケートの話題に戻ると、先日OA Sportで公開されたインタビューの中で、ダニエル・グラッスルは短期間で身体が成長したにも拘わらず、4回転ジャンプの実施には特に問題にならなかったと発言しています。
4回転ジャンプをインプットし始めるのに最適な年齢は何歳だと思いますか?

 

答えるのが非常に難しい質問です。

前提条件として人体の生物学的仕組み、遺伝子、能力の履歴などの多くのパラダイムがありますから。

まさに100万ドルに値する質問です。

それにその答えには科学的根拠はないのかもしれません。実際、我々の世界に大きく欠けているもう一つの重大な事は、いわゆるテクニカル・コンビナトリアル・スポーツの研究です。

ダニエルのケースは、カロリーナを身体的・精神的複合体と見なした、いわゆる「コストナー複合体」の成長系と全く同じです。つまり両者共に骨と筋肉の成長において天性の身体的資質が備わったアスリートです。従って長い筋肉、軽い骨、骨盤と肩の最適な比率に恵まれています。

通常、あなたのスケーターが骨格において骨盤の幅が広い場合、重心はヘソの上辺りにありますから、回転軸という点において不運ということになります。

要約すると、骨の幅が広い選手は回転速度が遅いということです。

研究されている比率が存在しますから、パワー/ウエイト・レシオ(出力/重量比)と定義しましょう:

少ないエネルギー消費で最短時間でジャンプを引き出す機械梃子比があり、同時に直径または半径が小さい場合、空中でジャンプして回転する能力は最大限に発揮されます。

ベースになるのは身体的特徴(体格)ですが、これは個々の選手に生来備わっている資質であり、遺伝子、そして部分的に食事によって決まるものです。

価値のベースとなるのは、特定の身体的特徴を持つ選手がその後、どのように訓練され、どのぐらいの時間をかけて、どこに到達するかということです。

加えて精神面に関する部分も存在し、分析するのが難しい神経学的能力があります。

私の意見では、あなたのあらゆるタイプのスケーター、とりわけ非常に難しいことに何度も挑戦出来る能力について考察すると、一般的に4回転ジャンプは早い段階でインプットすればするほどいいと思います。

つまり、これは早く始めれば始めるほど、機械化することが出来る複雑な動作の連鎖で、脳と能力の発達にも関係しています。

制限時間内にやれば、特定の成長/発達が可能なタイムウィドウが存在するのです。

次に既に習得した能力を強化します。

どんなスポーツでも難しい技を流動的に簡単に実施出来るようになるには、早く習得した方がいいです。そうすれば流動的な動作で、あまり意識せずに実施出来るようになるからです。

 

つまりどういうことですか?

もし私が幼い年齢で4回転ジャンプを習えば、ジャンプを跳ぶための集中力とエネルギーはずっと少なくて済みます。何故なら、私の身体はそれほど多くの集中力を必要とせずにジャンプを実施することが出来るからです。

勿論、他のスポーツ、例えば乗馬やクラシックバレエをやっていた子供が13歳でフィギュアスケートを始め、2年後には既に3アクセルを跳べるようになったという非常に特殊なケースもあることはありますが、いずれにしても天性の優れた才能が前提になります。

 

この後、ダニエル・グラッスルと他の選手達の現在の状況とトレーニング、エテリ・トゥトベリーゼ門下の4回転女子、シェルバコワとワリエワについてどう思うかという話題が続きますが、非常に長いですので一端ここまでにします。

 

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ロレンツォ・マグリさんは2012年全日本の羽生君の演技を見て「マッシミリアーノ、注意しているんだ。羽生結弦はいずれISUにルールを変えさせる。何故なら、この少年には限界がないからだ」と予言し、Junior Men、Senior Menの上に新たなカテゴリー、HANYU Menを作るべきだと言った人です。

ロレンツォさんは選手と参加する全ての人材及び観客の安全と健康のためにモントリオール世界選手権を中止して欲しいというISU宛の嘆願書をツイッターに投稿していましたし、この記事を読んでも、権力を恐れない真っすぐな方であることが分かります。

イタリアではサッカーと、その他のスポーツの扱いが天と地ほど違いますから、サッカー以外のスポーツに従事する関係者は、少なからずロレンツォさんと同じようなフラストレーションを感じているのかもしれません。

 

イタリアスケート連盟は慢性的に資金難ですし、フィギュアスケートはマイナースポーツでスポンサーを見つけるのは困難ですから、資金操りはどのクラブにとっても深刻な問題です。

旅費や滞在費など代表選手派遣にかかる費用は大きいですから、ISUがもっと早く中止を決断してくれていればと思った関係者は少なくないでしょう。

エストニアの世界ジュニア選手権が開催されたのは3月4日から8日でした。

イタリアではその1週間前から爆発的に感染が広がり始め、震源地だったコドーニョは既に封鎖されていました。

グラッスル君とそのチームはイタリアに戻って二度と出国出来なくなることを恐れて、不便なエストニアにずっと留まっていたのでしょう。

ミラノで練習しているマッテオはスタッフ陣と共にロンバルディア州が封鎖される前日の3月7日にカナダに出発しましたが、結局無駄足になってしまいました。

 

日本スケート連盟が非常に風通しの悪い組織であることは、私のような部外者から見ても明らかですが、イタリアスケート連盟も保守的で閉鎖的な体質であるということは、マッシミリアーノさんが以前、ポッドキャストで言及していました。

でも、ロレンツォさんのようにはっきり批判出来る人がいること、それもブログやツイッターなどの個人メディアではなく、OA Sportのようなマスメディアでオフィシャルな記事として発信されるだけ日本よりマシなのかもしれません。

 

ここで繋げるのは強引ですし、時宜を外しまくっている感はありますが、ここ数か月間、書こう書こうと思いながら、ずっと保留になっていたテーマですので、この際、書かせて頂くと、織田信成君のモラハラ問題に対する関西大学の対応と日本のマスコミの報道方針には暗澹たる気持ちにさせられました。

日本のメディアは織田君がグランプリ開始前の選手にとってデリケートな時期に訴訟に踏み切ったことを一斉に批判していましたが、それは織田君のせいではなく、何カ月もの間、彼の訴えを黙殺していた関西大学の責任です。

そもそも織田君は事を荒立てる気はなく、穏便に済ませるつもりで7月の時点で弁護士を通じて関大と話し合ったと言っています。

モラハラはイジメです(パワハラ、セクハラ等あらゆるパラスメントについても同じことです)。

私はパラスメントの加害者だけでなく、それを見て見ぬする人達も間接的にイジメに加担していると思っています。

民間企業ではなく、教育機関である大学内部で起きた、しかも無償でスケート部監督を務めるような貴重な人材である織田君に対して行われたモラハラを大学側が何カ月も黙殺し、握りつぶそうとしていた事実に私は驚愕しました。

それでも織田君のブログの記事を最初に読んだ時、私はメディアは当然、被害者である織田君の味方をしてくれると信じていましたから、日本のマスコミがこのような事態を招いた関大の不誠実な対応を追求せず、グランプリ前に訴訟を起こした織田君の行為を批判する報道方針を取ったことに唖然としました。
私には弱い者イジメにしか見えませんでしたし、日本のマスコミというものに心から失望しました。

織田君と長年交流のあるスケーター仲間やスケート関係者が揃って沈黙し、誰一人彼を擁護しようとしないのは、大変残念なことですが、彼らには家庭や生活があり、これからもスケート界で生きていなければならない現実を考えると仕方がないのかもしれません。

でもメディアの皆さんは?

権力に屈せず、真実を追求し、事実を報道するのがジャーナリズムにおける正義ではないのですか?

「ペンは剣より強し」という信念は何処に行ったのでしょうか?

ジャーナリストまで長いものに巻かれるようになったら、この国のジャーナリズムは終わりです・・・

メディアは織田君に味方してくれませんでしたが、司法が正しい裁きを下してくれることを心から願っています・・・

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち