テレビ東京独占インタビューを見て~数字は赤裸々に語る

テレビ東京スポーツが決意表明会見後のテレビ局による個別インタビューのほぼノーカット版をYoutubeで公開して下さいました。

【独占インタビュー#1】羽生結弦を救った恩師の言葉とは?プロ転向表明直後に取材

【独占インタビュー#2】羽生結弦「早く引退しろって言われてるのかな」プロ転向表明直後に取材

#2ではジャッジの評価に対する苦悩が吐露されています。

マニアックなほど研究熱心で、おそらくどのジャッジよりルールを熟知している羽生君が気が付かない訳がないですよね。

2015年のバルセロナGPFがピークでそれ以降、得点は下がっていきました。
彼のスケートは進化し続けているのに

GOEが-5/+5に変わってからは、ガイドラインの基準では満点以外あり得ないエレメントの実施でも5点満点は絶対に出なくなりました。バルセロナの頃よりスケーティングは更に進化し、多彩で難しいトランジションを完璧にこなしてもPCSは一向に上がらず、それどころか下がっていきました。その一方で、トランジションの質、量、多彩さ、難度において彼より明らかに劣っている選手が、4回転ジャンプを多数決めたというだけで、高いPCSを貰えるのです。ジャッジの評価がルールの基準から乖離していることは明らかです。

ジャッジの評価は絶対で批判すべきではない、という人をたまに見かけますが、テニスや器械体操など、選手が納得のいかない判定に対して審議を要求出来る制度を導入している競技は沢山あります。サッカーだって微妙なオフサイド判定など、主審だけでは判断が困難な場合には、ビデオ判定に委ねられるのです。未だにカメラを増やすことを頑なに拒み、AIなどのテクノロジーの導入が一向に進まないフィギュアスケートが時代遅れなのです。裁判官だって間違えることがあるのです。ボランティアでやっているジャッジが絶対間違わないと言い切れる訳がありません。

彼がこのインタビューで述べたこと、そして多くのファンが感じている採点の理不尽が、主観による感情論や被害妄想ではないことは、数字のデータがはっきり示しています。

こちらは、以前訳したマルティーナさんのPCSとGOEの推移を分析した記事です。

マルティーナさんはより最近の記事で更に具体的に解析し、データをグラフ化しています。

ソース:「羽生結弦の世界記録:基礎点、GOE、PCS」(Sportlandia)

羽生君は19回世界最高得点を更新していますが、ここではトータルスコアは除外し、10個のショートプログラム世界最高得点と5個のフリープログラム世界最高得点のBV(基礎点)、GOE(出来栄え点)、PCS(演技構成点)に焦点を当てています。

ショート、フリー共にPCSのピークはバルセロナGPFです。

途中の垂直線はGOEが-3/+3から-5/+5に移行したシーズンです。ご存じのように、-5/+5に移行した後、GOE+1は各エレメントの基礎点の10%で計算されるようになりました

こちらは同じ内容を比較し易いように、BV、GOE、PCSを横に並べています。

こちらはGOEの獲得可能な最高点に対する達成率とPCSの平均値のグラフです

最後のこのグラフはショパンのバラード第1番による世界最高得点におけるGOE達成率とPCSの平均値の推移です。

同じプログラムで比べると一目瞭然です。
一番最初の2015年NHK杯を除くと、最後の2020年四大陸選手権が最も低いのです。

彼のショパンが段々下手になっていったと思いますか?

いいえ、断じて!😡

2020年の四大陸におけるショパンのバラード第1番は、まさに「絶対的完璧」に到達した瞬間でした。

マルティーナさんのこの分析では世界最高得点を更新したプログラムのみを取り上げていますが、それ以外の、しかし完璧に実施されたプログラムにも注目すると、おかしな採点が多々あります。

2021年のストックホルム世界選手権では完璧に演じられたLet Me Entertain Youが106点というあり得ない過小評価でした。2020年の全日本では、日本のテクニカルパネルがこのショートプログラムのスピンを1つ無効にするという暴挙に出て、世界中から非難が殺到しました。どちらのケースでも、スケーティングスキル、トランジションの量、質、難度において明らかに劣り、しかもジャンプでミスがあったライバル選手には彼と僅か1点差の高いPCSが与えられました。

下げ採点された金メダリストは羽生君だけではありません。ソチのペアの金メダリスト、マキシム・トランコフは「自分が推されている時は、ミスをしたと思ってもレベル4が与えられ、ライバルの顔を直視出来なかった。ソチの後、ジャッジ達がもう自分達を勝たせたくないと悟った」というようなことを言っています。そして彼は「悟った」後、引退しました。アイスダンスのテッサ・バーチュもソチ五輪で銀メダルだった後、そして平昌の後にも「ジャッジ達は自分達を勝たせつもりはなかった」と発言しています。

最も印象的だったのは、2017年スケートカナダの後、パトリック・チャンが「僕のスケーティングが若手に負けてショックを受けた」と発言したことです。
それはショックでしょう。パトリックは史上最高のスケーティングマスターの一人です。彼の演技は今見ても、そのスケーティングの滑らかさ、エッジワークの多彩さと巧みさ、見事なディープエッジに感嘆させられます。いや、むしろ彼の演技を見た後で、最近のトップ選手の演技を見ると、あまりにも薄くて無味乾燥で戸惑いを覚えるのです。4回転時代に突入して、フィギュアスケートは進化したと言われていましたが、パトリックの演技を見た後で、現在の現役選手の演技を見ると、むしろ退化したのではないかと思います。確かの4回転ジャンプの数と種類は増えましたが、「質」という点ではどうでしょうか?

そのパトリックが、技術点ならともかく、自分の絶対的自信であり、誇りでもあるスケーティングスキルで若手選手より低く評価されたら、何を信じたらいいのか分からなくなるほどショックを受けたはずです。当時はまだシリアスエラーの上限ルールはありませんでした。

しかし、羽生君は酷い下げ採点をされても戦い続けました。そして、黙々と自分を磨き続けたのです。24時間テレビで披露されたロンドカプリツィオーゾは、何か超越していました。あまりにも次元が違い過ぎて適切な形容詞が思いつきません。試合という具体的な目標がない中で、これほどのレベルを維持するだけでも驚異的なのに、彼は更に進化しているのです。

何という人でしょう!まさに羽生結弦のフィギュアスケート道です。
彼の演技に点を付ける必要はありません。どうせ+5でも10.00でも不十分なのだから。

しかし、だからといって採点の問題はスルーすべきではないと私は思います。多くの競技でAIによる判定が導入され、公正性、透明性の向上が提唱される中で、フィギュアスケートはジャッジが自由裁量で評価出来る範囲が広過ぎます。

これまでは羽生君のスター性と集客力で大盛況でしたが、彼は競技から去り、彼によってフィギュアスケートを知ったファンも彼と共に去りました。イタリアのファンは「風と共に去りぬ」とかけて「羽生と共に去りぬ」と言っています(みんな辛辣で容赦ない😅)。組織の時代遅れな体質を改善し、競技の公正性を回復しなければ、古参のスケートファンにも愛想をつかされてしまいますよ。ただでさえヨーロッパの古参ファンは、芸術的でエレガントで美しいスケート(とスケーター)が好きなのだから

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち