イタリア解説Euro Sport版「2014バルセロナGPFダイジェストより」

エキシ翌日にEuro Sportチャンネルで放送された各カテゴリー上位3選手の演技を詳しく解説するダイジェストから羽生選手の演技の解説をご紹介します。

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実況:マッシミリアーノ・アンベージ
解説:アンジェロ・ドルフィーニ

 <ショート演技前>

マ:男子シングルSP、最初に登場したのは九死に一生を得て6枠目に滑り込んだ日本の羽生結弦だった。20歳になったばかりの現オリンピックチャンピョン、世界王者、GPファイナル前大会の覇者。

ア:その通り、偉大なチャンピョン。でも今シーズン初めは非常に困難な状況だった。彼はここでこれら試練を乗り越え、それらがもはや過去のことであることを見せなければならなかった。

<ショート演技中>

ア:ファイナルではショートを本来の構成より少し変えてきた。

ア:ここでイーグル、そしてステップ、見事な4T。中国杯のショートプログラムではここで3Aを跳び、後半に4Tを入れていた。

ア:4Tの後、足替えシットスピンとフライングキャメルからのドーナツスピン、共にレベル4

ア:でも次の3Aに注目して下さい。2回のクロスの後、カウンターから3A、すぐにイーグル。完璧に振り付けの一部になっている。

ア:最後のジャンプ要素、3Lz-3Tの3Tで転倒。ショートではこのジャンプが課題になっている。

重いミスだったが、その後の2つの要素でレベル4。圧巻のステップとコンビネーションスピン。

 <演技後>

ア:結弦はこの演技で彼のコンディションに対する疑問に決然とした答えを返して見せた。

マ:ステップで栄誉あるレベル4を獲得し、スピンは勿論全てレベル4、そして何よりも今季最高得点を叩き出したんだからね。

これで後に滑る選手達に大きなプレッシャーがかかることになった。

だってひょっとしたらと期待してたライバル選手達の前に本来のレベルを取り戻して現れたんだから。

ア:羽生が積み上げた得点は他の選手達のハードルを上げた。彼らにはパーソナルベストか、あるいは選手によってはこれまで出したこともないハイスコアが必要になった。

誰がこの点を超えられるか?

町田とブライアン・オーサーの元で羽生と練習するハビエル・フェルナンデスは既に90点台を出しているから挑戦可能だけれど。

マ:オーサー門下はもはや世界最強だね。前述の2人に加え、カナダの新鋭ナム・グエンも教えている。

この結果を転倒があるのに得点が高すぎると批判する者が何人かいたが、その他の要素の難度と完成度をちゃんと考察するべきだ。

ア:全ての要素を完璧かつこれ以上ないほどのクオリティでこなし、高いGOEを稼いだ。

そして全てがショパンの調べに合わせて彼のために作られたプログラムの振り付けに完全に溶け込んでいた。だから最終的に転倒もそれほど大きなダメージにならなかった。勿論、羽生が今後克服すべき課題ではあるけどね。

マ:そうだね。3大会連続でこのジャンプで点を失っているからね(笑)。

 

<フリー演技前>

1位フェルナンデス、2位ヴォロノフで最終滑走者の羽生結弦が登場した。

羽生はリンクメイトに対して点差に余裕があったけれど、フィギュアスケートを観る全ての人に特別な素晴らしいものをプレゼントしてくれた。

僕は(彼の演技を)静かに鑑賞しようと提案するよ(笑)
☆ という訳で通常は演技中にジャンプやステップについて解説するのですが沈黙して見ていてくれました!

<演技終了>

マ:神話の誕生

ア:この奇跡のような演技はバルセロナGPFの最後を飾るプログラムになった。そして男子シングルのみならず、フィギュアスケートの忘れられない歴史の1ページとなった。

マ:史上最高の技術点を獲得した。最後のルッツの失敗は―このジャンプはもはや彼の鬼門だけれど(笑)-何の影響もなかった。

途方もないパフォーマンスだった。

めったにお目にかかれないほど質の高い2本の4回転ジャンプ。

ア:本当に素晴らしい4回転ジャンプ、最初から最後までエネルギッシュに力強く滑り切った圧巻のプログラム、豊かな繋ぎ、これ以上ないほど質の素晴らしい多くのトリプルジャンプ。4回転ジャンプにはさっき触れたけど、後半の3回転アクセルも見事だった。どちらもコンビメーション、3A-3T、そして3A-1Lo-3Sで決めた。

マ:こんな3連続ジャンプ(3A-1Lo-3S)今までに見たことある?

ア:そうだね、唯一プルシェンコが更に高難度の3A-1Lo-3Fを跳んでいた。プルシェンコがオリンピックに初めて出場した2002年のことだ。でも彼が前半に跳んでいたのに対して羽生は後半に入れている。

マ:つまり羽生はオリンピックの同年にGPファイナルを制した史上初のオリンピックチャンピョンになったわけだ。

GPファイナル連覇を達成し、3年前から高橋、羽生と続いていた日本人スケーターによる連勝記録を伸ばした。そして今、皆が訊きたいだろう、この選手は一体どこまで行くんだろうって。だって彼が頭に描いている今日のとは異なるフリープログラムを滑る切ることが出来たら、正直TES110点を余裕で超えるだろう。

ア:他の選手はTES90点に達するのも大変なことを考えると想像を絶することだよね。

マ:他の選手にとってTES90点はホテルでシャンパンで祝杯を上げるほどの偉業だろう(笑)。今大会TES90点に達した選手は何人いる?

ア:事実を言えば今大会90点台は誰もいない(笑)。

マ:その通り。

ア:羽生だけが100点を超えた。驚異的だ。

マ:まさに歴史的瞬間だった。このような演技を再び見れることを願っているよ。

(全選手の順位表示)

マ:実況中、僕達は「惑星ハニューにようこそ!住人は彼ひとり」と言ったけれど、これを見たらなぜだか分かってもらえるだろう。2位との点差を見てよ(笑)

ア:本当に驚異的だ。他の選手はおこぼれで満足するしかなかった。ヴォロノフもフェルナンデスにかなりの点差を開けられている。

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 ☆マッシミリアーノさんが静かに見ようと言ってくれた時は嬉しかったです。

アンジェロさんは羽生君のことをフィギュアスケート界のマッタトーレと言っていました。マッタトーレとはイタリア語で他の役者が完全に霞んでしまうほどの圧倒的スターという意味です。ステッラ(イタリア語でスター)ではなく敢えてマッタトーレという言葉を使っているところに羽生君がどれだけ特別な存在と思われているかが分かります。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu