イタリア解説EuroSport「Bol On Ice2019より~女子の高難度ジャンプについて」

5月4日にイタリアのボローニャ郊外、カザレッキオで開催されたアイスショー「Bol On Ice2019」
アイスショーの模様はユロスポチャンネルで生中継されたのですが、まさかのマッシミリアーノ&アンジェロさんの解説!
オフシーズンにお二人の解説が聞けるなんて!
製氷中に繰り広げられた女子シングルの高難度化にまつわる体型とジャンプの関係についての話題、アレクサンドラ・トゥルソワの演技解説から印象的な部分を抜粋します。

エレナさんが動画をUpしてくれました。いつもありがとう!
Grazie Elena♥!

実況:マッシミリアーノ・アンベージ(ウィンタースポーツ専門ジャーナリスト)(M)
解説:アンジェロ・ドルフィーニ(テクニカルスペシャリスト、元ナショナルチャンピオン)(A)

<女子の高難度ジャンプについて>

A:ロシアの小さな少女達はこの競技を・・・技術的におそらく新しいフロンティアに向かわせようとしている

M:女子シングルは新時代に突入しようとしている
正解に言えば、新時代は既に始まっている。
今年の世界選手権で表彰台に上がった女子選手の一人が4サルコウを成功させたことを忘れてはならない

A:トゥルシンバエワだね

M:来シーズンは複数選手によるクワド選手権が繰り広げられるだろう。
当然、競技の技術的ハードルは引き上げられ、多くの選手達が4回転ジャンプに挑戦しようとするだろう。
もしかしたらよりベテランの選手達も男子と同じ道を歩もうとするかもしれない。
通常、珍しいことだけれど。
当然のことながら、女子は特定の年齢までは簡単に回転することが出来る。
しかし、成長するに従って、身体的パワーのある男子に差を付けられる
これが女子シングルで3アクセルがほとんど見られない理由なのだ。
男子では3アクセルが跳べなければアイスダンスに転向するしかない。

A:ハハハ・・・そうだね
男子で3アクセルは必須要件になりつつある

M:でも注意してほしい
ジュニア世界選手権ではトゥルソワ、シェルバコワ、コルストルナヤは男子でも1位2位3位だった。疑問の余地はない。

A:ないね

M:彼女達には3アクセルはないけれど、クオリティで男子を打ち負かす。
しかも彼女達はほとんどミスをしない

A:現時点では4回転ジャンプの数でも優っている
スピンでは最初から勝負にならない

M:でもこの年齢なら(女子が男子に勝つことも)あり得ることだ
勿論、成長するにつれて状況は変わっていく

A:要因は2つある。
男子は成長するにつれて身体的パワーがつき、体型もそれほど変化しない。
勿論、身長は伸びるし、これによって重心が変わるから問題を招くかもしれない。
より太くもなる。
でも羽生やジン・ボーヤンなどの男子シングルの多くの選手達を見ると、彼らは非常にほっそりしていて、腰幅が非常に狭い。

M:鍵となるのは腰回りだ。

A:骨盤だね。
彼らは骨盤の幅が非常に狭い
女子が成長するとどうなるか?
男子ほどの身体的パワーは得られない。これはフィギュアスケートに限らず、どのスポーツにも共通して言えることだ。
更に体型が変化するから、彼女達のアドバンテージであった回転速度が落ちる

M:でも僕はコンセプトを明確にしておきたい。
17歳の少女は身体的(物理的)消耗が原因で4回転ジャンプが跳べないわけではない。
消耗の問題ではないんだ。
問題は体型の変化だ。
ただし、もし12~13歳の間に4回転ジャンプを習得したなら、18歳になってもこのジャンプを維持することは可能かもしれない。それ以上大きくなってから4回転ジャンプを習得するのは難しい。

A:男子なら可能だけれど、男子は論点が異なるから

M:トゥルシンバエワは世界選手権で4サルコウを成功されたけれど、彼女は5年前からこのジャンプに取り組んでいて、練習では大分以前から成功させている。

A:そして試合で実際に入れるには(練習で成功させてから)長い時間を必要とする。
4回転ジャンプは体型が変化する前に習得し、身体に覚えさせなければならない。
そして、成長してもこのジャンプを維持できるチャンスはあるかもしれない。
ただ、我々にとっても未知の分野だから、どうなるのか分析して行かなければならない。

トゥルシンバエワは特殊なケースだけれど、注意してもらいたいのは、アジアの選手達はその特徴的な体型によって、年齢が上がっても高難度ジャンプを跳ぶことが出来るかもしれない。

M:これらのことを考慮すると、トゥクタミシュワがやり遂げたことは驚異的だ。

A:同感だ

M:エリザベータが初めて3アクセルを成功させたのは12歳の時だ。
そして今・・・

A:別の選手だ

M:1996年生まれの彼女はまだ3アクセルを跳んでいる。

A:彼女は大人の女性だ
小さな少女ではない

M:女性らしい体型のね

A:彼女は驚異的なケースで、おそらく研究に値する。
でも彼女はアクセルに必要な身体的パワーと技術を兼ね備えている。

M:でも彼女が日本の選手達を破った国別対抗戦では、これまでにないほど身体が絞られ、痩せていた。
何故なら鍵になるのは否応なくそこなのだ。

アリーナ・ザギトワは不調だったシーズンの最後に世界選手権で優勝した。
何故なら、磨き上げられ、非常に痩せた状態で世界選手権にやってきたからだ。
こういうコンディションの彼女はジャンプを軽々と跳び、回り切る。

A:これはドルフィーニとアンベージの意見ではない。
物理の法則だ(笑)

M:でも僕が強調したいのは、沈んでいく選手達は、身体的消耗が原因で終わるのではない。つまり、幼い頃に3アクセルやクワドの練習を強要されて身体を酷使したからではない。
成長の問題、ただそれだけだ。

A:あるいは怪我だ
当たり前のことだけれど
正直、僕達はそういうケースも見てきた

M:ツルスカヤがこのケースだね
でも彼女は4回転ジャンプは跳んでいなかった。
彼女が飛んでいたのはクラクラするほど美しい3ルッツで、彼女のルッツはここ5年間の女子シングルで最高のクオリティだったと思う。ミス3Lutzのエリザベータ・トゥクタミシェワも含めてね。

A:トゥクタミシェワでさえ、ツルスカヤほどのスピードから3ルッツを跳んでいなかった。彼女のルッツの飛距離は驚異的だった

<ルールについて>

M:採点システムを変えるという意図は機能していない。
何故なら、ジャンプの基礎点を下げても、基礎点が高い方が高いGOEが貰えるようにしたら、選手達はどうする?
より高難度のジャンプに挑戦するようになるだろう。

A:綺麗に着氷して高いGOEが稼げることを期待してね

M:つまりルールの改正は、ある意味でクリーンでミスのない、リスクの少ないプログラムを奨励するために行われたんだろうけれど、結果的に反対の効果を生み出してしまった。
今年の世界選手権では去年より多くの4回転ジャンプを見た(笑)

<アレクサンドラ・トゥルソワの演技>


M:彼女はアレクサンドラ・トゥルソワ
史上最年少で世界ジュニアチャンピオン、グランプリファイナル優勝、ジュニアグランプリ大会優勝
既に多くの記録を樹立し、まだ15歳になっていないというのにフィギュアスケートの歴史に名を刻んだ。

彼女は試合で3種類の4回転ジャンプを成功させている
試合でだ。
練習では4種類の4回転ジャンプを跳んでいる

A:ジュニア世界選手権では女子で初めて2種類の4回転ジャンプを成功させた。
この少女は技術という点において本物の天才だ。

A:最高の技術で実施された2アクセル。
彼女の2アクセルの技術は過去の偉大なロシア選手達と比べても別物だ。

M:彼女は陸上で3アクセルを跳んでいる
来シーズン入れることを目標にしているジャンプだ。

A:このトリプルは重要な鍵になる。
何故ならクワドと違って3アクセルはショートプログラムにも入れることが出来るからだ。
リプニツカヤ、メドヴェデワ、そしてザギトワでさえも技術的に彼女のような2アクセルは持っていない。過去に華々しい成功を収めた才能ある他のロシア選手達もそうだ。
3-3のコンビネーションはトゥルソワにとっては平凡なジャンプだね
だからフリーの後半に余裕で跳ぶことが出来る。

M:これはジュニア世界選手権二連覇を成し遂げた今季のショートプログラム。
この選手のポテンシャルは巨大だ

A:何も言うことはないね。
先ほども言ったようにこの少女は既に多くの記録を塗り替えた。僕達はシニアの試合で解説するのが待ちきれない。
間違いなくロシアに多大な満足を与えることになるだろう。

M:彼女は驚異的な競技者でもある。
同じリンクにシェルバコワ、コストルナヤ、更にザギトワがいて、驚異的な刺激の中で練習している。
彼女は限界のその先に挑戦している。
驚異的なのは今名前を挙げた4人が全員、全てにおいてメドヴェデワを上回っているということだ。
メンタルではメドヴェデワに軍配が上がるかもしれないけれど、技術では勝負にならない。

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☆エフゲニー・プルシェンコ、カロリーナ・コストナー、アンナ・カペッリーニ&ルーカ・ラノッテ、更に欠場したメドちゃんとアリオナ・サフチェンコ/ブリュノ・マッソの代わりにアレクサンドラ・トゥルソワとアンナ・シェルバコワが急遽出場することになり、見ごたえのある豪華なアイスショーでした。
8000席のチケットは完売したそうです。

トゥルソワ&シェルバコワの繋ぎてんこ盛りのプログラム、唖然とするほど難しい入りから跳ぶジャンプは凄かったけれど、純粋にパフォーマンスとして最もカリスマ性が凄まじかったのはプル様の演技、最も美しかったのはジャンプを1本も飛ばなかったカロリーナの演技でした。

衣装も美しかった・・・まるで月と狩の女神アルテミスのよう・・・

 

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu