イタリア解説EuroSport版「2011年GPF~羽生結弦SP」

過去の映像から

いつもイタリア解説の貴重な動画を提供して下さるエレナさんが過去動画に英語と日本語の字幕を付ける作業を進めています。

2011年GPFショートプログラムのユロスポ版解説は訳していませんでした。

エレナさんの依頼で翻訳しましたのでブログの方にも掲載したいと思います。

エレナさんが英語と日本語の字幕を挿入してくれました。
Grazie Elena❤!

マッシミリアーノ・アンべージ(M)冬季競技アナリスト、ジャーナリスト

アンジェロ・ドルフィーニ(A)元男子シングル伊チャンピオン、コーチ、国際テクニカルスペシャリスト

M:このファイナルの金曜日の長い試合は、男子シングルで締めくくられる。

地元ケベックシティの観客が最も待ち望んでいた試合だ。大勢の観客が会場に駆けつけた。というのも、パトリック・チャンが出場するからだ。数日前のチェンの辛辣な発言は、合う意味でカナダスケート界を震撼させた。追って詳しく言及したいと思う。

男子シングルは、間違いなく最も拮抗した試合だ。
ISU会長のオッタヴィオ・チンクアンタだ。

A:オッタヴィオ・チンクアンタは間違いなくフィギュアスケート副会長のデビッド・ドーレと共に観戦するのだろう

M:羽生結弦から始めよう。彼はモスクワ大会で優勝し、自身初のシニアでのグランプリファイナル進出を果たした。ケベックシティへの切符を手にするにはこの大会で優勝するしかなかったが、彼は傑作選選に入るフリープログラムでこれを成し遂げた。

足首に小さな問題を抱えていて、ベストコンディションではないが、氷上に多くのクオリティを表現出来る少年で、今シーズンはそれを証明して見せた。

過去には世界ジュニア選手権でも優勝している。

A:その通り、ファンタスティックなスケーターだ。ジャンプの質、スケーティングの質、身体が非常に柔らかいので、男子シングルではほとんど見られない並外れたスピンを持っている。

M:スクリャービンの楽曲、19世紀末の音楽だ。

A:冒頭のエレメントに注意。トゥループ

4トゥループはステップアウト。彼が4回転でこのようなミスをするのは初めてではない。

A:見事な3アクセル

実質、準備無しで実施した。

A:3ルッツ+3トゥループ

A:足替えシットスピンも素晴らしい

あとは最後のスピン、コンビネーションスピンだけだ

M:4Tは完璧ではなかったが、安定したプログラムだ。

ユヅルは数日前に17歳になったばかりだということを思い出さなければならない。

A:非常に若いが、表現面でも既に多くの資質がある。

凄まじいエネルギーで滑る

非常に力強い動き
だから僕達が先ほど説明した評価項目の「パフォーマンス」においても、彼は自分がやる全てのことに全く迷いがなく、常にそこに意識がある。他の多くの日本人スケーターと同様、彼も氷上における滑りの質が素晴らしい。

この非常に柔らかな膝の屈曲が別のことも可能にしている。

ビジュアル的に準備のない3アクセルだ。

皆さんも見たでしょう。

驚異的だ

M:フリーでは彼がプログラム後半に何の問題もなく配置出来るエレメントだ。しかもコンビネーションにしてね。このことが、3アクセルが彼にどんなジャンプなのかを物語っているだろう(笑)

身のこなし、という点において、ジョニー・ウィアーを彷彿させる。
そう思わない?

A:確かに。

表現やバレエダンサーのような動きも

とてもエレガント

そして、スピンにおけるこれほど高難度のポジション、このような柔軟性は男子シングルでは本当に希少だ。女子でも難しいビールマンポジションまで実施することが出来る。

例えば現在女子シングルで首位のカロリーナ・コストナーはビールマンをやらないと言えば、如何に難しいことなのか理解してもらえるだろう。

M:カロリーナのレイバックスピンは最初からレベル4ではなく、彼女の目標であるレベル3を獲得するように構築されているけどね。

A:勿論、彼女はレベル3のスピンを高いクオリティで実施することに焦点を当てている。

彼女は質を重視しており、そういう時のコストナーは誰にとっても手強い相手だ。

M:(羽生の得点が)80点に達するか見てみよう。彼は4サルコウにも取り組んでいて、練習では50%以上の成功率だ。だから近い内にこのエレメントも試合で見ることになるだろう。

A:これを見て

このバックカウンターの動き

つまりバックカウンターから3アクセルを実施している。非常に難しいことだと断言出来る(笑)

この3ルッツ。僕の意見では、彼のエッジはいつもギリギリだと思う。エラーが付くほどではないが、フラットで、クリーンなアウトエッジではない。

M:今日は軸が少し曲がったけれど、立て直したのは見事だった。

A:しかし、もし4回転ジャンプが安定して決まるようになったら、決まった時の彼のクワドは素晴らしいクオリティだから、彼は本当の意味で・・・

M:勝つスケーター

A:そう、勝つスケーターになるだろう。

80点には届かなかったけれど、もう少しだった。

M:ほぼ80点。だから、羽生は完璧に勝負の渦中、おそらく表彰台争いの中にいる。

チェンや高橋はもしクリーンに滑ったら90点代を出すだろうが。

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☆この悲愴では、特に上半身と手の動き、そしてスピンに目が釘付けになりました。

そして左右で異なる色の袖と手袋のグラデーションが、この独特の手の動きを際立たせていました。女子でもこんな美しいドーナツスピンは見たことがないと感動し、最後のコンビネーションスピンの手の動きには危なく催眠術をかけられるところでした!

ユロスポのお二人はこの頃から絶賛ですね。バレエダンサーのような動き、非常にエレガントなスケーターだと。

興味深いのは、現在の羽生君のルッツはいわゆる「捻挫ルッツ」と呼ばれるほとんど踝が氷面に触れそうなほど明確なアウトサイドエッジですが、この頃のエッジはフラットだったということです。フリップに関してはアウトサイドに傾きがちで「!」や「e」が付いていましたが、それからきっちり矯正し、今ではどちらのジャンプも教本通りの完璧な技術で実施されています。

「きっちり矯正し」と簡単に書きましたが、実際には大変な努力と忍耐を要したに違いありません。

テクニカルパネルが常に全選手に対して統一された基準で正しく判定すれば、エッジに問題のある選手達は減点されないために矯正しようと努力し、いずれ正しい技術を習得します。しかし、テクニカルパネルが毎回見逃し、それどころか加点さえ与えたら、選手は本気で矯正しようとしなくなるでしょう。

一貫性のない不正確な判定は、正しい技術を持つ選手を不利にするばかりか、見逃される選手のためにもならないのです。

マッシさんが何度も主張しているように、離氷直前のエッジの傾斜がインかアウトかを見分けるテクノロジーを開発するのはそれほど難しいことではないはずです。

今は、ある程度の知識があれば誰でもYoutubeの試合動画の映像を拡大し、スローにしてエッジや回転がクリーンかどうか検証出来る時代です。

誰が見ても90度以上回転の足りていないジャンプや明らかに間違ったエッジの踏切りを「たまたま」テクニカルパネルに見逃されてしまった選手が、やれ国力だ、コーチの力だ、ISUのお気に入りだ、陰謀だ、などという批判に晒されることを防ぐためにも、誰に対しても公正で正確な判定が可能なツールを導入するべきです。

テクノロジーの進化がそれを可能にしているのですから。

羽生先生はこう言っています:

「基礎が大切。基礎から頑張って、本当につまんないかもしれないけれど、そのつまんないことをカッコよく出来るまで頑張って下さい。そしたら絶対上手くいくと思う」

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu