ポッドキャストKiss&Cry第6-7回「中国杯女子プログラム分析(2)」

前回の中国杯女子プログラムの分析の続き
今回は三原舞依ちゃんについて

三原舞依ちゃんのフリープログラムはマッシミリアーノさんがトランジションの豊かさにおいて今季女子で最高と評するほど、ジャンプの入りや繋ぎに工夫の凝らされた難しいプログラムなのに、ジャッジの主観や好みを差し引いたとしても私にはあまりにも過小評価に思われたのですが、マッシミリアーノさん達も同じ意見のようで、その原因についてあれこれ考察しています。
なるほど!と思ったのでその部分を抜粋します。

K&C第6回より

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出演
マッシミリアーノ・アンベージ(M)(伊ユロスポ実況/ジャーナリスト)
アンジェロ・ドルフィーニ(A)(国際テクニカルスペシャリスト/元イタリア男子シングル・ナショナルチャンピオン/伊ユロスポ解説/コーチ)

M:三原のプログラムの話をしよう。
僕達はジャッジに過小評価されていると思っている
僕達は彼女のプログラムは『賢い』構成と言った。なぜならザギトワに次いで高い基礎点を稼げるプログラムだからだ。勿論、考案することは可能でも実際に滑りこなせるかどうかはスケーターの技量にかかっているので、彼女が過去に乗り越えた試練を考えても称賛に値すると思う
先シーズンに比べて北京の三原は何が変わったか?
先シーズンも彼女は安定していい演技をしていたけれど、今シーズンの彼女のプログラムにはフィギュアスケートという観点において多くのことが追加された。

A:三原のフリープログラムにはトランジションがふんだん以上に散りばめられている。
ザギトワとは違う方法で
ザギトワのプログラムは、振付は非常に豊かだけれど、後半にジャンプを固めているのでジャンプとジャンプの間隔が短いこともあり、ジャンプの入りに関しては三原の方が独創的で難しい入り方をしている。
ジャンプ前後のトランジション、特にジャンプの出のトランジションにおけるナンバーワンはメドヴェデワで、彼女のジャンプ着氷後のトランジションは研究と勉強に値する見本だけれど、僕は三原のプログラムのトランジションの多さに驚いた。
多くのジャンプを難しいステップから跳んでいて、ステップから跳んでいないジャンプについても振付の中に完全に組み込まれている。
例外は比較的助走の長い冒頭のコンビネーション3Lz/3Tと、特に前に何も入れていない後半のコンビネーション2A/3Tぐらいで、あとはディテールまで工夫が凝らされている。このように構築されたプログラムは滑るのが非常に難しくなるが、彼女は優秀で、ミスなく滑り切った。

M:口の悪い連中は三原についてジュニアのスケートだと評しているが、僕はこの表現は間違っていると思う。ジュニアっぽいのは彼女のフィギュアスケートではなく、氷上における彼女の印象だと思う。キャラクターという言い方が適切だろう

A:まだカリスマ性が足りないんだと思う
演技構成点のスペシャリストがprojectionと呼んでいる部分だ。
つまりプログラム全体が物語るストーリーや、プログラムに込められた意味やコンセプトを、動作のインパクトや、振付に意味を持たせることによって、観客やジャッジや視聴者に伝達する能力、演技中に選手自身が生きている感情や感覚を外側に投射する能力
当然のことながら、トップクラスの選手達には際立ったProjectionが備わっている
三原にはまだこのProjectionが少し足りないから、結果的に学芸会的な滑りに見えてしまうのかもしれない。彼女はエレガントな選手だけれど、振付の1つ1つの動作や表現でカリスマ性伝えることの出来るコストナーやオズモンドなどの選手に比べて、動作における洗練や成熟性がまだ足りない。

M:従って三原は驚異的なフリーの演技にもかかわらず、ショートでのラジオノワの3ルッツの判定(おそらく回転不足だったのに認定された)にも足を引っ張られ、北京では4位に甘んじることになった。

 

K&C第7回でも視聴者からの質問から再び舞依ちゃんの演技構成点について触れていますのでその部分を要約します

M:視聴者からの質問:

三原舞依の中国杯フリーのPCSは64.72点でした
コストナーが日本で獲得した点より11点低く、Transitionは2点も低いです。
同じ大会でツルスカヤはコストナーより10点低いPCSでした。
コストナーは転倒や抜けのミスがあった大阪大会の方がノーミスだったモスクワ大会のフリーより高い演技構成点を獲得しました。こんなことが可能なんですか?

A:答えるのが難しい質問だね(笑)
試合によってジャッジやコントロールパネルは違うし、点の出方も異なるから別の大会で単純比較するのは難しい。
(中略)

M:でも僕はツルスカヤや三原と、コストナーとの演技構成点における点差はこれから徐々に縮まっていくと思う。

A:三原とツルスカヤではケースが違う。
僕は特に三原の得点の低さに驚愕した。なぜならトランジションが非常に豊かなプログラムだと思ったからだ。だから少なくともトランジションについてはもっと高い得点に相応しかったと思う。これが僕の意見だ。

ツルスカヤに関してはショートに比べるとフリーはあまり伝わってこなかった。あくまでの僕の個人的な意見だけれど
ショートは彼女の資質が良く生かされていたし、芸術的にも説得力のある演技だったと思う。見ごたえがあるプログラムだったし、何かが伝わってきた。フリーはそういったものが正直あまり感じられなかった。

三原については前にも掘り下げたし、実況中にもコメントしたけれど、彼女のスケートではなく、氷上における見栄えや印象が少し学芸会的に見えるのかもしれない。
僕は彼女のパフォーマンスを楽しんだし、非常に豊かなプログラムだと思うけれど

M:つまりこのような場合、評価が低くなるのはInterpretationとSkating skillsの一部だ。Interpretationが低いと、自動的にその他の項目の評価も下がる。これがこの数日間における僕達の議論が導き出した(彼女の得点が過小評価されることを説明する)説得力のある唯一の答えだ。なぜなら今現在、三原舞依のプログラムはおそらくトランジションという点において女子選手の中で最も豊かなプログラムだからだ。トランジションにおいてはエテリ組の少女達にも引けを取らない。

A:確かにトランジションにおいては樋口のプログラムも上回っている。
樋口は振付と表現という点において今シーズンのプログラム中、最も説得力のあるプログラムを披露したけれど、トランジションの豊かさでは三原より弱い
でも確かにInterpretationとCompositionの点が低いと、他の項目の点も下がってしまうのかもしれない・・・

M:それに樋口はスピードとスケーティングの滑らかさという点において圧倒的なクオリティを氷上で披露するから当然Skating skillsで高い評価を得る。
勿論、フィギュアスケートはスピードだけじゃないけれど、作品の70%がスケーティングスキルとスピードだ

A:そしてもう一つ言えることがある。これは僕達がペアの話題でよく言っていることだけれど、何か圧倒的に傑出した長所や特徴があると、つまり、傑出したスピードやスケーティングの滑らかさ、躍動感など、こうした長所を前面に押し出すことによって、ジャッジに強烈なインパクトを与え、相乗効果で演技構成点の他の項目の得点も引き上げられるという現象が起こる

逆にこれといった特徴や長所がないと、全体的のクオリティは高くてもあまりジャッジの印象に残らず、実際のクオリティより全体的な評価が低くなるのかもしれない

オズモンドと樋口は現在の女子で最もスピードのある選手で、そのスピードとスケーティングの滑らかさは見る者の目を釘付けにする。
メドヴェデワもスケーティングスキルではこの二人にかなわない。
メドヴェデワは独創性のあるトランジションを組み込み、スケーティングの質も高い方だけれど卓越したレベルではない。だからスケーティングスキルにおいては、昔よりスピードは多少落ちたものの傑出した滑りの滑らかさを依然維持しているコストナー、そしてオズモンドと樋口ほど卓越したクオリティではない。
でも彼女のプログラムはルールを片手に、採点システムの要件を完全に満たすように構築されており、この点において完璧だ。だから当然、高い得点を持ち帰ることが出来る。
何故ならジャッジはルールが要求することを完璧に実施しているプログラムを目にするからだ。

M:僕は今日からオリンピックまでの間に多くの選手が演技構成点で70点を超えるようになると思う。だからここまでのグランプリ4大会ほど結果は演技構成点によって左右されなくなると思う。

確かにメドヴェデワとコストナーは毎回70点を大幅に超えている。
でも今のところ僅かな点差で70点に届かない樋口も、近いうちにこの大台を超えると思う。
三原は先シーズン既に70点を超えたことがある。今シーズンの彼女のプログラムが先シーズンよりずっと複雑に構築されていることを考慮したら、70点に到達しなかったらそれこそ犯罪だ。
ただし樋口と三原については別の問題がある。現時点では彼女達が五輪代表になれるかどうかまら分からないということだ

ザギトワはグランプリ・デビュー戦で70点に限りなく近いPCSを獲得した。だからもしフリーでノーミス演技を続ければ問題なく70点を超えるようになるだろう。
ザギトワがPCSで70点を超えるようになったら脅威だ。なぜならノーミスならフリーでTES80点が余裕で出せる彼女には150点が保証されるからだ
だからオリンピックはメドヴェデワ優位には変わりないけれど、予想より接戦になる可能性がある。

 

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ポッドキャストではこの後、メドちゃんの話になります。長くなり過ぎますので訳しませんが、要約すると

メドちゃんは子供の頃からずっと二番手扱いされてきたんだそうです。ノービス/ジュニア時代はラジオノワ選手の影に隠れ、エテリ門下ではリプニツカヤ選手と比べられ、セラフィマ・サハノヴィッチ選手が入門してきたら、才能においてセラフィマの方が有望と言われ、ここ2年間はポリーナ・ツルスカヤがシニアに上がったらいずれ彼女に負けるだろうと言われ続けてきたと。そしてこんな風におそらく才能において自分より優れている誰かと比較されるたびに、メドちゃんは驚異的な力を自分の中から引き出し、強くなっていったんだそうです。

メドちゃんの負傷GPF欠場ニュースには本当に驚きました。
右足に問題があるということはロステレの時からマッシミリアーノさんが実況で触れていましたが、まさか骨にひびが入っていて痛み止めを服用しながら試合をしていたなんて!!!

私は正直、メドちゃんの演技はあまり好みじゃなかったのですが、彼女の根性と意志の強さに心を打たれました。

逆境に強いところは羽生君に似ていますね
早く怪我が回復して万全な状態でオリンピックに臨めることを願っています

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu