ポッドキャストKiss&Cry II第5回「羽生結弦の珠玉~SS/TRの評価基準」

ロステレコム杯後のポッドキャストから
サマリンがボロクソに酷評されていてちょっと気の毒ですが、PCSのSkating SkillsとTransitionsで評価対象になる要素についてルールブックに沿って解説していて面白かったので、毎度のことながら、随所に散りばめられている羽生君の話題と共にご紹介したいと思います(例のごとく非常に長いので抜粋・要約します)。

Listen to “Kiss&Cry Reloaded – Puntata 5” on Spreaker.
出演者
フランチェスコ・パオーネ(司会)(F)
マッシミリアーノ・アンベージ(ジャーナリスト、冬季競技アナリスト)(M)
アンジェロ・ドルフィーニ(元ナショナルチャンピオン、国際テクニカルスペシャリスト)(A)

<NHK杯展望>

P:マッシミリアーノ、まず札幌が羽生結弦にとってどういう地なのか説明してくれる?

M:単純にデータを見ると、彼が最後に優勝したNHK杯の開催地であり、彼が最初に全日本王者になった全日本選手権、そして3年連続で欠場する前に彼が最後に優勝した全日本選手権の開催地でもある。
これはデータを見れば誰にでも分かることだ。
しかし、実際には札幌は結弦にとってもっと深い意味を持つ地だ。

遥か昔の2008年、この地で全日本ジュニア選手権の最終予選(地区大会)が開催された。
仙台出身の結弦は東北ブロックの選手だから、東日本選手権に出場した。
札幌で何が起こったのか?

結弦は試合で3アクセルに初めて挑戦し、見事に成功させてみせた。
初挑戦でいきなり成功だ。
勿論、この後の大会でこのジャンプがいつもうまく行ったわけではなけれど、ここでは成功した。
僕達が嬉々として何度も言及しているメラーノでのジュニアグランプリ大会の後のことだ。

つまり、札幌は羽生結弦の歴史において重要な意味を持つ場所なのだ。
何度も優勝を飾った地というだけでなく、後に結弦の最強兵器となった3アクセルを最初に成功させた場所でもあるのだ。

札幌の大会で初挑戦にしてこの3アクセルを成功させたものの、この2008/2009年シーズン、結弦の3アクセルの成功率はまだ低かった。
実際、このシーズンは数回しか成功させていない。

ところが翌シーズンの初戦、この少年が何をやってのけるのか我々全員が注目していたポーランドのトルンで開催されたジュニアグランプリ大会で、結弦はフェンスほどの高さのある3アクセルを決め、それ以来、このジャンプは結弦のフィギュアスケートのトレードマークになった。
これは驚異的なことだ

F:つまりこの週末に僕達は何を見られるのかな?
新たな歴史?
それとも君が先週、放送の外で言った時差の問題がある?

M:通常、グランプリ最終戦の時期になると、彼のコンディションは上がっている。
時差については簡単な問題ではないし、公式練習で特定の方法で調整していかなければならない。
でも彼は以前からこの調整も上手く行っている。
これは彼のような選手にとって必要とされていた成長の証だと思う。

歴史はグランプリ最終戦では彼は常に傑出した演技を披露することを教えてくれている。
怪我やその他の身体的問題に関する情報は入ってきていないから、僕は絶大な信頼を抱いている。

何故ならスケートカナダで彼はあらゆるメンタルの壁を打ち破ったからだ。

新しいジャンプを導入するとは思わない。
彼は構成を上げる前に今の構成で完璧なショートとフリーを滑りたいようだ。
もしこの構成でミスなく滑って330点近い得点が出たなら、ファイナルに向けて次のステップに進むかもしれない。
(ファイナルで構成を上げる)可能性は低いと僕は思うけれど、彼には全てが可能だから(笑)
彼の頭の中にある戦略は彼にしか分からない。

羽生はそのキャリアの中であらゆるジャンルの曲に挑戦している。
過小評価されがちだが、僕が彼の真珠と見なしているのはプリンスの曲を使ったショートプログラムだ。
彼の中では完璧なノーミスが出来なかったプログラムという位置づけかもしれないけれど

A:素晴らしいプログラムだった・・・本当に素晴らしかった
珠玉だった・・・

M:非現実的なほど難度の高いショートプログラムだった。

A:僕の記憶が正しければ初めて4ループを入れたショートプログラムだった

M:その通り
そして確かチャレンジャーシリーズでこのジャンプを初挑戦にして成功させた

A:そうだった、そうだった
グランプリシリーズでは4ループはいつも上手く行ったわけではなかった。
いずれにしても、得点という観点においては、4ループを入れたショートプログラムではサルコウとトゥループの構成で出した記録を上回ることが出来なかった。

M:羽生のプログラムは似たような系統が多いなどと言う者は、このLet’s go Crazyの、この振付を他の選手に滑らせてみて欲しい。果たして滑ることが出来るのか
そして万が一、このプログラムを羽生より上手に、輝かしく滑れる選手がいるなら見せて欲しい。
話はそれからだ

いずれにしてもNHK杯では300点を超えると思う

<ロステレコム杯>
サマリンのSSとTRについて

A:正直、サマリンの演技構成点には唖然とさせられた

M:僕達は演技構成点の少なくとも2つの項目は自由裁量の余地がほとんどないと常々説明している。
つまり、ルールが定める規定に則って、客観的に評価されなければならない。
この2項目とはSkating SkillsとTransitionsだ。

そしてサマリンがこの2項目で持ち帰った9点近い得点は説明不可能だ。
僕達がルールブックを読んで解釈できる評価基準を考慮すると、彼がどうやったらこの得点に値するのか全く説明がつかない。

トランジションの得点はスケーティングスキルよりもっと理解に苦しむ。

まずスケーティングスキルから説明しよう

A:スケーティングスキルでは何を評価すべきか?
基礎スケーティングとステップにおけるスケーティングの質、つまり総合的なクオリティだ。
滑らかさ、スピード、そして柔らかさ、つまりリズミカルな膝の屈曲
エッジの深さとカーブ
いつも直線的にばかり滑るスケーターはダメだ。常にカーブを描きながら滑っていなければならない。

M:視聴者に分かるように説明しよう。
ロステレコム杯を例に挙げよう。

膝の屈曲の柔らかさという点において宇野昌磨とサマリンの滑りをイメージして欲しい。
2人の顔が分からないように頭巾を被せてジャンプ無しのプログラムを滑らせるとする。
まあ身長が違い過ぎるから頭巾を被せてもあまり意味がないけれど

一方のスケーティングスキルに9.0を与えるなら、もう一方は何点?
6.5か7点が妥当だろう

A:6点だろう

M:6.5としよう

A:君は寛大だね

M:もうすぐクリスマスだから少しおまけしてもいいだろう

A:そしてスケーティングスキルの要件について説明すると、片足滑走の多さ
そして右回り、左回りの両方向にカーブする能力
いつも直線で滑る選手には関係ないけれど(笑)

いずれにしても右回り/左回りのカーブをふんだんに入れている選手はSkating Skillsの評価が高くなるべきだ。
以上がスケーティングスキルで評価されるべき特長だ。

M:それではジャッジがサマリンに9点近い得点を与えたのはなぜか?
彼の何がジャッジに好印象を与えたんだと思う?
スピード?

A:間違いなくスピードはスケーティングスキルの一部だ。
ただし要件の一つに過ぎない。

僕達が何度も言っているように、何か一つ際立った特長があると、他の項目もつられて高くなることがある。
だからサマリンのスピードは彼のその他の欠点をカムフラージュしているのかもしれない。

M:しかし、スピードについても詳しく掘り下げる必要がある。
ルールブックには(SSの要件として)スピード、またはスピードが速いとは書かれていない。
ルールでは「加速する能力」、「プログラムのパッセージに応じて速度を変化させる能力」と定義されている。
つまりスピンの要件のように「スピードが良い」という言葉は使われていない。
「加速」と「変化に富んだ速度」、これがコンセプトだ。

A:その通り。
そしてどのようにしてこの加速を得るのか?
リズミカルに膝を屈曲させ、加速する能力によってだ

僕が真っ先に思い浮かべるのは
いつも同じ選手を例に挙げるようだけれど(笑)・・・
羽生のショパンを覚えている?
彼は静止した状態から一押しで・・・
たった一押しとブラケットだけでリンクを20メートルほど移動していた。
つまり彼は僅かの押しだけで、膝の屈曲と、それどころか技術的ステップによって加速することが出来る。
これこそが、僕の考える『Outstanding』だ。
つまり9.5以上に値する。

M:僕達はこのような特長(能力)を「瞬きするように加速する能力」と呼んでいた。
僕達はこの言葉をパトリック・チャンに使っていた。
彼はこの点においてマエストロだった。

A:その通り。
彼も傑出していた

M:この能力はスケーティングスキルで評価されるべきだ。
そしてここまでに挙げたSSの要件に「不意に方向転換する能力」も加えたい。

この能力はエッジワークが巧みであること、つまりスケーティングスキルが傑出していることを示している。これは平凡なことではないし、非常にハイレベルなスケーターの中にもこれが苦手な選手はいる。

A:勿論だ。むしろ多くの選手がこれを苦手としている。
何故なら非常に高度な技術を要するからだ。

M:それで、サマリンの9点はどう説明すればいい?

A:クワドを綺麗に決めたから?(笑)
難しいね・・・

サマリンのスケーティングを注意深く観察すると・・・この評価は正直理解に苦しむ
勿論、スケーティングスキルは平均以下ではないし、エッジは使えているけれど、(羽生やチャンのように)洗練されていないし、ニュアンスも見えない。

僕は厳しいのかもしれないけれど、僕の見方では彼が滑る時、滑らかさが欠けている。
ガリガリ削っているとまでは言わないけれど、それに近いものがある。
僕の目には滑りにくそうに映るスケーティングだ。
つまり「エフォートレス」が欠けている。

僕は滑っているサマリンを見て「力みのないスケーティング」をイメージすることは出来ない。
でも、スピードはあるから平均以上の得点に値する要件は備えている。
しかし、平均をそれほど大幅に上回っているわけではない・・・6.5には達するかもしれないけれど・・・

9点近い得点が与えられた件については、クワドの入った難しいプログラムを滑ったという以外、理由が思いつかない。
いずれにしてもクワドを跳んだからといってスケーティングスキルの評価が上がるべきではない。

M:でも僕はサマリンに与えられたTransitionsの得点の方が正当化するのが難しいと思う。

Transitionsとは何か?
中には両足で実施するトランジションもある。
プログラムをよく知らない人でも一目で見分けがつく両足のトランジションは

宇野昌磨やリーザ・トゥクタミシェワが得意とするクリムキンイーグル

A:トゥルソワもそうだね

M:ハイドロブレーディング

A:羽生のトレードマークだ

M:イナバウアー
キムヨナを思い出して欲しい

A:荒川のイナバウアーも素晴らしかった

M:それからスプレッドイーグル
イーグルの上手い選手はたくさんいる。
インエッジとアウトエッジのイーグルがある

このようなトランジション要素をエレメンツの前後に組み込むとGOEが高くなるだけでなく、TransitionとChoreography(振付)の評価も上がる。
GOEと演技構成点の各項目は連動していることが多いからね。

A:重複していることもある

M:それから開脚ジャンプ

A:開脚ジャンプには前の脚を曲げたバリエーションもある。
ISUが定めた得点が付くジャンプ要素以外のジャンプ
ウォーリーも付け加えよう

M:片足のトランジションではスパイラルが挙げられる。
スパイラルには無数の種類があるから、ここで一つずつ紹介しないけれど

これらが一目で簡単に識別出来るトランジションだ。
プログラムの中にこのような要素が入っていると、すぐにTransitionを連想させる。

僕の質問はトランジションで8.5を獲得したこのスケーター(サマリン)は上述のトランジションを何一つ入れていない。
つまり、簡単に目を引くこれらのトランジションを何も実施していないのに、どうやったら8.5に達するのか?

OK、それでは議論の幅を広げよう。
何故ならTransitionsにはそれ以上のことも含まれているからだ。
ステップの特性、ステップの多様性もTransitionsの要件に含まれている。
これらを見分けるのはより困難だ。

A:その通り

トランジションは何を意味するのか?
スケーターがエレメントとエレメントの間に実施するあらゆる要素のことだ。
つまり、あらゆるステップが含まれる
ロッカー、カウンター、ツイヅル、ダブルスリー、モホーク、あらゆる種類のターン、前後移動、方向転換・・・つまりこれらはスケーティングスキルの評価にも反映される。

先ほど僕が言った、PCSの各項目が重複しているというのはこういうことだ。
ジャンプ前のステップ、ジャンプとジャンプの間の繋ぎ
これらも全てトランジションだ。
更にジャッジは腕や頭のムーブメントなど、視覚的にエレメントとエレメントを繋ぐあらゆる要素をトランジションと見なす。
頭を回す動作、上半身のムーブメントは全てトランジションだけでなくPerformance、Composition、そしてChoreographyの得点にも反映される。

スケーターは腕や上半身の動作に意味を持たせてやっている訳だから、当然、振付の評価にも繋がる。時々、意味なく動かしているケースも見かけるけれど(笑)

M:ただし、スプレッドイーグル等の要素、ステップ、上半身や腕のムーブメント等、ここまでにリストアップした全ての要素は音楽に合わせて実施されていなければならない。

A:出来れば音楽に合っている方が好ましい(笑)

M:音楽に関係なく勝手に実施されるべきではない
つまり、Composition、Performanceに加え、Interpretation of the Musicの評価にも繋がることになる。

一人の選手のSkating SkillsからInterpretation of the Musicまでの5項目の評価が似たような得点になる理由は、5項目が互いに連動し、時には重複しているからだ。
しかしながら、Skating SkillsとTransitionsについては完全に客観的に評価されなければならない。

A:その通り。
例えばTransitionsでは、ジャッジはまずトランジションがあるかどうか見なければならない(爆笑)。
単純なことだけれど(笑)

しかし、何人かの選手はエレメントとエレメントの間に本当に僅かなトランジションしか入れていない。
ゼロはあり得ない。
少なくともスピードを上げるためにクロスオーバーは入れているから

M:ちょっと待ってよ!
クロスオーバーはトランジションと見なすべきじゃないだろう

A:同感だね。
非常に初歩的なトランジションだ
だからクロスオーバーだけのプログラムはTRが2点か3点が妥当だろう

M:もしこのクロスオーバーが下手だったら?

A:その場合、非常に簡単な、クオリティの低いトランジションということになる。
クロスオーバーの質はそのスケーターの基礎スケーティングの質だから、スケーティングスキルの評価も低くなる。

M:それでは今説明した以上の要素の中で、(ロステレコム杯で)SSとTRで高得点を持ち帰ったサマリンのプログラムに含まれていたのは?

A:彼は多くのクロスオーバーを入れている。
勿論、拙劣なクロスオーバーとは言わないが、平均レベルだ。
そしてクロスオーバーを多く入れることによってスピードはあるが、世界トップクラスの選手達のような滑らかさや流れはない。

そしてジャンプの前には長い待ち時間がある。
先ほど僕達が述べた視覚的に分かりやすいトランジション(イーグル、イナバウアー)等はほとんど入れていない、あるいは皆無だ。
フィギュアスケートのステップは入れているけれど、全体的に簡単なものばかりだし、豊かでもない。
腕と頭のムーブメントは入れている。

だからトランジションはあるけれど、非常に乏しく、TR6点以上の得点を正当化するのは難しい。
僕の見方では平均(Average)だ

M:つまりサマリンのTRに相応しい得点は6.5点ぐらい?

A:平均だからね
6.5でも寛大だと僕は思う(笑)

M:でもこのような得点の傾向は、本当に優れた選手
難しいトランジションや多彩なステップに取り組んでプログラムを磨いている選手を不利にしている。

例えばロステレコム杯で不利になったのは宇野昌磨だった。
サマリンと宇野のPCSが同じというのは説明のしようがない。
確かに宇野昌磨には2つのシリアスエラーがあったから、スタートの得点が低くなった。

A:これは正しい評価だと思う。

M:しかしながら、このシリアエスエラーに関するルールが問題なのだ。
満点10点に対して、シリアスエラーがあると、どの選手に対しても上限が下がる。
でもルールブックを読むと、PCSで10点や9.5点が出せるトップ選手だけが対象になっているように解釈出来る。

本当なら、10点に相応しい選手にシリアスエラーがあった場合、特定の項目で9.25または9点が上限になる、同じように9点に相応しい選手は8.25または8が上限・・・という具合にルールブックに明記するべきだった。
しかし、残念なことにそのような記載はない。
結果的にこの上限引き下げは全ての選手に対して平等に適用されていない。

いずれにしても宇野昌磨とサマリンのPCSが同じというのはありえない。

A:同感だ。
例えば宇野昌磨がSSやTRで6.5というのは絶対にあり得ない。
シリアスエラーで9点が8.75に下がったのは正しいとして、いずれにしても、サマリンより明らかに難しいトランジションを入れていて、スケーティングは別レベルだった。
だからSSとTRに関してはパフォーマンスの内容に関係なくもっと差別化すべきだと思う。

4Lz-3TのGOEについて

M:サマリンの4Lz-3Tに与えられたバカ高いGOEも物議を醸しだした。
ジャッジ全員が+4または+5を与えた。
特にフリーのコンビネーションの加点は説明不可能だ。

まず前に何も入れていなかった。
だからプラス要件の1つ、「意表を突く独創的な入り方」は満たしていない。
「音楽に合っている」もない。
僕はこのジャンプを注意深く観察したけれど、踏切も着氷も音楽に全く合っていなかった。
さらにフリーの4ルッツは軸が斜めに傾いていた。
だから「空中姿勢が良い」も当てはまらない

A:+5は正当化出来ない

M:+4も正当化出来ないだろう

A:+4を満たせるか確認してみよう。
まず、高さと幅が強烈なインパクト与える途方もないジャンプだった。

それに僕は「エフォートレス」も満たしていると思う
コンビネーションの場合、「リズムがあり、最初から最後までスピードが維持されていること」と明記されている。
サマリンの3Tの出は素晴らしかった。ジャンプ自体も壮大で質が高く、スピードが維持されていた。
だから彼のこのコンビネーションは「エフォートレス」の要件を満たしていたと思う。
ただし、彼は常に「エフォートレス」のジャンプを跳ぶ選手ではないけれど

「高さと幅がある」は議論の余地がない
それから・・・

M:「踏切および着氷が良い」も当てはまっているだろう

A:そうだね。僕は+3は妥当だと思う。

M:ルッツのトーピックという点においては議論のある踏切だけれど、このテーマについては先週、散々話したから、ここでは目をつぶろう。

つまり+3までは妥当としよう。
しかし、残りの3要件は満たしていない。

ジャンプは音楽に合っていなかった

A:合ってないね

M:明らかに軸が曲がっていたから空中姿勢は完璧じゃなかった
フリーの方だけれど

意表を突く独創的な入り方でなかったのは明らかだ。

A:ないね
長い助走だった

M:でも注意して欲しいのは、このようなジャンプ要素での+3と+5の点差は膨大だということだ。
だからこの点においても、ルールを見直すべきだと思う。

そして羽生の3アクセルに+4を与えるジャッジがいるのを見ると、ルールが機能していないと感じさせられるのだ。
このジャッジは彼のジャンプに何が足りなかったのか説明出来なければならない。

音楽に合ってなかった?
ちょうどよそ見をしていて、入りと出のツイヅルを見逃した?
空中姿勢が完璧じゃなかった?

羽生の3アクセルを引き合いに出すのは、現在、「完璧」を象徴するエレメントだからだ。
そうだろう?

A:勿論だ
何度も説明しているけれど
まさに教本通りのジャンプだ。

M:これに対するジャッジの答えは「我々には自由裁量の余地があるから、試合によって誤差が生じるのは仕方がない」だ

しかし、視力がまともなジャッジならサマリンのジャンプの前に何も入っていなくて、明らかに意表を突く入りのジャンプでないのは分かるだろう?
実際、リンクの端から助走を始め、反対側の端で跳んでいた。
確かに難しいジャンプだから、助走が必要なのは分かる。
でもジャッジは満たしていない要件をカウントするべきではない。

これは非常に深刻な問題だ。
ジャッジの自由裁量で片づけられる問題ではない。
つまりルールや競技の理解に問題があるということだ。
そして、ルールを理解していないなら、ジャッジ席やテクニカルパネルの席に座るべきではない。

確かにこれはデリケートな問題だけれど、僕は客観的に見て何かが機能していないと思う。
サマリンのジャンプは冷静に分析して明らかに3つのプラス要件を満たしていなかったにも拘わらず、ほとんどのジャッジが+5を与えた。
これは深刻な問題だ。

F:視聴者からはサマリンに関する質問が続々と寄せられている
「サマリンのプログラムからジャンプなどのエレメンツを抜くと、クロスオーバーと助走しかありません。それなのにジャッジがこんなに好き勝手に採点していたら、この競技はどうなってしまうのでしょうか?」
「サマリンの4ルッツのエッジは正しいですか?私にはフラットに見えますが」

M:彼らの意見は間違っていない。
サマリンはルッツもフリップもエッジはあまり明確ではない。

A:特にフリップがそうだ

M:ルッツはフリップよりはいいけれど、フラット気味で明確なアウトエッジではない。
でも問題はエッジよりもトゥの方だ。彼はフルブレードでアシストしながら踏み切る、いわゆるプレロテジャンプを跳んでいる。

A:僕達テクニカルが研修で模範映像として見せられるルッツの跳び方とは全く異なる技術だ。

M:しかしながら、現在、教本通りのトゥを突く4ルッツを跳んでいるのは、ジン・ボーヤン、ネイサン・チェン、コリヤダ、羽生結弦、メッシングだけだ。
この件についても、何らかの措置が必要だと思うけれど、ルールでは規制されていない。

参考文献
2019ロステレコム杯男子FSプロトコル>>

***********
☆この後、シリアスエラーによるPCS上限引き下げのルールについて議論していますが、あまりにも長くなるので割愛します。
ファイナル後のポッドキャストの内容と重なりますが、スケーティングスキルとトランジションの説明は興味深かったです。

特に生で見ると羽生君のスケーティングは他の選手達に比べて別次元でした。
同じように2015年のバルセロナGPFで見た生パトリックのスケーティングも鮮烈でした。
羽生君とはタイプが異なりますが、素人目にもこの2人のスケーティングは別格でした。
今回のファイナルではケヴィン・エイモズもスケーティングの質と個性的なトランジションで際立っていました。

ロステレコム杯は単純に自国選手のための爆盛大会だったのだと思います。
サマリンのPCSとGOEもそうですが、サマリン以上にトランジションが少なく、終盤はヨレヨレで今にも止まりそうになっていたロシアの三番手君に80点ものPCSを与えて表彰台に乗せたのにはびっくりしました。

ジャッジングに関する問題、ルールが定める評価基準が守られていない問題は平昌五輪後、ルールが改正されてから、ますます酷くなったように思います。
このポッドキャストでは主にPCSとGOEについて議論していますが、私は本来、主観や自由裁量の余地が皆無であるべき回転不足やエッジの判定基準のバラツキも酷いと思います。

ルールブックはISUのオフィシャルサイトから誰でも読むことが出来ますし、ある程度の知識とソフトがあれば誰にでも元映像を加工して踏切や着氷が明確に分かるスローモーションの検証動画が作れる時代です。

日本では不可解な判定や得点に対する批判などは一切報道されませんが、あまり視聴者を舐めないでもらいたい。報道だけを鵜呑みにするほどバカではありませんし、勉強熱心なファンはメディアの皆さんよりずっと知識が豊富です。

回転不足やエッジエラーの見逃しもそうですが、あまり好き放題にやり過ぎると競技そのものの信頼性が失われると思うのですが。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu