マッシミリアーノさんのインタビュー「最も記憶に残る実況解説は?」

ダニエーレ・コロンボのドキュメンタリー「Scrivo con tutta l’eleganza del corsivo」(優雅な筆記体で書き綴る)の中で紹介されているマッシミリアーノ・アンベージさんのインタビューから
ウィンタースポーツ解説者としての経験、仕事におけるモットーなどを語っています。
羽生君のついても話していますので、その部分を抜粋・要約します。

元動画

☆エレナさんが羽生君部分を切り取って編集してくれました。いつもありがとう!
Grazie Elena!

M:僕の名前はマッシミリアーノ・アンベージ
ユーロスポーツの仕事を始めてからもう15年になる。
主にウィンタースポーツ専門のジャーナリスト
通常、テレビ放送の技術的解説者を務めているけれど、時には司会を担当することもある。

僕はあらかじめ準備された型にはまった解説は好きじゃない。
自発性が失われてしまうからだ

ストーリーを語れる大会、そうでない大会があり、ケースバイケースだから、その大会が提供してくれるものを捕らえて解説する。
僕はまるで本を読むように、お決まりの文句で解説を開始するのは好きじゃない。
勿論、解説者それぞれにスタイルがあるけれど、僕は大会次第だと思う。

大会がテーマを提供する。
勿論、大会前に何が起こるのか予想することは出来るけれど、実際の大会は予想とは異なる展開になるかもしれない。だから大会が提供するストーリーを理解し、それを実況する。
大会で提供すべきストーリーが生まれないこともあるけれど、その場合には別のテーマを探す。

Q:「ストーリー」を語ると言うことについては?

M:今という、歴史的過程においてストーリーを語れる最も適切なツールはポッドキャストだ。
何故ならポッドキャストはテレビ放送とは完全に別物だから、大会の話に縛られることがない。
だからポッドキャストでは・・・話に夢中になって時には脱線しながら、ストーリーを構築する上で必要なあらゆることについて心置きなく語り尽くすことが出来る。

こういったことが可能なのはポッドキャスト、
あるいは自分の好きなことを語ることが出来る専門のテレビ番組
例えば「スケーター羽生結弦について1時間語り尽くす」とか

このような番組なら、この時間を使ってその人物について語り、その何が並外れているのかを分析することが出来る。
これは誰にでも見えるイメージに比べて、もっと詳しい情報を提供するために必要不可欠なことだ。

イメージを語ることは間違っていると僕は思う。
誰もが見ているイメージ以上の何かを追加しなければならない。
イメージは万人に共通するものだから
そして前後関係を明らかにしなければならない。
これが起こったことによって、今後何が起こるのかという風に

「スケーター羽生結弦について1時間語り尽くす」専門テレビ番組って何ですかそれ???😂
間違いなく凄い神番組になるはず!是非実現して欲しい!!!!

 

 

Q:最も記憶に残っている実況・解説は?
最も楽しかった、あるいは素晴らしい実況が出来たと思える大会、最も印象的だった瞬間は?

M:答えるのは難しい。
さっきも言ったように、フィギュアスケートは僕にとって一番解説するのが簡単なスポーツだ。特別な努力を必要しない。アイスダンスだけ例外だけれど

僕にとって最も意義深い瞬間をリストアップしろと言われたら、現在4つある。
一番最近のはオステルスンドのバイアスロン世界選手権におけるドミニク・ウィンディッシュの優勝だ。

(中略)

それから羽生結弦の名前を挙ずにいることは出来ない。
僕にとって史上最高のスケーターであり、史上最高の冬季五輪種目のアスリートの一人だ。
彼がどんな風にオリンピック金メダルまで辿り着いたのかは非常に重要だった。
この大会の解説は僕の心にずっと残るだろう。

この大会と2017年のヘルシンキ世界選手権だ。
僕が実況中に感動したもう一つの大会で、ほとんど泣きそうだった。いや、おそらく泣いてしまっていたのだろう。僕はこういうことを隠そうとするから。

オリンピック中、ペアのアリオナ・サフチェンコの優勝では僕と僕の実況のパートナーは泉のように泣いた。一方が泣き止んで相方を見ると、彼が泣いていて、またもらい泣きするという繰り返しだった(オリンピック出場権を手に入れるまでのアリオナの苦難の道のりを考えると泣かずにはいられなかったという内容)

2017年ヘルシンキ世界選手権「Hope & Legacy」
ちなみにアンジェロさんが一番感動したのは未だに断トツでニースのロミオだそうです

 

<それ以外の印象的な部分、フィギュアスケートに関する部分を抜粋・要約>

M:僕はウィンタースポーツだけを実況している。僕が情熱を抱き、僕のバックグラウンドに属する分野だ。むやみに分野を広げて、何でも解説しようとすると信頼性や個性が失われると僕は思う。
だから僕は自分の得意な分野だけを担当し、自分がそのレベルではない思う他の競技の解説の仕事は断っている。
多くの理由により僕が共に成長してきた競技、僕のDNAの一部であるスポーツを解説している。

Q:専門用語を使う?

M:多くのスポーツの専門用語は僕達解説者によって作られる。
こういう解説に慣れている視聴者達は専門用語を知っている

Q:君の視聴者がこれらの専門用語を理解出来ないんじゃないか心配じゃない?

そのスポーツの専門用語を羅列しても、一般の視聴者には理解してもらえない。
でもよりマニアックで勉強熱心なそのスポーツのファンはこういった分析・解析を望んでいるかもしれない。

特定のスポーツの専門用語を駆使して説明しても一般の視聴者には僕の説明していることが理解できないだろう。
逆にそのスポーツの熱心なファンは、詳しい解説や分析のない「誰が何点差で誰に勝った」という実況は望んでいない。

解説する上でその競技の専門用語は必要不可欠だ。
そして時には分かり易く補足することがある。
例えば、フィギュアスケートにおけるレベル4について
「レベル4~獲得可能な最高レベル」と言うように

 

僕の技術的知識は遥か昔、30年以上前に遡る。
僕は冬季スポーツ百科事典と呼ばれるのはあまり好きではないけれど、百科事典と言うより、僕の場合、特定の分野において35年の経験がある。

僕は幼い頃からショートトラックをやっていたけれど、当時はオリンピックをテレビで見るのは難しかった。
特に僕が習っていたショートトラックは当時、オリンピック種目ではなかった。
だから僕達はオリンピックではスピードスケートを見ていた。
まだ8歳の時、サラエボ五輪のスピードスケートを何とかテレビで見ようとしたことを覚えている。
これら体験は全て僕の中に残っている。
当時強かった選手とか
それに道具も今とは違っていた。1984年のスケート靴は現在の世界記録を叩き出せるスケート靴ではない。
道具のコンセプトも当時とは違う。

でもこうした経験、こうした知識によって、実況中により詳しい話をすることが出来る。
勿論、マニアックになり過ぎずにバランス良く盛り込むことが大切だ。
僕は時としてマニアックになり過ぎる傾向があるけれど、変えるのは難しいかもしれない。
だからフォローしてくれるパートナーが必要だ。

Q:実況中、何かメモを見たり、メモを取ったりする?

M:出場者名と開始前の数字が書かれたリストだけだ。
フィギュアスケートではそれすらない。
制約なく自由に行く。
何故なら、僕にとっては実況するのが一番簡単なスポーツだからだ。

フィギュアスケートでは僕はメインキャスターとして実況している。
そして僕のパートナーはこの競技でオリンピックに出場した元選手(アンジェロ・ドルフィーニ)だ。僕達は同い年なんだけれど、彼がフィギュアスケートで競技している時、僕は他の氷の競技をやっていた。

でも祖母の家の隣にアイスリンクがあって、僕はこのスポーツに4歳半の時から関わっていたから、フィギュアスケートの実況に関しては、本当に何も準備していない。
他の国の選手のコメントや情報を読んだり、この競技に従事している友人と意見を交換し合ったりする程度だ。
フィギュアスケート実況のための準備と言えばこれだけだ。

そしてリンクで見たことに基づいて、本当に即興で実況・解説する。
つまり、氷上をどんな風に滑るのか
スケーティングの質
ステップの豊かさ
ジャンプの質や高さ
スピンの速度とポジション
ここでは、映像に対してコメントする。時には非常に技術的に、時には非常に批判的に

先ほどの君の質問で僕は一般大衆向きの解説と少数のマニア向けの解説と言う2つの例を挙げたけれど、フィギュアスケートに関しては後者を取っている。

だから勿論、一般視聴者でも楽しめる人は楽しめると思うけれど、この競技について何の知識もない視聴者には僕達の解説は難しいと思う。

勿論、試合の度にルールについて説明することは出来る。
ショートプログラムでは7つの要素があり、ジャンプ要素は3つで1つがコンビネーション、1つはアクセルでなければならない、ステップシークエンスは、スピンはという具合に。
でも毎回毎回これをやったら非常に退屈だし、特にずっと以前からこの競技を見ていて豊富な知識を持つ視聴者には耐えられないだろう

勿論、これは僕の意見であって、これが正しいと主張する気はない。
でも僕達はフィギュアスケートについてはこういう方針で行こうと決めた。
そして結果を理解するためにこのような分析やアプローチを好むフィギュアスケートファンの数が年々増加していることに僕達は気づいた。

時には採点システムに反発し、採点に同感できないということも起こる。
数日前に起こったことだけれど、ジャッジがルールで定められた基準に則らず、勝手な解釈で得点を与えるとか

ルッツはトゥジャンプでアウトエッジで踏み切ると試合の度に繰り返すわけにはいかない。
この競技のファンなら誰でも知っていることだけれど、一般の視聴者には分からないかもしれない。

僕達の(フィギュアスケートの)実況は非常に技術的だけれど、スポーツによってどんな実況解説が求められているのか理解し、妥協するポイントを見つけることが大切だ。

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マッシミリアーノさんの羽生結弦語り尽くし番組と言えば
2015年のNeveitaliaのポッドキャストそして昨シーズンのポッドキャスト「Kiss&Cry」です。
勿論、他のカテゴリーや大会についても話していますが、羽生君について心置きなく語り尽くすために開設し、他の話題はカムフラージュなんじゃないかと疑うほどハニュー成分が多い。

中でも私の一番のお気に入りはこれ
『羽生結弦』思考をフォーカスする
(その1) (その2) (その3) (その4) (その5)

Neveitaliaの視聴ページは削除されてしまっていて、残念ながらオリジナルを聴くことは出来ないのですが、日本語版を残すことが出来てよかった。

マッシミリアーノさんはかなり暴走気味で当時、翻訳しながら「いやいやいやSFマンガじゃないんだから、羽生君だって生物学上は一応ヒトなんだし・・・」と思っていた内容が、ほぼ全て現実になっていて、それどころか予想の更に上を行っている😱

4アクセルとかマッシミリアーノさんですら予測していなかった!!!

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu