前回の続きです。
ダニエル・グラッスル君とロシア女子に関する部分を抜粋しました。
ロレンツォ・マグリ:「人々が亡くなっているのにISUは決断してくれなかった。イタリアにフィギュアスケートは存在するのか?時々自問自答することがある」
ファブリツィオ・テスタ(2020年5月20日)
現在、イタリア男子三番手のガブリエル・フランジパーニはあなたの選手ですね。今シーズンはグラーツの欧州選手権で何気なく13位に入り、我々を驚かせました。クラブ内部でのダニエル・グラッスルとの競争が上達するための刺激になっていると思いますか?
2人の選手のそれぞれの特長を教えて下さい。
2人は幼い頃からずっと一緒に競技していますから、常に刺激し合ってきました。
一人はよりパワフルでエネルギッシュ、もう一人はより軽く柔軟性があり、一人はより情熱的でもう一人はより理知的です。
彼らに常に刺激を与えてきたのは、互いに競い合う環境でした。
ダニエルの上達を見たガブリエーレの前コーチは、彼も指導してくれないかと私に頼んできました。
ガブリエーレは飛躍的に向上しました。ただし、試合でエレメントをよりクリーンに実施出来るよう、もっと練習しなければなりません。
今シーズンのガブリエーレは技術的に難しいプログラムを安定して滑れています。
我々は特にトゥループ、サルコウ、ループの4回転ジャンプに集中的に取り組んでおり、ジュニアグランプリ大会の表彰台を目指すために出来るだけ早く試合で入れられるようにしたいと思っています。
ダニエルに関して言えば、4トゥループと4サルコウは練習では降りているジャンプですが、彼はどちらかと言うと右半身の方が強く、それ故にループ、フリップ、ルッツが得意なジャンパーなのです。
フリップ、ルッツ、ループはより基礎点が高いですから、ある意味で彼にとってアドバンテージになっていると言えますし、選手は手持ちのカードを有効に使わなければなりません。
少年達の身体の成長が止まったら、私は固定した構造(体格)で仕事をすることが出来ます。
ダニエルのもう一つの幸運は軽量で柔軟性が高いことです。このことは、怪我を避ける能力に繋がり、選手の発達/成長過程において非常に重要な要素です。
柔軟性は生まれながら備わった幸運です。
例えば、我々は成長後のアリーナ・サギトワが最近苦労しているのを見ていますが、身体が小さい時にはよりハードなことが出来ていても、身体が成長すると状況が変わるのです。
リプニツカヤ、サギトワ、メドヴェデワを見れば分かりますが、成長過程の終了と共に、ある意味において効力を失っています。
この観点から見て、シェルバコワ、トゥルソワ(最近、プルシェンコに師事するために、エテリ・トゥトベリーゼの元を離れました)、コストルナヤも前述の女子スケーター達と同じ運命を辿ると思いますか?
多くの人が既に北京2022の有力なダークホースはカミラ・ワリエワだと思っているようですが・・・
そうかもしれません。
しかしここでロシアの関心はメダル獲得で、我々とは文化が異なるという事実を理解しなければなりません。
このような理由からロシアではコーチはスーパースターなのです。
ミーシン、トゥトベリーゼ、モーゼル、ブイアノワ・・・
彼らはメダル鍛冶工であり、メダルを獲得する選手は「手段」です。
我々にはこのような概念に近づくことは到底出来ませんし、私は今この瞬間まで自分がやってきたことに満足しています。
私は自分の時間の80%をダニエルとガブリエーレ、そしてその他の選手達のトレーニングに費やしてきました。
しかし、同じことをもっとずっと幼いスケーター達にも行う時間とエネルギーは私にはありません。
ロシアでは既に競争力のある8歳の子供達が更に先に進むためにスケートクラブにやってきます。
我々は自分達が持っているものを先に進めていくしかありません。
ロシアにおけるスケート環境は非常にハイレベルです。
初めて氷に乗った瞬間から既にプロフェッショナルで、6~7歳でもう2アクセルを跳んでいます。
イタリアスケート界の動向におけるポジティブな点は、我が国のコーチのレベルが長い年月の後でようやく飛躍的に向上したことです。
(この後のエリザベッタ・レッカルディ選手の話題は省略します)
ロレンツォ・マグリ
欧州レベル4の資格を持つコーチでシングル及びペアの国際テクニカルスペシャリスト。
2013年にエーニャ‐ノイマルクト(ボルツァーノ県)に組織化されたスケートクラブ「Young Goose Academy」を設立。
僅か数年で世界各国の選手を集め、長年に渡る研究、そして犠牲と献身を結実させパフォーマンスと結果を磨いている。
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☆ロレンツォ・マグリさんと言えば、トリノ・ファイナル進出がかかった昨年のジュニアグランプリ最終戦イタリア大会におけるダニエル・グラッスル君フリーのキス&クライが思い出されます。
前大会3位だったグラッスル君が自国開催のファイナルに出場するには、この大会で優勝することが必須でした。
得点と順位が表示され、ファイナル進出が決まった時、歓びを爆発させていたグラッスル君と女性陣(フェンディのストールの女性は一体誰?凄い存在感w)とは対照的に、歓びを噛みしめるように静かに涙していたのが印象的でした。
きっと正義感が強く情に厚い方なんですね。
彼が羽生結弦はいずれISUにルールを変えさせると予言したエピソードはマッシミリアーノさんのポッドキャストの中で語られています。
今読み返すと、当時マッシミリアーノさんが予言していたことがほぼ全て現実になり、それどころかクワド5本、4Aと予想の更に上を行っていることに驚かされます。