Sportlandiaより「クオリティ、GOE、PCS」

マルティーナさんの分析シリーズ。
GOEに焦点を当てています。

原文>>

マルティーナ・フランマルティーノ著
(2021年4月4日)

ISUの採点システムはスケーターが氷上で実施する難度だけでなく、クオリティも評価するというコンセプトを持って考案されました。2つの観点が存在します。4回転ジャンプは3回転ジャンプより難度が高く、従って基礎点はより高くなります。しかし、長い助走から実施された高さと幅のない、着氷が不安定な4回転ジャンプは、助走無しで実施される高さと幅が非常の良く、完璧なランディングの3回転ジャンプより価値が低く、GOEにはこの事実が反映されていなければなりません。最終得点は2つの特徴、基礎点と実施のクオリティの合計でなければなりません。もしそうならない場合、ISU採点システムの適用方法に明らかな問題があるということになります。

私は幾つかの統計を実施しました。もしミスを見つけたら知らせて下さい(タイプミスする可能性は常にあり、この場合、計算結果が変わってきます)。そうすれば私は修正することが出来ます。時間はかかりましたが、読者に私の調べた内容が分かるように全てのデータを公開することにしました。

数カ月前、私はGOEの統計を行いました。しかし、最後の表にミスがあったことに気が付き、もう一度全ての統計をやり直しました。
ところが、その過程で面白いことが起こりました。

これまで私は自分の投稿する記事に対して2通りの反応を見てきました。
1つ目は怒り、これは理解出来ます。2つ目は私の記事を却下することです。
批判者達は、羽生は最近の数年間、幾つかミスをしているので、必然的にGOEは以前より下がったのだと主張します。
これは正確ではありません。羽生は最近に限らず、毎年幾つかの大会でミスをしていますから、彼のクオリティの平均を見ることが出来ます。統計に影響を与える可能性のある唯一の事実は、ミスによって減点が大きくなることだけです。そして、あなたは何を知っているのですが?
誰かに批判されると、私は考えることにしています。
私は何か悪いことをしただろうか?
私に今出来ることは何か?

誰かが私の書く意欲を刺激したのはこれで3度目です。この人物はおそらく私に書くことを止めさせるつもりだったのでしょうが、逆に私のヤル気に火を点けてしまったようです。

私は優れたプログラム、羽生が100点を超えたショートプログラムのみを調べました。これらは全て優れたプログラムですから、誰もスコアが低いのはミスのせいだと主張出来ません。最初のスクリーンショットは私の元データですから、あなたに忍耐があればミスがないかチェックすることが出来ます。その下にこのデータを元に作成したグラフを掲載していますので、元データではなく、結果だけに興味のある人はこのスクリーンショットはスルーして下さい。

私は18大会をチェックしました(国際大会だけでなく国内大会も)。スペース上の問題で全てを1列に並べることは出来ませんので、3ブロックに分けました。各ブロックには単純にプロトコルの内容が転載されています。1番上の段は項目(エレメント、羽生に与えられたGOE、そのエレメントのGOE満点、満点に対する羽生のGOE達成率)、その下は実施された各エレメントとその基礎点、獲得したGOE、GOE満点、達成率です(ただし、比較し易いように実施された順ではなく、3アクセル、ソロジャンプ、コンビネーションジャンプ、ステップシークエンス、フライングキャメルスピン、足替えシットスピン、コンビネーションの順に並べました)。まず合計を入力し、その後で各エレメントについて書きました。

このデータを元に私は統計を取り、グラフ化しました。下のグラフは3本の折れ線グラフで構成されています。参考のために各プログラムの基礎点(青)、PCS(緑)も追加しましたが、最も興味深いのは羽生のGOE達成率を示す赤色の折れ線グラフです。世界最高得点は太字にしました。

4つのプログラムについて注釈します。3つのケースではソロジャンプのGOEがマイナスでしたから、必然的に全体のGOEも下がりました。4つ目のケースではスピンが無効になりましたので、GOEではなく基礎点が下がりました。
グラフ中ほどの垂直線は+3/-3システムから+5/-5システムに移行したことを示しています。

クリーンなプログラムを滑った時、以前の方が羽生は高いGOEを貰っていました。
彼のエレメントのクオリティが下がったのでしょうか?本当ですか???

彼のGOEがより低かったのは世界最高得点を更新したフィンランドGPと今年の世界選手権の2回です。ジャッジ達は何を見ていたのでしょうか?+5に相応しかったコンビネーションジャンプと3アクセルにジャッジ達は何故低い得点を出したのでしょう?

これはジャンプだけのGOE達成率のグラフです。オリンピックまでは羽生は30本のジャンプで10回(33%)もGOE満点を獲得していますが、オリンピック後、GOE満点だったのは21本中1本のジャンプ(0.5%)だけだという事実に興味を引かれます。

3アクセルのGOE達成率は90%から84.66%に下がり、ソロジャンプは87.47%から79.3%に(転倒及び着氷が乱れた3本のジャンプのGOEは統計に入れていません)、コンビネーションは84.01%から61.45%に下がりました。

これはスピンのグラフです:

最後のグラフはジャンプのGOE平均(青)、スピンのGOE平均(緑)、ステップシークエンスのGOE(赤)、GOE合計の平均(紫)の変動です:

私は前回の世界選手権の何人かのジャッジに真面目に質問したいです。ステップシークエンスがレベル3だったことに異議を唱えるつもりはありませんがGOEに困惑しています。イギリスのリサ・デヴィッドソンは+3、ウクライナのイリーナ・メドベデワ、フィンランドのピア・アルホネン 、ジョージアのサロメ・チゴギゼ、スウェーデンのインゲル・アンダーション、ロシアのスヴャトスラフ・バベンコは+4でした。

以下の一体どの項目が欠けていたのか私には全く理解出来ません。

1)エッジが深く,明確なステップおよびターン
2) 要素が音楽に合っている
3)エネルギー,流れ,出来栄えが十分で,開始から終了まで無駄な力が全く無い
4)創造的および/またはオリジナリティがある
5)全身の優れた関わりとコントロール
6)シークェンス中のスピード,またはスピードの加速が十分

単純な興味ですが、これほど複雑なステップシークエンスを、これほどのスピードで転倒することなく実施出来るスケーターが他にいると思いますか?

以下はGOEプラス要件に関する全てのルールです:

そしてこちらがプロトコルです:

彼のプログラムを視聴して、その後でルールが正しく適用されているか私に教えて下さい。
ここ数年間、羽生に対してだけ最も厳格な別のルールが採用されてるように見えます。
彼の得点(彼のエレメントの質ではありません)は低下しており、これにより、彼は当然値したメダルを失うことがあります。前回の世界選手権で銀メダルではなく、銅メダルだったように。

ここまでGOEだけを見てきましたが、ジャッジによって下げられているのはGOEだけではありません。最初のグラフでGOEを理解するのは不可能ですので、別のグラフを作成しました。

オレンジの線がPCS5項目の平均です。フィンランドGP以降はそれほど低くありませんでした。オリンピックで彼はPCS48.50を獲得しました。五輪以前、彼はこの得点より高いPCSを3度獲得しています。

2015-2016年シーズン、羽生はISUの採点システムを破壊しました。ISUはそれを明確には認めていませんが、もはや採点システムが彼が氷上で実施していることを採点し切れなくなっているのは明らかでした。

2015年のグランプリファイナルで彼はPCS49.14を獲得しました。彼のスコアが低くなる前ですが、彼が演技構成点を大幅に更新した瞬間でした(その前のシーズンは彼が万全な健康状態で競技出来たことはなかったことを思い出さなければなりません)。

2015年GPFから2018年オリンピックまでの間、彼は48.50を超えるPCSを7回中4回獲得していますが(57%)、五輪以降は完璧だった7回のショートプログラムで48.50を超えたことは一度もありません。
羽生の得点は下がったのです。彼が完璧な演技をした時、本当にオリンピック前3年間よりもクオリティが落ちていると思いますか?

☆筆者プロフィール☆
マルティーナ・フランマルティーノ
ミラノ出身。 書店経営者、雑誌記者/編集者、書評家、ノンフィクション作家 雑誌等で既に700本余りの記事を執筆

ブログ
書評:Librolandia
スポーツ評論:Sportlandia

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☆ジャンプに関しては最初の3項目:

1)高さおよび距離が非常に良い(ジャンプ・コンボおよびシークェンスでは全ジャンプ)
2)踏切および着氷が良い
3)開始から終了まで無駄な力が全く無い(ジャンプ・コンボではリズムを含む)

を満たしていないと、+3以上は貰えないとルールで決まっています。
つまり、高さや幅のないコンパクトジャンプ、または助走が長く、踏切前に数秒間構え姿勢で固まっている明らかに開始がエフォートレスではないジャンプは+3以上に値せず、+2または+3を貰うには

4)ジャンプの前にステップ,予想外または創造的な入り方
5)踏切から着氷までの身体の姿勢が非常に良い
6)要素が音楽に合っている

の内2個、または3個を満たしていなければなりませんが、助走が長い時点で4)は当てはまりませんから、最高でも+2が妥当、ということになります。
しかし、現在のジャッジ傾向では4ルッツや4フリップがステップアウトやオーバーターンなく決まると、ブレットに関係なく+4や+5が気前よく与えられている印象を受けます。

スピンに関して言えば、羽生君のスピンはレベル4を取り、更にGOE要件6項目全てを満たすように考案・実施されていますが、+5満点を見たことはほとんどありません。

一方で、拙劣な/ぎこちない,美しさを損ねる姿勢(-1 to -3)、回転速度が遅い,遅くなる(-1 to -3)、必須回転数に満たない(-1 to -3)といったGOEマイナス項目があってもレベル4と判定され、高いGOEを貰える選手もいます。

スピンのマイナス項目

コレオシークエンスのマイナス項目

ルールを熟知し、全てのエレメントについてGOE要件6項目全てを満たせるよう考案・実施されている羽生君のエレメントに+2や+3を平気で与え、ライバル選手にはジャンプが決まれば+4か+5、シットポジションが不完全なスピンもレベル4で高GOE、コレオシークエンスで躓いても+5満点

これでは余りにも不公平です。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu