イタリア解説EuroSport版「2015NHK杯ダイジェストより」

大会最終日翌日に放送された各カテゴリーの上位3選手の演技を振り返るダイジェストから
羽生結弦選手に関連する部分の書き起こしです。

Elena Cさんが動画を上げて下さいました。
ありがとうございます!Grazie mille!

動画>>

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実況:マッシミリアーノ・アンベージ
解説:アンジェロ・ドルフィーニ

<ショート総括>

(ショート上位3選手のハイライト映像を見ながら解説)

マ:男子の試合では現オリンピックチャンピョン、羽生結弦が登場した。
羽生は母国のこの大会で過去に1度だけ優勝している。

でも日本にはもう一つ勇気づけられるニュースがもたらされた。
シーズン序盤不調に苦しんでいたもう一人の選手がある意味で復活したことだ。

無良崇人だ。

彼は圧巻のショートプログラムを滑った。

ア:一握りのトップ選手しか超えていない大台、90点まであと僅かだった。素晴らしい4トゥループ、質の高い3アクセル、後半の3ルッツ/3トゥループのコンビネーションを決め、最終的に演技構成点でも40点を超える高得点を獲得した。
チャーリー・ワイズが作り上げたプログラムだ。

マ:振付師としてはまだキャリアを開始したばかりだが、無良のプログラムでは間違いなくその才能が光っていた。
だって無良にとってはこれまでタブーだった演技構成点40点の壁を超えたんだから。

ア:実際、非常にハイレベルな大会で、4人もの選手がクワド2本のショートプログラムに挑んだ。無良の3位は予想外だった。

マ:いずれにしてもショートプログラムの4回転ジャンプは重要なテーマになっている。

1つの大会で4人もの選手がショートで2本の4回転ジャンプを回り切ったことは今まで一度もなかった。いや3人もなかった。

クワド2本を何の問題もなく入れられるのが、中国一番の兵器であるこの少年、ジン・ボーヤンだ。
彼は4ルッツの跳び方を皆に披露している。
ごく僅かな例外を除き、これまで見たことがなかったジャンプ
でも彼はこのジャンプを呆気にとられるほど簡単に跳んでしまう。

ア:全く前例がない。彼の前にはアメリカのブランドン・ムロズが成功させていて、これがISU公式大会で最初に認定された4ルッツだった。
でも彼はグランプリシリーズで4本中4本成功させている。

マ:しかもその内の2本は3トゥループとのコンビネーションだ。

ア:その通り

だから本当に途方もない。

マ:でも注意して欲しいのは、この少年がスケートの他の部分でも成長していることだ。
フリープログラムで詳しく見ていくけれど。

このショートはうまく構築されたプログラムで、彼にとっても滑りやすいのだろう。
技術だけでなく他の部分でも高いクオリティが見て取れる。

ア:勿論、もっと向上していかなければならないけれど、でもこのショートプログラムはフリーより彼に合っていると思う。

それに一般的に・・・言いながら笑ってしまうけれど、彼にとって4回転ジャンプ2本は簡単だから、表現に充てるスペースがより多くあるのだろう。フリーは更に究極難度だからその余地はほとんど残されていない。

マ:そして彼、羽生結弦という名のスケーター。
この大会の前に彼もまた、ショートプログラムを4回転ジャンプ2本にすることを決断した。
NHK2015_SP4S

冒頭に前後をイーグルで挟まれた4サルコウ、彼にとっては平凡な代物だよね(笑)

ア:その通り(笑)
着氷を見てよ。すぐにイーグル

マ:そしてその直後に4トゥループ/3トゥループのコンビネーションジャンプを跳ぶことにした。

問題は何か?

彼はこのコンビネーションジャンプを複雑なステップシークエンスから跳んでいる

ア:そしてこんな風に跳ぶ。
NHK2015_SP4T
ご覧の通り、驚異的なクオリティ、完璧な着氷、観客の歓声は納得だ。
素晴しいコンビネーションジャンプ
ジャンプの質と難しいステップで当然のことながら多くの+3を獲得した。

NHK2015_SP3A2

マ:これは何の変哲もないジャンプだよね

ア:そうだね、カウンターからの3アクセル(爆笑)

マ:どうってことないだろう(笑)

そして彼の全てのスピンとステップはレベル4を取るために構築され、実行された。
傑出したGOEを稼いで

全てを混ぜ合わせた結果、何が出来上がったか?

当然、歴代最高得点だ(笑)

ア:より値打ちのある歴代最高得点。
何故ならこの数分前にジン・ボーヤンが歴代最高TESを塗り替えたばかりだったからだ。
そこに羽生が登場し、史上前例のない高得点を叩き出し、先ほどの歴代最高得点を粉砕した。

マ:その通り

ジン・ボーヤンの56.50だって既に信じられない記録だったのに、羽生はほとんど60点に近い点でこの記録をあっけなく更新した。
そして2014年のオリンピックという重要な大会で自らが獲得した歴代最高得点を塗り替えた。

ジン・ボーヤンは95.64点でシーズンベストも更新したが、羽生結弦はこの得点を10点以上上回った。
この選手のポテンシャルが如何ほどのものか分かるだろう。

ア:他の選手達にとっては土俵に上がるのも困難になった。
中国人選手が登場して歴代最高TESを叩き出し、羽生が出てきて更に11点上乗せした。

試合は一気に上昇した。

マ:その通り

そしてフリーが行われ、ここでサプライズがあった。
グランプリシリーズでは常に1位か2位の成績を収めていたマキシム・コフトゥンが自滅したことだ。

ア:ショートでは4位につけていたが、フリーで順位を上げることが出来なかった。
それどころか順位を大幅に落とした。

 

<羽生結弦選手のフリー>

(演技前)

マ:これで千回目になるけれど、羽生結弦のフリープログラムをもう一度見てみよう。
このプログラムはおそらくこの競技の歴史を変えることになるだろう。
何故ならルール改正の予感がするからだ。
間違いなく2018年のオリンピック後になるだろうけれど。

でも羽生が成し遂げたことは、ターニングポイントになった。

ア:『時代を切り開いたプログラム』と定義することが出来る

(演技中)

NHK2015_FS4S

ア:ただただ帝王に相応しいこの4サルコウ

NHK2015_FS4T

ア:奇跡のような素晴らしさのこの4トゥループ。着氷後の流れは全く無比だろう

ア:3フリップの前の複雑なステップにも注目して欲しい。これもいとも簡単に決めた。

ア:そして最も衝撃的だったエレメントのひとつは、おそらくプログラム後半で結弦が跳んだこのジャンプだろう。

このように4トゥループ/3トゥループのコンビネーションジャンプを軽々と決めてしまった。プログラム後半にだ

2本の3アクセルについても同様だ。

これは1本目、3アクセル/2トゥループのコンビネーション

2本目の難しい入り方に注目して欲しい
イーグル、ステップ、振り返って3アクセル/ループ/3サルコウ

NHK2015_FS3A
これほどの超高難度ジャンプを何の準備もなく跳んだ。

ア:3ループ、これも完璧

そしてこれまで彼のパーフェクト演技を何度も阻んできたこのジャンプ、3ルッツも今回は何の問題もなく着氷した

NHK2015_FS3Lz
観客は解き放たれたように熱狂し、羽生自身も思わずガッツポーズをした
でも当然のことだろう。史上前例のない傑作の誕生に立ち会っていることは、もはや明らかだった。

プログラムのエレメンツを2つ残して技術点は既に110点。

前の歴代最高TESを大幅に越えた。

(演技後)

マ:何と言えばいいのか
絶対的完璧だった。

でも彼は記者会見で「確かにいい演技だったし、嬉しいけれど、幾つかのジャンプの着氷は完璧じゃなかった」と発言した。

ア:OK(笑)、彼が言うならそうなんだろう

これは他の選手達にとってもまさに戦意を喪失させる演技だ。
だってクワド4本を跳ぶつもりでリンクに出て行って、幾つかミスがあっても技術点95点という高得点を持ち帰る。
でもその直後にリンクに降りた選手が技術点120点を叩き出す・・・

これはもう・・・

マ:でもこれは歴史を変える演技だ。
だってこれまでに見たどんなプログラムと比べても、驚異的な飛躍だ。

これ以前のフリーの歴代最高得点は文字通り粉々に打ち砕かれた。
トータルスコアについても同様だ。
彼はショートとフリーの記録を両方更新した。

想像を絶するレベルに到達した。
最終的な得点は322点だ。これまでの歴代最高得点は295点だったから、30点近く更新したことになる。

ア:(爆笑)

マ:これで終わりではない。彼は箙にまだ他の武器を隠し持っている

ショートの構成を変えるかもしれないし、フリーに新しい4回転ジャンプを入れてくるかもしれない。

この選手がどこまで行くのか、僕には分からない

でも彼が居る限り、彼を堪能しようじゃないか。
長く滑り続けてくれることを願いながら

ア:そうだね。現時点ではNHK杯で羽生が見せてくれたレベルに達することが出来る選手はたった一人しかいない。羽生自身だ。正直に言うけれど(笑)

マ:その通りだ

長年に渡ってフィギュアスケートをかみ砕き、オリンピックが何か、勝利も敗北も知り尽くしているブライアン・オーサーの言葉が全てを物語っている。

「I have no words」

ア:まさに言葉を失った。

でもここには完璧性、クリーンな着氷、全く助走のないジャンプが揃っていた

マ:ここでは映らないけれど、キス&クライもファンタスティコだった。

オーサーが羽生に訊く

「Are you ready?」

羽生はこう答える

「No, I’m not!」

ア:I’m not…(爆笑)

あの時、彼らは途方もない得点をただ待つだけだった。
僕達はTESカウンターがどんどん加算されていくのを見ていたけれど、彼らはそうじゃない。
TESカウンターの上昇は何か驚異的だった

(4T/3Tのコンボ映像)

このコンビネーションジャンプで何点稼いだ?

マ:問題は彼の今回の技術点は118点だったけれど、他の選手達は神演技をしなければ100点を越えないということだ。パトリック・チャンとデニス・テンのTES100点越えの演技がそうだった。

ア:まさにその通り
他の選手達にとっては100点を出すのも大変なことなのだ。
実際、300点はパトリック・チャン自身が触れようとしていた夢の得点だった。

そして、他の選手、羽生によって豪快に実現された。

このことは現在のトップクラスの選手達と彼との差を物語っている。
おそらく各時代の最も優れていた選手達と比べても、彼は史上最高の選手だろう。

マ:歴代最高TES、歴代最高PCS

唯一更新されなかったのがショートプログラムの歴代最高PCSで、この記録だけがパトリック・チャンの手に残された。

最終順位表が自ずと物語っている。

素晴しい演技をしたジン・ボーヤンは、56点もの大差をつけられた。

ア:(笑)驚異的だ・・・ただただ驚異的だ

マ:無良との点差は80点。でも表彰台に上がることが出来た。
グランプリファイナルにさよならを告げることになったマキシム・コフトゥンにとっては失望すべき大会となった。
グラント・ホシュタインと田中刑事は健闘し、ショート、フリーともに自己ベストを更新した。

当然のことながら、観客は有頂天になっている。
この場にいた人達はこの競技のマイルストーンに立ち会ったのだから。

ある者はこれを『神話的演技』と定義した。
おそらく『歴史的』より更に適切な言葉だろう。

ア:確かに、僕達はもはや歴史というより伝説の域にいる。
それに今大会の全試合を見た者は、2つの傑作、2つの歴代最高得点を見た。

羽生の並外れた2つのプログラム、ショートとフリーだ。

 

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu