世界トップクラスの通信社の一つであるイタリアのANSA通信が羽生結弦の長い特集記事を発信していました。
北京2月10日
それはやってきた
彼は転倒し
そして征服した。
「氷のプリンス」の異名を持つ羽生結弦は今日、例え完璧でなかったとしても彼にとって最後のオリンピックになるかもしれないこの大会で、戦士の役を演じた。
フィギュアスケートの2度のオリンピックチャンピオンは、日本の楽曲「天と地と」の旋律に乗せて滑りながら、フリープログラム開始から数秒で、彼が「北京に向かう主要なモチベーション」と定義する重力に挑むジャンプ、伝説の4回転アクセルで転倒し、表彰台を失った。
27歳は滑り続けるが、2本目のジャンプ、4サルコウでもバランスを崩して転倒し、首都体育館の観客全員から悲しみの溜息が漏れた。
しかし羽生はミスを引きずらず、その瞳に決然とした意志を漲らせながら残りのプログラムを完璧に演じ切った。
羽生は両腕を上げて天を見つめながら、一瞬静止して気持ちを鎮めた後、満場一致の拍手喝采に包まれながら、感謝の気持ちを込めて彼を称える観客の前でお辞儀をした。
それから彼は腰をかがめて氷に触れ、リンクを離れる前に「ありがとう」と囁いた。
「正直、自分の持てる力の全てを出し切りました。これが僕の全てです」羽生はミックスゾーンで目に涙を浮かべながらこう語った。
ミスにより、彼がフリープログラムで得た得点は188.06点、自己ベストの223.20を大きく下回る得点だった。
2日前、ショートプログラムではアクシデントが起こり、羽生は冒頭の4サルコウを失敗し、宇宙的な得点からは程遠い95.15点で、8位だった。
現オリンピックチャンピオンはトータル283.21点、4位で自身のオリンピックの旅を終えた。彼のチームメイトの鍵山優真と宇野昌磨は銀メダルと銅メダルを獲得し、アメリカのネイサン・チェンは驚異的な得点332.60点で自身初のオリンピック金メダルを勝ち取った。
「勿論、結果は残念ですが、出し切ったと思います」と羽生は言い、「嬉しくはありませんでした。自分の感じたことを考える時、多くのことが頭を過ります」と続けた。
何故4Aなのか?
羽生は4回転アクセルを執拗に追い求め、その「4A」は彼のキャリアを犠牲にしかねない数々の怪我の後にやってきた。
今シーズン、同じ足、右足首の靭帯を負傷した後、羽生は国際大会で競技することが出来なかったが、強い意志の力で12月に復帰し、6個目の国内タイトルを獲得した。
羽生は個人戦に集中するために2月4日から始まった団体戦と同日の開会式には参加しなかった。
しかし、羽生はメダルを確実に手に入れるために安全なカードで勝負するのではなく、「4Aの成功」という幼い頃からの夢を実現するという彼の「ミッション」を北京でも貫いた。
片足で着氷する前に空中で4回転半回らなければならないこのジャンプを、公式大会、ましてオリンピックでクリーンに成功させた選手は未だかつて存在しない。
羽生は12月の全日本選手権において、この偉業に誰よりも近づいた。しかし、両足で着氷した為、このジャンプはダウングレードを判定された。
「今回の方がいい4Aが跳べましたが、このオリンピックで成功させるという自分の夢は叶いませんでした」羽生は説明し、更にこう続けた。「このために多大な努力をしてきました。ほぼ成功したような感触でしたが、おそらくこれ以上は無理なのかもしれません」
完璧なスペクタクルを披露するために、羽生は、練習での途方もない努力に加え、刺繍が施された競技用衣装から選曲にまで関わり、あらゆるディテールを磨き上げて2022年のオリンピックにやってきた。
日本の伝統的な楽器でチェトラに似た弦楽器である琴と、短棹の木製リュート、琵琶を使用した楽曲「天と地と」は戦国時代の日本の武将の物語を描いている。
「今日のパフォーマンスはこの楽曲のタイトルを反映していました」羽生は言った。「アクセルで転倒し、サルコウでも転倒しましたが、後半は完全に演じ切りました。重要なのは転倒から立て直したことです。この2つのミスが(「天と地と」の)物語をより意義深いものにしました」
ツイッターの中国版「微博」で、羽生の「4A」のコメントに寄せられた12万件以上の「いいね」は、「今日、彼は金メダルを獲りに行くことよりも、立ち止まることなく戦い続けるパイオニアになることを目指した」と感じた多くの人々の気持ちを表している。
多くの人にとっての勝者
日本の仙台で生まれた羽生は4歳でスケートを始めた。両親は息子が浮き沈みのある人生に毅然と立ち向い、困難から立ち上がる弾力性を持ち合わせた人間に育つようにという願いを込めて「ピンと張った弦」を意味する「結弦」という名を授けた。
羽生は2014年のソチ五輪でオリンピックチャンピオンの称号に輝き、2018年平昌でタイトルを守った。熟練した技術、強さ、エレガンスの完璧な融合によって、彼は「氷のプリンス」の異名を獲得した。
彼のひたむきな献身と強い意志は、世界中の選手とスケートファンの尊敬を集めている。
ずっと羽生の長いキャリアの影に隠れているチームメイトの宇野昌磨は、常に名声と世論のプレッシャーに耐えている同胞を称賛した。
「ユヅクンはかけがえのない存在です」銅メダルを獲得した宇野はこう打ち明けた。「僕達が誰も背負えなような重圧を背負い、日々そのプレッシャーを乗り越えているのです」
中国では羽生はその謙虚さ、強い意志、勤勉さによって北京2022で最も人気のあるオリンピック選手の一人になった。彼の成功や国籍に関係なく、これまでフィギュアスートを見たことのなかった多くの人が、彼のおかげでこのスポーツに夢中になった。
「今日、彼がリンクに降りた時、彼から目を逸らすのは不可能でした」彼のファンである新華社通信のリウ・リンは告白する。
「転倒の後、立ち上がった彼の瞳は鋭く燃え、その顔には決意が漲っていました。彼はまるで真の戦士、王のようにリンクを支配していました」
微博では、羽生のハッシュタグがこれまでに54億以上の表示数を集め、500万件近くのコメントが寄せられている。大会公式マスコットであるジャイアントパンダ、ビンドゥンドゥンと自撮りしている写真は、2時間で3万件以上の「いいね」を獲得し、多くのユーザーが彼に「ドゥンドゥン」をプレゼントしたいという願望を表明している。
ユーザーの一人はこう書いている。「革新の扉を開く勇気はどんなメダルより価値があります」
別のフォロワーはこう書いている。「より速く、より高く、より強くというオリンピック精神を全て同時に表現したアクションによって、彼は偉大なアスリートの勇気を見せました」そしてこう締めくくった。「これらのスポーツ、特にフィギュアスケートには限外がありません」
*******************
☆ANSA通信がこれほど長い特集を組むのは凄いことです。
ちなみに金メダルのネイサンについてはエルトン・ジョンが祝福ツイートをしたという数行の記事(しかし記事のタイトルも内容もネイサンではなくエルトンがメイン)、日本のメダリスト達はこの記事の中で名前が登場する以外、全く言及されていませんでした(羽生君についてはこの記事と、もう一本の短い記事で2度取り上げています)。
メダルを取ってない羽生結弦の記事ばかり、記者会見まで開いて!と文句を言う人達がいますが、残念ながら「需要」というシビアの現実があり、メディアが視聴者や読者を確実に獲得出来るコンテンツを扱うのは当然です。
羽生結弦は惑星ではなく、自ら光り輝く恒星です。
その輝きを隠すことも、人々がその輝きに吸い寄せられるのを阻止することも、人工的に別の光源を作ってそちらに誘導することも不可能だということを、今回のオリンピックが証明したと私は思います。
日曜日にエキシビションがありますね。
一体何を見せてくれるのでしょう!
足の状態は心配ですが、どうか楽しんで滑って欲しいです。