BALLETIC YUZU 11 – SHAREPRACTICE:オフアイスのウォームアップ

もう大分前になりますが、作家でバレリーナのアレッサンドラ・モントゥルッキオさんがSharePracticeの陸上ウォームアップを分析して下さっていました。

非常に興味深い考察だったのでご紹介します。

アレッサンドラ・モントゥルッキオ著

SharePracticeでユヅの練習のオフアイスのパートを見た時、すぐに、確かに(ウォームアップは)あったけれど、これで十分身体は温まったの?思ったことを認めなければなりません。本能的に、筋肉を適切に温めるには少な過ぎるように私には思えたのです。それから、これは彼のウォームアップの一部に過ぎないのだと納得しました。事前に何かやっていたのかもしれませんし(スポーツジムでのマシンを使ったトレーニングなど、彼の陸上トレを私達は見たことがあります)、いずれにしても、スケーターはオフアイスだけでなく、氷上でもウォームアップを行うのが通常です。ただ、それはバレリーナのやり方で、私はバレリーナの視点で考えていました。つまり、私達バレリーナは、1時間半のレッスンの内、40分たっぷり使ってウォームアップのエクササイズを行うのです。

しかし、バレリーナ視点で考えることにより、私はユヅがオフアイスのウォームアップで行っていた幾つかのエクササイズを特定し、理解することが出来ました。それも非常に注意を引かれるエクササイズだったのです。

最初の2つは、ユヅがまず胴体で、それから腰で行う動きです。彼はガラス張りの通路にいます(もしかしたらユヅはガラスに映る自分の姿を見て、動きが正しいかどうかチェックしているのかもしれません)。
*補足: ダンサーは常に鏡の前でトレーニングを行っています。スケーターはリンクに居る時は、通常鏡は見ません。ユヅはその他のオフアイスのトレーニングでも、ホテルの客室において、あるいはiPadのセルフィー機能を使って、よく鏡を使っています。他のスケーターもそうでしょうか?そうかもしれません。確かなことは、この点において彼は非常にバレエダンサーだということです。

このツイートで彼のこれらの動きを見て下さい:

胴体(あるいは胸部と言った方がいいでしょう)でユヅは右回りと左回りの円を描きます。バレエでは何も不思議ではない動きです。BalleticYuzu10~レゾンで既に書いたように、ジャズダンスの普段の練習で最初に行うエクササイズは「アイソレーション」です。身体の各部分は、別の部分を出来るだけ動かさずに、動かせるように作られています(ただし、ウォーミングアップされ、その部分を独立して使えるように訓練されていればですが)

ユヅはまさにこの動作、胴体のアイソレーションを行っているのです。右へ、左へ、前へ、後ろへ、身体の他の部分を全く動かさずに。それから彼は骨盤のアイソレーションを行います。腰(本当に腰だけを動かしているのです)を右から左へ、左から右へと動かし、この「移動」を直線状ではなく、曲線状に実施し、腰を前に押し出します。これはバレエダンサーが行う腰のアイソレーションより、むしろ胸部のアイソレーションによく似ています。しかしユヅがこの種の作業を行っているのは間違いありません。筋肉を温め、同時にその筋肉の各繊維束が他から独立して動く能力をどんどん高めているのです。

皆の注目を集めたもう 1 つの動きは、やはり同じ通路のガラスの前にいるユヅが、「BalleticYuzu~レゾン」で私が「ドルフィン」と形容した動作を繰り返すところです。頭から始まり、首、そして背骨を伝って尾骨に至る波のような動きです。ユヅは様々なドルフィンを続けて実施します。その幾つかはより小さく、僅かに仄めかす程度、あるいはいずれにしても非常に小さなドルフィン、それからもう少し深い動き、更には開始時にユヅの背中が前方に下がるほど非常に深いドルフィンを実施します。ドルフィンもアイソレーションのエクササイズです。背骨を温め、各分節を個別に動かし、背中の柔軟性を鍛えるのに役立つからです。そして、ユヅは腕を開き、「鏡」に向かって伸ばした状態でドルフィンを行います。これは身体の軸を維持し、一種の「固定パラメータ」に合わせてドルフィンのエクササイズをコントロール出来る姿勢です。

短く分析したい最後の要素は、同じ通路で行われる、「陸上でのジャンプテスト」と私が想像しているあのエクササイズです。つまり、ユヅが場所を変えて、本格的なジャンプを行う前に行っている運動です。エレナ・コスタが私のためにSharePracticeから切り取ってくれたこの動画を見て下さい。

ここでは、ジャンプを踏み切る代わりに、クラシックバレエでトゥール アン レールと呼ばれる動きを行っています。ユヅは身体の回転のみを試し、これらを適切に実施するために、通路の端から端まで直線状に進みながら行います。バレエでは一箇所で静止せず、空間を移動しながら行われる両足のピルエットをデブールまたはシェーネと呼びます。テルシコレオの観点から見ると、完璧というわけではありません。腕が体に押し付けられ過ぎており(ただし、スケートのジャンプでは腕をこのように保つ必要があります)、肩がわずかに上がっています。しかし、ジャンプの回転をこの方法で試みるというユヅのアイデアは素晴らしいと思います。デブーレを何度も連続して実施するのはかなり難しいからです。特に左右の逸れずに真っすぐ進み、回転するごとに速度が落ちることなく、ハイスピードで回転し続けるのは非常に難しいことなのです。この2つのミスを犯さないためには、バランス能力に優れ、頭部が正しく使用され、姿勢が正しく、腹筋が締まり、背中が真っすぐ伸び、臀部が締まり、膝がピンと伸び、両足が閉じていなければなりません。これら全てはフィギュアスケートのジャンプでも必要なことです。これも私の想像ですが(おそらくダンサーを観察し、おそらく彼独自の理論によって到達したのではないでしょうか)、ユヅは自分のスケートを向上するために、彼の競技を超え、バレエの領域に入るメソッドを採用したのかもしれません。

それから彼は「普通の」方法でジャンプを跳び、最後にスケート靴を履いてリンクへ出ていきました。しかし、ユヅはSharePracticeの前半だけで既に彼がGOATなだけではなく、パイオニアであり、唱導者であり、各エレメントを実施する見事な技巧や、ウォームアップと練習の効率的な新しいメソッドの発明によって将来、フィギュアスケートの歴史の本だけでなく、技術教本にもその名が記させることになるであろう不世出の天才であることを証明したのです。

#balleticyuzu

アレッサンドラ・モントゥルッキオ

作家、編集者、翻訳家。幼少時よりバレエを学び実践するバレリーナであり、指導も行っている。
Wikiプロフィール:https://it.wikipedia.org/wiki/Alessandra_Montrucchio

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☆私は合気道をやっているのですが、道場ではいつも本格的な技のお稽古に入る前に40分ほどかけてウォームアップを行います。その中で、羽生君のこの「ドルフィン」や骨盤のアイソレーションと非常によく似たエクササイズをいつもやっていますので、興味深いなあと思って見ていました。要は身体の各筋肉を一度解体して、組み立て直す作業です。日常習慣によってこわばったり、緊張したりしている筋肉を別の筋肉から剥がし、独立させて動かし、温めることで、身体の歪みを直し、運動機能を高める効果があります。だから無駄な力が抜けていることが重要なジャズダンスや合気道のようなマーシャルアーツでも取り入れられているエクササイズなのだと思います。

羽生君が滑る時、上半身に無駄な力みがなくてリラックスしていますよね?プログラムのどこを切り取っても、指先から足先、頭部の角度、首の傾斜に至るまであらゆる細部まで洗練されて美しいですが、どんな美しいポージングをキープしている瞬間も、常に肩が下り、無駄な力が入っていません。そしてアレッサンドラさんが何度も指摘しているように、美しい腕のフォームは腕や肩の筋肉ではなく、背中、肩甲骨から発しています。

そして彼のプログラムが他のスケーター達と圧倒的に異なる特徴(のひとつ)が、ジャンプの始まりから終わまで、全く力みがないということです。

他の多くのスケーターは、特に4回転ジャンプや3アクセルなどの高難度ジャンプに向かっていく時、構えの姿勢で身体が固まった状態が時には数秒間も続き、これによってプログラムのフローが一端途切れてしまいます。

得点源のジャンプを跳ぶために致し方ないとはいえ、見ている側としては、特にプログラムの世界観、芸術性という観点から見た時、プログラムが一時お留守になっているように感じるのです。私が羽生君を知る以前、フィギュアスケートの中で男子シングルにあまり興味がなく、彼がプロに転向した今、再び男子シングルの競技フィギュアスケートに対する興味を失った理由のひとつがまさにこの「高難度ジャンプ前のフロー中断による世界観の破壊」なのです。

羽生君のプログラムにはこの中断がありません。ジャンプに入る時も(空中で4回転回るために跳躍しなければならない高さを考えると驚異的なことですが)、完全に肩の力が抜けていて、身体が硬直することも、構えの姿勢が数秒間続くこともありません。それどころか難しいステップからフワッと浮き上がり、4回完全に回転してから着氷し、着氷後もスピードが落ちません。入りから出まで同じスピードが落ちないから、着氷後にツイヅルやイーグルやアラベスクスパイラルを繋げることが出来るのです。着氷時の流れがなければ、片足であんな長いこと滑っていられませんよね(しかも色々な動きを入れて)。

以前に訳した記事ですが、小説家でジャーナリストのアンジェラ・メッシーナさんが彼のジャンプを見事に描写しています。

ジャンプ

フィギュアスケートにおいて最もハードでスペクタクルな技術的要素です。

昔からスピードを出して踏み切るため、助走によって準備し、跳躍と回転を助けるために腕はバランスのいい位置に置きます。

ただし、この体勢を整えるための準備段階は(明らかに必要不可欠ですし、容認されていますが)、よりエレガントなプログラムに亀裂を生じさせてきました。

カロリーナ・コストナーのより崇高なフリープグラム(彼女がまさしく崇高だったことは何度もあると私は思います)でさえも、この準備段階によって魔法が中断されます。

私はいつもこのことに気づき、残念に思っていました。

羽生はこの問題を解消しました。彼は芸術的なプログラムにおいてジャンプは確かによりアスレチックな部分ですが、完璧に実施すればそれ自体が芸術になると発言しています。

羽生のジャンプに準備はありません:迅速な助走を生かし、一時休止することなく、自分自身を回転させて生み出されるジャンプ。

しかし、実況中に解説者が強調しているようにほとんどの場合、「何もないところから突然現れる」のです。しかも非常に難しい入り方から。

彼のジャンプは並外れて高さと幅があり、その着氷はまるで氷がクリームで出来ているように非常に柔らかく、着氷と同時に流れるように滑ります。

ジャンプから次の振付要素への移行段階は存在しません。

足が氷に触れる前から、ジェスチャーによる表現は、既に完全にスコア(総譜)の中に戻っているのです。しかも非常に難しいトランジションによって。

素晴らしい描写だと思いませんか?


余談になりますが、昨晩のこと、八戸公演のチケットが当選する夢を見ました!😲

土曜日と月曜日の2公演に申し込んでいて、別々の封筒で通知が届くんです(おそらく今は当選通知は郵便じゃなくてメールで届くんですよね?日本でチケット抽選に申し込むなんて実際にやったことがないから、脳内がアップデートされていない😂)。封筒を開けると中に紙が入っていて、銀行の暗証番号のように中央のシールを剥がすと結果が分かる仕組みになっています。それで1通目のシールを剥がしたらハズレ(カタカナで「ハズレ」って書いてあった)。2通目のシールを恐る恐る剥がしたら、何と当選でシート番号が表記してあるんです!信じられない、当選???羽生君の演技が生で見られるの?そういえば八戸ってどうやって行くんだっけ?泊る場所を何とかしないと!なんて考えがグルグル頭の中を回り始めて・・・もう夢とは思えないほど、もの凄くリアルでした😂

海外に住んでいる私には、この時期に帰国するのは不可能で、そもそも日本のスマホを持っていなければチケット争奪戦に参加することさえ出来ませんので、きっと無意識の内に「現地で見たい」という気持ちに蓋をして、「PCで動画が見れますように・・・」という願望に置き換えていたかもしれません・・・

夢に見るなんて・・・実はどんだけ見に行きたかったんだ私😭😭😭・・・

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち