BalleticYuzu10~レゾン(Part2)

前回の続き。作家でバレリーナのアレッサンドラさんによるレゾンの解析です

BalleticYuzu10~レゾン(Part 1) | 惑星ハニューにようこそ (pianetahanyu.altervista.org)

そしてユヅは、歌詞が「Get down, get down」と言う部分で繰り返される(4回中3回)ある動きの準備をしますが、私は非常に興味深いと思いました。それ自体は、普通のベスティ スクワットで、 テルシコレ用語で言うなら、ユヅは、グラン・プリエ・ラ・セコンドのポジションにあります。スクワットの最中、彼が頭でやっている動きに注目しましょう。正確には頭と肩です。ユヅは頭を右に曲げます。まるで肩ラインの下の鎖骨の間に頭部を挿入しようしているように。その一瞬後、肩が頭に追従します。そして左でも同じ動きが繰り返されます。この動作には名前があるのかもしれませんが、私は知らないことを認めなければなりません。しかし、何年も昔から存在する動きであり、私自身も様々なジャンルのダンスで何年も前から使っています。私がこの動きを初めてやったのは、80年代末から90年代初め頃、当時ファンキーと呼ばれていたダンスの最初のレッスンだったと思います。以降、私はR&B、ストリート・ジャズ、ストリート・ファンクと無数の振付を数えきれないほどやりました。そして多くのコンタミネーション(様々なジャンルの混ざり合い)を見ました。私は自分でもやりましたし、誰かがやっているのも見ました。しかし、氷上ではありません。氷上でも誰かがやっていた可能性は除外出来ませんが、私が見たのは、ユヅのこのレゾンでのみです。特別難しい動きではないですが、頭と肩を協調させながら、それぞれを独立して動かさなければならないため、前回の記事で私が「アイソレーション」と呼んだコンロトール能力が必要です。また首の力が抜けていなければなりませんし、優れたバランス感覚も必要です。ダンサー達は様々なステップを踏みながらこれを行い、ユヅは氷上を滑りながら実施します。つまり、動きながら行うため、腹筋が上手く使えていなければなりません。そしてベスティスクワット(グラン・プリエ・ラ・セコンド)のポジションをこれほど長く、美しく維持するには、お尻を引いて維持しなければなりません(ダンスではこう言います。左右の臀筋を内側に引き締めながら、下方に引き、出来るだけ平らにした状態で保つことです)。膝は完璧に踵の真上で維持し(これ以上開いても、閉じてもダメです)、内転筋の働きによってアン・ドゥオール(外旋)を維持します(ユヅのアン・ドゥオールは完璧です)。そしてこれら全てを行いながら、頭を右、肩を右、頭を左、肩を左、という各部位の「アイソレーション」を音楽のテンポと完全に合わせながら実施するのです。何て大変なことをやっているのでしょう!

ベスティスクワットの後、ユヅは幾つかのトランジションを実施し、アン・ドゥオールのツイズル2回、そして3フリップ。そして、またしても完璧に音楽に合わせて、一瞬静止します。右足が前、左足が後ろ、膝を曲げ、爪先立ちで。バレエ用語を使うなら、ポジション5番でルルヴェ・プリエで静止。非常にエレガントです。その後、別の幾つかのとトランジション(2度のドラッグステップと呼べるでしょう)を行います。氷上を滑りながら、右足がサイドステップを行い、左足がこれに追従します。この時、肩は足が向かう方向と反対向きに回転します。これは特に難しいパッセージではありませんが、冒頭で言及した「混合アート」への移行を象徴する動きになっているように思います。

どういう意味か?ユヅがここでやっている横方向のクロスステップは、既存のステップですが、ユヅが行っているのはただのクロスステップではありません。彼の足は違う方法でステップを踏んでいます(片足が導き、もう片方の足が導かれる)。また左足は右足の0.1秒後に移動するため、僅かなテンポのズレがあります。この意味で、ただのクロスステップではなく、ジャズダンスのドラッグステップに似ており、フィギュアスケートのリンクで見かけることは非常に稀なステップです。
その数秒後、ユヅは立ち止まり、指を額に当て、新しいダンスのステップを行います。今回はジャズから取り入れたステップ、ドルフィン(イルカ)です。

良くご覧下さい:ユヅは指を額に当てて、頭を激しく振りますが、これで終わりではありません。頭部の後、下に下がっていくような動きは、先ほどのように突然ではなく、緩やかに行われます、首と背中がまるで波打つような動きで頭に続きます。もっと適切な言い方をすると、水生動物、イルカの湾曲です。ユヅの動きはささやかで、完全ではありませんが、間違いなく絶妙なドルフィンの動きです。何よりも非常に官能的です。
それからユヅはバットマンに繋げます(デべロッペではありません。ユヅは太腿を上げてからパッセを通して足を上方に上げるのではなく、まっすぐ伸びた足を直接振り上げています(このように足を上げるのは、パッセから上げるより難しいです)。幾つかのステップ、足を開いて後方に滑っていくパッセージでは、気絶する人が続出しました(特にカメラが後方から捉えたアイスショーでは。ブラボー、ユヅ!あなたは膝を真っすぐキープしていました!このようなエレメントはずっとエレガントで、そして非常に難しいのです)。そしてスピン、それから静止した状態で、再びあのヴォーギングの動きです。すなわち、腕の肘より上を動かさずに前腕だけを旋回させます。それから他のトランジション、ベスティスクワット、そして 3ループ。ユヅがループを跳ぶのは良いニュースです。彼が足首を痛めた時、最初に抜くジャンプがループだからです。幾つかのステップ、アン・ドゥオールでツイヅル2回。そして皆を発狂させたあのパッセージです。

ユヅは氷上に横たわります。
ツイッター上でユヅはヒップホップの動き(特に、仰臥位から​​腹臥位への移行)を取り入れているという意見を読みました。同じくツイッターで、モダンダンスの動きだろうという意見も見ました。どちらの意見も正しく、同時に間違っています。何故なら、ダンサーが決して床に横たわらない唯一のジャンルがクラシックバレエだからです(最近のデュエットのステップや死ぬシーン以外)。コンテンポラリー、モダン、ジャズ、ヒップホップ、そして既存の全てのジャンルのコンタミネーションはどうでしょうか?床に横たわる振付はよくありますし、好まれています。12のヒールで踊るヴォーギングでさえ、床に横たわるパッセージがあります。

それではユヅはどのジャンルから着想を得たのでしょうか?
まず彼が何をやっているのか詳しく見てみましょう。彼は氷上に仰向けに横たわります(まるで転んだように見えます)。上に振り上げた後で氷上に投げ出した右足は伸び、左足は曲がり、腕は開いています。それから足をチェンジし、右足を曲げ、左足は上に伸ばします。それからユヅは左足を再び下げ、背中を湾曲させ、右手を自分の前に上げます。まるで誰か、または何かに向かうように、誰か、または何かに手を差し伸べ、彼を待ってくれるよう懇願するように身体を持ち上げます。その後、再び左足を振り上げ(バットマンを実施しているのです)、右足のスケート靴と左肩を支点にして、うつ伏せになり、足を引きます。
このようなパッセージに名前を付けるのは非常に難しく、ましてや確信を持ってジャンルを特定するのは困難です。どなたか専門家で分かる方がいたら教えてください。私には無理でした。私はヒップホップは除外します。ユヅがここでやっている身のこなし、個々の動作、ジェスチャーはヒップホップとは全く関係がありません。私はむしろモダンジャズの可能性を議論したいです。理由は、これらの動きが憧れや欲求を表現しているように見えるから、それにこのちょっとした後転のような動きはコンテンポラリー、モダン、ジャズでよく取り入れられているからです(ダンスでは、身体はより肩を支点にしており、仰臥位から​​腹臥位への移行は後転のように見えますが)。決して難しい動きではありませんし、滑る氷上で行うのは多少困難になるかもしれませんが、それほどではありません。とどのつまり、ただのでんぐり返しなのです。私が評価に値すると思うのは、審美的な美しさだけでなく(振付の美しい瞬間でした)、氷上に横たわって行われる比較的長いパッセージをフィギュアスケートのプログラムに挿入する選択をしたことです。このパッセージの主要な目的はおそらく感情の表現であり、手と指の使い方(指切りや手話など)はリアルフェイスとレゾンの別のパッセージに通じています。勇気ある選択だと思います。スケートファンの観客は、スケーターが10秒以上も氷上に横たわるのを見ることに慣れていません。これもユヅがフィギュアスケートにダンスを取り入れるために行っている研究の証です。

それから結弦は起き上がり、スケートを再開します。頭を回しながら(アイソレーション)、短いインサイドイーグル。それから両腕を使った2つの動き:伸ばした右腕を下方に押し、左腕を肩の方に引きます。左腕を2度曲げます。タック、タック・・・この場合、ヒップホップを連想させる素早い動きです(もし左腕が上がった時、左肩がもっと明確に上がっていたら、間違いなくヒップホップの動きでした)。

これをやった後・・・ユヅはこれまでにやったことを繰り返します。レゾンは、アイスショーのプログラムとしては技術的要素(3F、3Lo、ディレイドシングルアクセル、バラエティに富んだスピン、豊かなトランジション)がふんだんに盛り込まれたプログラムとなっています。これらの要素の中でも特筆に値するのはバレエでグラン・ジェテ・ア・ラ・セコンド、またはグラン・エカールと呼ばれている前後開脚ジャンプです。これは非常に身体の柔らかいジェイソン・ブラウンを含む多くのスケーターが実施している技です。ただし、ジェイソンはお尻が外に突き出しており、背中が前方に曲がっています。どちらも脚を更に高く引き上げるためのトリックです。一方、ユヅはそうではありません。お尻は内側に入っており、背中は真っすぐ伸びています。非常に大きなグラン・エカールなのに、です。別の側面から見ると、ユヅは踊り、踊り、踊りまくっています。ダンスの多くの動き、氷上に横たわって行われるパッセージ、身体の様々な部位のアイソレーション・・・

ここまでのBalleticYuzuがこれほど長くなっていなければ、私はその他のパッセージも解析し続けたでしょう。しかし、私が焦点を当てるべきだと思う瞬間、レゾンの最後の特徴を取り上げてこの長いコラムを締めくくりたいと思います。

プログラムの約3分の2ほどのところで、ユヅは膝をついて2周し、氷上を移動し続けます。 数秒間静止した後でゆっくりと立ち上がり、ゆっくりとした動作を行います。そして、最後に氷上を走ります。この頻繁なスピードの変化は、振付全体を通して非常に顕著な特徴です。ただし、彼が変えているのはスピードだけではありません。ユヅはこのような動作をどれだけキープするか、どれほどの強さや勢いでこれらのパッセージを実施するかという点においても変化を付けているのです(例えば、腕を急に開いたり、あるいは徐々に開いたり)。ゆっくりと、あるいはほとんどぐったりリンクを周回することもあれば、荒々しく突進することもあります。正確には音楽や音楽のアクセント次第です。音楽のアクセントと同調し、これらを身体動作の強さとスピードに変換する・・・これはただテンポに合わせて滑るより、ずっと難しいことなのです。これは、ユヅ(スケーターの中では彼だけです)がショパンやロンカプなどのプログラムでやって見せていた能力です。しかし、リズムやアクセントの変化が激しい歌謡曲であるレゾンで、彼のダンサーとしての能力は「完璧」に達しました。ユヅの音楽性はフィギュアスケートでは未知の領域に達しています。オクサナ・バイウル、カート・ブラウニング、ステファン・ランビエールといったスケーターは並外れた音楽性を持っていましたが、ユヅは更にその先に行ってしまいました。彼らを超え、自分自身を超えて。
彼が完全に自由に探求し、創造出来るようになった今、私達は一体何を目撃することになるのでしょうか?
私には分かりません。
しかし、それを見られる日が待ちきれません。

#balleticyuzu

アレッサンドラ・モントゥルッキオ
作家、編集者、翻訳家。幼少時よりバレエを学び実践するバレリーナであり、指導も行っている。
Wikiプロフィール:https://it.wikipedia.org/wiki/Alessandra_Montrucchio

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☆私はバレエは好きでよく見ますが(ただし専門知識はないです)、この分析に登場するヴォーギング、ヒップホップ、モダンジャズ等のその他のジャンルについては、全く無知なので、彼女の解析を完全に読解出来ているのか分かりませんが、羽生君がジャンルやカテゴリーを超えて、非常に革新的な試みを行っているのは分かります。

ヴォーギングというと、私はこれしか思いつきませんが

なるほど、確かに上腕を動かさずに前腕だけを旋回させる独特な動きがレゾンの随所で取り入れられています。

彼が氷上に仰向けに横たわり、脚を交互に振り上げてから横転してうつ伏せになる振付、確か以前どこかで似たような動きを見たことがあったはずと、う~んと、う~んと、と思い出したのが、スカラ座公演のヴェルティのオペラ「マクベス」の3幕冒頭の魔女達の踊りでした😂

動画を探し出して確認

思ったより似てないかも😅・・・
しかし、共通する動きもあります。
ジャンル的にはコンテンポラリーになるのでしょうか?

マクベスはオペラですから、主役はマクベスやマクベス夫人であり、他の登場人物を演じる歌手達であり、3幕に挿入されたこの群舞はこの舞台の主要な場面ではありません。しかし、シェークスピアの古典劇に挿入されたこの前衛的な振付は非常に斬新で、バックグラウンドのヴェルディの音楽も相まって、個人的に強烈なインパクトを受けたシーンの一つでした。

羽生君のレゾンは、フィギュアスケートにジャズダンス、モダン、コンテンポラリー、ヒップホップ、ヴォーギングなど、異質な要素をミックスさせた強烈な視覚的インパクトを与える革新的な混合アートと言えます。

現在、アイスショーを準備中という羽生君。
きっと新プログラムも作っているのでしょうね。
至高の技術と天性の芸術性を持つ彼が、ルールの枠に捕らわれすに完全に自由な表現、自由な創造性を更に開花させていったら、一体どこに到達するのでしょう!
個人的にバッハやヴィヴァルディのようなバロック音楽でも見てみたいし(例えばグレン・グールドが演奏するバッハなら著作権、書作隣接権共に問題なし)、タンゴやフラメンコのようなラテン系も見てみたい。イタリアのファンは10年ぐらい前からラヴェルのボレロをリクエストしていますね。

何が出てくるのか。何しろいつも期待の右斜め上を行く人ですから、楽しみに待ちたいと思います。

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち