Corriere della Seraより「減量はゲームの一環」

毎週水曜日の「コリエーレ・デッラ・セーラ」紙に付いている女性誌「F」に連載されている作家でジャーナリストのコスタンツァ・リッツァカーザ・ドルソーニャさんのコラム「Anti.Corpo」(抗体)より

読者の相談に答える形でボディー、美容、スポーツ、ダンス、差別との闘いなどのテーマを議論するコラムです。今回は非常に深刻なテーマ。名門スポーツクラブで起こった、器械体操を習う未成年の少女に対する虐待に関する話です。最後に羽生君の名前が出てきます。

筆者コスタンツァ・リッツァカーザ・ドルソーニャ
(2022年8月3日)

親愛なるコスタンツァ

私は12歳の思春期の少女の母親です。アメリア(仮名)は幼い頃から器械体操を愛していました。そして少し前までは全てが上手く行っていました。明るい子で、自分が上達していくのを見せるのが大好きでした。その後、大きな都市に移住し、名門スポーツクラブに通うチャンスに恵まれました。突如として、彼女は食事を食べないようになり、笑わなくなりました。そしてトイレに篭って嘔吐するようになりました。一度、彼女のベッドを解体した私は、大量のダイエット剤、下剤、利尿剤の箱を見つけました。スポーツクラブの責任者達は何も知らないが、体操は競技スポーツで体重管理はゲームの一環だと私に言いました。アメリアが倒れて入院した後、彼らはようやく毎日のように彼女に対して価値がないと罵り、体重について侮辱して毎日虐めていたと告白しました。女性コーチに至っては、彼女が痩せるべき身体の部位にフェルトペンで円を描き、チームメイト達(彼女を笑者にしていました)の前でトレーニングすることを強要していました。そして、私は他にも同じような扱いを受けていた少女が少なくとも、もう一人いたことを知っています。エクササイズが出来なかった罰として『反省するために』倉庫に鍵をかけて監禁されたこともありました。今、私は娘をこの呪われた場所から連れ出しました。彼女はこのことで私を恨んでいますが。しかし、わたしも激怒しており、他の少女達が心配なので弁護士に相談したいと思っています。これは告発すべき案件です。このようなことが二度と起こらないためにも。アンナ(仮名)


親愛なるアンナ。あなたは正しいです。特定の人々には未成年を関わることを禁じるべきです。残念ながらこのような状況は稀なことではありません。そして、しばしばレベルが高くなるほど酷くなるのです。フィギュアスケートのレジェンド、羽生結弦はプロ転向後の記者会見で、食事が喉を通らなくなり、滑る喜びを失ったことがあったと告白し、自国連盟やこのスポーツを牛耳る組織から何年にも渡って嫌がらせを受けていたことを仄めかしました。イタリアでもこのような(肉体的・精神的)暴力は白日の下に晒す必要がありますが、背後に多くの利益が絡んでいることがしばしばあるのです。あなたに心からの抱擁を。続報を待っています。

*****************

☆こちらの記事、8月7日に翻訳して、その日の内に投稿しようと思っていたのですが、不意打ちで羽生君の公式Youtubeチャンネル開設のお知らせ!
おめでたい空気の中、このような深刻なテーマの記事を上げるのはためらわれ、1日待つことにしました。そうしている間に2番目の動画公開、さらに公開練習「SharePractice」が開催されることが発表され、羽生ファンにとっては連日お祭りで、とてもこのような記事を投稿する雰囲気ではなかったので、少し待って今日投稿しました。

「自国連盟やこのスポーツを牛耳る組織から何年にも渡って嫌がらせを受けており・・・」という下り、「mobbing」という表現が使われており、非常にデリケートなテーマなので、筆者のコスタンツァさんに文章の意図するところを確認しました。コスタンツァさん曰く、決意表明会見とその後の各テレビ局とのインタビューにおいて、羽生君が語った「自分が努力して感じている上達と得点が乖離してきた」「早く引退しろと言われているように感じた」「(バッシングその他が原因で)ご飯が喉を通らない時期があった」などの内容を指しており、主に採点における「嫌がらせ」のことです。ただこのコラムは文字数が決まっており、詳しく説明するだけのスペースがなかったため、「Mobbing」という言葉に集約したそうです。自国連盟とは日本スケート連盟、このスポーツを牛耳る組織とは勿論、ISUのことです。
金メダリストに対するこのような下げ採点は何も羽生君に対してだけではありません。私が把握しているだけでプルシェンコ、マキシム・トランコフ、テッサ・バーチュが五輪で金メダルを取った後、ジャッジ達が自分達をもう勝たせたくないのが分かったと発言しています。金メダリストに対するこのような下げ採点がなければ、もしかしたらプルシェンコ、テサモエ、キムヨナは五輪二連覇していたかもしれません。そのような不利な採点に加え、右足に大怪我を抱えながら66年ぶりに二連覇を達成した羽生君が異次元なのです。
そして、ジャッジ達がルールに則って正しく採点していたなら、北京までの4年間も無敵なはずだったと私は思います。彼のスケートとそれ以外の選手達のスケートでは、クオリティ、完成度、芸術性という点においてそれぐらい差があるのです。

一方、このコラムで語られている少女のケースは、明らかに肉体的・精神的虐待です。イタリアでは日本と違って、「学校でのイジメ」といった話をほとんど聞きませんので、スポーツクラブでコーチによるこのような陰湿なイジメが行われていたことに驚きました。

スポーツ界における過剰なトレーニング、体罰、精神的虐待、性的虐待といったハラスメントはイタリアに限らず、スポーツ競技が盛んな様々な国で度々取り沙汰されています。例えば、ロシアでは、ジュニア時代、エテリ・トゥトベリーゼに虐待に近いトレーニングを課され、体重や体型について日々侮辱されていたと告白した選手がいました。ロシアにおいて、このような例は氷山の一角で、同じような体験をしながら、口に出すことも出来ない少女達が大勢いるのでしょう。
フランスのスケート界ではモルガン・シプレの未成年への性的虐待が被害者の告発によって明らかになり、周囲の関係者による隠ぺい行為、更には何年も前からスケート界全体で何人もの未成年が慢性的に被害に遭っていたことが発覚し、連盟会長が責任を取って辞職する事態になりました。
日本でも柔道界や体操界で連盟幹部やコーチによるパワーハラスメントが選手達の告発によって発覚したことがありましたが、こちらも氷山の一角に過ぎないと私は思います。
スケート界では織田信成君が同じリンクのコーチからパワハラを受けていたことを告白し、訴訟にまで発展したのは記憶に新しいです。

このイタリアの少女のケースで衝撃的だったのは、僅か12歳の少女が痩せるために、親に隠れてダイエット剤や下剤や利尿剤といった薬剤を使用していたことです。ちなみに彼女は競技会に出場するようなレベルではなかったようです。

それなら、競技会に頻繁に出場し、県や州や国の代表を目指す選手、あるいはもっと上、世界で頂点争いをするレベルの選手はどうでしょうか?

私は以前、ワリエワのドーピング疑惑について、「クロ」だと思うと書きました。12歳の競技者ではない少女が、コーチ達に痩せろ痩せろと責め立てられて下剤やダイエット剤に手を出すのです。元々ドーピングに対するモラルや罪悪感が非常に低いロシアのような国で、もっとずっと競争が熾烈な環境に置かれている少女達がライバルに勝つために、もっと効果の強い薬物に手を出したとしても不思議はありません。

見ている側からすると、バレリーナのように優美で精密機械のようにミスをせず、高難度ジャンプを次々に決めていくロシア女子の演技はスペクタクルですが、その演技の裏で虐待に近いトレーニングが行われ、彼女達の健康や将来に深刻な問題を引き起こすかもしれない薬物が使用されているのだとしたら、そのようなシステムは容認すべきではありません。

そういえば、ワリエワの一件、WADAは徹底的に調査して7月までに結論を出すと言っていたように思いますが、どうなっているのでしょうか・・・

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち