Discesa Liberaより「日出る国から来たラファエロ:羽生結弦」

Discesa Libera(イタリア語でアルペンスキー競技の「滑降」という意味)というウィンタースポーツ解説ブログに掲載されていた羽生君の記事がとても素晴らしかったので翻訳します。
平昌オリンピックの後の記事ですがなぜか写真がノートルダム・ドゥ・パリ

 

原文>>

日出る国から来たラファエロ:羽生結弦

フィギュアスケートの壮麗、最も偉大な表現者の作品

2018年2月27日
ジョバンニ・プラタニア

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『 他者に困難なことを簡単にやってのける、それが才能。才能に不可能なことをやってのける、それが天才』

(アンリ・フレデリック・アミエル)

時代の中でスポーツ界における特別な歴史に完璧に当てはまるような格言が幾つも生まれてきた。
偉大なチャンピオンの功績を語る歴史は数多く存在するけれど、芸術の限界へのフロンティアにほぼ到達する詩と共に語ることの出来る功績は少ない、いやそれどころかごく僅かである。

身長170センチ、体重56キロ、23歳の華奢な日本人の場合、フィギュアスケートを数年前には想像も出来なかったレベルに引き上げ、彼のスポーツを進化させた。

私の意見では、羽生を定義する最も適切な言葉はユーロスポーツの有名なジャーナリスト、マッシミリアーノ・アンベージが彼を解説する度に主張する「技術的全能と卓越した芸術の融合」以外ないと思う。
これほど彼を的確に言い表しているフレーズは存在しない。なぜなら結弦はそのジャンルにおいて、ただただ唯一無比の選手だからだ。

演技している彼を人生で初めて見た時、私が受けた第一印象は、他の銀河系から地球に舞い降りてきた少年だった。

何故なら彼が自分の技術の中に適用する「次元」は、そのあまりにも破壊力の凄まじい美しさによって、彼を見るためにちょっと立ち止まった人を誰でも、それが一瞬、目に入っただけであったとしても、開いた口が塞がらない状態にしてしまうからだ。
彼は滑っているのではない、いや少なくとも滑っているだけではない。

スポーツ界における最も純度の高い芸術、羽生が表現し、披露する全てのパフォーマンスは見る者を感動させ、いつまでも鳥肌を続かせる。

今日までこの超常現象について知らなかった人のために彼の経歴を紹介しよう。
彼は最近、4年前の2014年ソチ大会に続いて2018年平昌大会でも金メダルを獲得し、オリンピック二連覇を達成した。2度世界チャンピオン(2014点と2017年)に輝き(2010年のジュニア世界チャンピオンでもある)、2013年から2016年にかけてグランプリファイナルの4年連続チャンピオンであり、2012年から2015年までの4度の全日本チャンピオンでもある。

その他の輝かしい功績は世界最高得点を12回更新し、現在もショートプログラム、フリープログラム、トータルスコアの世界記録保持者である。 ショートプログラムで100点の大台を超えた史上初のスケーターであり、オリンピック韓国大会を含めこれまでに8回、100点を超える得点を叩き出している。また、試合で4ループを成功させた史上初のスケーターであり、史上初めてフリープログラム後半に3度の4回転ジャンプを成功させた。

しかし数字だけでは、この日本人の人物を理解してもらうことは到底出来ない。
彼を見るためにやってくる大勢の人々を恍惚とさせる彼の情熱と作品、
実質、世界唯一の強さの更にその先を行くストイックな姿勢、精励、鍛錬。
リンクの中でも外でも驚異的な青年で、数年前に津波の被害を受けた仙台の人々を助けるために自ら尽力している。彼自身もこの地域の出身で、この悲劇を身を持って体験しているのだ。
気さくで純真な人間だが、彼の内側には深い海のような感情が満ちており、プログラムを滑る度に強烈な勢いで外に放出されるのである。

彼の出身国である日本の民族のような、偉大な民族の典型的なメンタリティを持っている。

戦士と勇者の地。
しかし同時に、もし既に天性の才能に恵まれている場合、一度それを受け入れたら、絶対的ナンバーワンとして鍛錬せざるを得ない驚異的因子とエレガンスと無限の広がりを持つ地でもある。

そのエレガンスを超えて、我々が彼に最も驚愕させられるのは、向上し続ける能力と絶対にやり遂げるという強い意志である。史上最も偉大なスケーターの一人であるエフゲニー・プルシェンコは、随分前に現在のフィギュアスケート界におけるナンバーワンの称号を羽生に与えており、明快に詳しく分析しながら、羽生のような男なら、彼が装備するエレガンスと技術を考慮すると、もっと遥か彼方まで到達することが出来ると断言している。

あらゆる技術的能力を神から授けられた者は、ただその能力を進化させるだけでなく、その力を未知の次元に置くことが出来る(例えば、2016年9月10日にオータムクラシック・インターナショナルで彼が成功させた4ループがこのことを顕著に証明している)。
つまり彼はただ単に圧勝し、時代を超えたナンバーワンになることだけを運命づけられているのではなく(おそらく彼はこの2つの項目には既に大きな「済」マークを付けているはずだ)、スポーツ全体において史上最高の選手の一人と見なされる運命にあり、シンプルさから究極レベルの偉大な産物がどのように誕生するかを示す最も典型的な実例になるだろう。

親愛なるマックス・アンベージの言葉を再び引用しよう。まさにこの場で、この言葉を正確にもう一度繰り返すべきだと思う。

「惑星ハニューにようこそ!住人はただ一人、彼だ!」

 

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☆何かもの凄い記事ですね!
スケールの大きな修辞の数々に訳しながら思わず笑ってしまいました!
他の銀河系から地球に舞い降りてきた少年!😆

タイトルのラファエロとは勿論、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロと並ぶイタリア盛期ルネサンスの三大巨匠のひとり、ラファエロ・サンティのことです。
今から500年ぐらい前の人達ですが、イタリアで一般的に天才と言えばこの3人です。
勿論、イタリアはその後もパガニーニとかヴェルディとかプッチーニとか偉大な詩人で作家のガブリエーレ・ダンヌンツィオとか、数々の偉人と天才を輩出していますが、イタリア的には500年経った今もダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロを超える天才は未だに現れていないということなんでしょう。だからイタリア人からラファエロに例えられるって最大の賛辞です。

マッシミリアーノさんは何度も羽生君を300年に一度の逸材と言っていますが、私も彼はルネサンス三大巨匠に匹敵する天才だと思っています。
神様は天才に並外れた才能と同時に過酷な試練も与えるけれど、彼は自分の運命を受け入れ、自分が選ばれた特別な人間であることを十分承知した上で、その存在や発言に集まる注目や人気、自分に群がるメディアをも利用して、自分がやるべきことを賢く、綿密に設計し、自らに与えられた使命を全うしようとしているように見えます。
こんな人をリアルタイムで追えるなんて、何てラッキーなんでしょう!

それにしても著者のジョバンニさん、三大巨匠の中で

レオナルドや
leonardo-da-vinciミケランジェロ
Michelangeloではなく

ラファエロ

raffaello

を選んだところがナイスチョイス!
外見的にも繊細な美形でちょっと羽生君に雰囲気が似ているような
僅か37歳でこの世を去った早世の天才だったんですね。
ちなみに私は子供の頃から三大巨匠の中でラファエロの絵が一番好きでした。
特に彼の描く聖母の伏し目がちで優しい表情がとても好きです。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu