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EleC’s Worldより「羽生結弦とノッテ・ステッラータ」

最近、忙しくて全く情報を追えていなかったのですが、拾い読みした情報の断片からシチズンからノッテ・ステッラータをイメージした高級腕時計が限定発売され、発売後わずか9秒で瞬殺し、Weiboで羽生君がノッテ・ステッラータについて語る白壁配信9月号が公開された、ところまで把握しました。

ノッテ・ステッラータはヘルシンキとトリノで2度現地で見ることが出来ましたが、特にトリノ版はまさに白鳥の化身、一羽の白鳥が夜の湖面に舞い降りてきたようで、彼が滑っている間、パラヴェーラの会場全体が魔法をかけられ、観客は幻想的な異時空間へといざなわれました。

平昌五輪シーズン、2017年9月にエレナさんがご自身のブログで執筆されたノッテ・ステッラータの記事がとても素晴らしかったので翻訳させて頂きます。

原文>>

 

羽生結弦とノッテ・ステッラータ(The Swan):優美な白鳥と星降る夜のセレナーデ

Elena C著(2017年9月4日)

2016年夏、羽生結弦の新シーズンのための2つのプログラムが発表されました:

ショートはプリンスの Let’s Go Crazyでジェフリー・バトル振付、フリーは久石譲作曲のホープ&レガシーでシェイリーン・ボーン 振付。

一方、エキシビションのプログラムについては振付がデヴィッド・ウィルソンということ以外、明かされませんでした。

プログラムが最初に公開されたのは結弦のグランプリ初戦、スケートカナダでのエキシビションでした。この大会、結弦はパトリック・チャンに次ぐ2位でした。

結弦は上半身が白、下半身が黒いパンツの衣装で登場しました。
前も後ろも広いV字に大きく開いた(ように見える)デザインで、無数のストーンが散りばめられ、胸元でクロスしたデコルテと肩から背中にかけV字に広がる襟足には羽毛があしらわれていました。

この衣装は、既にほっそりとして華奢で、首と四肢の長い結弦を一層エレガントに、ほとんどこの世のものとは思われないほど霊妙に見せています。

優美さと集中力をまとってスタート位置に立ち・・・音楽が始まり、イル・ヴォ―ロのノッテ・ステッラータ (The Swan) であることが明かされました。

イル・ヴォ―ロは2009年にRai1チャンネルで放送されたアントネッラ・クレーリチ司会の子供のための歌唱力発掘番組、「Ti lascio una canzone」(あなたを一曲歌ってもらいましょう)がきっかけで、ピエロ・バローネ、イニャンツィオ・ボスケット、ジャンルーカ・ジノーブレの3人の少年によって結成されたトリオです。

この番組は大成功を収め、3人の少年の美声にイタリアの視聴者は魅了されました。ここから彼らは成功への階段を登り始め、やがて活躍の場を世界の舞台へと広げていきました。

2010年、カミーユ・サンサーンスの「白鳥」のイタリア語歌詞によるヴォーカル付きバージョン、「ノッテ・ステッラータ」が発表されました。

結弦にこの曲を提案したのはロシア・フィギュアスケート界の大御所、タチアナ・タラソワです。
2016年4月に開催されたボストン世界選手権の後、滑ってもらいたい曲があると彼に伝え、その後、CDを贈りました。

結弦は過去にも白鳥のテーマで滑ったことがあります。
大地震とこれに引き起こされた津波が彼の町である仙台を含む東北地方を襲った年、2010-2011年シーズンのことでした。
このプログラムは「ホワイトレジェンド」
チャイコフスキー作曲の「白鳥の湖」が原曲の作品でした。この時も黒色のパンツに白、黒、紫を基調とした上半身、そして羽毛がふんだんあしらわれた白鳥の姿を彷彿させる衣装でした。

タラソワから勧められた曲を聴いた時、結弦はすぐに彼にとってデリケートな時期に滑り、彼の魂に刻み込まれた別のプログラムとの繋がりを感じました。この曲と何らかの形で繋がっていることを感じた結弦はタラソワの勧めに従って、このイタリア語の曲を翌シーズンのエキシビションに使用することを決めたのです。

こうしてデヴィッド・ウィルソンと共にこのエレガンスと詩情と洗練の傑作が創作されたのです。
観客をある種の泡、夢の世界へといざなうこの世のものとは思われないプログラムです。

そしてスケートカナダで現地の観客とテレビの前の視聴者に奇跡のように素晴らしい白鳥を披露しました。旋律に乗せて流麗に滑り、皆の心を虜にしました。

プログラムは技術的要素ではなく、表現力、見る者に伝達される感情に焦点を当てています。
慈しみ、甘美さ、詩情・・・
ジャンプはシングルアクセルと3アクセルの2つだけです。

結弦は身体と魂で旋律を奏で、音楽に身を委ね、彼を見ている全ての人々をある種の白昼夢へといざないます。

この動画は羽生結弦を高く評価しているマッシミリアーノ・アンべージとアンジェロ・ドルフィーニ解説のイタリア・ユーロスポーツ版のエキシビションです。非常に能力の高い2人の解説者が絶賛しています。

YH – SC16 – EX (ESP ITA)

タチアナ・タラソワが解説を務めたロステレコム杯開催中のこと。
大会初日に日本スケート連盟のメンバーが近づいてきて、スケートカナダのエキシビションで撮影されたユヅの写真を渡されたとタラソワ自身が発言しています。写真には結弦自身によって書かれた2ページの手紙が添えられていました。

私達の黄金の青年の素晴らしい行為です。タラソワは彼からのこのような心遣いに感動し、テレビでこのエピソードを語りました。

彼が選んだ曲、ノッテ・ステッラータについて詳しくご紹介しましょう。

原曲はカミーユ・サンサーンスの「白鳥」です。

これはヨーヨー・マとキャサリン・ストットの演奏です。

イル・ヴォ―ロが歌うイタリア語の歌詞:

「ノッテ・ステッラータ~Notte Stellata (The Swan)」

Guarda che lago che luna c’è
月の映る湖を見てごらん

le stelle in cielo brillano per noi
空の星は僕達のために輝いている

in questa notte stregata
この魔法のような夜に

la mia serenata canterò per te.
僕のセレナーデを君のために歌おう

Quanto ti amo tu non lo sai
僕がどれほど君を愛しているか君は知らない

nei miei pensieri tu sola sei
僕の気持ちの中には君だけしかいない

accanto a te sarò sempre
僕はずっと君の傍に居続ける

ti cercherò tra la gente.
大勢の中から君を見つけ出す

Quanto ti amo ora lo sai
僕がどれほど君を愛しているか君はもう知っている

nei tuoi pensieri sempre io sarò.
君の気持ちの中に僕はずっと居続ける

Guarda che notte stellata
星の輝く夜を見てごらん

d’amore per noi
僕達への愛だ

io t’amo sai
僕が君を愛しているのを君は知っている

tu mi ami già
君はもう僕を愛している

そして結弦のグランプリ2戦目、札幌のNHK杯がやってきます。
ここでは彼は大会優勝者として再びノッテ・ステッラータを披露しました。

途方もなく、神々しく、鮮烈で、壮麗!

解説無し動画

Yuzuru HANYU EX – 2016 NHK Nico_Ichi

NHK杯バージョンはこのシーズン中、シングルアクセル直後の3アクセルがクリーンに決まった唯一の演技でした。しかもツイヅルから3アクセルを実施しています!

続いてマルセイユで開催されたグランプリファイナルに出場します。結弦は優勝し、史上初のファイナル四連覇という快挙を果たしました。

ここでも彼はまるでおとぎ話ような演技で現地の観客とテレビの前の視聴者に魔法をかけました。

イタリア・ユーロスポーツ実況の動画です:

YH – GPF16 – EX (ESP ITA) – 日本語翻訳付

ファイナルにはタチアナ・タラソワもロシア・テレビ局の解説者として現地に来ていました。
確かタラソワ自身の投稿によって知られたことですが、結弦は花束と彼自身が書いたロシア語のメッセージカードを彼女に贈ったそうです。
簡単な文章で、誰かに手伝ってもらったのか、オンラインの自動翻訳を利用したのかは分かりませんが、いずれにしても私達のユヅリーノらしい本当に胸がキュンとさせられるエピソードです。

これがそのメッセージカードです。

 

腕の動きを伴うイナバウアーを見て下さい!本当に素晴らしいです!

グランプリファイナルの後、結弦は全日本選手権に出場する予定でしたが、重いインフルエンザが彼を足止めしました。
幸い、この欠場が彼が四大陸選手権と世界選手権の日本代表になることを阻むことはありませんでしたから、再び闘志に漲る戦士として平昌の四大陸選手権に登場しました。
この大会は翌年開催されるオリンピックのリンクを「試す」機会でした。

私達の結弦はここでは規格外の才能を見せつけますが、議論の余地のある採点もあり、彼にとって3つ目の四大陸選手権銀メダルに甘んじることいなり、ジュニアとシニアの全冠達成の夢を果たすことは出来ませんでした。

エキシビションは試合の同日、男子フリーの僅か数時間後でしたから、どの選手も疲れ切っていたと想像出来ますが、疲労も結弦がその演技で皆を虜にすることを妨げることはありませんでした。

これは中国テレビ実況の動画です(イタリアではエキシビションは放送されませんでした):

[中文解說(台)]2017 4CC EX-羽生結弦(william6003)

過酷な試合(私達ファンの感情面においても^__^’)、ミス、圧巻のプログラムを経て、シーズンの最も重要な大会、待望のヘルシンキ世界選手権が訪れました。

世界選手権はオリンピックがないシーズンの最も重要な大会ですが、翌年のオリンピックの予選大会のような位置にあるプレオリンピックシーズンの世界選手権では更に重要度が増します。

従って、全てのスケートファンの注目はハートウォールアリーナに集中し、実際にエキサイティングでスリリングな大会になりました。

特に男子シングルに対する期待はひと際高く、トップ6選手が並外れた演技を披露し、未だかつて見たことのない高難度構成と4回転ジャンプを競い合う大会となりました。

ここでも結弦はある意味期待外れだったショート(あくまでも順位という意味です。私はこのプログラムを愛しています)で私達を苦しめますが、フリープログラムでは私達を夢心地にさせてくれました。ただただ完璧な演技を生み出し、勝利だけでなく、自身が保持する世界最高得点を塗り替える新たな世界最高得点を獲得したのです。

新世界王者になったばかりの結弦はエキシビションのリンクに立ち、ノッテ・ステッラータを披露しました。一層鮮烈で一層素晴らしいノッテ・ステッラータを!

イタリア・ユーロスポーツ実況の動画:

このシーズン最後の大会は恒例通り東京の国立代々木競技場で開催された世界国別対抗戦でした。

ここでも結弦はショートプログラムでミスをしますが、ノーミスではなかったとものの、圧巻のフリープログラムで片を付け、チームジャパン優勝という最高と形でシーズンを締めくくりました。この時、私達は~おそらくこれで最後となる~この小さな珠玉、ノッテ・ステッラータを見たのです。

解説無し動画:

https://youtu.be/aDnsMB9diMo

私達の白鳥はまたしても光り輝き、この鮮烈で素晴らしいシーズンが終わってしまったことに対する私達のノスタルジアを一層掻き立てました。そして、私達は少々呼吸困難に陥りながらも、多大な満足を味わってシーズンを終えたのです。

毎年起こることですが・・・今回も最後の試合では私達がこれほど愛したプログラム達に対する言いようのない哀愁を感じました・・・ またいつかこれらのプログラムを見ることが出来るでしょうか・・・

ノッテ・ステッラータはどの瞬間も、集合体としての全体も美しいプログラムですが、上述した見事な3アクセルと共に特に私が愛している以下のパッセージです:

原文のエレナさんのブログからご覧ください

注1:本記事内の動画、及びイタリア実況解説は結弦の動画(Rai版及びEurosport版)は私の Dailymotionチャンネルからご覧になれます。

エレナさんの原文記事にはスワンの美しい写真と動画が他にも数多く掲載されていますので、是非ご覧下さい。

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☆羽生君はこの素晴らしいエキシビションプログラムをオリンピックシーズンと、そして昨シーズンのトリノでも披露してくれました。

カミーユ・サンサーンスの「白鳥」というと20世紀初頭のロシアのバレリーナ、アンナ・パブロワのためにミハイル・フォーキンが振り付けたバレエ作品「瀕死の白鳥」が有名です。

ロシア人にとって神聖な曲である「白鳥」をロシアを代表するコーチから贈られるというのは本当に凄いことだと思います。

タラソワの目に狂いはなく、彼の白鳥はその芸術性において、アンナ・パプロワやアンナマイヤ・プリセツカヤによって演じられた伝説の「白鳥」の域に達しました。

久々のブログ更新なので、北京ファイナルの中止/延期とかグランプリ大会のアサインとかシチズン白壁配信とかイタリアのコロナ近況とか色々書きたいことがあったのですが・・・

エッセイストの高山真さんが亡くなられたという悲しいお知らせが舞い込んできました。

高山さんのエッセイは「羽生結弦は助走をしない」からずっと読ませて頂いていました。

ご病気が厳しい状況であることは彼女の文章から薄々感じていましたが、今夏に前向きで力強い記事を書いておられるのを見て、奇跡が起こり、回復されることを祈っていました。
辛い治療を受けながら書き上げられた渾身のエッセイの数々からは、高山さんの深い知識とフィギュアスケート愛だけでなく、命がけで執筆されていることが伝わってきて読んでいて本当に感動しました。

これまで素晴らしいエッセイをありがとうございました。
心からご冥福をお祈りいたします。

特設エッセイ
「羽生結弦は捧げていく」
高山真

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち