Figure2u-Speciale Ghiaccioより「欧州選手権2022総括」

昨晩1月19日に放送された氷の競技を分析するポッドキャストFigure2u-Speciale Ghiaccio(アイススペシャル)より
今回は欧州選手権総括です。
個人的に興味のあった女子とルールについての考察を抜粋し、ざっくり要約しました。
羽生君の名前は一番最後に一言

出演者
フランコ・クルカージ(F)元アイスダンス選手、Figura2uディレクター、伊五輪員会役員
マッシミリアーノ・アンべージ(M)伊ユーロスポーツ解説者、ジャーナリスト

<女子シングルについて>
M:ロシアの表彰台独占とカミラ・ワリエワの優勝という大会前の予想通りになった。
リンクメイト達がミスをしたため、ショートで既に勝負はついていた。
彼女もフリーで重いミスが幾つかあったが、2位のシェルバコワに大差をつけて優勝した。
シェルバコワは現在の構成では勝つ術がない。
もし、トゥルソワがショートで3アクセル、フリーで5本のクワドを全てクリーンに決めれば、ワリエワに勝てるのか興味があったが、今回は分からずじまいだった。ただ、もしトゥルソワがノーミスの演技をした時、演技構成点でどのように評価されるのか理解しなければならない。
トゥルソワはルールが許容する戦略を取っている。
クワド5本を入れたプログラム。もし全てクリーンに決まれば技術点で120~130点稼げるだろう。
しかし、同時にプログラムは空っぽで、表現の部分は少なく、ほとんどずっと両足で滑走している。ジャンプの前に長い助走があり、ジャンプの後にも長い中断がある。
僕はこのようなプログラムのPCSは各項目7.0が妥当だと思うが、実際に彼女に与えられた得点は70点だった。
ショートはそうではない。4回転ジャンプを跳ばないショートプログラムでは、プログラムへのアプローチの仕方が違うし、全く別のスケーターだ。
音楽に合わせて演技しているし、片足滑走が多く、興味深いトランジションが多く盛り込まれている。だから各項目平均8.5でも決して高くないと僕は思う。
しかしフリーは正直そうではない。だからトゥルソワを評価するのは難しい。
何故なら、トゥルソワはもはや機能しなくなってきている採点システムの典型だからだ。
ただし、僕は彼女がオリンピックで予定通りの構成を完璧に実施出来ることを願っている。
きっとセンセーショナルな試合になる。
そうなれば彼女はワリエワに勝つだろう。
しかし問題はどう勝つかだ。
もしトゥルソワがTES130、PCS56~60で勝つなら僕は納得する。
しかし、彼女がTES115、PCS70以上で勝つのはおかしい。

いずれにしても優勝候補はカミラだ。彼女はコンプリートな選手で、多くな武器があり、フリーで4回転ジャンプ3本+3アクセルを跳ぶから技術的にトゥルソワより劣っている訳ではない。
更にスピンの質でもトゥルソワより優れている。

もしトゥルソワがミスをすれば、シェルバコワが余裕で銀メダルだろう。
アンナがバーを引き上げる方法はただ一つ。フリーにフリップ以外の4回転ジャンプを加えることだ。4フリップを2本にしたら、3回転ジャンプで繰り返せるジャンプが制限さるため、あまりアドバンテージがない。
もし4フリップと4ルッツを入れて、クリーンに滑れればアンナにも(金メダルの)チャンスはあるが、いずれにしても他の2選手のミス待ちになる。
現在、ノーミス対決なら、シェルバコワはワリエワとトゥルソワに次ぐ3位だ。

F:確かに現在のフィギュアスケートは非常にハイレベルだけれど、最終的にジャンパーを優遇するルールになっちゃったよね?
別にこれが間違いとは言わないけれど。本来はコンポーネントのバランスを良くするはずだったのに、結局はより多く跳んだ者が勝ち、もしジャンプの数が同じならスピンが考慮され、スケーティングは一番最後だ。

M:君の考察は正しい。確かにバランスが崩れてしまっている。
このルールは世界中の善意が結集されて誕生した。
2003年、20年近く前のことだ。
その後、フィギュアスケートではあらゆる予想を上回る技術的進化が起こった。
男子シングルで史上最悪の暗黒時代だった4年間の後、技術的進化を促進させる意図で
2010年に4回転ジャンプの基礎点が引き上げられた。
当時、4回転ジャンプを跳ぶ選手が少なくなってしまったからだ。
その後、4回転ジャンプは増え続け、ピークに達した今では、7つジャンプ要素のメインジャンプが4回転ジャンプと3アクセルだけというプログラムを滑る選手さえいる。
15年前には予測不可能なことだった。

何を間違えたのか?
この技術的進化に演技構成点の比重を適応させなかったことだ。
この問題が最も顕著なのが女子シングルだ。
アレクサンドラ・トゥルソワのプログラムは、完璧に滑ればTES130点を獲得出来る。達成可能な最高得点は140点に達するかもしれない。一方、演技構成点の達成可能な最高点はたった80点だ。5項目全て10点満点でも80点なのだ。
だから、僕は芸術部門と技術部門を分けるなどという、このスポーツを根本から変えるようなルール変更ではなく、現行ルールを手に、フィギュアスケートの方向性をどうしたいのか、今一度皆で考えるべきだと思う。
現在の様にTESとPCSのバランスが崩れたルールでは、選手はどうするか?
勝つためにより多くの4回転ジャンプを跳ぶだろう。
もしフィギュアスケートがアクロバット的な技術面と芸術性を兼ね備えた総合的なスポーツだと考えるなら、2つの得点の比重を同じにするべきだ。
頭脳を結集すればソリューションが見つかるはずだ。
競技を分解して完全に別の競技に改造するのは間違っていると僕は思う。
得点の比重を等しくする方法はあるはずだ。
そして演技構成点でも技術点と同じ得点を獲得出来るようになったら、選手達はそちらの道も模索するようになるだろう。

しかし、問題はこれで終わりではない。
審査を行う者はこのルールを適切に適用しなければならない。
例えば、選手が休憩が長く、振付や表現が乏しく、長い助走ばかりの4回転ジャンプが5本入ったプログラムを滑ったなら、演技構成点は内容に見合った評価でなければならない。
スケーティングスキルはスピードがあるからといって9.0を与えていい訳ではない。

F:賛成だ。

M:外部の影響がない場所で、ジャッジの講座を行い、有資格のプロフェッショナルであることを自覚させる。そしてルールに少し手を加えれば、現行の採点システムでこのまま行けると思う。
エテリ・トゥトベリーゼは少女達に4回転ジャンプを跳ばせ、数年で潰してしまうと批判する者がいるが、彼女は勝つために必要なことを指導しているだけだ。
確かに彼女の選手達は4回転ジャンプを跳ぶが、カミラ・ワリエワはスピンでもスケーティングスキルでもステップでも他の誰よりも強いのだ。

F:彼女のエッジの滑らかさ、一蹴りで進める距離は驚異的だ。

M:これはこの学校出身の全ての選手に言えることだ。もちろん、選手によって個人差はあるし、特性も異なる。
いずれにしても、どのプログラムも細部まで洗練され、衣装やメイクにもこだわり、つまり、あらゆるティテールまで磨き上げられている。客観的に見て、このような学校は他にはない。ディテールにこだわるが、決して下品にはならない。
つまり、サンボ70ではあらゆる側面に取り組んでいて、そのあらゆる側面には4回転ジャンプも含まれているのだ。

男子シングルでも状況はそれほど違わない。
ネイサン・チェンと羽生結弦を同列で語ることは絶対に出来ない。
しかし、ネイサン・チェンが羽生に勝つのは何故か?
何故なら、議論の余地のある採点システムが、この選手が例えば4回転ジャンプが1本多いという理由で羽生より高い得点を持ち帰ることを可能にしているからだ。

(欧州選手権の男子、ペア、ダンスの総括は省略)

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☆北京の女子シングルは、怪我や病気などの不慮の事態がない限り、ロシアの表彰台独占はほぼ決まりでしょうね。
日本的には3人目はリーザだった方が、銅メダルのチャンスがあったかもしれません。リーザは確かにフリー、ショート合わせて3アクセルを3本跳びますが、スピンとかトランジションとか色々穴があるので、坂本花織ちゃんのPCSとGOEが適切に評価されれば、総合力で彼女を上回れるのではないかと思っていました。樋口新葉ちゃんと河辺愛菜ちゃんも3アクセルを装備していますから、ショートとフリーで3A入りのノーミスの演技が出来れば、オリンピックだし自己ベストを大きく上回る高得点が出る可能性があります。

ワリエワとシェルバコワは高難度ジャンプに加えて、トランジションがお化けですし、トゥルソワはプログラムはスカスカですが、2度転倒してもTES90点を超えるのですから、なす術がありません・・・

しかし、今シーズンはワリエワの圧勝として、その後どのぐらいトップの君臨していられるのか?というのが問題になります。
リプニツカヤから始まり、メドヴェデワ、ザギトワ、コストルナヤ・・・どの選手も強い時は圧倒的ですが、無双時代はぜいぜい1年か2年です。
現世界女王のシェルバコワも強い意志の力で何とか持ちこたえているものの、既にピークアウトしてしまっている印象なので、来季はどうなるのか。
Rai Sportのファブリツィオ・ペドラッツィーニさんがまるでベルトコンベヤーだと言っていましたが、サンボ’70はサイクルが早過ぎて、サイボーグ製造工場のようです。
ワリエワはおそらく史上最もコンプリートな女子スケーターだと思いますが、これまでのロシアの女子選手達のようにアッと言う間に下の世代に追い抜かれ、人々の記憶に刻まれる前に消えてしまったらあまりにも残念です。

女子のGOAT候補としてよく名前が挙がるのは、キムヨナとカタリーナ・ヴィットですが、2人とも五輪2周期に渡って強かった選手です(ヴィットは五輪二連覇、キムヨナは金と銀)。
史上最年少でスーパースラムを成し遂げたザギトワの名前が上がらないのは、トップに君臨した期間が過ぎて、圧倒的な女王という印象を人々に植えつける前に消えてしまったからでしょう。同じように多くの人によってペアのGOATと見なされているエカテリーナ・ゴルデーワ/セルゲイ・グリンコフはカルガリー五輪(1988年)とリレハンメル五輪(1994年)の2大会で金メダル、アイスダンスのGOAT候補のジェーン・トービル/クリストファー・ディーンは五輪は金メダル1個銅メダル1個ですが世界選手権四連覇、テッサ・バーチュ/スコット・モイアは五輪3大会で金銀金、と長きに渡ってトップであることを示した選手ばかりです。そして、金メダルの数や戦歴だけでなく、競技を革新し、フィギュアスケート史のマイルストーンになった選手であることも重要です。

男子のGOATは言うまでもなく羽生結弦です。
おそらく2015年にフリーで200点、トータル300点の大台を超えて、採点システムも文字通り粉砕した時から
そしてこの事実を覆せる男子スケーターは二度と現れないと私は思います。

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち