Figure2u-Speciale Ghiaccioより「現行採点システムの問題点」

9月28日に放送された氷の競技を分析するポッドキャストFigure2u-Speciale Ghiaccio(アイススペシャル)より
ゲストはマッシミリアーノさんでした。
北京五輪の最終的な枠数が決定したネーベルホルン杯の話題が中心ですが、後半では現行ルールの問題点についても鋭く切り込んでいます。
羽生君の名前もチラッと出てきますので、後半(30.50から)を抜粋・要約します。


出演者
司会:フランコ・クルカージ(C)元アイスダンス選手、Figura2uディレクター、伊五輪員会役員
レギュラー:ファブリツィオ・テスタ(F)OAスポーツジャーナリスト
ゲスト:マッシミリアーノ・アンべージ(M)伊ユーロスポーツ解説者、冬季競技専門アナリスト、ジャーナリスト

F:トゥルソワはロシアのテストスケートで4回転ジャンプ5本という驚異的な構成を披露した。
これが最終的な構成なのか?それとも今後の試合を見て変更されていくのか?
君の意見では彼女にとってベストな構成は?

M:最初に強調しておくべきことは、現行の採点システムではトゥルソワが圧倒的に有利だということだ。

トゥルソワの構成で達成可能なTES最高点を僕は正確には計算していない。
何故なら怒りを覚えるからだ。彼女に対してではなく、採点システムに対して
テストスケートで披露された構成のTES満点はおそらく140点ぐらいだと思う

F:おそらくもう少し高いだろう

M:そうだろうね。ここでは140点と仮定しよう。
もし、トゥルソワが技術的に完璧なプログラムを滑ったたらTESは140点に達する。
一方で、演技構成点で到達可能な最高点が80点というのは尋常だと思う?
本来あるべき採点システムのコンパスは完全に狂ってしまっている
僕はトゥルソワがクワドを5本跳ぶことに何の異存もない。
6本でも構わない
凄いと思う。
しかし、ジャンプだけでなくそれ以外の部分も採点しなければならない。

そして、芸術性において史上最高の演技をする選手がいたら?
2017年4月1日ヘルシンキにおける羽生のホープ&レガシーを思い出して欲しい
あの演技はPCS100点に相応しかった。
しかし100点は出なかった。何故なら、フィギュアスケートには政治があり・・・あるいはジャッジの能力の問題や悪意かもしれない。
しかし、本来なら彼は100点をもらうべきだった。
技術点とのバランスを考えたら、このような演技はPCS140点であるべきだ。
何故なら到達可能なTES最高点が140点なら、到達可能なPCS最高点も140点であるべきだからだ。

トゥルソワはTES140点に達するプログラムを滑り、彼女よりコンプリートな選手達が演技構成点では最高80点しか貰えないということは(そして80点満点は絶対に出ないだろう)、トゥルソワを非常に有利にしている。
つまり、アレクサンドラ・トゥルソワは自分の運命を自分で握っている。
もしリンクに出て行って、全てのジャンプを成功させたら、誰も自分に勝てないことを彼女は知っている。
そしてここから五輪までの間、怪我をせず、国内競争に勝って五輪代表に選ばれなければならない。そして本番で全てのジャンプを降りなければならない。そして、このような構成でノーミスをするのは簡単なことではない。
テクニカルパネルにもよるだろう。
テストスケートの4フリップは回転し切って綺麗に着氷したが、踏切のエッジはインサイドではなかった。国際大会のテクニカルパネルは然るべき判定を下すかもしれない。
しかしサルコウはいいジャンプだったし、トゥループは余裕すらあった。
そして、遅かれ早かれ3アクセルも入るようになるだろう。
練習では決まっているから時間の問題だと思う。
そうすれば3アクセルはショートプログラムの武器になる。
彼女がジャンプを全て降りたら、誰も彼女には勝てない。
しかし、全てのジャンプを降りなければならないし、決して簡単なことではない。
このような構成でノーミス出来るのは10回中2回ぐらいだと僕は思う。

そしてカミラ・ワリエワは並外れた選手だ。
僕の意見ではポテンシャルにおいて、史上最もコンプリートな女子スケーターだと思う。
そして僕はロンバルディア杯を見た。本当は見たくなかったんだけれど見てしまった。
アリサ・リウはシニアデビューの国際大会でPCS33点だった。ショートプログラムの得点だ。
僕の意見ではワリエワとリウの間には5コンポーネントの各項目で平均1点の差があると思う。幾つかの項目では0.5、項目によっては1.5、だから平均すると1点。1×5コンポーネントで5点だ。
つまり、計算上、ワリエワはシニアデビューの国際大会でPCS38点を獲得しなければおかしいことになる。
このことはチャレンジャーシリーズの採点が機能していないことを物語っている。
つまり、あの大会は爆盛してくれるからという理由で出場する大会を決めるのが戦略になったら、行きつく先は何処だと思う?
ベルガモ(ロンバルディア杯)とオーベルストドルフ(ネーベルホルン杯)のリウのフリーの得点を比べて欲しい。
ベルガモでは3アクセルは明らかにダウングレードだったが判定は回転不足だった。オーベルストドルフでは回転が抜けてシングルになった。
明らかにインサイドエッジではない2本のフリップはベルガモではクリーンと判断されたが、オーベルストドルフでは正しく判定され「!」が付いた。しかし、本質的に演技の出来はほぼ同じだったにも拘わらず、この2つの大会では演技構成点に3点もの差があった。
こんなことが有りだと思う?
いや、有ってはならない。
その他のチェレンジャーシリーズの得点も省察しなければならない。
別にロンバルディア杯だけを批判している訳ではない。
全てのチェレンジャーシリーズに言えることだ。

さて、ワリエワの話に戻ると、彼女はトゥルソワを追いかけるために何をするのか?
フリーに練習ではまだそれほど確立の髙くない4サルコウを入れることだ。4Tの1本は後半に移し、プログラム構成を大きく変えることになる。
僕の知る限り、彼女は以前の構成(3アクセル+4トゥループ2本)なら安定してノーミスすることが出来る。現時点で正しい戦略を判断するのは難しい。しかし、トゥルソワがあの構成で行くなら、ハードルを上げて、基礎点で彼女に近づこうと試みなければならない。
シェルバコワについても同じことが言える。彼女は怪我で長い間離脱していたことを忘れてはならない。だから他の選手達に比べて出遅れている。現在、クワドの練習を再開したが、フリップだけで他は練習していない。彼女の武器は4フリップで、ノーミス率が非常に高い選手だ。しかし、4フリップ2本と他のクオリティを含むパッケージでクワド5本のトゥルソワに対抗しなければならない。
つまり、最初の問題は採点システムが機能していないことだ。
男子シングルでも問題は同じだ。

F:同じことがネイサン・チェンに言える訳だね

M:2つの得点の均衡が取れた公正性に基づいた完璧な採点システムなら、羽生がネイサン・チェンに負けるはずがない。
絶対に!
彼が負けることは絶対にあり得ない。
しかし、負けるのは何故か?
採点システムが機能していないからだ。

女子シングルではトゥルソワがこの採点システムの恩恵を受けている。
しかし、この問題については演技構成点の係数を変更すれば解決出来る。

一方、別の問題、ジャッジの審査の問題はどう解決する?
僕はジャッジのせいだとは言いたくない。
現在におけるジャッジの仕事は実行不可能だからだ。
スペシャリストとジャッジの目で年間5万本のプログラムを見ている僕でも、各要素について、考慮すべき全ての項目を思い出すのは困難だ。
どうやったら1人のジャッジがフリープログラムで12個の要素と5項目の演技構成点を同時に評価出来る?
無理だ
だから1人のジャッジが演技構成点で7.15、7.20、7.25という具合にいつも同じ得点を出しているのをしばしば目にするのだ。何故ならジャッジの頭の中でその数字が固定されていて、ずっとそのまま行くからだ。
この問題を解決するにはどうすればいい?
システムを根本的に変えることだ。
GOEは選択肢が少ない方がいい。
例えば転倒は常に-5
だからプラスのボタンは有効にならない。つまりジャッジはプラスボタンを押すことは出来ない。
DGのジャンプは-5からスタートし、2項目「音楽に合っている」と「独創的な入り」のプラスボタンのみが有効になり、他のプラスボタンは押すことが出来ない、という具合に。
スペシャリストはジャンプの種類だけでなく、オーバーターン、ステップアウトもコールし、そのミスの減点幅に応じて、ジャッジではなく、コンピューターが自動的に-2、-3を適用する。
例えばステップアウトの3ルッツ
回転が完全かどうかはコンピュータが判断する
回転不足のジャンプは最低でも-3からスタートし、もしステップアウトなら-3-2で-5
しかし、ジャッジが-2-3のボタンを押すのではなく、コンピュータが自動的に-5を引くのだ。
そして回転不足のジャンプがもし「音楽に合っている」「独創的な入り」などのプラス要件を満たしていたら、ジャッジは該当するプラスボタンを押すことが出来る。
「q」はジャッジの仕事を困難にするだけの存在すべきではないルールだ。
ルールではGOEでマイナスになると決められているが、プラスを付けているジャッジもいる。

ミスの種類に応じて、コンピュータが自動的に該当するマイナスを適用し、ジャッジが自由裁量で判断出来ないようにすればいい。
そうでなければ採点の信頼性が失われる
だから、賢者が介入が必要だ。ルールを今とは違う方法で適用・管理出来るシステムを構築し、競技に信頼性を与えるために。

例えばルッツとフリップはエッジの傾斜から機械が判断する。スペシャリストはステップアウトやオーバーターンをコールする。コンピュータ化されたシステムによってこうしたミスに対するマイナスはジャッジが勝手に変更出来ないようにする。
これが重要なことだ。
ジャッジに悪意があるからではない。
彼らには無理なんだ。
このことを理解し、何か手を打たなければこのスポーツに未来はない。
何故なら信頼性ゼロだからだ。
解決策は、誰か(賢者ではなく愚者だ)が提案する技術プログラムと芸術プログラムに分けることではない。技術プログラムと芸術的プログラムで一体何を見せようというのか?
現在の採点システムは正しい方法で適用すれば機能するはずなのだ。
何故、正しく適用しようとしないのか?何故?どんな理由で?誰かの利益に反する?
僕はそうは思わない
公正で聡明な人間が円卓を囲んで話し合えば解決策は見つかるはずだ。
機械が回転やエッジを判断し、コンピュータ化されたシステムが該当するマイナスを適用する。
スペシャリストはターンやハンドやステップアウトをコールし、フリップとルッツ以外のジャンプをコールする
フリッツとルッツは機械が踏切時のエッジの傾斜で判断する
これがそんなに難しいことだと思う?

C:現実はどの世界でも同じだ。
陸上の世界でも氷上と同じ問題が起こっている

M:問題を解決しようという意欲が必要なのだ。
僕はアイスリンクで育った。
人生の長い年月をアイスリンクの横で過ごした。
アイスリンクが不良だった僕を路上から拾い上げてくれたのだ。
そうでなかったら僕はゴロツキかマフィアのボスになっていただろう。
僕の気性は君達も知っているだろう?

だから僕は氷のスポーツを深く愛している。
誰かがこのスポーツのシステムを批判するのを聞くのは苦しいし、辛いんだ。
何故ならちょっと工夫すれば、このシステムは機能することを知っているからだ。
僕は大金を積まれてもジャッジはやりたくない。
何故なら、ジャッジには正しく採点するためのツールが与えられていないからだ。
普通の人間には5分程の間に12個の要素を評価するのは無理だ。
何故なら、もしある要素で何かが起こったら、その瞬間ジャッジは画面で光るボタンを見ていて、その直後の要素はちゃんと見ることが出来ない。

C:それにこのルールには状況に応じて多くのバリエーションがあるから、例えば・・・記憶力が問われる学問というと法律が思い浮かぶけれど

M:僕の専攻だ

C:法律家は六法全集を暗記して、更に凡例まで頭に入れないといけないけれど、それに近いものがあるね。しかも短時間で素早く評価しなければならないから、人間の能力の限界という意味において本当に難しい。

M:ジャッジは1人で12要素+5コンポーネントの17項目を評価しなければならない。
画面とボタンを睨みながら

C:しかも4分ほどで驚異的なリズムで採点しなければならない
25人目とか26人目の選手がリンクに降りる頃には頭は沸騰している

M:だから僕はネットで頻繁に見かけるように、ジャッジを悪だと糾弾したくはない。
現在、彼らには最善の方法で仕事をするためのツールがない。

だからどうすれば良いのか?
何度も言っているように、ジャッジの権限を削げばいい。
すなわち、彼らが自由裁量で採点出来る範囲を減らせばいいのだ。
例えば考慮しなければならない要件が10項目ではなく、6項目、あるいは2項目になったら、より正確に評価出来るようになる。
オーバーターンやステップアウトによるマイナスは固定にし、機械が自動的にマイナスする。
ではジャッジは何を判断するのか?
リンクを半周回って助走に10秒かかったルッツはマイナスとか
ジャッジが判断する要素を減らせば、採点はより楽になり、精度は上がるはずだ。
勿論、美しいジャンプはジャッジが判断してプラスを与える。
それも簡単ではないけれど、少なくともマイナス項目を機械が自動的に減点してくれれば、ジャッジの負担は減るはずだ。
そして誰に対しても公正に同じ減点が適用される
例えば、ショートプログラムの3Lz-1Tは全て-5のはずだが、時々-4を見かける。
明らかに押し間違いだろうが、こういうミスは起こらなくなる。
機械が自動的に-5と入力し、ジャッジがプラスボタンを何度押そうと得点に反映されなくなる。

これがやるべきことだ。
採点を簡略化するソフトウェアを構築し、転倒やダウングレードのようなジャンプではプラスボタンが無効になるようにする。
ジャッジ達の仕事は楽になる。そして、ジャッジ達はもはや両足滑走か片足滑走かは見なくなったという声があるが、当然のことだ。12個もあるエレメントの評価に忙しい彼らには、そのスケーターが片足で滑っているどうかまで見る余裕はない。
例えば、最初から最後まで両足で滑っている選手は、勿論その両足で何をやっているのか見なければならないが、ずっとクロスオーバーなら・・・クロスオーバーはトランジションではない、それは分かるよね?
つまりずっとクロスオーバーで漕いでいる選手はスケーティングスキルとトランジションの評価が低くなければならない。
勿論、両足でクロスオーバー以外のことをやっていれば話は違う。
いずれにしても、方向転換の多さ、ステップの質、エッジの深さ、片足滑走の頻度、滑らかさは、見ればすぐに分かる明らかな特徴だ。
しかし、エレメントを採点するために幾つもの項目を気にしながら画面に集中していたら、スケーティングのクオリティに気付くことが出来る?
悪意ではない
少なくとも何人かのジャッジは
この点については僕は掘り下げないし、掘り下げたくもない。
ジャッジの仕事が難し過ぎるのだ。

ファブリツィオの最初の質問に答えたなかったね。
僕には答えは分からない。
正直、アレクサンドラ・トゥルソワにとってどの構成がベストなのか、現時点では僕には分からない。
何故なら様々な要因によって変わるからだ。
最も大きな要因はライバル達だ
今後、3ヵ月間に試合で起こることを見なければならない。

僕には答えは分からない。
唯一確かなことは、もし彼女が5本全てのクワドを成功させたら、金メダルは彼女が持ち帰るということだ。
この点については大きな疑問はない
成功させたら、だ
つまり、全てのジャンプを正しいエッジで踏切り、回り切って綺麗に着氷したら、彼女はどうやっても負けようがない。
しかし、彼女はコンプリートな選手か?と訊かれたら、僕の答えは「ノー」だ。
同じリンクで練習するワリエワ、シェルバコワ、コストルナヤ、フロミフ、ウサチュワの中で最もコンプリートではないのが彼女だ。
しかし、現在のフィギュアスケートのルールでは、コンプリートであることは重要ではない。
ただジャンプを跳びまくる選手が勝つのだ。

この意味で、男子シングルにはイルミナート(救世主になり得る光明)が存在する。
だから僕は答えがないと言ったのだ。

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☆ほんの一部だけ訳すつもりが、マッシミリアーノさんのあまりに熱い語りに引き込まれ、最終的にほとんど全部訳してしまいました。

マッシさんは理想主義者ですね。
羽生結弦は彼が思い描く理想のフィギュアスケートそのものなのだと思います。

久しぶりに見たくなりました・・・
2017年ヘルシンキ世界選手権のホープ&レガシー
マッシさんのすすり泣きをバックグラウンドに・・・

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち