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Genetykaより「氷、寒さ、喘息」【追記あり】

ポーランドの科学専門誌「Genetyka」(「遺伝学」という意味です)に掲載された喘息に関する記事に羽生君が写真入りで登場!

筆者と編集者の承諾を得て翻訳させて頂きます。

(一番下に追記があります)

Genetykaデジタル版原文>>

Dr. Ewa Krawczyk著(2020年6月29日)

アスリートの中で最も美しい喘息患者であり、喘息患者の中で最も並外れた(そして最も美しい)アスリート。

彼のファンとライバル達からはただ「GOAT」と呼ばれています。
The G reatest Men’s singles Skater Of All Time: 史上最高の男子スケーター
彼を知る者は彼を称賛し、彼を知らない者は知らないことに泣くでしょう。

自身の病気について彼はこう語っています:

「それは苦痛です。痛くて息が出来なくなります。僕は2歳の時から喘息持ちですが、発作が起こり、特に主要大会の前に起きると深刻です。しかしながら、喘息に苦しむアスリート達を代表して言わせて頂くと、これは僕達にとっては普通のことなのです。喘息と共存する、ただそれだけです。喘息はトレーニングの障害ではありません。僕は問題が起こった時に使用できる吸入器(気管支拡張薬付き)を常時携帯しています」

GOATは、吸入する空気を少し温め、保湿するのに役立つ、喘息患者に推奨されるマスクも着用しています。

GOATは自分が何を言い、何をしているのか知っています。

氷との密な接触(下の写真を見て下さい。この息を呑むほど美しい彼の写真をこの記事のために使用することを快諾して下さった素晴らしいAprilripplingさんに心から感謝します!)。

芸術的な美しい写真です。
掲載元:https://genetyka.bio/lod-chlod-i-astma/からご覧下さい

これはリスクです。

ウィンタースポーツ選手の喘息がよくあることは大分以前から知られています。
冷たく乾燥した空気は、特に活発で激しい運動エクササイズ中、発作を引き起こす要因になります。
従って、屋外で競技するスキー選手の方がアイスホッケーの選手やスケーターに比べて喘息の要因により晒されていると言えます。

しかしながら、スケーターは毎日、長時間に渡って冷たく乾燥した空気を吸入するだけでなく、汚染された空気にも晒されています。
これは氷を掃除して表面を滑らかに整える素晴らしい機械(発明者に因んで親しみを込めてザンボーニと呼ばれています)のせいでもあります。特にこの整氷車がディーゼル燃料タイプで、作業中に一酸化炭素と二酸化窒素を放出する場合、屋内スケートリンクに充満している乾燥した冷たい空気と合わさって、運動によって誘発される気管支痙攣の発生を促進する可能性があります。

写真ではGOATが彼のエキシビションのハイライト、ハイドロブレーディングを実施しています。
彼以外でこのエレメントをこんな風に実施する人は誰もいません。
(この素晴らしい写真の撮影者であるAprilripplingさんに感謝します!)

 

喘息は、世界で最も一般的な非伝染性疾患の1つです。 WHOはよれば、世界中で3億3,900万人以上が喘息を患っていると推定しまいます。

喘息の症状は、発作の繰り返しであり、呼吸困難、息切れ、異常な呼吸音(喘鳴)、胸部圧迫感、咳が特徴です。

喘息発作の間、気管支平滑筋の収縮によって気管支収縮が起こり、特に炎症性細胞の蓄積、及び気管支の内腔における粘液の蓄積による気管支粘膜の腫れは気道狭窄を引き起こします。

 

要因

遺伝的(素因)要因と環境的要因の複雑な組み合わせが、喘息を発症するリスクの原因であると考えられています。

近年、GWAS(ゲノムワイド関連解析)のおかげで、炎症過程(ORMDL3-GSDMB)の制御または抗原提示(HLA-DR / DQ)に関与する遺伝子に含まれる一塩基多型(SNP)の存在を特定し、喘息との関連性を確認することが可能になりました。

 

しかしながら、研究結果は予想ほど理論を裏付けておらず、嘆息発症におけるSNPの役割は疑われていたほど重要ではないと見なされることになりました。

また、世界の喘息症例数は近年急速に増加しているため、専門家はこの現象を説明できる、これまでになかった要因はエピジェネティックな要因であると結論付けています。

数年に渡って実施された研究の目的は、喘息の診断と予後、外来診療所における臨床検査の使用によって、過剰な粘液分泌または妊娠中におけるタバコ煙への曝露といった後成的修飾の潜在的関係を調べることでした。

喘息の病因とその複雑性に影響を与えると思われるエピジェネティックのメカニズムは、 DNAメチル化(高メチル化と低メチル化の両方)、ヒストン修飾、およびマイクロRNAを介した遺伝子サイレンシングです。 DNAメチル化は、喘息の分野で最も研究されています。これまでに、この種の後成的修飾が観察されている多くの遺伝子が同定されています(特に免疫系の細胞だけでなく呼吸器系の様々な部分の上皮細胞も)。

例として口腔上皮細胞のARG1とARG2、気管支上皮細胞のADAM33、KRT5、CRIP1、Tリンパ球のIFN-γ(高メチル化)とIL4(低メチル化)が挙げられますが、他にも多くの例があります。

喘息のエピジェネティクス研究者は、これらのメカニズムが遺伝学と環境の間の「境界面」で機能していることに気づき、喘息発症に関連する多くの問題をはっきりと説明しています。

勿論、まだ回答より疑問の方が多いですが、特にバイオマーカーの検出方法と喘息の治療に関して、更なる研究がこれらの回答をもたらすことが期待されます。

 

文献:

Bae D-J et al. Epigenetic Changes in Asthma: Role of DNA CpG Methylation. Tuberc Respir Dis 2020; 83: 1-13

Fang L et al. Immunologic and Non-Immunologic Mechanisms Leading to Airway Remodeling in Asthma. Int J Mol Sci 2020; 21: 757

Gomez JL. Epigenetics in Asthma. Current Allergy and Asthma Reports 2019; 19: 56

Hudon Thibeault A-A, Laprise C. Cell-Specific DNA Methylation Signatures in Asthma. Genes 2019; 10: 932

Mannix et al. Exercise-Induced Asthma in Figure Skaters. Chest 1996; 109: 312-315

Miller RL, Ho S. Environmental Epigenetics and Asthma. Current Concepts and Call for Studies. Am J Respir Crit Care Med 2008; 177: 567-573

Pelham TW et al. Exposure to carbon monoxide and nitrogen dioxide in enclosed ice arenas. Occup Environ Med 2002; 59: 224-233

Rundell KW, Sue-Chu M. Air Quality and Exercise-Induced Bronchoconstriction in Elite Athletes. Immunol Allergy Clin N Am 2013; 33: 409-421

Sue-Chu M. Winter sports athletes: long-term effects of cold air exposure. Br J Sports Med 2012; 46: 397-401

 

著者プロフィール

Dr. Ewa Krawczyk(エワ・クロチク博士)
ワルシャワ出身の生物学者、ウィルス学者、医学博士、医学微生物学専門家、国際感染症学会会員。

ポーランドのワルシャワユニヴェルシテット大学、及びワルシャワ医科大学を卒業し、動物発生学と微生物学の修士号及び博士号を取得。 実験的血液学、実験的神経内分泌学、医学的微生物学およびウイルス学(抗ウイルス化合物を含む)、細胞生物学および癌生物学を含む医学生物学など幅広い分野で専門知識と経験を培う。
ウィルスの研究のために渡米。
ワシントンのジョージタウン大学助教授、及び著名なNCI指定がんセンターであるジョージタウンロンバーディ総合がんセンターに勤務。
現在、癌の生物学、特に細胞の不死化と腫瘍形成のメカニズムに焦点を当てた研究を行っている。

共著書:
「ペテン師に騙されてはいけない。 健康に関する科学の声を聞いて下さい! 」 (Pascal Publishing House, 2019)
「健康。Krytyka Polityczna(政治批評)の案内 」(Krytyka Polityczna、2012年)
ブログ Sporothrix (https://sporothrix.wordpress.com)の著者

 

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ポーランドというとフレデリック・ショパンの母国です。
そしてポーランドの科学者というと、真っ先にラジウムを発見したキューリー夫人が思い浮かびます。
とはいうものの、ポーランドはヨーロッパ諸国の中では日本と馴染みの薄いイメージでした。

その遠く離れた異国の科学者が、全く畑違いの学術誌の中で取り上げるとは・・・分野や国境と言った垣根は全く存在しないのですね。

編集者から翻訳許可を取って頂くに際して、筆者のエワ・クロチク博士から記事執筆のいきさつを伺いました。

彼女は特にフィギュアスケートのファンではないそうですが、羽生君のことは平昌オリンピックで見ていたそうです。

科学者であり科学コミュニケーターでもあるクロチク博士は、エピジェネティクスと喘息に関する一般向けの記事を書きたいと思い、羽生結弦が喘息持ちであることを知っていたので、まず後成的修飾について調べ、次にアスリート(特にスケーター)の喘息について考察し、「最終的にユヅの素晴らしい動画と美しい写真から目を離すことが出来なくなってしまった」そうなのですw

沼の入口はあらゆるところに開いているのですね。

喘息の研究が入口になるとは!

 

以前翻訳した記事「日出る国から来たラファエロ:羽生結弦」の一節を思い出しました。

彼が自分の技術の中に適用する「次元」は、そのあまりにも破壊力の凄まじい美しさによって、彼を見るためにちょっと立ち止まった人を誰でも、それが一瞬、目に入っただけであったとしても、開いた口が塞がらない状態にしてしまう・・・

まさに・・・

個人的に遺伝学は興味を持っている分野ですので、喘息発症における内的要因(遺伝)と外的要因(環境)の話は非常に面白いと思いました。

 

◆追記◆

当ブログの翻訳記事を見たエワ・クロチク博士から以下のようなメッセージを頂きました:

「ありがとう!全てが素晴らしく見えます。あなたが記事を気に入ってくれて嬉しいです。あなたから翻訳したいと言われて本当に感動しました。私の記事がこのように素晴らしい読者(勿論、この中には結弦のファンも含まれています)に興味を持ってもらえるとは思っていませんでした。記事を翻訳してくれて本当にありがとう。この困難な時期、あなたが健康で安全でいられることを願っています」

こちらこそ、素晴らしい記事を翻訳・共有させて頂けて光栄でした!

この記事を最初に読んだのは数週間前のことです。

国も分野も異なる科学者が、研究テーマの中で羽生君の美しさについて語っていることに感動し、すぐに翻訳したいと思いましたが、筆者があまりにもすごい経歴の方なので、私などが気安く連絡してよいものかとためらいました。

でも私自身、弟が喘息で、幼い頃によく発作を起こしていたのを見ていましたし、夫も喘息持ちですので(成長と共に改善したそうですが、今でも特定の物質が含まれる閉鎖された空間に長時間いると発作を起こすことがあります)、喘息発症における遺伝的要因と外的要因について考察した内容は興味深く、やはり翻訳したいと思い、連絡してみることにしました。

エワ博士はこんなに凄い方なのに、とても親切で謙虚な方で、「とても光栄で嬉しいこと」とすぐに編集者に掛け合って正式に許可を取って下さり、逆に翻訳することをとても感謝されました。

ウィルスを研究されており、ブログSporothrixを読ませて頂いたところ、最近コロナウィルスに関する著書も出されています。
きっと新型コロナウィルスから世界を救うために戦っている研究者のおひとりなのですね!

普段の生活では絶対に接点がないような、国籍も専門も異なるこのような素晴らしい方と羽生君がきっかけで繋がり、何かを共有出来たことは本当に素晴らしい貴重な体験でした。

 

Droga Ewa

Dziękuję za wspaniały artykuł!
Jestem bardzo wzruszony i zaszczycony, że mogłem to przetłumaczyć i udostępnić! ♥

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち