Neveitaliaポッドキャスト「羽生結弦? What else!(その3~最終回)」

マッシミリアーノさんのフィギュアスケート専用ポッドキャスト『Tutti con Ambesi』から
前回の続き、最終回です。

翻訳は抜粋・一部要約です。

podcast5

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出演

マッシミリアーノ・アンベージ(イタリア・ユロスポ実況/コラムニスト)
アンジェロ・ドルフィーニ(元フィギュアスケート選手で元イタリア・ナショナルチャンピョン、イタリア・ユロスポ解説)

マ:僕が驚愕したのは彼のこの競技に対する知識の深さだ。
フィギュアスケートの選手が皆そうかというと、決してそうではない。

各時代に多くの国の多くの選手が存在していて、その歴史を全てを把握するのは難しい。
でも、彼は2002年のオリンピックの数字すらも記憶している。
彼は当時何歳だった?

ア:さあ・・・3歳?4歳?

マ:いや、もうちょっと上だよ、アンジェロ!

ア:彼は94年生まれだから8歳か

マ:その通り。まだ幼い子供で、おそらくまだ自分の将来がどうなるか知らなかっただろう。

でもこの競技を深く理解していれば、プログラムをこの場合、芸術的な意味ではなく、戦略的な意味でどのように滑ればいいか判断することが出来る。

勿論、実際にはコーチ達がこの戦略にブレーキをかけるけれど、彼は勝つために何が必要かを知っている。
彼はいつでも勝つのが大好きだからね。
でも彼は自分の思い描くプログラムを完璧に滑り切ることが出来たら、例え2位でも優勝と同じぐらい嬉しいのではないかと僕は思う。

しかしながら他のほとんどの選手がそんな風には考えない。

ア:でも超一流の選手達はこのようなアプローチをする。
カール・ルイスもこのような方法で競技にアプローチしていて、他の選手とではなく、自分自身と戦っていた。

一種傲慢とも思えるような考え方だけれど、実際に40~50点差で圧勝する羽生が言うと説得力がある。
でもまさにこのアプローチによって、彼らは圧倒的レベルに到達することが出来るのだ。

彼らの注意、集中力、精神と身体といった全パッケージがたった一点、つまり彼らが達成しなければならない目標にフォーカスされている。
僕達が話しているのは圧倒的な実力を誇る傑出した選手達だ。

いずれにしても、羽生がジン・ボーヤンやパトリック・チャンや他の選手の演技を変えることは出来ないし、彼に出来ることは、自分の実力を最大限に発揮することに集中することだ。

そして、それが出来た時、あのような結果が生まれるわけで、彼はずっとこの方向性で行くべきだ。

勿論、誰もが出来るアプローチではないけれど、羽生のような選手には大きな結果をもたらすことの出来るアプローチ方法だ。

マ:フリーで獲得した13個の10点満点は多大な達成感を与える結果だっただろう。
実際、男子シングルの第一級レベルの大会でこのほど多くの10点を見たのは初めてだった。

重箱の隅をつついてみる?

唯一の粗を探すとすれば、ショートの演技構成点だけはパトリック・チャンの持つ歴代最高記録を上回れなかったことだ。
NHK杯で更新されなかった唯一の記録がショートのPCSだった。

彼はこの得点も上回れることが出来るか?
どうなるか見てみよう。

でもこのプログラムは元々ジャンプ要素を後半に2つ入れる構成で考案されていた。
それがジャンプ構成を変更したために、振り付けを大幅に変更することになった。

勿論、彼はプログラムの余白を豊かなトランジションで埋めることに長けていて、僅か1か月足らずで新しい振付けのプログラムを完璧に仕上げてきた。

4トゥループ/3トゥループのコンビネーションは複雑なステップシークエンスから跳んでいる。
ルールではコンビネーションジャンプの前にステップを入れる必要はないのに。
転倒したら、40メートルの助走から跳ぶジャンプと同じマイナス4を食らうにも関わらず、彼はこういう跳び方をする。

だから振付けの観点からこのショートプログラムにはまだ改善の余地があると思う。
そうすれば更に10点が増えるだろう。

このプログラムでこれ以上どこをどう改善出来るのか、分からないけれど、更なる完璧を追及出来る唯一の隙間があるとすれば、ここにある。

彼はそれを知っている。だからこそ、ジャーナリストの前でまだ満足していないと発言したのだ。

ア:僕達はこれまでのポッドキャストで何度か結弦とパトリック・チャンの演技構成点を比較して議論してきた。そして結弦の方が優れている点、パトリック・チャンの方が優れている点を考察・分析した。

例えば羽生のTransition / Linking Footworkが9点以下というのは、あり得ない。でもそれ以外の項目に関しては、主観が入る得点でもあるし、演技の出来によって変わってくる。

いずれにしても、4回転ジャンプ2本+3アクセルの構成で結弦のために考案されたこのショートプログラムは、非常に高難度だ。

4回転ジャンプ2本+3アクセルの構成は現在可能な最高難度のジャンプ構成だろう。
勿論、ジン・ボーヤンの方が難しい4回転ジャンプを入れているけれど、いずれにしても4回転ジャンプ2本+3アクセルであることに変わりはないし、結弦よりもトランジションの濃いプログラムを滑る選手は存在しない。

それどころか、事実を言えば、ジャンプ構成がもっと簡単なプログラムを滑る選手よりも結弦の方がトランジションが多い。

マ:唯一の例外はジェーソン・ブラウンだろう。

ア:そうだね。ジェーソン・ブラウンは唯一例外だろう。でも3アクセルの前のトランジションはシンプルだけれど、それ以外は君の言う通りだ。

マ:今後の展望だけれど、1週間後、彼は4トゥループのコンビネーションを後半に移動してくると思う?

ア:さあ・・・・(笑)でも今は変更しない方がいいだろう。

マ:でも僕は彼が独断で決められるなら、コンボを後半に移したと思うよ。

ジェフリー・バトルが当初、彼のために考案した振付けに戻ることになる。

まずイーグル4Sイーグルを跳び、スピン2本、4トゥループ/3トゥループ、そしてルッツのところで3アクセルを入れるのは彼にとっては朝飯前だろう。

でも幸運なことに、彼の傍には彼を息子のように思っているコーチ、つまりブライアン・オーサーが付いているから、結果を第一に考えて無謀なことをするなと賢明なアドバイスをするだろう。

ア:それに失敗のリスクが高くなって、スケートカナダで起こったように106点ではなく74点を持ち帰る羽目になりかねない(笑)

マ:でも彼は「いい演技が出来て嬉しいけれど、もっと進化出来る」と発言した。
つまり、彼の念頭にこのアイデアがあるのは明らかだ。

フリーでは、短期間でこれ以上構成を上げられる方法を予想するのは難しい。
勿論、先ほど言ったように刺激的な4ループを導入するという案がある。

それに、もし4ループを決めれば史上初になる。
これまでに、4回転のトゥループ、サルコウ、ルッツを決めた選手は存在するが、フリップとループを完全に回り切った選手はいない。勿論4アクセルも。でもこれはサイエンスファンタジーの先を行くジャンプだ。

4ループに挑戦することは彼にとってたまらない魅力だろう。
今シーズン、フリープログラムに4ループを入れている選手がいる。
ロシア出身のアメリカの選手、アレクセイ・クラスノジョンだ。
練習では決めているが、試合ではまだ回転が認定されていない。
でも成功するのは時間の問題だ。

彼のことは羽生の耳にも入っているだろうから、きっと挑戦したくてウズウズしていることだろう。
彼がいつ4ループを入れてくるか見てみよう。
入れるとしたら3フリップの場所だろう。
得点は5.3から12点に増える。

ア:驚異的だ・・・(笑)
確かに4ループを成功させた選手は未だかつて存在しない。
挑戦した選手はいるけれど、認定されたことはなかった。
僕達はエキシビションや夏のショーで羽生が4ループを完璧に決めるのを何度も見ている。
時には後に3アクセルを付けて。

4ループを着氷して振り返って3アクセル、まるで平凡な遊びをしているように(笑)
だからエキシビションでは彼が既に成功させているジャンプだ。

マ:しかも難しい入り方から

ア:でも既に4回転ジャンプ3本、3アクセル3本が組み込まれたプログラムにこのジャンプを挿入するとなると、それなりの時間がかかる。まさに肉体の限界を越える高難度プログラムに達しようとしている。

マ:エキシやショーは、彼の頭にあるアイデアを読み取る貴重なチャンスだ。
今までにも何度かあったけれど、顕著だったのがスケートカナダだった。

エキシの練習中、結弦は何もない所から不意にイーグル4Sイーグルを跳び、何事もなかったように涼しい顔をして笑って見せた。

その場面を見た多くの人が『彼が一体何をするつもりか注意した方がいい』と思った。

そしてNHK杯の2日前、ショートプログラムの構成を変更したことが分かった。
その前から噂は飛び交っていたけれど、皆『いくらなんでも・・・まさか』と信じていなかった。
でも試合の1日半前、彼はショートプログラムを4回転ジャンプ2本にしたと発表した。
このNHK杯では実に4人もの選手が4回転ジャンプを2本入れたショートプログラムに挑み、3人が回り切った。
こんなことは史上初めてだ。

ア:確かに、開催前から技術レベルにおいて期待値の高い大会だった。そして最終的に圧巻の神大会になった。

多くの選手が非常に高難度な構成に挑んだ。勿論、ブレジナ、コフトゥン、メンショフは予定していたジャンプが決まらなかったが、いずれにしてもこの大会は男子シングルの高難度化を象徴する大会だった。

そしてその中心にいるのが皆とは別次元で競技する結弦羽生だ。

マ:ジン・ボーヤンは演技構成面において中国杯に比べると断然良くなった。

彼自身、中国杯のプレカンで演技構成点も伸ばしていかなければいけないと発言していたが、今回のフリープログラムではスピードとスケーティングの滑らかさが向上し、中国杯に比べるとトランジションも多少は盛り込まれていた。
この調子で行けば、演技構成点で80点を獲得する日もそう遠くはない。

そうなると、羽生結弦は別格として、ハビエル・フェルナンデスやデニス・テン、本調子ではないパトリック・チャンにとって脅威の相手になる。その他の選手達は既に彼の下だ。

ジン・ボーヤンはこれまでジャンプにミスがあっても、常に90点を超えるTESを獲得している。全てのジャンプを成功させたら、おそらくTES110以上は出るだろう。

彼のジャンプは、+2または+3に値する4ルッツは別として羽生結弦に比べるとGOEが付きにくい。
これは彼のジャンプがGOEプラスの基準となる条件をあまり満たしていないからだ。

ア:4ルッツはショート、フリー共に流れ、高さ、幅、スピード、いずれも非の打ちどころのないジャンプだったから+2、+3の評価は妥当だし、実際にほとんどのジャッジが+2を付けていて、中には+3を出したジャッジもいた。

羽生は現時点ではクオリティにおいて彼を上回っていて、全てのジャンプを難しいステップやトランジションから跳んでいるのでより高い評価を得ることが出来る。特にショートの方が。

フリーでも全てのジャンプを難しい跳び方から跳んでいる。唯一の例外が最初の3アクセルだが、これは後半4Tのコンビネーションが4T/2Tになった場合、3A/3Tを跳べるようにするためだろう。

マ:彼は4Tの出来に応じて3Tを付けるか2Tを付けるか決めるんだろう。このように臨機応変に構成を変えることが出来るのも、この選手の大きなアドバンテージだ。

爆発的な技術的進化に伴って発生したこの採点システムの問題を多くの関係者が指摘している。既に幾つかの解決案が提案されている。

僕が一番気に入らない案はショートプログラムをクワド無しにする、あるいはフリーの4回転ジャンプを2本までに制限するという案で、僕なら問答無用で却下する。

僕が思うに演技構成点の係数を変更すべきだと思う。
つまり、演技構成点の満点を今までの100点から120点にする。
例えば全項目で10点満点を獲得したら今まで100点になったのが120点になる。

こうすれば演技構成点と、進化した技術点とのバランスは適切になる。おそらくこれが最も理にかなった、皆が納得する改正案だと思う。

いずれにしても勝つ選手は変わらないから結果は変わらない。
もしかしたらジェーソン・ブラウンは順位を0.5位上げるかもしれないけれど、1,2,3位は現行ルールのメンバーと同じだろう。

何故なら羽生、チャン、フェルナンデス、テンという全てを兼ね備えたコンプリートな選手達だからだ。
問題は羽生結弦のような超常現象によって現在の採点システムが揺るがされたことだ。

僕はイタリアを代表するコーチで専門家のロレンツォ・マグリの言葉を思い出す。
数年前、ミラノで行われたイタリア選手権の開催中、彼はこう言ったのだ。

「見ていてご覧、結弦はいずれルールを変えるから」

その時は本気にしなかったけれど、彼のこの言葉は僕の脳裏を何度もよぎった。
そして今、彼が正しかったことが証明されようとしている。
おそらく、彼は誰よりも早くこの状況を予見していたのだろう。

2018年のオリンピックの後、間違いなくルールは改正される。最も現実的な改正案は先ほど言ったように演技構成点の係数を高くすることだ。

言っておくけれど、そうなったら羽生はTES120+PCS110を獲得するだろう。PCS115とか。
彼のような選手には何も変わらない。
でもジン・ボーヤンのような選手にとっては不利になる。

これが技術点と芸術性その他を評価する演技構成点から成る得点に信頼性を与える最善の方法だろう。
『芸術性その他』と言ったのは、未だに『演技構成点=感動の度合い』だと勘違いしている連中がいるからだ。実際の演技構成点とは全く別の物だ。
感動だけを求めるならオペラ・オン・アイスとかアイスショーに行けばいい。

勿論、競技でも感動はある。
羽生結弦は全世界を感動させた。

でも注意して欲しいのは、女子シングルではこのような問題は発生していない。
女子の演技構成点の満点は80点だが、技術点で80点に達した選手は未だかつて存在しない。
女子も4回転ジャンプを跳び出したら同じような問題が出てくるのかもしれない。

アイスダンスとペアでも採点システムの均衡が崩れるリスクはない。
つまり、採点システムを是正するとしたら男子シングルのみになるだろう。

多くのエレメンツが、他のカテゴリーと共通しているので、個々のエレメンツの基礎点を変更するということはしないと思う。

4回転ジャンプの数を制限すると言う案はもっと馬鹿げている。
これらを考慮すると演技構成点の係数を変更するというソリューションが一番妥当だと思う。

ア:僕はジャッジとこの話題について話す機会があったけれど、この採点システムの問題は羽生よりもむしろ、ジン・ボーヤンにある。

例えば、ジャッジがある試合でパトリック・チャンやデニス・テンの演技の方が総合的に優れている、彼らを勝たせたいと思っても、ジン・ボーヤンが技術点で120点(技術点120点は彼のポテンシャルだ)を出した場合、現在の採点システムではジン・ボーヤンが勝ってしまう。ジャッジがデニス・テンの演技の方がどんなに優れていると判断しても、彼を勝たせる手段がない。

羽生は演技構成点も技術点も共に傑出しているからこういう問題は起こらない。

つまり、ジャッジが評価基準をどこに置きたいか、どういう演技、プログラムが評価されるようにしたいか、ということがコンセプトなのだ。

4回転ジャンプの数を制限すると言う案には僕も賛成出来ない。
それでは競技の進化にブレーキをかけることになるし、競技をリスクに晒す可能性がある。時代は高難度化に向かっていて、もはや後戻りは出来ない。

ここでマキシム・トランコフが投げかけたペアの高難度化、4回転スロージャンプのリスクと振付けとの互換性に関する議論、プルシェンコ/ヤグディン時代と現在のフィギュアスケートの違い(当時は前半の2分間にほとんどのジャンプを固めていて振付けも全く異なっていた、ステップやスピンも今よりずっとシンプルで全く別のスポーツだった)について議論

マ:ヤグディンの名前が出たけれど、ヤグディンと言えば、自動的にオリンピックで金メダルを獲得したプログラム『ウィンター』が思い浮かぶ。
多くの人がこの競技のマイルストーンとなったプログラムと言っている。
おそらく彼らの意見は正しいのだろう。

このプログラムと先日の羽生のプログラム以外で、フィギュアスケート史においてこれほど重要な意味を持つプログラムを僕は他に思いつかない。

ア:いわゆる『時代を切り開いたプログラム』だね。

そうだね、これ以外で僕の記憶に残っているプログラムは、男子シングルに限定すると、1988年のボイタノのフリー、それから当時の振付けを反映した演技という意味で記憶に残っているのがブラウニングの『カサブランカ』、だから1993年の世界選手権。更に時代を遡るけれど84年のオーサーのフリー。優勝出来なかったけれど、芸術的にも技術的にも非常にハイレベルなプログラムだった。

以上だね。僕的には他に付け加えられるプログラムはない。

~完~

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この後、ファイナルの予想(男子シングルの優勝候補は羽生結弦。優勝すれば史上初のファイナル3連覇になる。それ以外のカテゴリーは男子ほど圧倒的に突出している選手がいないので予想は難しい。女子シングルはポテンシャルならゴールド。でもゴールドはSPとFSを揃えられたことが今まで1度もない。安定感ならメドベデワとラジオノワ、浅田が優勝すれば史上最多の5勝目になる)、NHK杯の他のカテゴリーの結果と考察、ワルシャワ杯におけるイタリア選手の結果について話していますが、これ以上翻訳するのは無理なので省略します。ごめんなさい・・・

ロレンツォ・マグリさんはスケカナの完璧だった公式練習を見て、FBのコメントで「これはもう『Senior Men』の上に『HANYU Men』という新しいカテゴリーを作るべきだ」と言っていました。

確かに・・・ここまで点差が開くと別カテゴリーの競技のようですね。

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