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OA Sportより「羽生の五輪プログラムが戻ってきた~四大陸選手権2020の印象」

訳すのが遅くなってしまいましたが、四大陸選手権の翌週にイタリアスポーツメディア、OA Sportに掲載された大会総括記事です。

原文>>

羽生の五輪プログラムが戻ってきた。
ユと鍵山の躍進。
四大陸選手権2020の印象

ファブリツィオ・テスタ(2020年2月10日)

 

リーダ―シップの証明、そして躍進する2つの新らたな才能の確認。
これが韓国ソウルの木洞アイスリンクで先週行われた第21回四大陸選手権を重要な大会にした特徴である。
世界中の注目は自身のショーケースに欠けていた最後のタイトルを獲得した羽生結弦に注がれた。
羽生は2年半ぶりに2017/2018年シーズンの2つの五輪プログラムを披露し、相反する感情を生み出した。

エイリアンは幾つかの変更(冒頭は4サルコウだが、ボーナスエリアのジャンプを4トゥループ/3トゥループではなく3アクセルに変更した)を行ったショートプログラムでは圧倒的な説得力を見せつけた。
パフォーマンスの音楽、すなわちフレデリック・ショパン作曲のバラード第1B番OP.23ト短調はスケーターの特徴に完璧にハマっており、この曲は滑らかさ、流麗さ、脚の非常にしなやかな伸縮、見事なエッジワークといった彼の特長を際立たせていた。
111.82点に達してショートプログラムの世界最高得点を更新し、シーズン途中で曲を変更するという選択が吉と出たことを証明した。

一方、フリープログラムについて評価を下すのはより難しく、まだ滑り込みが足りないことは明らかである。
ショートプログラム同様、『SEIMEI』の選曲は日本の選手により心の平安を与えていることは間違いないが、幾つかのミスがあった。おそらく最適な状態ではなかった氷の状態が原因だったのだろう。
シーズン前半と違って、オリンピックチャンピオンは最初のエレメントとして4ルッを入れ、続いて4サルコウ、3アクセル、3フリップ(カナダの世界選手権では間違いなく4フリップになるだろうが、今回はわざと3回転にした)、後半のボーナスエリアでは2本の4トゥループ、そして2本目の3アクセルを3トゥループとのコンビネーションで跳んだ。
まとめると、曲を変更しても羽生にとっての脅威は同じであり、たった一つしかない。
つまり『疲労』だけだ。

このような理由から、世界選手権までの1か月間、彼とそのスタッフは、可能な限りエネルギーを節約して滑る方法を模索しなければならない。
当然のことながら、この見事な振付の価値を少しも落とさずにである。

男子シングルの話題に留まるなら、日本スケート界で急上昇中の才能、鍵山優真の重要なパフォーマンスに触れないわけにはいかない。4トゥループ2本、3アクセル2本で飾られた、コンポーネンツにおける『skating skills』と『transition』でクオリティが光るフリープログラムで観客とジャッジを説得し、国際大会におけるシニアデビューで3位に入った。

女子シングルも日本が制した。
紀平梨花がフリーでは3アクセルが1本抜けたにも拘わらず圧勝し、あっさり大会二連覇を果たした。
西宮出身の選手にとって大きな収穫だったのは3ルッツという重要なジャンプを完全に取り戻し、どちらのプログラムでも完璧に実施したことである。
このジャンプの復活によって、ロシアの規格外の選手達との非常に困難な世界タイトル争いに彼女も名乗りを上げた。

男子シングルと同様、女子の試合でも真の新星誕生に立ち会った。開催国の選手で急成長中の才能、ユヨンは3アクセルのような高難度ジャンプがもはや安定し、表現力も進化していることを示した。

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☆さすがに3フリップが4フリップになることはないと思うのですが😅・・・
むしろ4ルッツが4アクセルになりそうで恐ろしい。

ショパンのバラード第1番は「これ以上」が全くイメージ出来ないほど完璧で、「また同じプログラム」などという外野の雑音を一瞬にして封じてしまう圧倒的な演技でした。
フリーはまだ「模索中」という感じがしましたが、ステップシークエンスまでは圧巻でした。
もっと滑り込んで後半も前半と同じクオリティに仕上がればSEIMEI 1.0、2.0を超える羽生結弦史上最高の作品になることは間違いなく、今からワクワクしています。

フィギュアスケートではシーズンごとにプログラムを新調するのが一般的で、持ち越しや過去のプログラムの再演をあまり歓迎しない意見がありますが、音楽や美術の世界では同じ曲、同じモチーフを何度も用いるのは昔からごく当たり前のことです。

例えば羽生君のショートプログラムの音源であるバラード第1番の演奏者であるクリスチャン・ツィマーマンは得意なレパートリーの一つであるショパンのピアノ協奏曲第1番を何度も演奏しており、ショパン国際コンクール優勝で一躍有名になった頃の1978年の演奏と、ピアニスト自身が指揮も兼ねている1999年のショパン没後150周年記念の演奏がCDに収録されています。
10年以上の時を隔てた2つの演奏を聴き比べると、彼の特長である繊細なタッチは変わりませんが、解釈、表現、テンポは全く異なっており、1999年版は彼自身が指揮も行っているため『ツィマーマン』色が非常に強い演奏になっています。

スカラ座のプリマバレリーナだったアレッサンドラ・フェリはジゼルが当たり役と言われ、様々な演出と振付で何度もジゼルを踊っていますが、年齢と経験を重ねていくにつれて技術面でも表現面でも更に進化した常に新しいジゼルを披露していました。

美術界で言うなら、エドヴァルド・ムンクは有名な『叫び』を同じタイトル、同じ構図で何度も描いていますが、これを「リサイクル」などと批判する不届きな美術評論家はいないでしょう。

同じようにクロード・モネも全く同じ構図の『睡蓮』を何枚も制作していますが、それは画家自身が前作に決して満足せず、完璧を求めてこのモチーフを追求し続けた結果であり、実際にこれらの絵からは光と水の反映、色彩のニュアンスに対するモネの終わりなき探求が伺えます。

羽生君のショパンのバラード第1番とSEIMEIは言ってみればモネの『睡蓮』のような作品なのではないでかと私は思います。
「普遍の美」、「不朽の名作」と定義出来る作品であり、見ている側からはこれ以上ないほど完璧に見えるにも拘わらず、作者にとっては常に探求と向上の余地のある永遠に未完の作品。

羽生君は「伝統芸能」を引き合いに出していましたが、この発言をチクチク批判する人は、きっと伝統芸能が何たるかを全く理解していないのでしょう。

カナダの世界選手権ではどんなショパンとSEIMEIが見られるのかひたすら楽しみです!

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち