先日、ISUが発表した採点基準変更についてOA Sportが記事にしていました。
ファブリツィオ・テスタ(2020年5月12日)
フィギュアスケート2020-2011年シーズンはルールの実質的な変更を特徴とするシーズンになりそうだ。
緊急事態による延期がなければ、8月にジュニアグランプリ大会が開始する。
5月11日月曜日、ISU技術委員会はコミュニケーションNo.2324及びNo.2325を通して、特にジャンプの採点について大きな変更が行われた基礎点に関する重要な新規定を発表した。
実際、テクニカルパネルのスペシャリストは新たな判定基準を採用して所定のジャンプを採点する:
これまでのダウングレード(DG,「<<」のマークが付く。半回転以上足りない)、アンダーローテーション(UR、「<」マーク。1/4回転超足りない)に加え、基礎点は引かれず、GOEのみマイナスされるクオーター(「q」マーク。ジャスト1/4回転足りない)と呼ばれる新たな項目が加わった。
基礎点と言えば、3回転のルッツ、フリッツ、及び4回転のルッツ、フリップ、ループの基礎点が統一されたことを強調しなければならない(3回転は5.30、4回転は11)。
最後にルッツなどのジャンプにおけるブレード全体でアシストする踏切(フルブレード)とプレローテンション全般がようやく間違った跳び方としてGOEで-1から -3点減点されるようになった。「劣悪な」、または「ズルい」踏切のコンセプトを明確化しようとする意志はポジティブなことである。
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☆4ループが4ルッツや4フリップと比較して決して簡単なジャンプでないことにようやくISUも気が付いたのですね!
以前、ポッドキャストでこの話題について詳しく議論していました。
マッシミリアーノさんは教本通りの正しい技術で跳ぶ4ルッツと4ループの難度はおそらく同等。最近、主流になってしまっているフルブレードでアシストしながら跳ぶ「なんちゃって」4ルッツは4ループより断然簡単と言っていました。
一方、アンジェロさんは3回転までならおそらくルッツが一番難しいが、4回転になるとループが最も難しいと思うと技術的な理由を挙げて詳しく説明してくれています。
ミーシンもクワドの中で一番難しいのはループと言っていましたね。
今回の改正は、最近の「なんちゃって」4ルッツ量産をISUがさすがに危惧したからではないかと思います。
アンジェロさんは以前、3ルッツ/フリップで氷上で少し回転しながら離氷する跳び方は旧採点時代から存在し、特に女子の3トリップ/フリップを注意深く観察すると、ほとんどの選手がこの方法で踏み切っている、ジャンプの性質上ある程度のプレロテは仕方がないと言っていました。
問題は程度だと。
しかし4回転のルッツやフリップを跳ぶ選手が現れると、多くの選手がより楽に跳べるこの技術でトゥジャンプを実施するようになり、しかも氷上でより多く回転を稼ごうとするようになっていきました。
本来トゥを突くべき足のエッジで離氷前にほぼ1回転している衝撃的なスロー映像を見たことがありますが、こうなると例えばボーヤンや羽生君の4ルッツとは全く別のジャンプです。
マッシミリアーノさん達は平昌オリンピックの時にも問題喚起しています。
ロシアで明確なアウトエッジ+トーピックの正しいルッツを跳んでいるのはリーザとコリヤダぐらいではないでしょうか。
エテリ組は3ルッツに関してはそれほど酷いプレロテではないと思いますが、全体的にエッジがフラットに見えます。
一方、日本女子には紀平梨花ちゃん、樋口新葉ちゃん、川畑知愛ちゃん、荒木菜那ちゃんと正しい技術で3ルッツを跳べる選手が揃っていますね。
いずれにしても、ISUのガイドラインに「Cheated Take-off」、「Full Blade」、「excessive rotation on the ice」という言葉が明記されるようになったのは大きな一歩だと思います。
無論、この採点基準を試合の限られた時間内で正しく適用出来るのかどうか、ジャッジの力量といった問題は残されています。
現行の採点システムは非常に複雑です。1人のジャッジが数分間でシリアスエラーの有無を考慮しながら5コンポーネンツを評価し、6項目ずつあるプラスとマイナスの項目を考慮して各エレメンツのGOEを評価し、更に来シーズンからは踏切がチートかクリーンかも見極めなければならないのです。
でも、数年前からスケートファンやジャーナリストだけでなく、スケート関係者の間でも議論されていたこの問題がようやくルールに反映されたということは、ISUがこうした外部の声を深刻に受け止め、解決策を見出そうとしているのだとポジティブに解釈したいです。
おめでたいと思われるかもしれませんが、私は正義は勝つと信じていますから。
羽生君は賢い人で、分析の鬼です。自分と他選手のプロトコルをルールと照らし合わせ、何か辻褄が合っていないことに気づかない訳がありません。
でも彼はそれなら自分がどんな演技をすればジャッジが高得点を出さざるを得なくなるのか考える人です。
裏技など使わずに正攻法で勝ちたい
全員がノーミスした中で自分もノーミスして圧倒的に勝ちたい
彼はそう発言しています。
羽生結弦とはそういう人です。
これまでだって、どんなに理不尽な目にあっても、決して他者を責めず、全て自分の中に飲み込んで更に進化する力に変えてきました。
「天は正義の人を守る」(ホメロス / 紀元前8世紀末)という言葉があるように、如何に紆余曲折を経ても、正義の女神は最後は苦しみながら正しい道を歩んだ者に微笑むと私は信じたい。
古代の賢者達が素晴らしい格言を残しています:
正しい者はたとえ一人でも、大勢の不正な者よりも強い、というのは、神と正義を併せて味方としているのだから。
エウリピデス(古代ギリシア三大悲劇詩人の一人 / 紀元前480頃~前406頃)
悪に報いるには正義をもってし、善に報いるには善をもってせよ。
孔子(中国の思想家、儒家の始祖 / 紀元前551~前479)