OA Sportより「羽生結弦はグランプリ2020-2021を欠場:決断の理由」

羽生結弦選手が今季グランプリ大会の欠場を決めたと日本スケート連盟から発表がありました。
イタリアのスポーツメディアOA Sportがコメント全文の翻訳を掲載していました。

 

原文>>

 

ファブリツィオ・テスタ(2020年8月28日)

全てのフィギュアスケートファンにとって最悪のニュースが届いた。10月23日のスケートアメリカで幕を開ける変則バージョンのISUグランプリシリーズ2020-2021は史上最高のスケーター、羽生結弦なしで開催される。

このニュースはイタリア時間の8月28日金曜日の朝に日本スケート連盟から直接発表された。

 

仙台出身のチャンピオンは長い公式声明を通して決断の根拠として3つの理由を挙げた。

最初の理由は喘息を患っている彼にとって、万が一感染した場合には様々な問題に晒される可能性があるということだ:

「新型コロナウイルスと気管支ぜんそくの関係性については、まだ確証となるものはなく、情報も十分ではないので判断が難しいところですが、呼吸器系基礎疾患を有する者が新型コロナウイルスに罹患した場合、重症化しやすいとの情報もあるので、可能な限り慎重に行動したいと考えています。」

エイリアンはこう書いている。

2つ目の理由は遥か遠いトロントにいるコーチのブライアン・オーサーとのコラボレーションが困難で、検疫のよるストップによる不安定な状態といった競技-コーチに関する問題である:

「現段階で、カナダ在住のオーサーコーチが日本での試合に帯同するために来日することが困難であることが予想されます。一方、私が日本からカナダの試合に出場する場合は、カナダ入国後2週間の自己隔離が必要となります。その期間、練習など一切のスケートの活動ができないため、選手にとって万全の状態で臨むことができません」

最後に、責任感が非常に強い日本の選手は、移動によって感染カーブが上昇する危険性を強調することを望んだ:

「このコロナ禍の中、私が動くことによって、多くの人が移動し集まる可能性があり、その結果として感染リスクが高まる可能性もあります。世界での感染者数の増加ペースが衰えておらず、その感染拡大のきっかけになってはいけないと考え、私が自粛し、感染拡大の予防に努めるとなれば、感染拡大防止の活動の一つになりえると考えております」

 

羽生の決断はスケート界を一変させる決断である。

この競技の他のトップ選手達はどうするだろうか?

しばしば伝説で起こったように彼の後を追うのか、それとも取り敢えず試合に出ることにするのか。

今後の動向を見守ろう。

 

 

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☆羽生君の試合が見られないのは非常に残念ですが、同時にホッとしたというのが正直な感想です。
この状況で大会に出場することは、彼にとってはかなりリスクの高いことだと思っていましたから。

羽生結弦が出場する大会とそうでない大会とではメディアとファンの動員数の桁が違いますから、リスクという点において他の選手とは比べものになりません。

体脂肪率が低いアスリートは免疫が低く、感染し易いと言われていますが、気管支喘息という基礎疾患を抱えている彼にとっては、重症化や後遺症のリスクは更に高くなります。
公になっているだけでも羽生君は2013年の四大陸選手権の後と2016年の全日本の時期にインフルエンザに罹っています。
そして新型コロナはインフルエンザと違って抗生物質などの有効な治療法が未だに確立されておらず、若くて軽症な人でも肺機能や呼吸器系に後遺症が残るケースが多数報告されています。

四大陸選手権の時は、開催地の韓国では感染が広がっていましたが、空港に到着した羽生君に現地メディアが群がり、ソーシャルディスタンスなんて全く無視でしたから、ああいう光景を見ると、彼が自分が移動することで、大勢の人が移動し、感染のリスクが高まることに責任を感じるのは分かります。

もし観客を入れて大会を開催するとなると、ファンの中はその日、気分が優れなくても、体調があまり良くなくても、咳が出ても、羽生君見たさで強行観戦する人もいるかもしれません。いち早く記事や写真を掲載するために現地に詰めかけるメディアの方も同様です。
熱や咳などの症状がなくて、陽性である可能性はあるのです。

そして、通路も座席も狭いアリーナでは、如何に入口で検温し、消毒を徹底し、ソーシャルディスタンスを確保しても、無症状感染者からクラスタが発生してしまうリスクがあるのです。

 

イタリアはパンデミックによってライフスタイルが完全に変わってしまいました。

イタリア人はスキンシップが好きな民族で、友人同士なら会ったらまず頬にキス&ハグ、ビジネスの相手でもまず握手が当たり前でしたが、キス&ハグと握手の習慣は消滅し、一切触れ合わなくなりました・・・

キス&ハグ文化はイタリアで感染が爆発した要因の一つと言われていますから、仕方がないことですが、長年生活の一部だった一つの文化が消滅してしまうなんて、数カ月前まで誰に予想出来たでしょう。

自宅以外の屋内ではマスク着用必須、8月16日に発令された保健省命令では新たに午後18時から午前6時までは道路、広場、遊歩道、海岸などでもマスク着用が義務付けられましたから、基本的に街行く人のほとんどがマスクを着用しています。

イタリアは感染ピーク時、本当に悲惨な状態で、ロックダウン中の規制も欧州の隣国に比べて最も厳格でした。

医療従事者など出勤を許可されている職種の人以外、健康上の理由、食料品や日常必需品の調達(それも家族の1人が代表して行く)と犬の散歩以外の外出は一切禁止され、常に外出理由を記入した自己申告書を携帯していなければならず、持たずに外出したり虚偽の申告をすると罰金でした。

街角では警察や軍隊が外出する市民を監視し、ゴーストタウン化した町は重々しい空気に包まれていました。
年配のイタリア人は第二次大戦時以来の非常事態だと言っていました。
病院は戦時中の野営病院状態で、病室が足りず廊下も通路もICUと化し、医師達は人材も呼吸器も全く足りず、重篤患者が運ばれてきても見殺しにするしかないとインタビューで泣いていました。

そんな壮絶な状況を経験し、ロックダウンの辛さが身に染みているイタリア人は、二度と同じ状況に陥らないようマスク着用義務を律儀に守り、慎重に行動しているように見えます。

それどころかファッションの国、イタリアではマスクはもはやファッションの一部になってしまったようで、以前は中国から大量に届いた無機質な不織布マスクばかりでしたが、最近は個性的でお洒落なマスクをしている人が増えました。

フェンディやプラダなどの高級ブランドや大手アパレルメーカーだけでなく、普段、布や糸やボタンを買いに行く個人経営の小さな小間物屋さんも端切れで作った可愛い自家製マスクをお手軽な値段で販売しています。

ファッションと言えば、これからミラノファッションという時にロンバルディア州封鎖→イタリア全土ロックダウンになり、トレンチコートや薄手のジャケットと言った春先のアイテムは消費者に試着されることなくお蔵入り、またはバーゲンセールに回されてしまいましたから、イタリア・ファッション業界は死ぬのではないかと心配していましたが、マスクビジネスでしっかり稼いでいるようです。

 

参考記事:

コロナウィルスで産業が方向転換。アパレルメーカーはファッションアイテムだけでなく防護服、マスク、呼吸器も製造

トレンドアクセサリーとしてのマスク

マスクファッション:ルイ・ヴィトンからバレンシアガまで最新トレンド
ファッション界が方向転換する時

 

羽生君のグランプリ欠場のニュース、マッシミリアーノさんも光の速さにFBに投稿していました。多くのユーザーからメッセージが寄せられ、試合でユヅルを見れないのは悲しいけれど、賢明で正しい判断と、羽生君の決断を支持する意見ばかりです。

こちらの方も追って訳していきたいと思います。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu