ORIGINミクロ解析「羽生結弦:原点回帰(その3)」

前回に引き続きYulia Krivikhina(Yulena)さんによるORIGIN徹底解析です。
トランジション詳細(ステップ、ターン、方向転換等)は英語表記のままにします

ロシア語原文(ユリアさんのブログ)

Fairuzaさんによる英訳(Planet Hanyu)>>

Heartfelt thanks to Yulia and Fay for Super-analysis and Super-translation!💛

展開部】

曲がMagic Stradivariusに変わり、プログラムの次のパート「展開部」が、ステップシークエンス StSqと共に開始する。

ステップシークエンスの振付パターンは、ヴァイオリンの旋律がメインの音楽パターンと同調している。
リズミカルな拍の長さに合ったステップ、ターン、エレメントだけでなく、腕と上半身を使った正確な動きによっても音楽を表現している。

ステップシークエンスをどうぞ!

Inside Ina Bauer, Euler ccw, chasse LBI/RBO, Choctaw RBO/LFI ccw, chasse RBI/LBO, a leap on the left foot, crossed step LBO/RBI, leap cw, bracket LFO cw transitioning into a mini Ina Bauer.

新しい音楽フレーズの始まりにおける曲のテンポの変化(加速)はステップシークエンスのスピーディでダイナミックな要素によって強調されている。

Twizzle RBO (2 rotations) ccw, Mohawk RFI/LBI ccw, twizzle LBI (1.5 rotations) ccw, loop LFO ccw

crossed step LFO/RFI, Mazurka (toepick) jump cw, twizzle RFO cw, chasse RBI/LBO, Mazurka toepick jump cw transitioning into a lunge with a change of direction ccw, waltz three turn LFO ccw, toepick steps ccw.


次の音楽フレーズの始まりは振付の「触れる」ポーズによって示される。

「彼は手を伸ばし、誰かの背中を触り、初めてのことのように感じます。まるで何かに初めて触ろうとして手を伸ばす子供のように。これはとても人間的な感情で、「触れる」ことは、生きているという感覚や愛を感じさせてくれます。
このような「触れる」瞬間は私に鳥肌を起こさせます!他の人達も彼を見ながら、自分自身のその「瞬間」を感じることが出来ることを願っています!」 (シェイリーン・ボーン)


Bracket LFI ccw, crossed step LBO/RBI, change to moving forward, waltz three turn LFO ccw, change to moving forward, crossed step LFO/RFI, rocker RFI ccw – counter RBI ccw – twizzle RFI (1.5 rotations) ccw (腕を上げて), transitioning into an inside spread eagle, pivot

スプレッドイーグルにおける驚異的なほどしなやかな腕はヴァイオリンの長い音色と同調しており、まるでユヅル自身がヴァイオリンを奏で、これらの音を引き出しているような錯覚を覚える。

振付ポーズ, Mohawk LFI/RBI cw, chasse RBI/LBO

ヴァイオリンソロが終わり、難しい2つ目のターンの組み合わせが新しい音楽フレーズの始まりとテンポの変化を強調する。

Rocker LBO cw – counter LFO cw – counter LBO ccw, crossed step LFO/RFI, bracket RFI cw, crossed step RBO/LBI, Mohawk LBI/RFI, wide step RFI/LFI, a swizzle move, loop RBI cw.

「サーキュラーステップの最後で彼が背中を弓なりにそらし、膝を曲げている瞬間があります。この動きに私は心を掴まれ引き込まれます。彼のパワーを感じ、彼の柔軟性、そして彼が支配する全て空間を感じることが出来ます」 (シェイリーン・ボーン)

ステップシークエンス・パターン (credit to @kora)

難しいステップ&ターン詳細

私の意見では入りのローブのエッジがフラットだったため、テクニカルパネルはLFIブラケットをカウントしなかったのだと思う。

ステップシークエンス難度の特性:

  1. カウントされた要素: clean Choctaws (ccw), two rockers (cw and ccw), two counters (cw and ccw), two brackets (both cw), two twizzles (cw and ccw), two loops (cw and ccw)
    合計11個の難しいステップとターン。
    両方向(右回りと左回り)に実施された難しいステップとターンは4種類しかなかった(rocker, counter, twizzle, loop)。
    これは「多様」(Variety)の基準を満たしている(レベル3)
  2. 完全に体が回転する両方向(左と右)への回転、各回転方向とも全体でパターンの少なくとも1/3はカバーする。十分過ぎるほど数の回転があったため要件は認定された。
  3. 少なくともパターンの1/3において身体(頭、腕、上半身、腰)の動きを十分に使っている。要件は認定された。
  4. シークエンス中に明確なリズムで異なる足で実行される難しい3つのターン(最初のターンは右足、2つ目は左足)の組み合わせ。 要件は認定された。

この結果、レベル3のステップシークエンスと判断された。

エレメントは旋律の中に途切れることなく組み込まれており、音楽表現のニュアンスを際立たせている。ステップの幅と長さ、ターン、要素の振幅は拍子の長さと一致している。

最も並外れている点を挙げてみよう:
最初のゆっくりとした余裕のあるIna Bauer – Euler – Choctawのシークエンス
テンポの高まるリズムを強調する高速ツイヅル; lunge, light toepick steps; 「Touch」ポーズ; spread eagleとpivotの組み合わせ; 難しい3つのターンの両方の組み合わせ, 背中を弓なりにそらせたスピンを伴う動き– 静まっていく曲調に合わせたツイヅル

ステップシークエンス全体において、腕と上半身の正確な動きに加えられた絶妙な振付のニュアンスが、振付の鮮やかな側面を見せている。

例えば連続するツイヅルの前のイナバウアー、4つのツイヅル間で変化する腕の動き、
最初の難しいターンの組み合わせの前、前方に移行する際の腕を伸ばす動き、パターン中間部における「ヴァイオリンを弾く」仕草など。
ステップシークエンスの最後には、まるでユヅルが月光をたぐり寄せ、手の中にそっと包み込んでから、放しているように見える瞬間もある(背中を後方にそらしながらツイヅル)。あなたには違う風に見えるかもしれないけれど・・・

再び「Art on Ice」のテーマに戻り、新しい音楽が始まる。

それぞれの音楽フレーズに合わせて実施される次の2つのジャンプエレメント– 3Loと4T (入りと出の両方)が、楽曲の調和と一体感を完成させている。

旋律的フレーズにおける振付のポーズ
crossover, Choctaw LBO/RFI (小節の終わり) – Jackson composite step –3Lo

「何もないところから」出てくるトリプルジャンプは音楽フレーズのピークで実施される。
トランジションの組み合わせ: three turn RBO – a mini spread eagle, crossover が音楽フレーズの終わりを示している。

change to moving forward(新しい音楽フレーズの始まり), Mohawk RBI/LFI, wide step LFI/RFI, Mohawk RFI, chasse LBO/RBI, two crossovers(小節の最後)

Lobe RBO(新しい小節の始まり), crossed step RBI/LBO – change to moving forward – three turn LFO – 4T

ジャンプは、入りのスリーターン中に加わる特徴的な効果音を伴う音楽フレーズの最後に美しく組み込まれている。
全く力を入れていないように楽々と実施されるジャンプと、猫のように優美な着氷が、流れるような旋律と同調している。
ジャンプ前のアウトサイドに進行するスリーターン中に鳴り響く特徴的な効果音がジャンプを一層鮮やかに演出する。
クワドの実施が音楽とフォームの完璧な調和を生み出している。

ジャンプの出 – 純粋な形の美学

Change to moving forward, crossed step LFO/RFI (旋律的フレーズの終わり)。
新しい旋律フレーズ冒頭の特徴的な振付のポーズ – 曲調の変化が反映された絶妙な振付のニュアンス

単独4Tの出の後のトランジションの組み合わせと、それぞれが音楽フレーズにピッタリ合っている入り→ジャンプ→出が、構成の一体感を強調している。

Waltz three turn, falling leaf jump, Mohawk RFI, chasse LBI/RBO (右手のアクセントの利いた繊細な動きを伴う)

Crossed step RBI/LBO, change to moving forward, waltz three turn LFO (小節の終わり)

Backward power three turn RBO, two crossovers, three turn RBO, chasse RFI/LFO (小節の終わり)

ジャンプシークエンスへの入りの最初のステップが新しい音楽フレーズの始まりを強調している。
Wide step RFI/LFI, ロシアのフィギュアスケート界で「不正なステップ」(obmanny shag)と呼ばれている複雑なステップシークエンス(Mohawk LFI, lunge on the free leg, transfer of weight onto the supporting leg, crossover) – change to moving forward – three turn LFO – 4T3A SEQ

ユヅルはどちらのジャンプも音楽のピークに合わせ、小節の拍に見事にハマるように実施し、極めて高難度のエレメントによる音楽パフォーマンスを実演している。

「フィギュアスケートは僕の人生です。人生の起源であり、最終目的地であり、自分の基盤です
羽生結弦

Two crossovers, a change to moving forward (音楽フレーズの終わり)
次の要素–2つの音楽フレーズの繋ぎ目に実施されるトレードマークの踵を使ったランジが旋律の終わりのゆったりとした曲調と、次のパートの始まりのテンポの変化を強調している。

テンポの変化と同時に3F-3Tのコンビネーションに入る前の難しいトランジションの組み合わせが始まる。

ステップとターンの長さ、そして各動作の奔放さと振幅は各拍子の長さと一致しており、この音楽パートのダイナミクスを強調している。

Toe Walley (新しい音楽フレーズ冒頭の弱拍), chasse LBI/RBO, Mazurka jump, wide step LFI/RFI, Jackson, ターンとステップの難しい組み合わせ rocker RBI – counter RFI and chasse RBI/LBO(音楽フレーズの終わり)

新しいフレーズの始まり – a Jackson step, a crossover, chasse RBI/LBO, crossover

次の音楽フレーズの始まりは2本のトリプルジャンプへの入りによって強調されている: change to moving forward – three turn LFO (with the right arm raised) – three turn LBI – three turn LFO – 3F3T

ジャンプへの入りとジャンプ自体が実施されている間の音とフォームの相互作用は非常に興味深い。難しい入りであるハイスピードのスリーターンがフレーズのリズムを際立たせ、音ハメして実施されるコンビネーションの両方のジャンプ(強拍にピッタリ合わせて着氷)が、振付のアクセントを生み出し、音楽解釈に深みを与えている。

このコンビメーションの後の、リズムを刻みながら各要素が実施されるトランジションの組み合わせは、ダイナミックな音楽パートを仕上げる最後の振付である: half flip (toe leap), Mohawk LFI, Euler, chasse LBI/RBO, Mohawk RBO, outside spread eagle からinside Ina Bauer.

新しい音楽フレーズが始まり、曲調は再びスローテンポに変わり、いよいよクライマックスへと向かっていく。嵐の前の静けさである・・・

Mohawk RBO, crossed step LFO/RFI, a move on the left foot (Touch ©), Mohawk LFI, change to moving forward, waltz three turn LFOからarabesque spiral, change to moving forward, waltz three turn LFO, two crossovers (これらの基本ステップの長さも拍の長さと一致している), change to moving forward, three turn LFO, crossed step LBO/RBI, chasse RBI/LBO(音楽フレーズの終わり)

 

【クライマックス】

再び曲調が変わり、プログラムの「クライマックス」が始まる。

振付の中心を占めるのは羽生結弦のトレードマークである入り「アウトサイドバックカウンター」から実施される3連続ジャンプ3AEu3Sである。
ユヅルは16歳の時から3アクセルをカウンターから跳んでいる。

「彼は3アクセルをカウンターから跳んでいる。これは非常に難しいことだ。何故なら肩の向きを変え、回転を止めてからジャンプに入らなければならないからだ。私は練習でもトップ10の選手全員がこのような跳び方が出来るとは思わない」(アルトゥール・ドミトリエフSr、2014年オリンピック男子ショートの解説中)

Counter LBO – 3AEu3S– ジャンプの出で右手の明確な動きを伴うmini-spread eagle

どちらのトリプルジャンプも旋律のピークのアクセントに合わせて実施されており、音楽構造に溶け込んでいる。

イナバウアーで始まり、ハイドロブレーディングで締めくくられるコレオシークエンスChSqには、プログラムのクライマックスの「美」を強調する、どう猛で魔法のようなパワーがある。

ユヅルを象徴する要素、イナバウアーはプログラムにおける振付のハイライトである。
2つの音楽フレーズが重なり合うタイミングで実施されることで、その重要性が更に強調されている。要素間の融合された動きが、流れるように続いていく音楽を際立たせ、振付パターンが旋律パターンと重なり合う。 アクセントが変化し、煌めき続ける。上半身と腕の華麗な動きが振付に絶妙なニュアンスを与え、新しい旋律の開始による曲調の変化を強調している。

私は世界選手権のイナバウアーがヘルシンキGPとロステレコム杯で見たバージョンより長くなったことを強調しておきたい。
これはコンビネーションジャンプの出の後の簡単なステップがカットされたためである(世界選手権のイナバウアーは5秒間、グランプリ大会では2.5-3秒間)。
これにより、要素の開始を示す振付のアクセントが僅かに移動した。
これはユヅルからの贈り物だ!

ChSq: two crossovers, Ina Bauer (新しい音楽フレーズ冒頭に腕を使い、振付にアクセントを付けて実施される)

rocker LFO, crossed step LBO/RBI. Choctaw LBO, counter RFI, crossover, コレオシークエンス最後の要素、ハイドロブレーディングに繋がる特徴的なトランジション

Change to moving forward, wide step, three turn RFI, 足替えシットスピンFCSSpに入るジャンプ

スピン難度の特性:

  1. ジャンプを伴う難しいエントリー (Death drop jump entry);
  2. シットスピンの高難度バリエーション (shoot the duck sit spin);
    右足から左足にチェンジ
  3. シットスピンの高難度バリエーション (pancake spin);
  4. 難しいポジションを変えずに少なくとも8回転。

全ての要件を満たしていたため、レベル4のスピンの判断された

足替えシットスピンは音楽パターンに組み込まれており、小節にピッタリ合っている:

  • Death Drop エントリーは曲のブレークで実施されている;
  • シュートザダックの高難度バリエーション、フットチェンジ、パンケーキシットスピンの最初の3回転は音楽フレーズの1小節で実施されている;
  • 最後の高難度バリエーション(パンケーキシットスピン)の残りの回転は音楽フレーズの次の小節で実施されている。

このスピンの出で音楽のテンポがより速くなる。プログラムの終わりに近づいていくため、この後、曲調はどんどん速くなっていく。

Change to moving forward, three turn RFI 、最後の足替えコンビネーションスピンCCoSpへのエントリー

スピン難度の特性:

  1. 難しいエントリー (“travelling camel”);
    シンプルなキャメルスピン (チェンジエッジ時の腕を開く特徴的な動き);
  2. キャメルスピンでのチェンジエッジ(インサイドエッジ→アウトサイドエッジ);
  3. バタフライジャンプで左足から右足にチェンジ;
    ベーシック・シットスピン;
  4. 非基本ポジションの難しいポジション;
    難しいアップライトポジション (Scratch spin)

コンビネーションスピンでは3つの基本ポジション(キャメルスピン、シットスピン、アップライトスピン)が全て入っている。キャメルスピンは左足、シットスピンとスクラッチスピンは右足で実施されている。4つの難度要件が含まれている。

どの足替えスピンでも、片足回転で獲得可能な特性は最大2個である 。この要件を満たしているため(左足で2ポジション、右足で2ポジション)、レベル4のスピンと判断された。

最後のコンビネーションスピンとその各バリエーションは音楽フレーズにピッタリ合っている: キャメルスピン、チェンジエッジ、バタフライ足替え、シットスピン、ノンベーシック(非基本)スピンはそれぞれ1小節ずつで実施されており、スクラッチスピンの高難度バリエーションはピッタリ2小節に合わせて実施されている。

上半身と腕の動きが特徴的な最後のポーズ(右腕を下へ、左腕を上に伸ばす)は、2つの世界、地上と霊界の統合を表している。

現在と過去

「ユヅは自分を信じています。彼は自分が信じていることに集中し、固執し続ける精神的な強さがあり、実際に自分自身を信じているのです。何も言わなくても彼は心の中でよく分かっているのです。彼は自分を信用していて、目標に向かって努力します。彼は、私達によくあるような恐怖心によって妨げられることがありません。
私達は新しいリスクを冒したり、新しい場所に向かったりすることを躊躇し、自ら道を閉ざしてしまうことが時々ありますが、彼はそうではありません。彼はひたすら突き進むのです。

既にオリンピックを連覇しているのに、なぜまだオリンピックに?まだ世界選手権に?と言う人がいるかもしれません。 でも彼には使命があり、自分はクワドアクセルが出来ると信じているのです。
彼は自分にはこれが出来ると信じていて、そこに向かって突き進むつもりです。
これは地球上の誰にとって良いメッセージになります。この生き方。脇道に逸れないと言うことが大切なのです」(シェイリーン・ボーン)


インタビュー動画と記事を日本語から翻訳してくれたAnna ZamotaevaとEvgenia Mitrofanova に心から感謝します。
敬具

Yulia

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☆Planet Hanyuでこの記事の英訳版を見た時、すぐに翻訳したいと思いましたが、非常に専門的な内容なので、果たして挫折せずに最後まで翻訳出来るのか自信がなくて、保留にしていました。
でも思い切って訳して良かったです!

凄く勉強になりましたし(スピンのバリエーションの種類をたくさん覚えました!)、こうして演技動画と照らし合わせながら読み進めることによって、ORIGINを別の観点から見直し、このプログラムの凄さを改めて知りました。

このプログラムの凄さ、振り付けたシェイリーンの凄さ、このプログラムを発案・創作し、実施した羽生君の凄さを!

そしてこのプログラムのディテール、腕や頭の動きから一つ一つのステップに至るまで、拍単位で分析したユリアさんの知識と情熱も凄い!
ISUのジャッジでユリアさんほどの知識を持つ人が何人いるでしょうか?(埼玉には一人もいなかった可能性が😩・・・)

羽生君がプルシェンコとロシアに捧げるために作り上げたプログラム
ロシアの方がそれを受け止め、その内容をこれほど深く理解し、愛し、膨大な時間と情熱をかけて(翻訳するだけでも大変だったのに、実際の分析には一体どれほどの時間を要したのか全く想像も出来ません!!)分析・考察して下さっていることに感動します😭・・・

 

(その1)(その2)

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