昨日訳したポッドキャストから
ダニエル・グラッスル君の話題やランビの学校、スケーティングスクールの指導方針、ロシア杯女子など、興味深い部分をザックリ要約します。
出演
ダリオ・プッポ(D)ユロスポ解説者
マッシミリアーノ・アンベージ(M)冬季競技アナリスト/ジャーナリスト、ジャーナリスト
アンジェロ・ドルフィーニ(A)国際テクニカルスペシャリスト、コーチ、元ナショナルチャンピオン
<ダニエル・グラッスル君の話題>
M:国内大会とは言え、先日ダニエルがベルガモでやってのけたことは何か歴史的なことだ。
彼は踏切と同じ足で着氷する4回転ジャンプ、4Lz、4F、4Loを同じプログラムの中で成功させたただ一人の選手だ。
この3種類のジャンプを成功した選手は現世界チャンピオンのネイサン・チェンだけだが同じプログラムの中ではなかった。チェンはアクセル以外の5種類の4回転ジャンプをさせた唯一の選手だ。
彼ら以外では、アンジェロのところにいる宇野昌磨、ただし彼は4ルッツがない。
羽生結弦、レジェンドだ。
そして女子のアレクサンドラ・トゥルソワ、そしてロシアのサマリンとアメリカのジョウ。
このようにごく僅かな選手だけだ。
このことは同じプログラムの中でこの3種類の4回転ジャンプを降りたダニエルが如何に凄いかを物語っている。彼は練習ではトゥループとサルコウも降りている。そしてまだ伸びしろがたくさんある。
そこでアンジェロに質問だが、この選手はどこまで行けると思う?
A:ヨーロッパではこの非常にコンプリートな技術パッケージによって有力な選手の一人と言える
世界レベルでトップに食い込むとなると、現時点ではかなり難しいと思う。
君が先ほど挙げたアジアと北米の選手達はこれらの4回転ジャンプを全部でないにしても降りている。そしてヨーロッパ大陸外に移動すると、こうしたエレメントの実施のクオリティで差がついていく。更にパッケージ全体のクオリティを考慮するとその差は更に大きくなる。
この点においても、ダニエルは間違いなくかなり進歩したと僕は言いたいけれど、トップ選手達に比べるとまだ欠陥がある。
羽生結弦の名前まで出さないにしても、ネイサン・チェンや宇野昌磨と比べても。
こうした選手達は仮に4回転ジャンプが1本少なくても、クオリティで勝負出来る。
これらの選手の中にはロシアのコリヤダも含まれる。
最近の試合で見たコリヤダは、ミーシンの手によって見事に再生されていた。ダニエルに比べるとかなり難度の低い構成だったけれど、正直僕に大きなインパクトを与えた。
ダニエルの先日の演技は欧州レベルならメダルは射程距離内だと思う。ただ、世界レベルでメダルとなると、現時点ではまだ難しいと僕は思う。でもこのようなジャンプを装備した選手なら世界選手権でもトップ10には入れるだろう。
勿論、別の側面にも注意しなければならない。
ロックダウンの真っ最中にGOEに関する変更も含まれた新しいルールがISUから発表されたが、その後、一端撤回された。
おそらく(パンデミックが収まって)落ち着いたら改めて再提案されるだろう。
コロナウイルスの影響で多くの選手が練習を制限されている現在の状況は、多くの変更点が含まれる新ルールを導入する理想的なタイミングではないと判断されたのだろう。
僕の見方では、これらの変更事項の幾つかはダニエルにとって有利だが、幾つかはそうでうはない。
これらの変更点が、試合の採点で実際にどのように適用されるかにもよるけれど。
僕が言っているのは、ジャンプの踏切に関するGOE評価に関するルールだ。
特にダニエルが跳んでいる幾つかのジャンプの踏切が対象になっている。
このルールがどのように実行されるかによって、彼の立場(順位)に影響を与えるかもしれない。
今後、どうなるか見ていこう。
現時点では、ダニエルは非常に競争力のある選手で、先週末の試合ではそれを証明して見せた。
M:ダニエルはルールの全ての詳細を把握していて、得点のあらゆる細部まで確認するタイプだ。
アンジェロが言ったように、ここ2年間でかなり向上したけれど、彼は自分が演技構成点の幾つかの側面についてもっともっと上達しなければならないことを自覚している。
実際、彼は演技構成点でライバル達にかなり差を付けられている。
当然、GOEも向上させなければならない。
例を挙げると、ダニエルはショートをクワド2本にすることも出来る。
実際、より重要な大会ではクワド2本にするだろう。
しかし、現段階ではクワド1本で、彼はこう言っている
「今は演技構成点とスケーティングに集中したい。またトランジションの豊かなプログラムを滑りたい。そして準備が出来たと感じたら、2本目のクワドを入れ、より重要な大会ではクワド2本の構成にする」と
この発言からも彼が平凡ではない頭脳を持っていることがよく分かる。
彼はまだ18歳になったばかりの少年だ。
<アンジェロさんがコーチを務めるシャンペリーのランビ・スクールの話題から抜粋>
D:アンジェロに訊きたいけれど、コロナウイルスの問題を受けて、リンクで選手達に指導する方法はどう変化した?
例えば、君のいるスイスはイタリアと比べてどう?
A:僕の意見では、僕らコーチ達にとっての最大の課題は、目先の目標がない中で、如何にして選手達のモチベーションを維持するか、と言うことだった。
つまり、選手達にとって何時、どんな方法で競技に戻れるのか不透明だったからだ。
心に高いモチベーションを持つ一流選手達に対してさえ、僕らにとっては大変な試練だった。
何故なら何人かの選手にとっては、目の前に明確な目標がないとモチベーションを維持するのは困難になるからだ。勿論、そうでない選手もいる。
例えば昌磨のケースを挙げると、彼はモントリオール世界選手権の中止に本当に酷いショックを受けた。彼はこの目標にフォーカスしていたから、その目標が突然失われ、しばらく練習に身が入らなかった。
つまり、彼は目標とモチベーションを失っていたから、別のモチベーションを見出せるムードの中に戻らなければならなかった。
このレベルの選手達に、我々はどう対処するのか。
新たな技術的進化に向かわせ、新たな挑戦をさせる。
既に習得していることのクオリティを磨かせたり、新しいジャンプ、より難度の高い4回転ジャンプや3アクセルに挑戦させたり。
僕達はもっと若い選手達に対してもこの方針を取っている。
そもそもフィギュアスケートというのはそういうスポーツだ。
スケート靴を履いて、氷上で立てるようになったら、まず技術面に取り組む。
あるいは新しい振付を試したり。
それから僕達が試しているもう一つのことは、オフリンクでも多くの刺激を与えることだ。
時間はそれほど多く取っていないけれど、様々なことに挑戦させる。
ダンスやバレエのような伝統的なアクティビティから、より複雑な、より高度な、または特殊なダンス。
例えばその分野の専門家を招いてヒップホップとか
格闘技に挑戦させて、コーディネーション能力を鍛えるとか。
いずれにしても新しいことを模索させることで、モチベーションを高く保たせる。
そうでないと(モチベーションを保つことは)非常に困難だ。
これらがコロナウイルスに対応して僕らが取り組んだことだ。
それからロックダウン中のオンラインレッスン
この点に関しては、ISUは何かはやってくれたと僕は思う。
というのもベルガモやシャンペリーにあるISUエクセレンスセンターで幾つかのオンラインレッスンを推進したから、ステファンはYoutube配信によるオンラインレッスンを実施することが出来た。オンドレイ・ホタレックもベルガモで同じことをやった。北米やアジアのその他のコーチ達もそうだ。
僕にとってステファンと一緒に仕事をする最初のシーズンだ。
小さなスクールで、僕らはこの規模を維持したいと考えており、常任コーチは僕を含めて3人だ。
このようなレベルの選手と仕事をするのも僕にとって初めての体験だった。
僕が驚かされた事の一つは、彼らが本番のアドレナリンによって引き出せる能力だ。
練習を観察している限り、想像も出来なかったことを本番で成功させてコーチを驚かせることがある。
例えば、君達はネ―ベルホルン杯のヴァシリエフスの演技は見たよね。
ヴァシリエフスも練習より本番で力を発揮できる選手だ。
ネ―ベルホルン杯前、彼が練習で4サルコウを何回成功させたか言っても、君達は笑って信じないだろう(笑)
彼は人生初の4サルコウを試合で決めたんだ。
<ロシア杯とロシア女子について>
D:マッシミリアーノ、君は最近行われた試合についても何か話したい?
M:勿論だ。
スケートアメリカがあったね。
でも僕はスケートアメリカはスルーでいいと思う。
正直に言って、ロシア杯の方が断然面白かったから。
僕はロシアで起こっていることについて、もう何と言ったらいいのか分からない。
僕達はトゥルソワ、シェルバコワ、コストルナヤについて高難度と、コストルナヤに関してはクオリティにおいて無比の世代だと言っていた。
ところがその下の世代は彼女達の更に上を行く。
例えば、僕は今シーズン、ここまでに見た全てのプログラムの中でワリエワのショートプログラムが断トツで最も優れていると思っていた。
元スケーターのエリック・ラドフォードが作曲したこの曲「Storm」は彼女の特徴にぴったりハマっているし、彼女は素晴らしい。
そして、オンライン配信されたロシア杯ジュニアの試合でアデリヤ・ペトロシアンと言う名の13歳の少女のショートプログラムを見た。僕は並外れた演技だと思った。
曲はタンゴだから、小さな少女にとってはかなり難曲のはずだが、音ハメは完璧、表現力豊かで、スケーティングの質も高く、技術エレメントでミスをしない。
つまり、僕が言いたいのは毎年、そして毎月、こうした新星が現れて僕達を驚かせる。
A:現在、SNSのおかげで僕達はロシアで起こっている進化を練習段階から追うことが出来る。
ペトロシアンだけじゃない、君が名前を挙げたワリエワ、それにジリナ・・・
ベロニカとアリョーナと2人のジリナがいる。
少女達は10-12歳で全種類の3ジャンプを跳び、12歳で3アクセルや4回転ジャンプも跳び始める。
僕達はベロニカの方のジリナの4ルッツを目撃し、タノジャンプの3アクセルも見た。
ペトロシアンのプログラムは見事な振付だった。
一方で、最近コーチを変更したコストルナヤは苦戦しているように見えた。実際、あまりしっくりこなかったプログラムを変更した。スケーターとしての彼女の資質に議論の余地はないけれど。
トゥルソワはこの点においてライバル達に遅れを取っているから、高難度ジャンプで勝負しなければならない。
僕はこれらのロシアのスクールを賛美している。
彼らには先見の明があった。
女子シングルでも3アクセルと4回転ジャンプが必要な時代がやって来ることを予見する先見の明が。
しかしながら、彼女達が氷上で披露するクオリティに僕は混乱させられていると言わなければならない。
つまり12-13歳の、しかも例えばペトロシアンのように体型的に実年齢より幼く見える小さな少女が、成熟した演技と傑出したスケーティングを披露する。彼女達の外見から受ける印象と実施している内容とのギャップが激し過ぎて、困惑させられるのだ。
彼女達を育てているコーチ達には脱帽だし、尊敬の念しかないけれど、このように幼い少女達があまりにも上手いことに、時として狼狽させられる。
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☆アンジェロさんの考えではチートジャンプと基礎点に関するルール変更はいずれ実施されるだろう、ということなんですね。
ただオリンピックシーズンにこのような大きな変更を行うとは考えにくいので、実施されるとしてもきっと北京の後ですね(北京五輪が予定通りに開催されたらの話ですが)。
チートジャンプ減点のルールで有利になる選手として、真っ先にルッツもフリップも正しい技術で跳んでいる紀平梨花ちゃんが思い浮かびました(不利になる選手として真っ先に思い浮かんだのはシェルバコワとアリサ・リウ)。このルールが導入されれば、梨花ちゃんにとって北京に向けて追い風になったと思うので、却下されてしまって残念です。
宇野君のエピソードを聞くと、モントリオール世界選手権中止が選手達に与えた喪失感は、本人達がコメントしていたよりずっとずっと膨大だったのだと、改めて感じさせられます。
イタリアからの入国が制限されることを怖れて予定より一週間以上早くカナダ入りしたマッテオ・リッツォは最後の最後まで大会が開催されることに一縷の望みを繋いでいた、パンデミック宣言で最後の望みを打ち砕かれたと後のインタビューで語っていました・・・
ロシア女子は進化が早過ぎて、もはやついて行けない😱
ダニエル君の前週にマッシミリアーノさんのポッドキャストに出演したアレッシア・トンナーギ選手はロシアでのキャンプに頻繁に参加しているそうですが、その彼女が「ロシアでは7-8歳で地方のスケートクラブからより大手のスケートクラブにやってくる時点で、彼女達の両親は我が子を世界のトップスケーターにするつもりでいる。このようなスケートクラブではやる気がなかったり、怠けていたり、成果が出ないと容赦なく追い出される。彼女達は10-11歳までにアクセル以外の全ての3回転ジャンプを跳べるようになっている。
一方、イタリアのスケートクラブではトップ選手を育てたいという願望は勿論あるけれど、同時にお稽古事として子供達を楽しませる、という側面が大きい。これはある意味良いことだけれど、イタリアのスケートクラブでは少女達は11-12歳でやっと2アクセルを跳べるようになる。幼い頃のこの差が、14~15歳になった時、更に大きくなる」と語っていたのが印象的でした。
マッシミリアーノさん絶賛のカミラ・ワリエワの今季ショート「Storm」
アデリヤ・ペトロシアンのタンゴ