SalottoBiancoより「フィギュアスケート競技はもう放っておいて羽生の公演を見に行こう!」

その週に行われたスポーツ競技についてより踏み込んだ視点で考察するポッドキャスト「SalottoBianco」より。
冒頭のフィギュアスケートの話題から。主にミラノ・コルティナに向けてイタリア選手の層の薄さとイタリア連盟の視野の狭さを嘆く内容です。イタリア人の母親を持つイザボー・レヴィトは子供の頃、ミラノで練習していた。彼女のような才能を持つ少女をイタリアに引き留めておけず、アメリカに取られてしまったイタリア連盟の目は節穴だった。イタリアのお家芸であるアイスダンスで、シャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリは今回、世界選手権銀メダルの快挙だったが、後進が全く育っていない(マッシさん曰く、ジュニア世代はゼロ)。女子では現在は競争力のある選手が不在、もっと下の世代も有望な選手が全く育っていないとイタリアスケート界の存亡の危機に警鐘を鳴らしています。その後、世界選手権について少しだけ触れていて、羽生君の名前も出てきますので訳したいと思います。

マッシミリアーノ・アンベージ(M)冬季競技アナリスト/ジャーナリスト、ジャーナリスト

フランチェスコ・パオーネ(F)ユロスポ所属ジャーナリスト

エンリコ・スパーダ(E)OA Sport編集者

E:(フィギュアスケートに関して)僕から最後の質問だけど、僕のフィギュアスケートに詳しくない友達が、何故マックスはマリニンに手厳しいのか聞いてくれと言うものでね(笑)

M:僕は別にマリニンが嫌いなわけではない。
これは好き嫌いの問題ではない。
僕はマリニンが氷上でやっていること、そしてジャッジ達が彼がやっていることに対して与えている評価に対して抗議している。
マリニンは片足ターン(スリーターン、ブラケット、カウンターなどで片足のエッジを氷上で180回転させて方向転換すること)がちゃんと出来ないスケーターだ。しかしスケーティングスキルで8点を貰う。8点だよ?
僕の意見では、彼が氷上でやったことをちゃんと評価したら、スケーティングスキルは6点に達さないスケーターだ。理由は稚拙な滑りだからだ。24位だったマウリツィオ・ザンドロンを例に取っても、スピードはともかくエッジの使い方と言う点では、間違いなくマリニンより優れている。
彼は卓越したジャンパーだが、彼のプログラムは助走、ジャンプ、休憩、助走、ジャンプ、休憩以外何もなかった。このようなプログラムで振付で6点以上、スケーティングスキル(君達も見たらすぐに分かるだろう)で6点以上はあり得ない。
プレゼンテーションの項目では、正直僕は何を言ったらいいのか分からない。
だから僕が彼に好感を持てる持てないの問題ではない。
彼は驚異的なことをやっている。2週間後に東京で4ループを成功させたら、史上初めて6種類全ての4回転ジャンプを回転したスケーターになる。これに関しては脱帽だし、敬意を払いたい。
しかし、これはPattinaggio artistico(イタリア語でフィギュアスケート、直訳すると芸術的スケート)という名の技術と芸術性が融合されたスポーツだ。
注意して欲しいが、技術とは、ただ4回転する、という意味ではない。
スケーティングスキル、巧みなエッジワーク、特定のステップ、クロスオーバーを限りなくゼロにする、というのも技術だ。これらの要素は演技構成点で評価されるけれど、これも技術の一部なのだ。
ここに素晴らしいジャンパーがいる。しかし、完璧なプログラムを滑ったジェイソン・ブラウンとケヴィン・エイモズが彼より低い順位というのはあり得ない。
だから問題は何か?
採点だ。
この採点システムは当初考案されたように機能していない。
この採点システムを機能させるには、演技構成点の比重を技術点と同等にしなければならない。もしマリニンが技術点の達成可能な最高点が150に達するプログラムを滑べりたいなら、現在のルールでは彼はそうすることが出来る。しかし、この場合、芸術的に完璧なプログラムの演技構成点も達成可能な最高点を150点にすべきだ。
だから満点が150になる係数で演技構成点を計算すべきだ。
しかし、ここに評価の問題がある。
例え、演技構成点の満点を150に引き上げても、マリニンが各項目で8.0を貰うようでは問題だ。だからまず採点システム、そしてその採点システムの正しい適用が必要なのだ。
何故なら・・・繰り返すけれど、僕にはマリニンがスケーティングスキルで8点台を貰える理由が説明出来ない。説明不可能だ。

F:彼が背負っている国旗を見たら、全て理解出来るだろう。

M:それを言ったら身も蓋もない。僕はそんなレベルだとは思い至りたくない。
しかし、もしそんなレベルの競技なら、みんなで両手を上げて(お手上げと言う意味)、羽生の公演を見に行こう。技術的により興味深く、情熱的で、画面越しに見ている者も、現地で見ている者も、最初の一秒から最後の一秒まで目を釘付けにされる彼の公演を。フィギュアスケート競技はもう放っておいて。この際、フィギュアスケート競技は完全にお開きにした方がいいだろう。

E:そうだね。

M:おそらく、このテーマについて省察すべきだろう。
今日、日本の視聴率ランキングを送ってくれた人がいた。
日本はこの世界選手権でタイトルを3つ獲得している。タイトル3つだよ。
羽生が出場した2019年の大会では、フィギュアスケートの試合は週間ランキングの上位を占めていた。フリープログラムはランキング1位だった。つまり最も視聴された番組だった。
今回の大会では30位以内に入った試合は一つもなかった。
今現在、日本におけるフィギュアスケートへの関心は非常に低い。
問題は何か?
日本は今大会タイトルを3つ獲得している。

E:もう二度と起こらないだろう。

M:2019年は幾つのタイトルを獲ったか?
ゼロだ。
つまり何か問題があるのは明らかだろう。
しかし、これら全ての現実から目を逸らすのは間違っている。
僕は氷上で勝つためにあらゆることをする選手達には敬意を払っている。
これは選手批判ではないことを理解してもらいたい。
マリニンや宇野昌磨やその他の選手に対する批判ではない。採点システムに対する批判だ。
当然、選手達は間違ったシステムが勝つために要求することをやっているだけだ。
4分+/-10秒のフリープログラムで、長い助走から4回転ジャンプジャンプを多く跳び、不格好なスピンを考案し、平凡なステップシークエンスで勝てるとシステムが言うのなら、勝ちたい選手はこれをやるだろう。しかし、フィギュアスケートがこんな風に横道に逸れていくのを止めるための介入が必要なのは明らかだ。

E:そうだね。実際、今大会がスペクタクルになったひと時は、君が挙げたジェイソン・ブラウン、そしてヴァシリエフスとエイモズが素晴らしいプログラムを滑った時だった。

M:そう。正直に言うが、ケヴィン・エイモズとジェイソン・ブラウンが、僕の好みのスケーターだったことは一度もない。無数の理由から僕の指標は全く別のところにある。
しかし、ジェイソン・ブラウンが滑り終わった時、僕は立ち上がり、涙ぐみながら拍手をしていた。圧巻のプログラムだったからだ。クラクラするほど美しいプログラムだった。
これが現実だ。だから(このような素晴らしい演技は)最終的に先入観や色々なことを超えるのだ。

勿論、僕の頭の中には羽生のイメージがある。そして、どうしても、全ての選手をこのイメージと比べてしまうから、他の選手達は嫌でも全員下手に見えてしまうのだ。しかし、この青年達は自分自身を超えたと言わなければならない。
僕の意見では、ジュンファン・チャは2つの卓越したプログラムを滑った。チャのフィギュアスケートで小さな粗を見つけるとすれば、3アクセルの前の待ち時間が長過ぎることだ。3アクセルは、彼にとってナチュラルなジャンプではなく、振付にも巧く組み込まれていない。しかし、それ以外は並外れていた。ジュンファン・チャの4サルコウは男子の試合のハイライトだったと僕は思う。つまり、マリニンにとっての4アクセルだ。ショートでもフリーでも彼はこのジャンプを驚異的なクオリティで実施した。チャが男子シングルの勝者により相応しかったと僕は思う。僕の意見では、完璧なプログラムを揃えた選手、つまりジュンファン・チャがあの得点を獲得しても優勝出来ないのは、何か問題がある。

E:何かが機能していないよね(爆笑)。君の言う通りだ。

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☆世界選手権はペアと女子の最終滑走ぐらいは見るつもりでいましたが、帰国前の多忙に加え、何か食べ物に当たったのか、木曜日と金曜日は謎の高熱と嘔吐で寝込み、土日は日本行の機内だったため、結局、今回の世界選手権は一秒も見ないまま終わっていました・・・(出発の土曜日にはすっかり回復し、今は元気です)
私の父と弟は特に羽生君のファンでもフィギュアスケートのファンでもないですが(2人共野球好きで、父は阪神ファン、弟は西武ファン、ただし姪っ子は羽生君が大好き)、羽生君が出場する全日本や世界選手権は毎回見ていて、「羽生は凄かった」「どうやったらあんな演技が出来るんだ」と結構盛り上がっていました。ところが今回は全く見ていなかったようで、世界フィギュア自体、話題にも上りませんでした。
でも一般の視聴者なんてそんなものなのでしょうね。
フィギュアスケートの試合を見るためではなく、羽生結弦を見るためにテレビを点けていた一般視聴者が圧倒的に多かったのではないでしょうか。
サッカーや野球のようなチーム競技なら、そのスポーツのファンは、チームのメンバーが入れ替わっても関係なく試合を見ます。
しかし、個人競技だとそうはいきません。スター選手が引退したら、その競技も見なくなる、というのはフィギュアスケートに限ったことではありません。
器械体操も内村君の引退で、競技を見る人が減ったそうですから。
特にフィギュアスケートの場合、羽生君に対する露骨な下げ採点と特定選手に対するあからさまな贔屓採点、不公平で一貫性のない判定のせいで、ファンの間に深い遺恨を残すこととなり、羽生君がきっかけでフィギュアスケートを見るようになった層の関心を競技に引き留めておくことが出来なかったばかりか、元々スケートのファンで羽生君の大ファンになった古参スケートファンにまで愛想を尽かされ、去られてしまいました。普通のユーザーが映像をスローにしてエッジや回転を簡単に検証出来る今の時代、選手によって回転不足やエッジを見逃されたり、厳しく取られたり、そんな明らかに不公平な判定に、見ている側が気が付かない訳がありません。応援する選手がいなくなったら、そんな公正性に欠ける競技は見るのが馬鹿らしくなります。むしろ結果に関係なく、見たい選手のプログラムだけを後から視聴したほうが、純粋に演技だけを楽しめるのではないでしょうか。

今シーズンの各大会の観客席と視聴率がはっきりと物語っていると思います。

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Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu