SalottoBiancoより「羽生結弦からの大きな贈り物、GIFT」

その週に行われたスポーツ競技についてより踏み込んだ視点で考察するポッドキャスト「SalottoBianco」より。基本的に競技の結果や内容について議論する番組なのですが、今回は冒頭から長々と羽生君のGIFTの話で盛り上がっていました。昨晩28日に放送されました。

マッシミリアーノ・アンベージ(M)冬季競技アナリスト/ジャーナリスト、ジャーナリスト

フランチェスコ・パオーネ(F)ユロスポ所属ジャーナリスト

エンリコ・スパーダ(E)OA Sport編集者

E: この週末はイタリアの選手達が活躍し、エキサイティングだったけれど、マックス、僕達はこの話題から始めずにはいられない。僕は、正直に言うとまだ断片した見てないんだ。というのもストリーミングへの入り方がよく分からなくて、何とか見ようと四苦八苦したけれど、ストリーミング画面を開けられらなかった。まだアーカイブで視聴出来るから、後でやり方を説明してね。
いずれにしても僕達が立ち会った羽生結弦のスペクタクル。この時代、いやおそらく史上最も偉大な人物が東京ドームでショーを開催した。東京ドームは野球チームのホームだよね?フランチェスコが詳しいと思うけれど、いずれにしても神聖な場所だよね。マックス、君はこのショーを見て、どう思ったか、この1時間半で何を見たのかを教えて欲しい

M:1時間半よりずっと長いよ。実際は2時間半だ。僕はその時間、他のスポーツの解説中だったから、ライブでは見れなかった。断片的に見ながら、その時、彼が何をやっているのか確認していた。そして今日、落ち着いて見ることが出来た。一言でいうと、史上最高のフィギュアスケートのイベントだった。フィギュアスケートの歴史は100年以上に及ぶ。
オリンピックの試合もこのイベントとは比較にならないと言えば、そのスケールを理解して貰えるだろう。巨大なリンクとマキシスクリーンが設置され、様々なジャンルの音楽の演奏家やアーティストが参加した。抽選で選ばれた33000人。何故なら希望者はチケットの数を遥かに上回る人数だったからだ。このような抽選販売は通常、オリンピックのチケットなどで行われると言えば、チケット争奪戦がどれほど凄まじかったか分かるだろう。だから会場に33000人。東京ドームの収容人数はもっと多いが、機材を配置する都合で販売されたのは33000席だった。そして当然、映画館でもライブストリーミングが行われ、映画館にも33000人が集まった。加えて、ショーを自宅でデバイスを使って視聴するために有料配信に申し込んだ人々。配信を購入した人の数は僕には分からないけれど、これはフィギュアスケートを超越している。人生では意見を変える能力も必要だ。僕は、スポーツ全般について、まずスポーツがあって、アスリートがいると思っていた。フィギュアスケートではそうではない。現在のフィギュアスケートでは、まず羽生がいて、スポーツがある。こう考えると、ここ数年間おけるこのアスリートに対する扱いに疑問を投じなくてはならなくなる。彼はこのショーをGIFTと命名した。GIFTのイタリア語訳は?

E:贈り物

M:その通り。彼がフィギュアスケートの観客に贈ったギフトは、彼の心の軌跡も語っている。苦悩の軌跡、自分のスポーツが横に逸れていってしまっていることに気付いたが故の苦悩。
ひとりだと感じるアスリートとしての軌跡。何故ならルールの内容が守られていないことを理解したからだ。衝撃的だった。そしてイベントの技術レベルは極めて高難度だった。このショーの中で、彼は多くのプログラムを滑り、これらのプログラムには4回転ジャンプが含まれていた。多くの3アクセル、多くの3回転ジャンプ。競技会に出場する選手を思い浮かべて欲しい。彼らは1日1本のプログラムを滑る。彼は・・・全く常軌を逸している・・・僕は何と言ったらいいのか分からない。
彼は12本のプログラムを滑った。つまり11回着替えた(彼は毎回衣装を変えた)

E:そしてどんな衣装かだ、マックス
だって僕は凄いのを見た

M:並外れていた。オープニングだけでチケット代の価値があった。そして前半のプログラムの一つがホープ&レガシー・・・僕にとってはこれだけで十分だった
僕にとって、ホープ&レガシーはフィギュアスケートそのものだ。
フィギュアスケート史上、未だかつて到達したことのなかった頂点だった。
ホープ&レガシーは2017年のヘルシンキ世界選手権で神々しく演じられた。
これと比較出来るものは後にも先にも存在しない。これが事実だ。彼は競技時代の様々な過程に存在した多くのプログラムを再演した。誰もが知っている幾つものエキシビションプログラム、そして新しいプログラムも滑った。何故なら、このようなイベントを企画したら、何か新しいものを観客に届けるのは素敵なことだからだ。だから僕達は新しいものも見た。何を言ったらいいのか・・・
鳥肌が立ち、涙が流れる
僕は語るのも困難なんだ・・・☆マッシさん、感極まって言葉に詰まる

E:君が彼のためにこんな風に感極まるのを何度も見たよ

M:いや、いや ☆マッシさん泣いているのを悟られないよう誤魔化そうとする😭
これは何かスポーツの概念を超えるものだった。
繰り返すけれど、技術的には競技から引退したアスリートだ。つまりプロに転向したアスリート。7本の4回転ジャンプ、6本の3アクセル、3回転ジャンプの数に至っては僕は思い出せない。これら全てを一人でやってのけた。音楽界のスーパースターのように、ここにフィギュアスケートのスーパースターがいて、過去のヒット作品と新作を披露する。
しかし、音楽のスターは舞台で歌を歌う。確かに動いたり、キャラクターを演じたりもするだろう。しかし、彼は滑らなければならない。4分のプログラムを。
最終的に彼は45分近く滑っていた。確かに間に休む時間があり、30-40分の製氷タイムもあったけれど、このアスリートの偉大さを示す叙事詩的(英雄的)な公演だった。
現在の彼の動向を見れば、スポーツ史上最高の人物の一人であることは間違いない。
一方に戦歴がある。彼の場合、オリンピックの金メダル2個、世界選手権の金メダル2個、無数のグランプリファイナル優勝などなど
しかし、それとは別に自分のスポーツに対してどう動くか?フィギュアスケート界では羽生がやっていることの10分の1の行動さえ誰も取ったことはなかった。トービル/ディーンもカタリーナ・ヴィットも比べものにならない。最近の選手達は名前を出そうとも思わない。だって名前を出せる人がいる?つまり、驚異的だ。だからまだこの公演を見ていない人は、是非視聴することをお勧めする。まだ唯一無比のイベントを見るために、配信サイトに申し込むチャンスはある。繰り返すけれど、フィギュアスケート史上だけではなく、氷のスポーツ史上最高のイベントだ。有名な1980年レークプラシッドオリンピックのアイスホッケーのフィナーレをも超えるかもしれない。あの有名な「氷上の奇跡」だ。アメリカ人はこの時の快挙を小説にし、映画化した。
ここでは指揮を執るのはたったひとりの男だ。氷上に彼のフィギュアスケートを持ち込み、彼の物語を話し、それら全てを驚異的な高難度でやってのける。比類がない。フィギュアスケート史上、羽生結弦より完全なスケーターは見たことがない。この辺で止めておく。何故なら、常に僕の心を強く打つテーマだから、話すは簡単ではない。誰もが理解出来る訳ではないし、氷上で育った者はこのこの超常現象の受け止め方が他とは異なるのかもしれない。しかし、僕の心に凄く響くんだ。

E:これは心だよね。2つの質問がある。
羽生を試合で再び見られる可能性はある?
2つ目の質問は羽生とこのショーを日本国外で見られる可能性はある?

M:試合で彼を見られるか、という質問については、現行のルールを考えると、彼のファンは誰も現在のフィギュアスケートで彼を見たいとは思っていないだろう。フィギュアスケートはもはや4回転ジャンプの数だけが重要なスポーツになってしまった。

E:まさに。芸術性は脇に押しやられた。

M:ブラボー、まさにその通り。脇に押しやられた。
得点が取れるように計算する。その上、トランジションやエッジワークという点においても非常に貧しいフィギュアスケートになった。だからそういうことだ。
この公演の海外ツアー、出来ればヨーロッパでも見られるかという質問だが、これは大勢の人の夢だろう。僕は可能性はあると思う。
ただ注意して欲しいのはこのような公演の後では、体調を回復させるために1週間から10日の休息が必要になる。でも1ヵ月で3カ国とか。最初の国は中国だ。何故なら中国のファンは素晴らしいからだ。彼らの結弦に対する崇拝は驚異的だ。だから中国のファンは北京最大の会場の一つで、このような公演を受け取るに値すると思う。それに中国は設備力も優れているから、8万人の観客が見られるようなソリューションを考案出来るかもしれない。そしてヨーロッパで2公演が実現したら夢のようだけれど、僕達は準備のために奔走しなければならないし、彼のスケジュールも問題だ。もうすぐ別のショーで結弦を見ることが出来る。今のとこと、GIFTはタントゥム、つまりそのジャンルにおいて唯一無比のイベントで、このようなイベントを別の場所に持っていくのは難しい。
しかし、僕達の願いは、彼を日本国外でも見られることだ。
中国は抽選を企画しなければならない。参加者は10億人単位になるから、宝くじ並みの当選率になるだろう。ヨーロッパでも途方もない数の人がチケットを求めるだろう。
ここで、僕は問いたい。
競技を引退したスケーターが、何故これほどの人数を集められ、現在のフィギュアスケート競技会は収容人数5000人程度の会場の半分も埋められないのか?
(ISUは)この状況について己に問いかけ、答えを見つけなければならない。
答えがないなら(そして答えはないのだ。正確にはソリューションがない。現在のこのようなフィギュアスケートではソリューションはあり得ないのだ)、彼らはここ数年間、取るべき方向性を間違えたと言わざるを得ない。彼らはフィギュアスケートを破滅させるリスクのある方向へ進んでいる。

E:もはや引き返すことは出来ないのか?

M:僕は大きな大会に向けて毎日10時間ハードな練習をしている全ての選手に最大の敬意を払っているし、問題は選手ではない。
幾つかの状況の運営に議論の余地があり、ルールは機能しておらず、ジャッジ達は誤った解釈でこのルールを適用している。トップ陣にはこの状況に対処する能力がない。これら全てが原因で現在の状況に陥っている。長年熱心なフィギュアスケートファンだったのに、最近、競技を見なくなった人を僕は大勢知っている。しかし、彼らは羽生の公演は見逃さないのだ。このことをよく考えるべきだ。夏にも日本ではアイスショーが幾つかあった。羽生の出場するショーはチケット完売。彼のいないショーは、オリンピックチャンピオンや現世界王者を始め、多くのスケーターが出演していたにも拘わらず、チケットの半分も売れなかった。
何かがおかしい、そうだろう?
偉大で驚異的な人物、アイコンがいて、現在、フィギュアスケートを愛する人々は彼の方が信じられると思っている。
僕は現在のフィギュアスケート競技の状況が残念だし、悔しい。
しかしこれが真実だ。
僕は羽生結弦に最大の敬意を捧げる。彼はもはや神の域にいる。そしてそうあるべきなのだ。

E:フランチェスコ、何か言うことはある?

F:つまり、ノーマン・ジュイソンのSF映画「ローラーボール」を彷彿させる。ジェームス・カーンが主役のジョナサン・Eを演じる。一人の男が巨大な体制より偉大な存在になるのだ。映画のテーマに僕は心を打たれた。男は体制側に勝利する。1975年の映画だ。
羽生はまさにそうなった。フィギュアスケート界のジョナサン・Eだ。僕が言いたいことを理解するには映画を見なければならない。見た人には分かるだろう。見ていない人は、是非映画を探し出して見て欲しい。現在の羽生結弦の状況は、映画の中の体制に対するジョナサン・Eと重なるのだ
以上を述べた上で、GIFTを別の場所で再現出来る可能性については、分からない。日本の文化では・・・日本には幸運なことに、北米からやって来た全てが工業化され、同質化される、認可される大量生産という考え方がまだない。全てを工業レベルで生産するという思想だ。日本にはまだ職人技による作品が存在する。つまり一点ものだ。GIFTは羽生によって「一点もの」の作品として考案されたのではないだろうか。僕が他の場所での再演はお勧めしない理由は、GIFTはおそらくこの日、このコンテクストのためだけに作られ、録画された一回限りの「芸術作品」だからだ。二度と繰り返されることのない芸術作品。だって、ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチは、同じ彫刻を10体彫ったり、「モナリザ」を10枚描いたりしなかった。1体/枚完成させて、その作品はそれで終わりだ。GIFTのコンセプトもこれと同じだと思う。だから、そのように考えなければならない。しかし同時にGIFTは贈り物だ。

M:大きな贈り物だよ。僕が受け取った贈り物は、ホープ&レガシーを再び見られたことだった。僕はそれだけで十分だった。正直に言って・・・僕は(この日は)仕事があったけれど、もし行くことが出来たなら、1000ユーロ喜んで払っただろう。もし、ドームの前にダフ屋がいて、チケットは1000ユーロだと言われたら、僕は黙って支払っただろう。別のところで犠牲を払っても1000ユーロ出して見ただろう。

E:GIFTを全部持ってくるのが無理なら、GIFTの一部でも僕達は満足する。

M:彼は秋に別の重要なアイスショーを氷上に持ち込んだ。会場も映画館も完売祭りで、驚異的な数字を記録した。(ヨーロッパに持ってきてくれるなら)僕達はこっちのショーでもいいよ。あるいは彼はやりたいこと、だって間違いなく、彼は立ち止まらない。また新しいプログラムを作ろうとするだろう。もはや彼自身が振付師になった。彼はフィギュアスケートの全てを掌握するところまで到達していて、やりたいことは何でも出来る。ひょっとしたら次のショーではイタリア公演もあり得るかもしれない。これは言っておかなければならないけれど、イタリアでは数日前にトリノで重要なフィギュアスケートのイベントがあった。土曜日の夜に行われた映画音楽の傑作に焦点を当てたアイスショーだ。長年、フィギュアスケートに多大な情熱を注いでいるプロモーターのジュリア・マンチーニの企画だ。勿論、GIFTは到達不可能だけれど、トリノのアイスショーの成功を見ると、イタリアや、それにヨーロッパでもこのようなイベントに対する関心は非常に高いのだ。非常にハイレベルな滑りと洗練された演技を、大切な記憶を思い起こさせる音楽で提供すれば、ショーは成功する。もし羽生でヨーロッパ公演を行うことになったら、フィギュアスケート市場の小さいヨーロッパと言えども抽選になるだろう。もしヨーロッパのアイスアリーナの宝石であるヘルシンキのハートウォールアリーナで開催されたとしても、収容人数はせいぜい15000~17000人程度だ。しかし数百万人のファンがチケットを求めるだろう。だから10万人規模のスタジアムで開催しない限り、抽選にしなければならない。この数字の重さが分かる?

E:勿論、分かるよ
間違いなくそうなるだろう。
サンシーロ・スタジアムでの7~8万人規模のコンサートのようなイメージだよね。こんなコンサートが出来るのはほんの少数の人間だ。つまり地球規模のアーティストだ。
結弦、僕達は君を待っている。
そのことを知っておいてね。
君が来たくなったら、僕達はここで君を待っている。
僕達はレッドカーペットで、いや10~15枚のレッドカーペットで君を迎える準備がある。
多くの人の心を打ったこの話題でこのポッドキャストを開始出来て良かったと思う。僕は配信サイトに申し込む方法を理解しなければならない。日曜の朝に挑戦したけれど、出来なかった。

Disney+dアカウント以外<月間プラン>


Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu