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Sportlandiaより「フィギュアスケートとテクノロジー」

マルティーナさんの容赦ない分析は続きます。

今回はテクニカルパネルやジャッジの誤審がメダル、あるいはそれ以上の何かに影響を与えたケースを取り上げています。

 

原文:Figure Skating and technology | sportlandia (wordpress.com)

 マルティーナ・フランマルティーノ著 
(2021年5月1日)

フィギュアスケートのプログラムの最終スコアはスケーターによって実施された各エレメントの基礎点、出来栄え点、演技構成点、場合によっては減点によって決まります。出来栄え点(GOE)とは何でしょうか?綺麗に実施されたエレメントは出来がまずかったエレメントより高い得点に値します。ISUがスケーターがより高い得点を稼げる一連の要件と、スケーターが避けるべきマイナスの条件を設定しました。

また、ISUは6種類のジャンプを成文化しています。内2種類のジャンプは踏み切った足とは逆の足で着氷するトゥジャンプです。しかし、だからといって同じジャンプという意味ではありません。ISUによればフリップはバックヤードインサイドエッジで踏み切り、ルッツはバックワードアウトサイトエッジで踏み切ります。これはルールに書かれている文章です。

2枚のスクリーンショットを撮りました。踏切を比較し易いよう1段目に2枚を並べました。その下に完全なスクリーンショットを上下に並べました。このスクリーンショットを撮った瞬間の分/秒も見ることが出来ます。この2つのジャンプは何でしょうか?

私はフィギュアスケートのジャッジではありませんが、同じジャンプに見えます。動画を見ると、2本のジャンプは異なる入りから実施されているのが分かりますが、重要なのは入りではなく踏切です。そして私にはどちらも明らかにインサイドエッジに見えます。プロトコルによれば1本目のジャンプはルッツ、2本目はフリップでした。両方フリップということはあり得ません。何故ならプログラムの後半でエフゲニア・メドヴェデワは別のフリップを実施しており、1つのプログラムで同じジャンプを3本跳ぶと、ザヤックルールにより3本目は無効になるからです。従って、もし彼女が3本目のフリップを跳んだなら、そのフリップはスコアから除外されていたはずです。

最初のジャンプの踏切までの入りと、ルールを幾つかのスクリーンショットに収めました。

最初、メドヴェデワはアウトサイドエッジでした。不幸なことに彼女のエッジの傾斜は変化し、踏み切る瞬間は完全にインサイドエッジになっています。テクニカルパネルは「e」と判定すべきでした。この場合、「!」は間違った判定です。この大会、2019年世界選手権のテクニカルコントローラーは前田真美、テクニカルスペシャリストはヴァネッサ・グスメローリでした。両者共に経験豊かなジャッジですが、彼らが重大な判定ミスを犯しているの見るのは今回が初めてではありません。アシスタントテクニカルスペシャリストのカテリーナ・カンベルスカは情報がありませんので、彼女について言えることは何もありません。(テクニカルパネルの判定は多数決ですから)少なくとも彼らの内2人がこのジャンプに対して間違った判定を下した、ということになります。

テクニカルパネルのコールがなくても、ジャッジ達はエッジが正しくなかったことに気付いたはずです。エッジエラーだった場合、GOEプラス要件のブレット2「踏切が良い」が当てはまりませんので、GOEは最高でも+3です。この場合、例え「!」マークが無くても「エッジが明確ではない」の-1が適用されるべきでした。つまりこのジャンプは最高でもGOE+2が妥当でしたが、ジャッジ全員が不相応な得点をメドヴェデワに与えました。彼女が獲得したGOE2.11と、このジャンプに与えてよい上限1.18の点差は0.93、つまり紀平梨花がエフゲニア・メドヴェデワを上回って銅メダルを獲得するのに十分な点差でした。紀平梨花はジャッジ達の誤審によって世界メダルを逃したのです。

そしてこれはおそらくメドヴェデワのスコアの唯一のミスではありません。私は別のジャンプ、2アクセルにも注目しました。最初の2枚のスクリーンショットは踏切、残りの3枚は着氷です。3枚目の画像で彼女は既に着氷しています。

このジャンプは「<」(回転不足)とコールされ、基礎点(プログラム後半のジャンプ)は2.73でした。しかし、本来なら「<<」(ダウングレード)とコールされ、ミスに対するGOEの減点は、-1/-2から-3/-4になるべきでした。

ジャッジ全員が間違えたルッツのGOEのミスがあっても、もしアクセルが正しくコールされていたら、紀平は銅メダルでした。そしてこれはこの大会における唯一のミスではありません。私は全てのプログラムをチェックした訳ではありません。全てを真剣にチェックするには私が持っている時間よりもっと多くの時間を必要とします。しかしこれは私の仕事ではありません。このようなチェックはISUが行うべきです(「行った方が良い」、ではなく行うべきです)。

この文章を書いた後で、以前妙なものを見たことを思い出し。YouTubeである動画を探しました。そして6人のスケーターの興味深い動画を見つけました。

私は他のスケーター、8位に終わったソフィア・サモドゥロワの動画も探しました。(スケーターとジャッジの)ミスのチェックは表彰台争いをするスケーターだけでなく、全スケーターに対して行われなければなりません。不幸なことに私が見つけた動画は画質があまりよくありません。これは彼女の2本目のジャンプです。

テクニカルパネルによれば、このジャンプはインサイドエッジ、つまりフリップでした。こちらはリアルタイムのコールです。GOE1.06と読み取ることが出来ます。GOEはスコアが発表される前に僅かに変動する可能性がありますが、この数値は最終スコアの目安になります。しかし、その後何が起こったでしょうか?

サモドゥロワはプログラム冒頭に3F+3Tのコンビネーションを実施し、その後3Fとコールされたジャンプを跳びました。彼女が別の3Fを跳んだ時、彼女の8本目のジャンプ、6つ目のジャンプ要素は無効になります。僅かな変動を除き、彼女の最終TESは64.01でした。彼女のプログラムが終了した後でテクニカルパネルは彼女の2本目のジャンプはフリップではなくルッツだったと判断したのです。「疑わしきはスケーターに有利に」というルールがあるからです。このルールは常に適用されている訳ではありませんが、今回は適用され過ぎたために別のルールが破られました。

テクニカルパネルがルッツを間違ってフリップとコールするのはどんな時でしょうか?
そのジャンプの踏切がインサイドに見えた時です。もしテクニカルがそのスケーターはルッツを跳ぶつもりで、エッジを間違っただけでザヤックルールは破らなかった、と判断したなら、ジャンプの基礎点は加算されるべきですが、プロトコルには「e」マークが記されていなければなりません。サモドゥロワが実施したジャンプのエッジはどうだったでしょうか?テレビの素晴らしいリプレイが私達を助けてくれました。

メドヴェデワ同様、アウトエッジでジャンプに入りますが、踏み切る瞬間にインサイドエッジになっています。テクニカルパネルはこのジャンプに「e」を付け忘れるほどこのスケーターがお気に入りだったのでしょう。そして踏切を見逃したのは前田、グスメローリ、カンベルスカだけではありません。これがプロトコルです:

GOEは1.35です。もしサモドゥロワのフリップ(実際はルッツ)に+2を6個、+3を3個が与えられていたら、最終GOEは1.21になり、最初に彼女に与えられた得点1.06より髙かったはずです。つまり、コールがフリップからルッツに修正された後でGOEも上昇した、ということになります。しかし、間違ったエッジ、またはフラットなエッジは減点されるべきではありませんか?

もしテクニカルパネルがちゃんと仕事をしていたら、基礎点は5.90 (3Lz)から4.43 (3Lze)に下がり、GOEは最高でも0でした。従って、サモドゥロワのこのエレメントの得点は7.25ではなく4.43になっていました。このことは、サモドゥロワのトータルスコアは205.76で、最終順位は8位ではなく9位になっていたことを意味しています。8位に相応しかったのはマライア・ベルでした。GOEマイナスが-3ではなく-4だった可能性もあった訳で、その場合、イム・ウンスもサモドゥロワを上回っていました。

テクニカルパネルのミスは結果を変えました。ジャッジのミスはそうではありませんでしたが、少なくとも3人のジャッジ、スロベニアのテリー・セデジ、カザフのユーリー・グスコフ、ドイツのケルステン・ベルマンが彼女に高過ぎるGOE+3を与えました。幸運なことに、このミスが翌シーズンの世界選手権の枠数に影響を与えることはありませんでしたが、このリスクもあったのです。

実際、テクニカルパネルやジャッジの誤審が、スケーターの人生を変えてしまう可能性もあるのです。そして、彼らの仕事が困難なら(実際、困難であることを私は知っています)、適切なテクノロジーによって彼らがより正しい審査を行えるよう支援すべきです。

この記事を執筆する前に、私はヴァネッサ・グスメローリが入っているテクニカルパネルに既に注意を引かれていました。私が審査員の名前を読むようになってから1年も経っていませんが、偶然気が付きました。私はライブで、またはYouTubeの動画で試合を見ながら、何か妙なことに気付くと、プロトコルを確認し、ジャッジの名前を読むことにしています。従って、時間が前後します。

私は2019年フランス国際をライブで見ました(私は2019年世界選手権もライブで見ましたが、この時はプロトコルを確認しませんでした)。 私は試合中はジャンプが回転不足がどうかあまりよく見ません。常に着氷を心配し過ぎて、ブレードを見るのを忘れないようにします(私はリアルタイムでコメントすることはありませんが、誰かが転倒すると常に奇妙な痛み覚えます)。しかしこのジャンプについて「プロトコルを確信をしなければ」と思ったことははっきりと覚えています。これがそのジャンプです。

ショートプログラムにおける宇野昌磨の3アクセルです。彼は前向きで離氷し、前向きで着氷しています。このジャンプに対する唯一の正しい判定は回転不足ではなく、ダウングレードでした。私にとってはこのジャンプを確認した瞬間からダウングレードであることは明らかでしたが、アメリカのウェンディ・エンツマン、フランスのヴァネッサ・グスメローリ、スロバキアのモニカ・クスタロワは完全に回り切っていると判断し、「<」(回転不足)すら付きませんでした。

ちなみに、彼らにとってこれは転倒ではありませんでした:

ISUのルールによれば、転倒は「スケーターによるコントロールの喪失。その結果、彼/彼女の体重の大部分は、ブレード以外の身体の部分(手、膝、臀部、腕のあらゆる部分)支えられて氷上にかかっている」と定義されています。最初のスクリーンショットでネイサン・ファンは既に着氷していますが、着氷とその弾みを制御出来ず、2枚目のスクリーンショットで彼は再び宙にいます。その後、彼は転倒し、両手を付いて体重を支えざるを得ませんでした。そうしなければうつ伏せに倒れ、怪我をするリスクもありました。私は宇野とチェンの3アクセルについて、そしてケビン・エイモズの3フリップのエッジについてこちらの記事で既に考察しています。

私は(ジャッジやテクニカルの)名前に注意を引かれると、別の試合も幾つか調べてみます。この日、たまたま間違っただけなのか、あるいはこの人には新しいメガネが必要なのかを知るために。

そこでヴァネッサ・グスメローリがアシスタントテクニカルスペシャリストを務めた2012年グランプリファイナルも見ることにしました。この時のテクニカルコントローラーはオーストラリアのスーザン・リンチ、テクニカルコントローラーはカナダのジェイソン・ピースでした。

最初のエレメント4Tで高橋大輔は転倒しました。リプレイでは彼の離氷をはっきりと見ることが出来ます。3枚目以降のスクリーンショットが着氷です。3枚目で彼の足は既に氷面に触れており、爪先だけ着氷しているのが分かります。4枚目のスクリーンショットでは彼のブレードは進行方向に対して垂直になっており、もはや完全に着氷しています。それから・・・氷上で前向きに回転します。ジャンプは回転不足とコールされるべきでした(実際は限りなくダウングレードに近かったですが)。この場合、基礎点は10.30から7.20に下がり、GOEは-3.00ではなく-2.71でした。

最後のコンビネーションは3Lz+2T+2Loでした。ルッツの踏切りは演技中の映像からもリプレイからも判断するのは困難でした。テレビ放送のリプレイでは3A+2Tの出(右)とルッツの離氷(左)の映像が重なっていたからです。ほとんど透明な高橋の進行方向しか分かりませんでした。着氷に注目すると、このルッツは回転不足だったことが分かります。

セカンドジャンプはダブルトゥループです。最初のスクリーンショットは離氷です。2枚目はブレードが氷に当たったところです。3枚目ではブレードは完全に氷上にあり、またしても氷上で回転しています。 このジャンプは回転不足です。

サードジャンプはエッジジャンプですから、踏切が明確ではなく、少しプレローテーションがあるのは当然です。最初の2枚のスクリーンショットでジャンプの進行方向を見ることが出来ます。4枚目でブレードは氷に付いており、ここから彼は前向きになります。ほとんど間違いなくダウングレードに値するジャンプであり、「スケーターに有利に」を適用したとしても、回転不足とコールされるべきでした。

実際には何のコールもありませんでした。テクニカルパネルによるこの4つのミスが最終順位にどのような影響を与えたでしょうか?

見てきましょう・・・コンビネーションはジャンプが3本全部回転不足だったことを考慮するとGOE-2が妥当だったと思います(回転不足一つで-1から-2です。ジャッジから与えられた一番高い得点と一番低い得点をカットすると、残りの得点の平均は-2である可能性が高くなります)。

金メダルに相応しかったのは高橋ではなく羽生でした。しかし、実際にはテクニカルパネルの4つのミスに助けられた高橋が金メダルでした。

つまり、テクニカルパネルが間違った判定を行った場合、スケーターが氷上で実施した内容に相応しい正当な順位を彼から奪うことがあるのです。このことは2019年世界選手権で銅メダルに値した紀平梨花に対して起こり、2012年グランプリファイナルで金メダルに値した羽生結弦に対して起こりました。

羽生結弦はジャンプの客観的かつ正確な評価を可能にする方法について研究した論文を書き上げて大学を卒業したばかりです。そして、これはフィギュアスケートが本当に必要としていることなのです。多くのスポーツでテクノロジーが採用されており、センサーはフェンシングでは当たり前になっています。様々なタイプのセンサーがあり、タッチがあったかどうか、どの領域だったかを示すだけなのでシンプルな仕組みですが、このテクノロジーは基本的な役割を果たしており、競技の公正性を保証しています。

彼が考案したシステムを使用して、より多くのテストを実行し、十分なデータを収集するには時間がかかりますが、今すぐ実行出来ることもあります。 カメラの台数を増やすことです。カメラを増やすと審査により時間がかかるというのは事実ではありません。1台のカメラ画像だけでは不明瞭で複数のビューが必要な場合、別のカメラがすぐに正しい答えを提供してくれます。

私はジョージS.ロッサーノが執筆した興味深い記事「 現在のリプレイシステムは正確なコールを保証するタスクに対応していない 」を読みました。彼は数学者および物理学者で、カリフォルニア州エルセグンドにあるエアロスペースコーポレーションのリモートセンシング部門のメンバーであり、そこで新しいスリットレス中赤外線分光器MIRISを開発・構築しましたから、テクノロジーについて理解しているはずです。ロッサーノは、スケート競技を正しく評価することの難しさを説明し、全てを解決出来ないにしても、審査システムを改善するソリューションを提案しています。 そして彼のソリューションはもうすぐ始まる新シーズンから、すぐにでも適用することが可能です。

必要なことはただ一つ、より公正な競技を目指して尽力するISUの意欲だけです。

そしてこれは本当に必要なことなのです。何故なら誤審は多くあり、そのような誤審が巨大な余波を生むこともしばしばあるのです。

ジャッジの判定がスケーターのキャリアを左右した例を挙げましょうか?

2013年NHK杯のテクニカルパネルはスーザン・リンチ(2012年グランプリファイナル同様テクニカルコントローラ)、ピルジョ・ウイモネン(テクニカルスペシャリスト)、オルガ・マルコワ(アシスタントテクニカルスペシャリスト)でした。

高橋大輔がショートプログラム冒頭に実施した4トゥループは完全に回り切っていると判定されました。これはテレビ中継のスクリーンショットです。最初の2枚のスクリーンショットは踏切、残りの2枚は着氷です。

私には回転不足に見えます。しかし、リプレイは非常に明確であり、最初のカメラとは異なる2台目のカメラを使用すると、競技を正しく判断するのが如何に楽になるかが分かります。リプレイでは彼が着氷した瞬間をはっきり見ることが出来ます。

2段目の最初のスクリーンショットで彼のブレードは進行方向に対して垂直になっています。高橋は正面を向いていますが、既に着氷しています。彼は着氷した後、氷上で回転を完了しており、実際、氷の飛沫が多く飛び散っています。最初のスクリーンショット(リアルタイム)では確信を持てませんでしたが、リプレイのスクリーンショットを何枚か撮った今、疑う余地はありません。この画像は非常に明確です。

せっかくこの大会に注目しましたので、もう少し詳しく見てみましょう。私は高橋のクワドに疑念を抱きました。もしかしから今後、もう少し調べてみようと思うかもしれません。こちらはフリーの4トゥループです。

ここでも彼は正面を向き、ブレードが垂直になった状態で着氷し、氷の飛沫が飛び散っています。回転不足と判定されるべきジャンプでした。このジャンプには本来なら値しない基礎点10.30に加え、GOE2.00点が与えられました。ショートプログラムの4Tに対するGOEは1.43でした。

次はルッツのエッジです。テクニカルパネルは何もコールしませんでしたから、彼らはアウトエッジだと判断したということになります。

ジャンプに入る時にはアウトエッジになっていますが、その後、体重が移動し、踏み切る瞬間にはややインサイドになっています。少なくとも「!」とコールされるべきでした。エッジのコールが無かったため、彼はこのルッツで0を1個、+1を5個、+2を3個受け取り、最終GOEは0.90でした。

この大会で彼は不相応なショートプログラム自己ベストを樹立しました。トータルスコアは1カ月間、日本の国内最高得点でした。しかし、その後何が起きたでしょうか?11月末、高橋は脛骨を負傷してグランプリファイナルを欠場し、彼の代わりに出場した織田信成はこの大会で銅メダルを獲得しました。日本では5人のスケーターが五輪代表の3枠を争っていました。

羽生がショートプログラムの歴代最高得点、ショート、フリー、トータルスコアで国内最高得点を叩き出してグランプリファイナルで優勝した後、全日本選手権が行われました。羽生結弦、町田樹、小塚崇彦、織田信成、高橋大輔の最後の決戦でした(全日本の最終順位の順に表記しました)。

以下は各選手のウィキペディアからこのシーズンの成績をクローズアップしました。全日本を赤枠、各選手のシーズンベストを青丸で囲みました。シーズンベストが自己ベストではない選手もいます。小塚の自己ベストは世界選手権で銀メダルを獲った時の得点であり、高橋の自己ベストは2012年世界国別対抗戦で当時の2つの世界記録を更新した時の得点でした。小塚と高橋の自己ベストはかなり前のもので、何年も経過した今もそのスケーターに同じ競争力があることを保証出来るものではありません。一方、シーズンベストはそのスケーターの今現在の実力をより正確に示しています。

全日本選手権の後、日本スケート連盟は四大陸選手権、オリンピック、世界選手権に派遣するスケーターを決定しました。全日本選手権の順位を見ずに、各選手のシーズンベストに注目すると興味深いことが分かります。

シーズンベスト 全日本
羽生 293.25 1
高橋 268.31 5
町田 265.38 2
織田 262.98 4
小塚 230.95 3

高橋のシーズンベストは羽生に次いで2番目に高い得点です(そしてグランプリファイナル以前の羽生のシーズンベストは高橋より低い得点でした)。私は選考の正式な理由も日本スケート連盟が全日本5位の選手をオリンピックに派遣し、3位の選手を自宅待機にさせた理由を説明したかどうかも知りません。しかし、もしNHK杯が正しく採点されていたら、高橋のシーズンベストは町田と織田より低い得点でした。

織田も小塚も2010年の五輪に出場していますが、NHK杯における不当なスコアは、2人の内の1人から2度目の五輪に出場する歓びを奪ったのかもしれません。小塚はその後2シーズン現役を続けた後、身体的問題を理由に引退しました。一方、織田にとっては全日本選手権が最後の試合になりました。彼は四大陸選手権の代表に選ばれていましたが、引退し、後輩に枠を譲る決断をしました。いずれにしても織田はシーズンの終わりに引退するつもりだったのかもしれませんが、高橋のクワドに対する誤審は彼のキャリアに巨大な影響を与えました。織田は高橋より1歳年下です。

試合で間違った審査が行われた場合、その影響はスケーターにとって致命的なものになる可能性があります。彼らは重要なメダルを失い、氷上で実施された内容に対して高過ぎるスコアを与えられた誰かに追い抜かれ、キャリアを途中で中断する可能性もあるのです。

 

☆筆者プロフィール☆
マルティーナ・フランマルティーノ  

ミラノ出身。  書店経営者、雑誌記者/編集者、書評家、ノンフィクション作家
雑誌等で既に700本余りの記事を執筆
ブログ
書評:Librolandia
スポーツ評論:Sportlandia

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☆2013年NHK杯と言えば、織田君に対する謎の回転不足判定が話題になりました。マッシミリアーノさんとアンジェロさんはこの件について別の大会の実況でも何度か言及していますし、アンジェロさんも「織田はNHK杯の不可解な回転不足判定に足を引っ張られ、五輪代表に選ばれず、結果的に引退することになってしまった」と言っていました。

2013年NHK杯:織田信成SP

本人も納得の渾身の演技でしたが、TESが48点から42点に暴落します。
いつも回転不足やエッジエラーを的確に指摘し、得点をほぼ正確に言い当てるマッシさんとアンジェロさんもTESが急落した理由が分からず困惑。
プロトコルを確認すると4T-3Tはジャンプ2本共回転不足扱いで4T<-3T<、ルッツのエッジにもエラーが付いていました。

しかし一方で、同じテクニカルが別の選手の明らかな回転不足が見逃していました。あからさま過ぎてこの大会で勝たせたい選手は最初から決まっていて、脅威になりそうな織田君からは得点を削れるだけ削ったと思われても仕方がありません。

他の採点競技を見ると、正確に審査するためにAIやセンサーなどのテクノロジーを導入しているスポーツが増えています。体操では選手や監督が納得の行かない判定に異議を唱え、再審を要求することが出来ます。

体操の審査に関するこちらの記事は面白かったです。

AI活用で新時代の体操、東京五輪は審判の「採点ミス」ゼロに?|【SPAIA】スパイア

体操は採点システムに関してずっと進んでいます。
体操で出来てフィギュアスケートで出来ない訳がないですよね?

AIは今や様々な分野で応用され、その精度も年々進化しています。
ジャッジの負担を減らし、競技の公正性と透明性を保証するために、フィギュアスケートでも採点システムを見直す時が来ているのではないでしょうか。

 

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち