Sportlandiaより「演技構成点」

マルティーナさんの記事です。
昨日訳した「フィギュアスケート、4回転ジャンプ、芸術性」もそうですが、この程度の分量の記事は彼女にとって午後のコーヒーブレイクで書き上げられてしまう、いわゆる「一切れのケーキを食べるがごとく」(朝飯前)なのです。
他の記事同様、素晴らしい内容ですから、ありがたく頂きましょう🍰。コーヒーを飲みながら!

原文:Program Components | sportlandia (wordpress.com)

マルティーナ・フランマルティーノ著 (2021年5月17日)

今日はあまり多く書くつもりはありません。別のことで忙しく、あまり時間がないからです。
しかし、昨日幾つかのプロトコルを見ながらアイデアが浮かび、頭から離れなくなってしまいました。気になって他のことが手に付かないので、スクリーンショットを何枚か撮ることことにしました。

数年間でISUは幾つかの小さな変更を行いましたが、演技構成点に関する表はほぼ以下の内容のままです。


私は幾つかの項目の上限に唖然とさせられました。例えば、ジャンプの転倒がトランジションと何の関係があるのでしょうか?ステップでの転倒なら理解出来ますが、ジャンプの転倒です。しかし、このような矛盾をいちいち気にしていたらキリがありませんので、先に進みましょう。

各項目で満たすべき基準(要件)がリストアップされています。得点は「テキトー」に与えるのではなく、各スケーターがルールで決められていることをどれだけ出来ているかに応じて与えられなければなりません。

この内容を前提に、私は公式プロトコルから抜き出した幾つかの演技構成点の詳細をご紹介します。

まず、誰の得点かを明かさずに得点だけを低い順に並べ、その後でスケーターの名前を掲載します。最初、男女の得点を混ぜようと試みましたが、係数が異なり、個々の項目の得点は比較出来ても、合計得点まで比較するのは困難ですので、断念しました。

まず女子フリーの得点から始めます。

得点が最も低いスケーターと最も高いスケーターの差は8点。非常に大きな点差です。非常に大きな点差です。大会中最も高い演技構成点がもらえるほどジャッジ達を魅了したそのスケーターにとって、-8点なら銀メダルが6位になるほどの点差でした。
一方、一番目のまあまあ上手い選手(得点から考えるとそうでしょう)は8点高い得点を獲得したとしても結果は変わりませんでした。いずれにしても演技構成点65.72は、カロリーナ・コストナーが2012年世界選手権で優勝するのに十分な得点でした。
2つのケースが考えられます:73.78を獲得したスケーターはカロリーナ・コストナーよりずっと価値の高いプログラムを滑ったのか、あるいはスケーターがリンクで披露するクオリティに関係なく、技術点と均衡を取るために得点が全体的に上がったのか。

以下は私がプロトコルを抜粋したスケーター達です。大会リザルトがリンクされています。当時の世界最高得点を更新した大会は太字で強調しました。

WC 2012 Kostner 65,72
WC 2021 Trusova 66,34
IdF 2009 Kim 66,40
OG 2010 Asada 67,04
WC 2021 Tennell 67,42
WC 2021 Tuktamysheva 69,08
OG 2010 Kim 71,76
WC 2016 Wagner 73,78

アシュリー・ワグナーが2010年五輪のキム・ユナより高く評価されています。どれほど素晴らしい演技だったのでしょうか?

こちらは男子のショートプログラムです:

最初の2人のスケーターの点差はごく僅かですが・・・2008年世界選手権で素晴らしいショートプログラムを滑ったジェフリー・バトル(しかもこの大会で優勝しました)に、2019年世界国別対抗戦でショート最下位だったアレクサンドル・サマリンより出来の悪い滑りだったと説明しに行ける人が誰かいますか?

今季の世界選手権でフリーに進めないほど壊滅的だったヴィンセント・ジョウのショートプログラムに与えられた40.47は、世界最高得点を樹立して自身初の世界タイトルを獲得した2011年世界選手権のパトリック・チャンの41.54とたった1点差です。

2019年世界国別対抗戦のショートプログラムで、羽生結弦が世界記録を更新した2012年NHK杯の「パリの散歩道」(彼にとって2度目の世界最高得点で2012年国別で高橋が出した記録を1点上回りました)より高いPCSを獲得したジョウの才能に気付かなかったのは、きっと私がボンヤリしていたからでしょう。

今季の世界選手権でチェンが転倒にも拘わらず、パトリック・チャンが2013年フランス国際で当時の世界最高得点を塗り替えたショートプログラム(46.18)より高いPCS46.43を獲得出来たことにも目を引かれます。

WC 2008 Buttle 38,03
WTT 2019 Samarin 38,11
WC 2021 Grassl 39,68
WC 2021 Zhou 40,47
WC 2011 Chan 41,54
WC 2010 Takahashi 41,90
NHK 2012 Hanyu 42,29
CoR 2019 Samarin 42,61
WTT 2019 Zhou 43,21
WTT 2012 Takahashi 44,29
IdF 2013 Chan 46,18
WC 2021 Chen 46,43
WTT 2021 Chen 47,70

技術点の上昇に伴い、ジャッジ達は2つの得点の差を抑えるために演技構成点まで上げ始めましたが、これではルールのガイドラインは守られていません。PCSには上限がありますから、得点は頭打ちになり、スケーター間の点差は消えようとしています。

ISUはジャッジの負担を減らすことが出来るテクノロジーを導入し、不正ジャッジの資格を停止するだけでなく、ジャッジの育成システムも改善すべきです。何故なら、フィギュアスケート競技の信頼性を維持したいなら、このような得点は受け入れられないからです。

最後の比較です:

同じプログラム、羽生結弦のショパンの「バラード第1番」の得点であり、2つの世界最高得点です。上のより低い方の得点は2020年四大陸選手権、下は2015年グランプリファイナルです。

羽生以外の全ての選手に対して演技構成点は上昇しました。この数年間で羽生の一体何が劣化したのかジャッジ達に是非説明してもらいたいです。何故なら、私には全く理解出来ないからです。

 

☆筆者プロフィール☆
マルティーナ・フランマルティーノ

ミラノ出身。 書店経営者、雑誌記者/編集者、書評家、ノンフィクション作家
雑誌等で既に700本余りの記事を執筆
ブログ
書評:Librolandia
スポーツ評論:Sportlandia

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☆公開処刑のようですが😅
ジェフリー・バトルの2008年世界選手権ショート(PCS38.03)

アレクサンドル・サマリンの2019年世界国別対抗戦(PCS38.11)

バトルの時代から今日まで、PCSの評価に関するガイドラインの内容はほとんど変わっていません。大きく変わったことと言えば、シリアスエラーが出来たことぐらいです。
現在はシリアスエラーというルールがあるにも拘わらず、転倒有りで助走ばかりのプログラムの方が過去のスケーティングマスター達の神演技より演技構成点で高く評価されている、という現実を私達はどう解釈すればいいのでしょうか???

こちらは羽生君のショパンのバラード第1番です。
2015年バルセロナGPF(PCS49.14)

2020年四大陸選手権(PCS48.49)

バルセロナも神演技でしたが、四大陸選手権のショパンのバラード第1番は・・・言ってみればレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」、モーツァルトのレクイエム、ベートーヴェンの第九、ジュゼッペ・ヴェルディの「オテロ」、ゲーテの「ファウスト」、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」のような、天才と呼ばれた巨匠が晩年に到達した最高傑作に匹敵する域でした。

ジャッジの皆さんには高尚過ぎて理解出来なかったのでしょうか?
それとも、彼が自分達の理解の域を超えたあまりも異次元で革新的なことをやっているから認めたくないのでしょうか?
印象派を最初認めようとしなかったパリサロンの保守的な批評家や権威者のように。

マッシミリアーノさんとアンジェロさんは羽生結弦を「ゲームチェンジャー」と定義していました。
いつの時代も、どの分野でも体制側はゲームチェンジャーを煙たがり、圧力をかけますが、動き出した時代の流れを止めることは出来ません。圧倒的な輝きを放つ天才は幕で覆って隠すことも、行く手を阻んで止めることも出来ないのです。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu