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Sportlandiaより「陰陽師」

書店を経営するライター、マルティーナ・フランマルティーノさんのブログから。
陰陽師について考察された記事がとても興味深かったので翻訳させて頂きます。

 

原文>>

 

マルティーナ・フランマルティーノ著

2020年6月6日

SEIMEIの音楽は滝田洋二郎の映画「陰陽師」のために梅林茂によって作曲されました。

私がこのプログラムを演じる羽生結弦を始めて見たのは、彼が実際に滑った数時間後でしたから、演技を見る前にこのプログラムで彼が世界最高得点を粉砕したことを既に知っていました(まさにこのニュースを読んだからこそ、私はインターネットで演技動画を探したのです)。

 

最初の数秒で私はすぐにこのプログラムの虜になりました。

物語について何も知りませんでしたし、安倍晴明が一体誰なのか皆目見当が付きませんでしたが(実在の人物だということすら知りませんでした)、私は衣装に一目惚れしました(どちらかと言うとオリンピックバージョンの衣装の方が好きですが。ただし、大会の重要度は関係ありません)。

王道のクラシック音楽に乗せた素晴らしいプログラムを幾つも観ましたが、私は少し変わった曲により惹かれる傾向があります。そして選手が自国の文化に繋がるテーマを演じる選択をするのが好きです。

つまり、私は羽生を見るや否やすぐに魅了されました。演技を始めるためにリンク中央に行く必要さえありませんでした。

 

でも、彼はリンク中央へ行き・・・それから彼が何をしたのかは皆さんご存じですね。

SEIMEIを愛するのに、プログラムのストーリーやキャラクター、映画の主役俳優などの知識は全く必要ありませんでした。

長い間、私は結弦がリンクで行っている以上のことを知りませんでした。

 

原作は陰陽道の使い手である安倍晴明の活躍と怨霊との戦いを描いた夢枕獏の小説シリーズです。

怨霊とは死者の魂のことで、この場合は謀反の罪を着せられて刑に処された親王が、呪術を使って天皇家を滅ぼして都を掌握し、かつて自分を死に追いやった天皇の子孫に復讐しようとします。

平安時代、陰陽師は宮廷において最も位の高い高官で、中国哲学や 占星術に対する造詣が深く、その他の魔術や占いにも精通していました。彼らの知識の中には道教、神道、仏教、五行思想、陰陽思想といった要素も混ざっています。
彼らは天体を研究し、暦を作り、天地創造の秘密を知り、祈祷と呪術を実践し、日本文化によれば現実に浸透している、しばしば人間に深刻なダメージを与え、彼ら自身を顕現する悪霊や霊と戦います。
小説の中で典雅で細身、華奢な骨格で透き通るような肌、厳格で同時に穏やかな水を彷彿させる眼差しを持ち、努力せずに全てを行うことが出来る偉大な知恵者として描かれている安倍晴明は、921年から1005年にかけて生きた実在の人物です。
宮廷の占星術師で魔術師であった清明は正確な予言によって名声を博し、彼にまつわる無数の伝説が生まれました。

彼の任務には反閇、旅路の帝の保護、悪霊に憑りつかれた人のお祓いも含まれていました。

清明の死から2年後、一条天皇は彼の栄誉を称え、京都の彼の住居があった場所に神道の聖地、清明神社を建てさせました。

 彼の名声は何世紀にも渡って途切れることなく続き、大衆文化において西洋の魔術師マーリンと同じような存在となっています。
彼の途方もない霊力は狐(女狐、葛の葉)の子である故です。
1976年に2人の日本人天文学者によって発見された小惑星は「清明」(5541 Seimei)と命名されました。

歴史、伝説など様々な次元における清明の存在に触発され、羽生は自分が選んだ役を適切に演じるために正しい意識は何を探求しました。

 

上記の文章の大部分は何カ月も前に書いたものですが、映画を見た後、細かい部分を修正しようと思いました。
京都の清明神社の参拝を伴うプログラムの構築、シェイリーン・ボーンと共に実現された振付、音響デザイナー、矢野桂一が33通りもの編曲バージョンを提案した音楽、伊藤聡美が制作した丈が長めの興味深い衣装は、特に映画とは関係ないので、高く跳ぶことが出来ます。

ステップシークエンスのレベルを上げるために他の動きを入れるスペースを空け、あのバッククロスロールが無くなってしまったのは残念です。

結弦と映画で安倍晴明の役を演じた俳優、野村萬斎との対談は魅力的なエピソードでした。

対談の動画を見つけるにはYoutubeで結弦と野村萬斎の名前で検索してみてください。簡単に見つかりますし、英語のサブタイトルが付いていますので、私のように日本語が分からない人にも簡単に分かります。

そして、結弦が初めてこのプログラムを演じてから何年もの年月を経た今、私はようやく映画を見ることが出来ました。

私は歴史小説が大好きです。そして役者が時代衣装で登場する時代物の映画にどういうわけか特に惹かれるのです。

無論、全てが気に入ったわけではありませんし、私の趣向からするとホラー過ぎる場面もありました。悪霊が憑依するシーンはもう少し遠目に見たかったですが、幸いなことにそれほど多くはありませんでした。
この時期、私は水木しげるの日本妖怪大全を読んでいますが、この本は、妖怪が浸透する現実、深刻なトラブルに巻き込まれたくないなら、あらゆることに注意を払わなければならないこの現実社会に生きる私の気持ちを落ち着かせてくれました。

魔法の力がこれほど強い世界では、陰陽師の存在は必要不可欠です。

映画のプロットは気に入りました。
魅力的な世界観、俳優達の演技力、幾つかの瞬間における野村の顔(2001年の映画で当時35歳)は結弦の顔によく似ているように見えました。
そしてごく僅かとはいえ、セリフの中で知っている単語を聞き取ることが出来た瞬間、私は何か途方もない結果を得たかのような幸福感を味わいました。そして愛するこのプログラムをますます評価したのです。

「陰陽師」は私達の多くが結弦をきっかけに知った映画ですが、結弦のプログラムに関係なく見るに値します。

ただ陰陽師IIを見つけることが出来なかったこと、夢枕獏の原作も読める言語に翻訳されていないことが残念です。

 

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これが、羽生結弦に落ちるまで日本に関する知識がほとんど無かった、日本語が全く分からないイタリア人によって書かれたことに驚愕します。
私も仕事でイタリアの史料や文献を集めて調べることはありますが、イタリア語が分かっていても時間と根気を要する結構骨の折れる作業です。
全く知らない言語の資料を集めて調べるとなると、どれほどの時間、労力、忍耐を必要としたのか想像も出来ません。

何という情熱、何という献身、何という努力でしょう!

紫字の部分はマルティーナさんが書き上げたという570ページに及ぶ「羽生結弦伝」からの引用ですが、出版されるといいですね。
羽生君やフィギュアスケートだけでなく、日本と日本文化に関する知識も詰まった内容だと思います。

「清明」(5541 Seimei)という名の小惑星が存在するとは知りませんでした。
つまり将来的に日本の天文学者が新たな惑星、または小惑星を発見したら「Hanyu」とか「Yuzuru」と命名される可能性もあるわけですね?w

Yuzuru Hanyu=宇宙、惑星、地球外生命体、エイリアンというはもはや世界共通の認識ですから。😂

「SEIMEI」はあらゆる点において「革新的」と定義出来るプログラムでした。

まず編曲が素晴らしい。

冒頭に自身の息を吹き込むというのも天才的なアイデアです。
笛の音と太鼓だけの冒頭、見事に音ハメして実施される最初のジャンプ。

伴奏が太鼓だけのステップシークエンスも斬新です。

旋律的な部分と打楽器中心の無調の部分の対比とバランス、メリハリ効果が素晴らしいプログラムだと思います。

そして、ジャンプのための助走や準備で音楽がBGMになっているところが1秒もない。

3A/eu/3S前の打楽器の強拍に合わせてイーグルのエッジをアウトからインにチェンジし、ターンして、そのターンとは逆方向に3アクセルを跳ぶ振付は何度見てもゾクゾクするほど好きですが、技術的にこんな離れ業が可能なのは彼だけですね。

来季の試合がどうなるのか不透明ですが、羽生君が健康で思い通りの練習が出来ていること、いつか新プログラムを見られることを願っています。

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち