Sportlandiaより「J.ジャクソン著オン・エッジ6:2002年世界選手権」

前回の続き。
今回は2002年ソルトレイクシティ五輪の後に行われた長野世界選手権について書かれています。

原文>>

マルティーナ・フランマルティーノ著 
(2021年1月14日)

今回は章全体を網羅することは出来ません。とても無理です。ソルトレイクシティのスキャンダルは、サレ/ペルティエに2個目の金メダルを授与することで締めくくられ、一般の人々にとっては終了しました。 しかし、ISU、複数国の連盟、ジャッジにとってはこれで終わりではありませんでした。何かがおかしいことが明らかになった場合、問題を解決するためにそれを是正する必要がありますよね?私にとってはそうですが、特定の人々にとっては問題の存在を隠すために尽力する方が良いようです。

ジョン[ルフェーヴル]とフィリス[ハワードは、過去に正々堂々と意見したフィギュアスケート界の全ての人間が何らかの形でISUによって罰せられたと主張した。

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私は自分がISUの一員でないことに安堵しています。ISUで会員でこの本を読んだ人が誰かいるでしょうか?もし私に権力があれば、自問自答し、内部調査を行うでしょう。ひょっとしたら、ジャクソンは自分が罰せらたことに対して復讐したいだけなのかもしれませんが、彼が書いている内容には、ジャッジだけでなく、ISU幹部の幾つかの議席も吹き飛ばすほどの事実が十分に含まれています。しかしながら、調査が行われなければ、何も変えることは出来ません。

混乱した状況において、2002年の世界選手権に参加した多くのジャッジの数人は審査を行い、他の人々は政治活動を行いました。

尊敬されているイタリア人の元技術委員会委員長、ソニア・ビアンケッティの息子であるファビオ・ビアンケッティもそこにいた。彼は技術委員会の地位のために政治活動を行っていた(オリンピック前年にはル・グーニュが圧倒的な反対票によって拒否されていたため、彼女が同じ地位のために再びキャンペーンを行っていた可能性があった)。

(213ページ)

ここで現在のISU術委員会会長であるファビオ・ビアンケッティが登場します。数か月前、彼は3回転フリップと3回転ルッツを実行するための技術は同じであると発言しました:

もし本当にそうなら、スケーターが特定の3回転ジャンプを2度実施した時、ザヤックルールが発動するのは何故でしょう?2つのジャンプの間に違いがあるからではないですか?フリップとルッツの技術的な違いがよく分かる動画を再投稿します。

私が何故「技術委員会の地位のために政治活動を行っていた」ビアンケッティの存在に注目したかというと、一定の期間、技術委員会は、4回転ループ、4回転フリップ、4回転ルッツの基礎点を同等にすることが正しいと考えていたためです。何故なら、公開されていない統計によれば

4回転ループはおそらく最も難しい4回転ジャンプである。

この短い記述を証明する表を掲載します。公式の統計が存在しないので、以前、私は近年のジュニアとシニアの主要大会の全てのプロトコルを見て統計表を作成しました。現在までに実施された5種類全ての4回転ジャンプの正確な数値はこちらからご覧頂けます。

ここではより難度の高い3種類のジャンプ、ループ、フリップ、ルッツにフォーカスしました。SkatingScoresを参考に、スケーター別に彼らが実施したジャンプと当該GOEを表にまとめました。国内大会と、基礎点の変更→撤回劇が行われた2020年夏の後のシーズンである2020-2021シーズンは考慮していません。また、真面目な大会と見なすことの出来ないジャパンオープンも除外しています。データ収集中に何も取りこぼしていなければ、(基礎点変更が発表された昨年)夏の時点での状況は以下の通りでした。

3種類のジャンプについてGOEがプラスとマイナスのジャンプを分けました。確かにGOEは得点と試合の最終結果に多大な影響を与えますが、私にとって最も重要なのは、挑戦された数、つまりその選手が特定のジャンプをプログラムに組み込んだ数です。出来栄えはケースバイケースであり、非常に広範囲に渡るプロジェクトです。上の表は選手別の統計、下の表は国籍別の統計です。2つ目の表ではラリー・ルーポラヴァーは最後に出場した試合でブルガリア連盟の所属になっていたため、ブルガリアの選手に分類しました。

ビアンケッティは統計に基づき、ループが最も跳ばれていないジャンプであるとは言いませんでしたが、私の計算によれば、ほぼ成功と見なされる4ループは63本(7人の異なるスケーター)、4回転フリップ102本(女子2人を含む9人のスケーター)、4回転ルッツ220本(女子3人を含む17人のスケーター)によって実施されていますので、ビアンケッティの意見に賛成です。4回転ループが跳ぶ人が断然少ないジャンプであることは一目瞭然です。他のジャンプより難しく、実施出来る人が僅かしか存在しないのか、あるいは基礎点が低くリスクを冒して跳ぶに値しないかのどちらかです。いずれの場合でも、4ループの基礎点は引く過ぎます。

実際、ビアンケッティが議長を務める技術委員会は3種類の4回転ジャンプの基礎点を同等にする決定を下しました。しかしその後、パンデミックによって然るべき練習が出来ないためこのような変更を行うのは正しくない、という馬鹿げた言い訳をしてこの変更は撤回されました。例え誤りに気が付いても、それを修正しなければ、これまで間違ったルールの恩恵を受けてきた人に対して公正ではありませんし、彼らは今後も同じ恩恵を受け続けるでしょう。一方、ISUは「q」のルールは導入しました。このことは、1/4ではなく1/2回転不足のジャンプすら正しく判定出来ないテクニカルパネルが、ジャスト1/4回転不足のジャンプを見分けなければならないことを意味しています。

テクニカルパネルが1/2回転不足のジャンプを見分けられなかった例を挙げましょう。2019年フランス国際における完全に前向きに着氷した宇野昌磨のショートプログラムの3アクセルは、不可解にもテクニカルパネル(テクニカルコントローラー:ウェンディ・エンツマン、テクニカルスペシャリスト:ヴァネッサ・グスメローリ、アシスタントテクニカルスペシャリスト:モニカ・クスタロワ)によって完全に回り切っていると判断されました。

つまり、明らかにアンバランスな得点の計算方法を修正せず、判定を支援する最新ツール無しでは、正しく判定出来ないことが分かっているにも拘わらず、以前より正確な判定(ジャスト1/4)をジャッジ達に要求したのです。

上に掲載した表の数値を見れば一目瞭然だと思いますが、長い間グラフを使っていませんでしたので、ここで挿入しましょう。私はグラフが大好きです。

それでは、力のある国の中で、4ルッツが最も難度が高く、4ループはより簡単なジャンプだということにしておくことで最も利益を得る国はどこだと思いますか?想像するのは難しいですか?

何故本題からこれほど脱線したかというと、ロシアのアレクサンドル・ラケルニクがISUの副会長に就任したのと同じ時期に、ファビオ・ビアンケッティが技術委員会内部の地位を得るために政治活動を行っていたと言われているからです。

ファビオがスルツカヤに完璧に近いパフォーマンスだったクワンを上回らせて勝利を与えた時から(彼は芸術点でそうした)、彼の忠誠は明らかだった。

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5対4の票でスルツカヤが優勝しますが、この時のジャッジパネルにロシアは含まれていましたが、アメリカジャッジはいませんでした。この時のジャッジが誰だったのか、ビアンケッティ以外のジャッジ名は分かりません。動画から撮ったスクリーンショットから、ライバルの後に滑ったクエンに各ジャッジが与えた両得点(技術点と芸術点)と順位が分かります。ジャッジの国籍は、同じ試合の別の動画から切り取って私が追加しました。

ロシア人が皆に彼らの権力を見せたため、スルツカヤを勝たせたジャッジはファビオだけではなかった。フリースケートではクワンが勝つべきだったのは明白だった。スルツカヤの勝利は、オリンピックにおけるペアのスキャンダルへのロシアの関与に疑問を呈した全ての人々に対するソヴィエトからの大胆不敵な中指を立てるジェスチャーだった。

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私にはこの2人のスケーターのどちらが勝つべきだったか判断することは出来ません。何故なら現在の採点システムとは異なる当時のルールで審査されたらです。しかし、調査に値する案件だったとは思いませんか?

女子の章を終え、ジャクソンは再びペアの話題に戻ります。彼は特にベレズナヤ/シカルリゼと伊那/ジマーマンの両方ペアのコーチだったタマラ・モスクビナに注目しています。彼によれば

(モスクビナは)元KGB諜報員だ。 

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なるほど・・・インゴ・シュトイアーがシュタージ(旧東ドイツの秘密警察)の諜報員であったことは知っていました。私は彼を応援していましたが、アスリートのリンク外の人生について知ることは、時には非常に不快な気持ちになることがあります。しかし、モスクビナについてはここで読むことが出来ます。 KGBの諜報員、何と心強い味方でしょうか。

私は彼女がソルトレイクシティでロシアのペアを守るためにスピンキャンペーン(プロパガンダ活動)に身を投じ、ジョンと恭子を無視するのを見ていた。

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ジャクソンはクワンでも伊那/ジマーマンでもアメリカ人を褒め称え、彼らの直接のライバル達はあまり評価しない傾向があります(2002年オリンピックでは、金メダル争いをしていたのはロシアとカナダのペアで、アメリカペアは3位争いをしていたことを念頭に置いておく必要があります)。従って、彼の言葉は常にある程度慎重に取り上げる必要がありますが、何の疑問も呈せずに無視することは出来ません。モスクビナは(不正の)明白な証拠に反してロシアペアが獲得した金メダルを擁護しましたが、もっと上位に相応しかったアメリカペアに対しては何もしませんでした。ジマーマンは現在、性的虐待で捜査されているモルガン・シプレを隠蔽する役割を果たした妻シルヴィア・フォンターナのイメージと共に、最近イメージが悪化した人物の一人です。この件に関しては、正しい裁きが下ることを心から願っています。

2002年に戻りましょう。正確には2002年世界選手権のショートプログラムです。この大会で、伊那/ジマーマンは素晴らしいプログラムに実施しました。そしてその場にいたジャクソンは、プログラムが終わった時、モスクビナが採点し、次のような行動を取ったことに気が付きました。

彼女はスタンドに不安げな顔を向けて、「私に何ができるの?」と言うように肩をすくめた。 […]私はスタンドを見上げて、モスクビナが誰に謝罪したのかを見た。そして、ロシア連盟会長ワレンティン・ピセエフの非常に厳しい表情を見た。 ピセエフの不愉快そうな顔は謝罪が受け入れられなかったことを物語っていた。

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当然、これまで私が何度も言及してきたワレンティン・ピセエフと同一人物で、アラ・シェコフチョワと結婚した人です。ピセエフは何故、結果が気に入らなかったのでしょうか?それは伊那/ジマーマンが表彰台争いをしており、おそらく中国ペア、そして2組のロシアペアと共に金メダルを争っていたからです。最終結果はこちらです:

このショートプログラムの順位によれば、シェン・ツァオ、トトミアニナ/マリニン、伊那/ジマーマンの中でフリーで1位だったペアが大会で優勝しました。ペトロワ/チーホノフは、フリー1位でシェン/ツァオが3位以下だった場合にのみ、優勝することが出来ました。伊那/ジマーマンは首位ではありませんでしたが、二番手のロシアペアを妨げていましたし、もしフリーで一番手のロシアペアを上回れば、彼らが優勝でした。ピセエフが不満なのは理解出来ますが、何故モスクビナはアメリカペアを指導し(伊那/ジマーマンは彼女の教え子でした)、自分の仕事をやったことに対して謝罪しなければならないのでしょうか?直接試合に関わっていない立場の時に、誰かを応援するのは理解出来ますが、自分が関係者の立場にある試合で、自分の選手、または自分が(当然、スポーツの公正性の原則を犯すことなく)コラボレーションしている選手を勝たせるために最善を尽くすというのは、何かが間違っています。

ここで引用しなかった男子の試合では、ロシアのアレクセイ・ヤグディンがアメリカのティモシー・ゲーブルと日本の本田武史を上回って優勝しました。女子では、ロシアのイリーナ・スルツカヤがアメリカのミシェル・クワンと日本の村主章枝を上回って優勝しましたが、全く議論の余地のない勝利という訳ではありませんでした。ペアでは中国のシェン/ツァオが、フリーで低調だったロシアペア、ミアニナ/マリニンとアメリカペア、伊那/ジマーマンを上回って優勝しました。

アイスダンスは既にジャッジの得点を徹底的にチェックし、この記事で詳しく取り上げました。私は既に論争について言及しましたが、ジャクソンがこの件についてどう語っているか興味があります。優勝はカナダのシェイ=リーン・ボーン/ヴィクター・クラーツを上回ったロシアのイリーナ・ロバチェワ/イリア・アベルブフでした。問題はその下の順位で起こりました。イスラエルのガリト・チャイト/セルゲイ・サフノフスキーがリトアニアのマルガリータ・ドロビアスコ/ポヴィラス・ヴァナガスを上回って銅メダルを獲得したのです。

多くの人が、誰がその晩のパフォーマンスしたが確信していた。

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その後、ホテルでスケーター達は結果に異議を唱える請願書を書きました。誰が請願書に署名したのかは、はっきり分かりませんが、出場していた選手を確認するために順位表をもう一度掲載します。

彼らは結果に異議を唱える請願書を作成した。請願書は、アイスダンス技術委員会に政治的取引を調査するよう要求するものだった。アイスダンサー達にとっては、この大会がソルトレイクのペアのスキャンダルだった。結果はあまりにも明白だったため、アイスダンスのほとんどのスケーターが署名した。勿論、予想通り、イスラエル人は例外だったが。 その夜遅く、ガリトの父ボリスは請願書の計画をかぎつけた。 […]請願について聞いた時、彼は激怒して、コーチの部屋に押し入り、脅迫したと言われている。 そしてその日の未明、イスラエルペアではなく、リトアニアのペアを上位にしたジャッジの一人、アメリカジャッジは男性から電話を受け、頭を切り落とすと脅された。

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アメリカジャッジはリトアニアペアをボーン/クラーツより上の2位にした唯一のジャッジでしたから、彼にとっては差は歴然としていました。いずれにしても、私には敵がいませんから、もし私が失踪したり、謎の死をとげたら、フィギュアスケート界を調査することをお勧めします。

大会後の日曜日に、技術委員会はセミナーを開催しました。議長を務めるのは1956年から1960年にかけて別のパートナーと世界選手権のアイスダンスで金メダル4個、銀メダル1個を獲得した英国のコートニー・ジョーンズでした。スケーター達が請願書を提出するチャンスでした。

しかし、ジョーンズは

彼が請願を馬鹿げたことだと思っており、調査は行われないだろうと知らせた

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そして彼らが書いた紙は・・・・(言わなければダメですか?)に使えます。

つまり、2002年の長野世界選手権では、アイスダンスの試合と、出場者の最終順位を巡って、誰かを殺すという脅迫と、ジャッジの頭を切り落とすという脅迫があった。そして、これら全ての状況にも拘わらず、チンクアンタが自ら選んだ手下の一人、お高くとまったおべっか使いの取り巻きで、教養高いイエスマンであるコートニー・ジョーンズは、汚職はないと判断し、調査は行わないと決定した。
ヴァナガスは憤慨し、サン・ディエゴ・ユニオン・トリビューンを引用した。「システムがスポーツの競合性を殺してしまうのは残念である・・・まるで[チャイト(問題になったイスラエルのアイスダンサー、ガリト・チャイトの父親)]のようであり、ISUの中には彼らは「ゴッドファザー」だと思っている者もいる。

(218ページ)

例え何年も昔のこととは言え、私なら調査します。無視すべきではないことがあるからです。

結局、公式の見解では、2002年世界選手権アイスダンスの結果を台無しにするような出来事は何もなかったのである。 […]
オリンピックのペアのジャッジングに対する審査は、既にISUにとって多過ぎるスキャンダルであり、彼らはこのスキャンダルから抜け出すために最善を尽くしていた。間違いなく、彼らは2つの事件を敷物の下でまとめて一掃したがっていた。
長野を去った時、私はソルトレイクで目撃した腐敗はスポーツ全体に蔓延しており、完全に制御不能であると感じていた。権力に執着する担当者は、現状を維持するためにあらゆることをやったり言ったりするのだ。

(218-219ページ)

残念なことに、現在もこの体質はあまり変わっていないように思われます。ISUにとって最も重要なことは試合の公平性ではなく、スキャンダルを避けることなのです。

今日はこの本で止めておきます。この本は本当に濃密だということが分かりました。

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シュタージとかKGB諜報員とかまるで映画か小説のようだと思いながら読んでいましたが(タマラ・モスクビナはミーシン大先生と共に今年のISUスケーティング・アワード()で生涯功労賞を受賞した人ですね)、最後はゴッドファーザーまで出てきてのけぞりました・・・
一体どんな世界なんでしょうか???😱😱😱

そう言えば、マルティーナさんもイタリアジャッジの偏向採点を検証する記事を書いた後、彼の同僚ジャッジと名乗る人物から「記事をすぐに削除しろ」と脅されたことがありました。幸い、首を切り取るとかそんな物騒な脅しではなく、彼女とその家族がスポーツクラブに所属出来なくしてやる、といった類の脅しでしたが。しかし、脅迫であることに変わりはありません。

スペインのジャーナリスト/解説者兼コーチも暴露していました。
ジャッジ名を大会終了後まで匿名にするというISUの案について彼はこう言っています:

私には悪い考えのようには思えません。 特定のコーチや国は、採点することを知っているジャッジに(穏やかに言えば)圧力をかけることがよくあります。 私はかなり極端なケースを見てきました。

更に彼はこう付け加えています。


 私は、脅迫され、逆の場合には競技会の前に賄賂を受け取ったジャッジのケースを幾つか知っています。 ISUはこのような慣行を根絶するために何もしません。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu