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Sportlandiaより「PCS」

マルティーナ・フランマルティーノさんの分析シリーズ第8弾
今回はProgram Component Score、演技構成点の話題です。

原文>>

マルティーナ・フランマルティーノ著
2020年8月29日

フィギュアスケート競技における最終得点は選手達が披露したプログラムの中で重要度において同等のウエートを占める2つの側面、すなわちTES (Technical Element Score‐技術点) 及びPCS (Program Component Score‐演技構成点、コンポーネントとも呼ばれる)で構成されています。

この2つの得点は6.0システムと呼ばれる旧採点システムで選手達に与えられていた2つの得点に由来するものです。

当時、各選手には技術面を評価する得点、及び芸術性または表現面(またはプレゼンテーション。時代の移り変わりと共に名称も変化しました)を評価する得点が与えられていました。

長年の歴史の中で順位を決めるルールは何度も変更されました。この点についてもいずれ語りたいと思っていますが、長くなりますのでここでは触れません。

私の関心は、当時は2つの得点のウエートが同等だったことです。

 

私がフィギュアスケートを見始めた1989年、どちらの得点も満点は6.0でした。

まず合計点に注目し、同点だった場合のみ、ルールの他の項目が適用されました。

私がよく覚えているのは1993年の世界選手権です。

技術的に最も難度が高かったのは3アクセル-3トゥループのコンビネーションと3ルッツ1本を含む7本の3回転ジャンプが組み込まれたエルビス・ストイコのフリープログラムでした。ブラウニングは3回転ジャンプ6本で、3ルッツが両足着氷になり、3アクセルからのコンビネーションはセカンドジャンプが2トゥループでした。

この時、彼らに与えられた得点を見ると、ストイコは技術点で最も高い得点、一方のブラウニングは芸術点で最も高い得点を獲得しました。

そして総合でブラウニングが一位の得点を獲得し、フリーと世界選手権を制しました。

事実を言えば、ブラウニングはフリーでストイコを上回らなくてもタイトルを勝ち取っていました。何故ならストイコはショートプログラムでミスをして出遅れ、旧採点システムでは各試合の順位が勝敗を決める重要なポイントになっていたからです。

しかし、ここで私が興味を覚えたことは、当時は芸術面の優勢で技術面の劣勢(当時、ブラウニングは技術面でも強い選手の一人でしたから『劣勢』という表現には語弊がありますが)を補い、大会で勝つことが可能だったことです。

理論的には新採点システムの2つの得点、TES とPCSが制定された当時、ISUは同じ比重を維持するつもりだったのでしょう。
そしてISUは当時のその意図を守ることが出来たでしょうか?

試合の得点を見ると「ノー」と言えます。

私は男子フリーの得点に限定しました。
演技構成点は次の5項目で構成されています:
Skating Skills、Transitions、Performance、Composition、Interpretation。

各項目は0.00 から10.00で、係数は×2、到達可能な最高得点は100.00点です。

以下の表は男子スケーター(または女子スケーター、ただし女子のPCS満点は80.00です)がTESでPCSの到達可能な最高得点100.00を超えたプログラム、つまりPCSがどんなに高くてもTESのギャップを埋めることが出来ないプログラムです:

どのようにしてこのような状況に到達したのか、そしてISUはどう対処したのでしょうか?

得点はずっと前からこれほど高かった訳ではありません。

新採点システムが導入されたのは2003-2004年シーズンからでした。
私はこのシーズン以降のオリンピック、世界選手権、欧州選手権、四大陸選手権、ファイナルを含む全てのグランプリ大会、世界国別対抗戦の男子フリープログラムについて調べました。

演技構成点に着目し、PCS80点以上と80点以下の2つのグループに分けました。

【注:細心の注意を払ったつもりですか、これほど多くのデータを処理する場合、ミスのリスクは常につきものです。如何なる種類のミスであっても、もし気づいたら私に知らせて下さい。文章を修正、または修正した表と置き換えます】

まず80点を超えた得点を見てみましょう。
私の関心はPCSが各プログラムの得点に与える影響ですので、順位の欄には大会の総合順位ではなく、フリープログラムの順位を記しました。

最初の画像ではシーズンとシーズンの間を太線で区切りました。次の画像からはシーズンごとに表を分けました。
TESよりPCSが高かったプログラムは黄色で強調しました。

シーズンが進むにつれて表が長くなっていくことにまず気が付きます。

2002-2004年シーズンではISUジャッジングシステムはまだ全ての大会で採用されていませんでした。
2006-2007年シーズンは既に新採点システムが採用され初めてから既に1年以上経過していたにも拘わらず、世界選手権(この大会の優勝者はブライアン・ジュベール、フリープログラムは高橋大輔がステファン・ランビエールとジュベールを上回って1位でした)においてさえ、演技構成点で80点を超えられた男子スケーターはいませんでした。

一方、2017-2018年シーズンではフリープログラムでPCS80点を超えたのは実に77回。この中にはオリンピックの男子フリーで上位12位以内に入らなかったダニエル・サモーヒン、キーガン・メッシング、ドミトリー・アリエフ、ジュンファン・チャ、田中刑事、ヨリック・ヘンドリックス、ミーシャ・ゲー、ミハル・ブレジナ、デニス・ヴァシリエフスといった選手達も含まれていました。

長い間、PCSが80以下でも重要な国際大会で優勝することが可能でした:

この表ではPCSで80点を超えた選手が誰もいなかった試合で1位だったフリープログラムだけをまとめました。

この一覧には世界選手権、欧州/四大陸選手権、グランプリ大会といったオリンピック以外の重要な国際大会が含まれています。

以前は今に比べると本当に低い得点で重要な大会で優勝することが可能でした。
演技構成点の採点方法が変わったのでしょうか?

いいえ、評価項目はずっと同じで、評価基準も変わっていません:

より低い得点については省略します。
平均を上回るプログラム(Avove Average)が6.00から6.75
良いプログラム(Good)が7.00から7.75

非常に良いプログラム(Very Good)が8.00から8.75

特に優れたプログラム(Excellent)が9.00から9.75

並外れたプログラム(Outstanding)が10.00点

 

ここで質問です。
スケーター達は全員これほど上達したと思いますか?
2019年世界選手権の銅メダリストであるヴィンセント・ジョウのスケーティングスキル(8.82)は2008年世界選手権で世界王者に輝いたジェフリー・バトルのスケーティングスキル(7.89)より本当に優れていますか?

昨シーズンの欧州選手権で優勝したドミトリー・アリエフのトランジション(8.39)は2006年に2個目の世界タイトルを獲得したステファン・ランビエールのトランジション(7.68)より本当に優れていましたか?

2018年オリンピックでは男子フリーで20位だったデニス・ヴァシリエフスが、前述の2人の世界チャンピオン(ジャンプより表現力に定評のなるチャンピオン達です)よりスケーティングスキル(8.14)とトランジション(7.86)で高い得点を獲得しました。

更に続けると、9位のアレクセイ・ビシェンコはSS8.39、TR8.04、10位のアダム・リッポンはSS8.75、TR8.54、11位のダニエル・サモーヒンはSS8.32、12位のキーガン・メッシングはSS8.50、TR8.29、13位のドミトリー・アリエフはSS8.64、TR8.39、14位のジュンファン・チャはSS8.21、15位の田中刑事はSS8.36、16位のヨリック・ヘンドリックスはSS8.25、 TR7.96、17位のミーシャ・ゲーはSS8.46、TR8,36、18位のミハル・ブレジナはSS8.57、TR8.21でした。

以前は演技構成点で高得点を得られる選手は本当にごく僅かでしたが、今では全員に対して得点が引き上げられました。

下の表に上の表の概要をまとめてみました:

表に示された数字は各スケーターがシーズン中に試合(オリンピック、世界選手権、欧州/四大陸選手権、グランプリ大会)でPCS80点を超えた回数を表しています。

そのスケーターのレベルが分かるように、幾つかの欄を色分けしました。
黄色はそのシーズンの世界選手権またはオリンピックで優勝した選手、グレーは銀メダル、オレンジ色は銅メダルだった選手です。

緑色は前述の色で既に強調されていない、グランプリファイナルでメダルを獲得した選手です。水色は前述の色で既に強調されていない、欧州/四大陸選手権でメダルを獲得した選手です。

ジェフリー・バトル、ステファン・ランビエール、エヴァン・ライサチェクはPCSがそれほど高くなかったにも拘わらず、重要なメダルを連年獲得していることが分かります。

一方、ここ数年のシーズンでは、彼らより高いPCSを獲得した多くの選手達がメダルを1つも獲得していません。

例えば、キーガン・メッシング(私の中で好感度の高い選手です)は、 最近の3シーズン、合わせて12回もPCSで80点を超えました。

私が先ほど引用した3人のスケーター(バトル、ランビエール、ライサチェク)が競技人生を通して80点を超えた回数は3人合わせてたったの7回です。3人の戦歴を合わせるとオリンピックで金1個、銀1個、銅1個、世界選手権で金4個、銀1個、銅3個、グランプリファイナルで金4個、銀2個、銅1個、欧州/四大陸選手権で金4個、銀6個、銅2個にも拘わらず。

 

私が投稿したこの大量のスコアのスクリーンショットからは別の興味深いデータが読み取れます。

黄色で強調された欄はPCSがTESを上回ったプログラムです。
表の最初の方では、技術点より高い演技構成点を獲得した選手達が常にランキングの上位を占めています。
逆に技術点の方が高い選手が上位を占めている幾つかのケースは、2つの得点のどちらかが強ければ(もう一方の得点が極端に低くなければ)、試合に勝てる兆候を示しています。一方、現在では技術点より演技構成点の方が高い選手はランキングの下位に留まる傾向にあります。

上記のこれらのデータから私は下の表を引き出しました:

項目(上から)
PCS80点以上
PCS80点以上で3位以内に入らなかった選手
PCS80点以上で10以内に入らなかった選手
PCSがTESより高かった選手
PCSがTESより高く3位以内に入らなかった選手
PCSがTESより高く10位以内に入らなかった選手

 

新採点システム採用後の最初の6シーズンではPCSで80点を超えたのは14回で、常にフリー1位、または2位の選手のプログラムでした。そしてその内の10回のケースでPCSの方がTESより高い得点でした。
現在は、かつて非常な高得点だったこの大台を多くのスケーターが超え、以前はTESより高いPCSを獲得して優勝することが可能だったのに対し、現在では上位3位を占めるのは、TESよりPCSの方が高い選手ではなく、PCSよりTESの方が高い選手であることの方が多くなっています。

何故なら2010-2011年シーズン以降、4回転ジャンプの得点が上がり、4回転ジャンプの本数の増加に伴い、TESの比重がPCSより大きくなっていったからです。

 

TESで初めて100点超えたのは2013年エリック・ボンパール杯におけるパトリック・チャンのフリープログラムで、TES100.25、PCS96.50でした。

この時は2つの得点の差はまだ少なく、TES、PCS共に歴代最高得点であり、チャンは196.75でフリーの世界最高得点を更新しました。

その1カ月後、グランプリファイナルで羽生は194.41を獲得してチャンの得点に近づきますが、TES102.93、PCS92.38で2つの得点の差はより大きくなっていました。オリンピックのフリープログラムでは羽生、チャン共にジャンプにミスがあり、演技構成点が技術点を上回りましたが、TESとPCSの均衡は既に崩れ始めていました。

翌シーズン、チャンは1年間休養し、羽生はシーズンの大半で多くの身体的問題を抱えていたにも拘わらず、再びグランプリファイナルでTES最高得点(103.30)を更新しますが、得点のバランスはまだ保たれていました。

ISUジャッジングシステムが崩壊したのは2015年11月です。

NHK杯を見た人は誰であってもあの試合を決して忘れないでしょう。
続くグランプリファイナルは既に破壊された建物へのトドメの一撃に過ぎませんでした。

羽生は演技構成点の満点を18.87点上回るTES118,87 、PCSでは97.20点を獲得して自己ベストを更新し、2年前にチャンが出した世界最高得点を塗り替えました。

その2週間後のグランプリファイナルで羽生は再び全ての世界記録を更新しました:
TES 120.92、PCS 98.56、フリープログラムの合計219.48。このPCSは今も羽生が獲得した自身最高得点のままです。

そのシーズンの世界選手権、羽生は万全からは程遠いフィジカルコンディションで出場し、彼の得点は下がりました。一方、フェルナンデスはPCSで98.36点を獲得し、自己ベストを更新しました。

こうした健康上の問題も羽生の得点のアップダウンの原因の一つと言えます(このような問題はジャッジ達が採点で考慮すべきことではありませんが、演技には影響を与えます)。

しかし、彼は常に怪我をしていた訳ではありませんし、常にミスがあった訳でもありません。
2017年世界選手権での彼のフリープロフラムは完璧でしたが、上がったのは技術点だけで演技構成点は下がりました。

昨シーズンのスケートカナダでの技術点は、基礎点とGOEの計算方法が変更され、ジャンプ要素も一つ減っているために、以前のプログラムと比較するのは困難ですが、 演技構成点は更に少し下がりました。

 

どの選手に対してもこのようなことが起きていますか?

そうではありません。

私は2010-2011年シーズン以降の各シーズンの最も重要な大会を調べてみました。

最も重要な大会とは世界選手権を意味していますが、2014年と2018年ではオリンピックです。昨シーズンでは欧州/四大陸選手権ではなく、グランプリファイナルを選びました。何故ならグランプリファイナルは国籍に関係なく、出場するのがより難しい大会だからです。一方、欧州/四大陸選手権は様々な理由で各国のトップ選手が出場しないことがあります。

グランプリファイナルは少し特殊な大会です。出場出来るのはたった6人のスケーターだけですから、4位から6位はあまり参考にすべきではないかもしれません。

何故か?

選手がどんなに酷い演技をしても(例えば、アリエフのフリーは大惨事でした)、6位以内には入るからです。
一方、過去の大会を遡ると2012年の世界選手権で羽生はショートプログラム6位でしたが、フリーは2位でした。翌年の世界選手権ではショート9位、フリー3位でした。

出場選手の多い大会ではショートで出遅れても、フリーで素晴らしい演技をすれば、ショートで自分を上回った選手達をごぼう抜きして上位に浮上することが可能です。

出場選手の少ない大会では、アリエフはフリーでは大遭難だったにも拘わらず、6位でした。

上の表では総合順位ではなく、フリーの順位、得点は演技構成点だけを記しています。

PCSを示す列の右の2列には5つの数字しか入力されていません。
この2列の最初の列には上位3選手(世界選手権フリーのスモールメダル受賞者)
の演技構成点の合計です。

表彰台3選手から下は滑走グループを想定して6人ずつグループ分けしました。

従って上位6選手のPCS合計、上位12選手のPCS合計、上位18選手のPCS合計、最後が全選手のPCS合計です。
3列目は各グループのPCS平均です。
平均を見ると常に上昇し続けているのが分かります。一方で、グループ間のギャップを見ると、常に同じギャップが保たれているわけではありません。

最初の2つの数値は前の表の2列目と3列目に該当します。
太字で表記した最後の数値は表彰台の選手達と、各グループ(上位から6人ごとに分類)のPCS平均の差です。

数値に変動がありますが、2011年は表彰台の選手達のPCS平均は最上位グループ6人の平均より3.18高い数値でした。2019年にはこのギャップは2.82に下がっています。
表彰台の選手と全出場選手のPCS平均の点差は2011年の14.20に対して、2019年は11.65でした。
トップ選手達とそれ以外の選手達のPCSの差は縮まっており、このことは下位選手のPCS上昇率が上位選手の上昇率を上回っていることを示しています。
得点の上昇は点差の縮小に繋がり、上位の選手達にとって、アドバンテージの幅が少なくなりました。

何故でしょう?

得点は上昇しましたが、演技構成点には上限が存在しますから、ある選手の得点はあるところからそれ以上上がらなくなり、一方、他の選手達の得点は上がり続けているからです。

PCSのギャップが縮まったことで、演技構成点において優れた選手達のアドバンテージが失われました。

例えば、最後の世界選手権でミハル・コリヤダとヴィンセント・ジョウのPCSの差はたった2.06点でしたが、二人の差は本当にこの程度でしたか?
コリヤダのPCSは90点に近い高得点でした。彼より複雑で難度の高いプログラムを見事に滑り切った羽生よりは当然低い点でしたが。
コリヤダのPCSは僅かですがTESを上回っていました。
コリヤダは4回転ジャンプ2本(トゥループ2本)、一方ジョウはルッツ、サルコウ、トゥループの4回転ジャンプ3本のプログラムでした。
ジョウのように4回転ジャンプを多く跳ぶスケーターの得点の2つの側面のバランスを取るために演技構成点を引き上げ、結果を歪めている印象を受けます。
この場合、コリヤダは特にショートのミスでかなり出遅れていましたから、演技構成点がこの2人の選手の最終結果を左右した訳ではありませんでした。

しかし、他の大会では高難度構成のプログラム(基礎点とGOEで既に評価され、スケーティングスキルやトランジションの評価に影響を与えるべきではない)を滑る選手達に与えられる過剰な演技構成点が最終結果を歪めることがあるかもしれません。

2つの得点のバランスを取るために、PCSの係数を変更し、PCSの差を縮めず、特に素晴らしいプログラムを滑る選手には「Excellent」に該当する範囲の得点、優れたプログラムを滑る選手には「Good」に該当する範囲の得点を与え続けるべきではないですか?

羽生はこの情勢の中でどのように扱われているでしょうか?

彼の状況は興味深いです。

全日本4位で世界選手権に出場しなかった2011年以外、彼は得点が常に平均値に含まれているスケーターの一人です。羽生彼以外では全ての世界選手権とオリンピックに出場したミハル・ブレジナだけですか、彼は昨シーズンのグランプリファイナルには出場していません。

羽生は常に世界選手権/オリンピックに出場していただけでなく、常にフリー上位6人に入っていました:2012年2位、2013年3位、2014年1位(オリンピック)、2015年3位、2016年2位、2017年1位、2018年2位(オリンピック)、2019年2位(世界選手権、グランプリファイナル)。

羽生の演技構成点がピークに達したのはこの表に入っていない大会、2015年グランプリファイナルで、前述したように彼のPCSは98.56点に達しました。
2016年世界選手権では彼は複数のミスを犯しました:冒頭の4サルコウで手を付き、2本の4サルコウは転倒でセカンドジャンプを付けられず、REP扱い、残りの2本のコンビネーションは成功しますが、トリプルの予定だった後続ジャンプがダブルになり、最後の3ルッツで手を付きました。ここではその原因を詳述しませんが、いつものような安定感はなく、彼の演技構成点は下がりました。これは正しい評価と言えます。
ただしフェルナンデス(私が非常に気に入っている選手の一人です)の演技構成点は少々高過ぎたと思いますが。

それではPCSで90点を超えたことのある選手とその回数を見ましょう。
括弧の数字はそのシーズンに選手が滑ったフリープログラムの回数です(ここでもオリンピック、世界選手権、グランプリ大会、世界国別対抗戦を対象にしています):

PCSで最初に90点を超えたのは2010-2011年シーズンのパトリック・チャンでした。
チャンは2018年オリンピックの後、引退しました。
それから2014年オリンピックが最後の国際大会となった高橋大輔。
そして2016-2017年シーズン以降、毎回90点の大台を超えている羽生(実際には2015年NHK杯以降、毎回と言えるでしょう)。
2014年末に引退した町田樹も一度だけ90点を超えました。
そして2018年のオリンピックで実質引退し、2019年に欧州選手権7連覇を達成するために試合に戻ってきたハビエル・フェルナンデス(2020年は彼の不在が本当に重く感じられた年になりました)。

2018年に悲劇的な死を遂げたデニス・テンも90点を一度超えました。

2015-2016年シーズンまでにPCS90点を超えたことがあるのはこの6人だけでした(選手によって回数は異なります)。

羽生以外の5人は既に競技を引退しましたから、最近の得点の発展は彼らにとっては重要ではありません。
翌シーズン、宇野昌磨(多種クワドジャンパーの一人)と、ジェイソン・ブラウン(未だにクリーンな4回転ジャンプを成功させたことはないものの、スケーティングの質は非常に高く、この点において戦歴で彼を上回る多くの選手よりずっと優れている)も90点の大台を超えました。

最後にPCS90点台のグループに仲間入りしたのは多くの4回転ジャンプを跳ぶスケーター、ネイサン・チェンです。

羽生に話を戻しましょう。

2017年世界選手権で彼は前年より難しいプログラムを披露し、完璧な演技でした。

にも拘らず、彼の演技構成点は2015年グランプリファイナルより下がりました。

 

2017年世界選手権以降の羽生の得点の変動を見てみましょう (羽生はこれより1年半以内前に2度非常に高い得点を獲得したことも留意しなければなりません)。

 

前述した通り、私は昨シーズンのグランプリファイナルに出場した6選手の得点はあまり参考にならないと思っています。一方、世界選手権/オリンピックの表彰台に上った選手達の得点は重要な参考になります。何故なら、全員素晴らしい演技を披露し、仮に出場選手が増えていたとしても、同じ順位だったと思うからです:

補足)各シーズンの最重要大会(世界選手権またはオリンピック、昨シーズンはGPF)の男子フリーのPCS。上から羽生選手、表彰台3選手、上位6選手、上位12選手、上位18選手、全選手。最初の列は各グループの選手達のPCS合計、2列目はPCS平均、3列目太字は前年比。最後から2番目の列は羽生選手とその他の選手グループの2017年と2019年世界選手権のPCS比較(+/-)、最後の列は羽生選手とトリノGPF出場選手の2017年と2019年GPFのPCS比較(+/-)。

最初の2列は上の表と同じです。
私は「Hanyu」という項目を付け加えました(彼は常にトップ3に入っていますから、彼の得点は常に平均に含まれていることを忘れてはなりません)。

この表の太字の列は各グループ(または羽生)の得点の前年比です。

最後の2列は比較で、最後から2番目の列は過去3シーズン(2017年世界選手から2019年世界選手権)における得点の変動、最後の列は昨シーズンも含めた比較です(昨シーズンは世界選手権は開催されませんでしたから、羽生とファイナル出場6選手しか比較出来ませんでした)。

2017年の世界選手権における羽生の演技は完璧でした。
その後のシーズン、オリンピックのフリーではミスがあり、ジャンプの1本がREPになり、ルッツを堪えたのは奇跡でした。2019年の世界選手権のフリー、同年のグランプリファイナルのフリーも完璧ではありませんでしたが、精々ジャンプの1本が回転不足またはステップアウトになった程度のミスでした。

ここで質問です。
ほとんどの選手、特に羽生の直接のライバルである選手達はPCSが上昇しているのに、羽生のPCSだけが下降しているのは何故だと思いますか?

☆筆者プロフィール☆
マルティーナ・フランマルティーノ
ミラノ出身。
書店経営者、雑誌記者/編集者、書評家、ノンフィクション作家
雑誌等で既に700本余りの記事を執筆

ブログ
書評:Librolandia
スポーツ評論:Sportlandia
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☆相変わらずもの凄い分析です。
解かりづらいところはところどころ補足しましたので、原文通りでないところもあります。基本的にフリーの演技構成点について考察していますので、表内の順位は最終順位ではなく、フリーの順位です。
後半の分析ではそのシーズンの最重要大会(オリンピックイヤーは五輪、それ以外のシーズンは世界選手権、昨シーズンはGPF)のフリーのPCSを考察対象にしています。

採点システムの崩壊と言えば2015年NHK杯フリーの伊ユロスポの解説が印象的でした。

イタリア解説EuroSport版「2015NHK杯~羽生結弦FS」

2002年にISUが考案したTESとPCSから成る採点システムが崩壊した瞬間です。

マッシミリアーノさんは人類の月面着陸に匹敵する快挙と形容しています。

ガゼッタ・デッロ・スポーツも大興奮で記事にしていました(タイトル!😂)

La Gazetta dello Sport紙より「伝説の羽生、狂気の新記録」

サッカー新聞のガゼッタがグランプリの一大会に過ぎないNHK杯をわざわざ取り上げるなんて尋常なことではありません。

 

演技構成点に関しては羽生君のショパンのバラード第1番のPCSのピークが2015年バルセロナGPFで、以降プログラムの完成度と反比例して少しずつ下がっていった時点で何かが機能していないのは明らかです。

私は羽生君のファンですから、贔屓目にならないよう別の選手を例に挙げましょう。
羽生君以外で演技構成点で強い選手と言えば、スケーティングのマエストロ、パトリック・チャンです。

2011年世界選手権のパトリックのフリー、オペラ座の支配人・・・じゃなくて怪人

スケーティングの質、エッジワークの巧さ、ステップの多彩さ、トランジションの豊富さという点において、私が史上最高のクオリティと見なしている演技の一つですが、この時のPCSは91.52。トリノのネイサンより低い得点です。
確かにネイサンはクワド5本を着氷し、パフォーマンスと言う点において「圧巻」と定義出来る演技だったかもしれませんが、トランジションの質と密度と多様性、エッジワークとスケーティングの質において全く比較にならないと思うのは私だけでしょうか?

女子の話をすると、私は大分以前から宮原知子選手は現役女子の中で演技構成点で最も高い評価に値する選手の一人だと思っています。

そのさっとんのPCSをエテリチームのロシア女子達がシニア1年目であっさり超えてしまうことに納得が行かないのは私だけでしょうか?

2015-16年シーズンのメドちゃんも平昌五輪シーズンのアリーナもジャンプの安定感は断トツで、入りと出に工夫が凝らされ、トランジションはテンコ盛り、この点に関しては本当に凄いと思いましたが、スケーティングの質とエッジワークの巧さ、音楽の微妙なニュアンスを表現する能力、演技の成熟と言う点において、彼女達がさっとんより優れているようにはどうしても見えませんでした。

今シーズンは既に3つの大会、スケカナ、フランス国際、四大陸選手権がキャンセルされました。

私はグランプリ大会を開催すること自体は良いことだと思っています。
来シーズンに五輪を控えた選手達は出来るだけ多く本番を経験しておきたいでしょうし、新しいプログラムとジャンプを試合で試せる機会は限られていますから、選手と関係者の安全と健康を守るための適切な措置が保証されるのであれば、選手達に競技の場を提供してあげて欲しいと思うのです。

ただグランプリ大会に関しては実質、国内大会になってしまう訳ですから、得点はあくまでも参考記録、あまり真面目に取り上げるべきではないと思います。

ここまでのロシア杯とアメリカの国内大会を見る限り、エッジと回転の判定もPCSもルールブックに記載された基準に則っているとはとても思えません。

各国のジャッジが自由裁量で自国の選手に大判振る舞いするのは勝手ですが、あくまでも国内大会として一線を課し、国際大会の正規の評価と混合しないで欲しいです。

Published by Nymphea

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち