Sportlandiaより「スケートアメリカ2020のジャッジ」

マルティーナ・フランマルティーノさんのジャッジシリーズより
再びナショナルバイアスの話題です。

実はマルティーナさんは2週間ほど前から採点が物議を醸しだした大会を解説しながら戦前から現在までのフィギュアスケート史を振り返る長編シリーズ「ジャッジ、ジャッジ団、公正な評価」をほとんど1日1本のペースで精力的に執筆中で、既に第14回まで進んでいます(まだ読めてもいない・・・)。
今はこのような超大作の翻訳に取り掛かる時間はありませんので、取り合えず数日前に投稿された(マルティーナさん比で)短い記事を先に訳したいと思います。

 

原文>>

マルティーナ・フランマルティーノ著
2020年10月23日

茶番プリグランプリの開幕を記念して、現在執筆中のフィギュアスケート史における余り好ましくない瞬間を振り返るシリーズの最後の2記事の投稿スケジュールを1日ずらすことにしました。

 

移動の問題によって国内大会になりましたが、「何とかなるさ」的思考でアメリカの中でも最も感染状態の酷い州の一つで開催されます。他都市での開催を模索するという選択肢はなかったのでしょうか?

 

ここではコロナウイルスについては敢えて触れません。収束することを心から願っていますが、今はフィギュアスケートの話題に戻りましょう。

国内の選手、そして当然、国内のジャッジです。
全ての大会で銀河点が乱発されることを覚悟しなければなりません。
ほとんどの国の国内選手権ではいつもそうなのですから、今回だけ違う風になるとは思えません。
更に言うと、公正なジャッジ団の中で、1人のジャッジが自国の選手に馬鹿げた得点をつければ、そのジャッジの得点は目立ちますが、ジャッジ全員が馬鹿げた点をつければ、何も目立つことはありません。

 

少し前に私は得点データをかなり集めましたが、まだ全部は処理出来ていません。

全体的なスキームは既に完成させました。今朝、私以外の人にも理解してもらうためにアメリカジャッジについてのデータをまとめましたが、これらのデータについては別の機会にも詳しく取り上げたいと思っています。

私はSkating Scoresを参考に、平昌オリンピック団体戦で上位6位に入った6カ国のジャッジのデータを元に、ナショナルバイアスについて調べました。

ナショナルバイアスの値を計算するには、個々のスケーターが獲得した得点を見て、ジャッジが自国の選手に与えた得点と平均の差を、そのジャッジが他の選手達に与えた得点と平均の差から引きます。

 

例として下に示した2017年世界選手権男子フリーに基づくデータでは、私の分析対象ではない国のジャッジを取り上げています。

全ての結果と全てのジャッジを見ることが重要であること示すために、慎重に選択しましたが、実際に全てを見るには私には今よりもっと時間が必要です。

ここでは取り敢えず2人のスケーター、羽生結弦とハビエル・フェルナンデスだけを比較し、彼らに対するスペイン・ジャッジ、ダニエル・デルファの採点に焦点を当てました。
羽生は約11点差でフェルナンデスを追う立場で、彼の方が先に滑りました。

デルファはミスを連発したフェルナンデスに完璧だった羽生より高い演技構成点を与え、これだけでも調査に値しますが、合計を見ましょう。

デルファは羽生に平均より5.77点低い217.43点、フェルナンデスに平均より4.75点高い196.89点を与えました。

羽生とフェルナンデスの比較では、デルファのバイアスは自国の選手に対して+10.52という計算になります。

 

数字の意味をはっきりさせたところで、私が分析した国に戻りましょう。
平昌オリンピック団体戦の成績順にカナダ、ロシア(こう呼ぶには語弊がありますがロシアの選手団です)、アメリカ、イタリア、日本、中国です。

他にも確認したい国は幾つかありましたが、これだけでも既に膨大な量のデータですので、断念しました。

対象シーズンはジャッジの匿名制度が廃止された2016-2017年シーズンから2019-2020年シーズンの4シーズンです。

 

出来るだけ多くのサンプルを集めるために、多くの試合:オリンピック、世界選手権(シニアとジュニア)、欧州/四大陸選手権、グランプリ大会(シニアとジュニア)、チャレンジャーシリーズを調査対象にしました。

まず、ナショナルバイアスが最も露骨な国がどこか見てみましょう。

シーズンごとに分析し、最後の3列で4シーズンの平均を示しました。

私はショートとフリーを分けて計算しました。というのはフリーでは得点がショートの約倍になり、常に両方のプログラムを同じジャッジが採点するわけではないからです。

各国の一番上の行はショートまたはフリープログラムにおけるナショナルバイアス値の全試合の合計です。2行目は調査対象となった試合の数、最後の行は平均値です。

ナショナルバイアス値が圧倒的に高いのは中国で、ほぼ全ての試合において最も高い値になっています。2019-2020年シーズンのショートプログラムだけロシアジャッジが中国を上回っています。

ロシアのナショナルバイアス値も非常に高く、次いでイタリア、カナダ、日本の順になっています。

これはシーズン別の動向ですが、カテゴリー別に分析すると更に面白いことが分かります。

国によって1カテゴリーだけ強い国、2カテゴリーで強い国、3カテゴリーに強い国があります。

私はシーズンごとに分けず、男子、女子、ペア、アイスダンスの選手に与えられた得点のバイアスを調べてみました。

5点以上のバイアスは赤字で強調しました。ご覧のようにシーズン別とは数字が異なります。

カナダ・ジャッジは男子より女子を推し、アメリカ・ジャッジは男子を一番推しています。

他国の動向を考慮すると、日本男子をかなり困難な状況にしていると言えます(実際には、そう単純なことではなく、深く掘り下げる必要がありますが、ここではこれ以上書きません)。
これは全体の概要ですが、実際には各ジャッジにそれぞれの傾向があり、それが今日私が取り組むテーマです。

下の表は個々のアメリカ・ジャッジのナショナルバイアス値です。

ミスがないことを願っていますが、万が一ミスがあった場合には知らせて下さい。
調査対象をお見せするために全てのデータを掲載しましたが、要約した表の方が分かりやすいでしょう。

各ジャッジについてカテゴリー別のナショナルバイアス値合計と全カテゴリー合計を記載しました。

より露骨なバイアスは太字で強調しました。
この数値は全試合の平均ですが、既におかしなことが見えています。
しかし各試合にそれぞれのエピソードがありますから、試合別に分析すればもっと興味深いことが色々見えてくるでしょう。

私はこれらのジャッジの一人、ローリー・パーカーのある試合におけるバイアスを分析しました。日曜日に投稿する予定です。

最後の3列には各ジャッジがスケートアメリカ2020で務める役割を示しています。
この状況を見ると、全選手が記録を更新することになるでしょう!

☆筆者プロフィール☆
マルティーナ・フランマルティーノ
ミラノ出身。
書店経営者、雑誌記者/編集者、書評家、ノンフィクション作家
雑誌等で既に700本余りの記事を執筆

ブログ
書評:Librolandia
スポーツ評論:Sportlandia

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☆公的機関に調査してもらいたい案件であり、根拠となるデータも揃っていますが、ISU内で強い発言権を持つアメリカとロシアが率先してナショナルバイアスを行っている訳ですから、ISUに訴えたところで改善されるとは思えません。

北京オリンピックではアメリカに男子の金メダル候補、ロシアに女子の金メダル候補がいて、この2カテゴリーではアメリカとロシアの間に利害対立はありませんから、手を組むことだって考えられます。

ソチ五輪ではアメリカにアイスダンス金、ロシアに団体金を取らせるためにアメリカとロシアのジャッジの間で裏取引が行われたと暴露する記事がフランスのレキシップ紙に掲載されましたが、それ以上追求されることはなく真相は藪の中です。

テッサ・バーチュ/スコット・モイアはイタリアでとても人気がありますから、多くのスケートファンが彼らの銀メダルに納得せず、アメリカに金メダルを盗まれたと大騒ぎでした。

トリノ五輪のライサチェク金、プルシェンコ銀でもアメリカの陰謀だと激怒していました。
ロシアのツァール(皇帝)はイタリアでもとても愛されているのです。

最近、イタリアのスケートファンの間でネイサンへの得点のインフレーションに対する批判と反感が噴出しているのは、「またアメリカの選手!」という気持ちも大きいのではないかと思います。

ネイサン自身は素晴らしい選手であり、インタビューなどを聞くと聡明で爽やかなナイスガイなだけに、妙な採点のせいですっかりヒール扱いされてしまって気の毒です。

ジャッジは何よりも自分の仕事にプロ意識と誇りを持ち、職業倫理と良心に従って採点すべきだと思いますが、バイアスをやり過ぎると贔屓の選手を助けるつもりが、逆に足を引っ張りかねないことにも気付くべきです。

しかし、イタリアジャッジもバイアス値が高いのでね。

今のところ、トップ3に食い込める選手がいませんので、あまり目立っていませんでしたが、トリノGPFのあり得ない採点で一躍有名になりました。

 

私はジャッジの評価は絶対で文句を言うべきではない、ISUに物申すべきではない、という意見には同意出来ません。

裁判官だって間違うことはあるのです。
ボランティアでやっているフィギュアスケートのジャッジが絶対間違わない、なんてあり得ません。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu