Sportlandiaより「ナショナルバイアス/1」

マルティーナ・フランマルティーノさんのジャッジシリーズより

再びナショナルバイアスの話題です。

 

原文>>

マルティーナ・フランマルティーノ著

2020年11月4日

 

フィギュアスケートの試合をただ見るだけ、にすることも可能です。長年私はそうしてきました。

あるいは試合を見て、幾つかの疑問を呈することも出来ます。そしてその疑問がどんどん膨らんでいくと、遅かれ早かれ、後戻り出来ないところまで来てしまいます。

もう試合をだた見るだけに留めるのは不可能になりました。

おそらく、もう試合を見たくない、という境地に至る日がやってくるかもしれません。
何故なら私が信じるのを止めたシステムに投資する感情のエネルギーが尽きてしまったからです。

 

ナショナルバイアス

 

偏見は誰にでもあります。

先入観や好き嫌いが。

私達は皆、驚異的な量の要因から影響を受けています。そして、その多くは目に見えないため、私達はその存在にさえ気付かずに行動しています。

ダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』を読んで見て下さい。

私達の心の機能、行動の仕方をより良く理解し、偏見(バイアス)によって動かされる可能性のある状況を認識することを学べます。

私達が特定の誤りを犯すことを防げるのは「意識」だけです。
ただし、その人に誤りを犯したくないという意志があるなら、です。
もし偏向を全く気にかけず、それどころか、故意にやっているとしたら?

 

最近、私はフィギュアスケートのあまり好ましくない幾つかのエピソードをテーマにした連載記事を投稿しました。

ジャッジが自国選手または連盟同士の取引によって特定の選手に対して行った不正採点の歴史です。

全ては私が読んだ、しかしフィギュアスケート界の人間ではない私には暴露や告発が出来ない案件です。

私に出来ることは試合の文書を見ることだけです。

プロトコルは公開されていますから、誰でもジャッジが与えた得点を読み、調べることが出来ます。

 

2015-2016年シーズンまでは採点は匿名で行われ、各ジャッジが出した得点をコンピューターがかき混ぜていましたから、どのジャッジがどの得点を出したのか特定することは出来ませんでした。

明確でないケースもありますが、特定の証拠を事実として提示できないケースもあります。

しかし、2016-2017年シーズンからジャッジが公表されるようになり、個々のジャッジが各スケーターの各エレメント、及びPCSに与えた得点が分かるようになりました。

各ジャッジがGOEのどのプラス/マイナス項目に該当すると判断したのか明記することを義務付けてもらえれば更にいいのですが、ISUにしてみたら、私達は既に知り過ぎていて、これ以上、私達に知らせる必要はないということなのでしょう。

例えば、私は全てを読んでいるわけではありませんが、2018年6月の第57回定例会議で発行された「Special Regulations Single & Pair Skating Ice Dance」は読みました。

 

皆さんはお気づきになったでしょうか?

ISUの文書ではルール第300号から開始し、その後の500ルールの内、252件は「reserved」扱いで公開されていません。

つまり、私達はルールの一部だけしか知らされていないということです。

何故でしょうか?

 

よろしい。いずれチェックできるように、この制約のことは頭に留めておくとして、先に進みましょう。

ジャッジ名が公表されているシーズンは全部で4シーズンです。

旧ルールの2シーズン(2016-2017/2017-2018年シーズン)と新ルールの2シーズン(2018-2019/2019-2020年シーズンです)。

今シーズンは考慮しません。

まだ始まったばかりですし、実質国内大会ですから、真面目に取り上げことは出来ません。
安全に開催出来るなら、選手達に競技する機会を提供することは正しいことです。

しかし、誕生したばかりのグラン・プレミオ・イタリア(イタリアのスケーター達に競技する機会を与えるために今年から始まった国内大会)と同じ運用、同等の重要性の大会をスケートアメリカ(あるいは、中国杯、ロステレコム杯、NHK杯でも同じことです)と呼ぶのは馬鹿げています。

いずれ、これらの試合についても何か書くかもしれませんが、以下のデータの平均値には今シーズンの得点は含まれていません。

 

私はこの4シーズンの4カテゴリー(男子シングル、女子シングル、ペア)のプロトコルを見ました。

アイスダンスは除外しました。

男女シングル/ペアとアイスダンスのどちらも採点するジャッジもいれば、どちらか一方しか採点しないジャッジもいるからです。それにこれ以上ジャッジの数が増えたらファイルは巨大になり処理するのが困難になります。

アイスダンスも採点するジャッジについては、やむを得ずデータの一部だけを扱うことになります。

より意味のある統計にするために、私は視界を出来る限り広げました:

チャレンジャーシリーズ、グランプリ(ジュニアとシニア)、国別対抗戦、欧州/四大陸選手権、世界選手権(ジュニアとシニア)、オリンピック

私が注目した国は平昌オリンピックの団体戦で上位6位までの国、カナダ、ロシア、アメリカ、イタリア、日本、中国です。

私にとって、中国は絶対に外せない国でした。というのも、2人の中国ジャッジがナショナルバイアスで処分されましたから、彼らの採点内容を見れば、ISUにとって受け入れがたいレベルというのがどの程度なのかが分かります。

確かに、2人の内の一人は本当に非常識な採点でした。しかし、もう1人の中国ジャッジの行いは、興味深いものがあります。なぜなら、他のジャッジ達と比較・考察することが出来るからです。

本当は他の国のジャッジも統計に含めたかったのですが(実際、私はフランスジャッジのデータも集め始めていました)、この作業には膨大な時間がかかり(そうは見えないかもしれませんが)、私にはキーボード以外にも、管理しなければならない生活があるのです。

今後、他の国まで視野を広げるかもしれませんが、今は1913のプログラム(幾つかのケースではより多くのジャッジがいますので、同じプログラムを何度も参照していることがあります)を採点した6ヵ国のジャッジ137人を分析するに留めます(カナダ31人、中国17人、イタリア17人、日本25人、ロシア21人、アメリカ26人)。

 

私はチェックするのが最も簡単なナショナルバイアス値を計算しました。

2002年のスキャンダルが発覚したのは、フランスジャッジが、自国の連盟に圧力をかけられ、カナダの選手ではなくロシアの選手を勝たせるために、彼らに最も高い得点を与えたと告白したからです。

フランス連盟はカナダペアを犠牲にしてロシアペアを助け、順位をかく乱しました。
しかし、告白が無ければ証拠はなく、このような不正を犯した人間は逃げおおせてしまいます。

例え全ての数字を計算しても、このようなケースではナショナルバイアスの証拠にはならないのです。

例えば、A国のジャッジがB国のスケーターを愛し、C国の選手に対して定期的に下げ採点をしていることに気付いても、私はこのジャッジを告発する具体的な証拠を示すことは出来ません。

試合のプロトコルを注意深く分析すれば、何か見つけることが出来るかもしれませんが、今の段階ではただの推測です。

ナショナルバイアスは時間と忍耐さえあれば、比較的簡単に見つけることが出来ますので、私はここに焦点を絞って調査しました。

どうやって計算したのか?

Skating Scoresで投稿されている以下のようなグラフから始めました:

ご覧のように、これは2017年世界選手権男子フリーを分析したグラフです。

イスラエルジャッジのアンナ・カンターは自国のアレクセイ・ビシェンコに平均より13.42高い得点を与えています。一方で、他の選手達には平均より3.00点低い評価を与えています。

つまりナショナルバイアス値は16.42(13.42+3.00)ということになります。

彼女の評価によればビシェンコはフリー7位でした。実際の結果はフリー12位です。

この採点例から、全ての試合の全てのジャッジを調べる必要があることが分かります。

下記の考察では、合計をベースにしています。
例えば、アンナ・カンターの場合、この大会における彼女のナショナルバイアス値は16.42でした。

非常に高い数値ですが、正確な値ではありません。
一般的にバイアスはこのグラフが示しているより高いですが、それを確認するには本当に全ての得点を一つ一つ確認しなければならず、膨大な時間を要します。
ここではこのプログラムに基づいた一例だけに留めます。

 

カナダジャッジのジェフ・ルカスクもスキャンダラスだったジャッジの一人です。

彼はカナダジャッジの中でもネガティブな意味で突出している一人ですが、彼についてはいずれ掘り下げます。

中国ジャッジのチェン・ウェイグアン。
オリンピック後に資格停止処分になった2人のジャッジの1人です。彼についてもいずれは話しましょう。
そして、スペインジャッジのダニエル・デルファ。

私の計算にスペインのジャッジは入っていません。というのも確認しなければならない数字は既に膨大な量ですし、ハビエル・フェルナンデスの引退で、スペインには男女シングル/ペアでメダルを狙える選手はいなくなったからです。
しかし、スペインジャッジのデルファが何をしたのか、例として挙げてみましょう。

彼のバイアス値はフリーだけで6.36ですからかなり高いと言えます。
ショートは2.44でした。

6.36の内訳を見ると、フェルナンデスに平均より5.22高い得点、他の選手達に平均より1.14低い得点を与えています。

しかし、率直に言って、例えばジェイソン・ブラウンをどう採点しようとデルファにとって大して重要ではなかったはずです。フェルナンデスはタイトル、悪くても表彰台を狙っていましたから、ショート8位でトップ10に入ることを目指していたブラウンは彼とは別の試合をしていました。

ですからデルファはブラウンに対しては愛国心に従うことなく、より穏やかに採点することが出来ました。

それではデルファの採点を選手別に細かく見てみましょう:

赤線で囲ったように、デルファはフェルナンデスの直接のライバル全員に平均より低い得点を与えています。

紫線の囲みはデルファの評価によれば、フェルナンデスのフリーは7位ではなく3位だったことを示しています。事実をより明確にするために、私は試合全体の経緯を注意深く見直しました。

A列は選手達がショートプログラムで獲得した得点です。
従って、フリーの試合はここからスタートします。

B列は各選手のショートの順位を示しています。

 

E列はフリープログラムの滑走順で、表では試合の動向をより明確に理解出来るよう、選手を上から滑走順に並べました。

 

C列はショート後のフェルナンデスと他選手達の点差です。
F列とG列は試合の動向、選手達が跳んだ4回転ジャンプの数とGOEマイナスを示しています。
フェルナンデスはパトリック・チャン同様、4回転ジャンプは3本です。
ネイサン・チェンは6本組み込ましたが、ミスを連発しました。
他の選手達は4本です。

H列は各選手がフリープログラムで獲得した得点、I列はショートとフリーのトータルスコアです。

興味深いのは最後の3列です。

J列はデルファの各選手に対するバイアスです。
デルファは羽生に他のジャッジ達の平均より5.69低い得点を与えています。
ジャッジパネルには日本ジャッジも含まれていますが、羽生の直接のライバルであるパトリック・チャンとジン・ボーヤンの国である、カナダジャッジ(羽生に最も厳しかったのは偶然ではないでしょう)と中国ジャッジもいました。

PCSで羽生に厳しく、チャンにより高い点を与えたイギリスジャッジのマーガレット・ワースフォールドにも目を引かれました。

いずれ彼女も調査するかもしれません。

一方、ウクライナジャッジのイゴール・フェッチェンコは宇野昌磨に最も高い演技構成点、ジン・ボーヤンに最も高い技術点を与えています。

ジン(BV103.70)と羽生(103.43)の基礎点が非常に近いことを考慮するとこれは重罪です。フェッチェンコはGOEで羽生に22.10、ジンに22.30を与えました。

ジンは好きな選手ですが、2人のエレメントの質は全く比較になりません。

 

デルファの話に戻ります。

羽生に与えたマイナス5.69と、フェルナンデスに与えたプラスの差を足すと、二人の選手間のバイアスはトータル10.91という計算になります。

状況を分かりやすく説明すると、羽生はこのフリーで合計321.59点に到達しました。

フェルナンデスはショート109.05点からスタートしますので、10.66点リードしており、羽生を抜くにはフリーで212.54以上を獲得する必要がありました。

フェルナンデスはキャリアの中で1度だけこの得点を超えたことがあります。フリーで216.41点に達したボストン世界選手権です。

しかし、デルファは羽生に223.20ではなく、217.42、トータルで315.82という得点を与えました。

彼はフェルナンデスが206.77という比較的「お手頃」な得点で1位になれるようにした唯一のジャッジです(ただし、フェルナンデスの自己2位の得点は2015年グランプリファイナルにおける201.43ですが)

しかし、羽生のプログラムは完璧でしたから、下げるにしても限度がありました。

しかし、表彰台にはまだ2つポストに残っています。

羽生の後にリンクに降りたチェンはフェルナンデスとは大差があり、フリーでもミスを犯しました。デルファは彼に平均より4.76点低い得点を与え、バイアスはトータル9.98点でした。

そしてジンの番です。
ショートプログラム4位だったジンは4ルッツを跳び、綺麗に成功させました。
しかし、他のエレメンツにはほぼ+1しか与えず、他のジャッジが誰も出していないような低い得点を揃えました。そして、念のために演技構成点も下げました。

transitionsは7.00??
これは15位の得点です。

右端のイギリスジャッジの評価は更に馬鹿げています。
彼女は何と羽生に与えた得点と同じ9.50を出しています(優秀な眼科医に診てもらうことをお勧めします)。
しかし7.00は低過ぎませんか?

デルファがトランジションでジンより高い得点を与えたのはチャンとフェルナンデス (9.75)、羽生とブラウン (9.00)、宇野(8.75)、チェン (8.00) 、ヴァシリエフスとフェンツ (7.75)、レイノルズ、ゲー、ブラジナ(7.50)、コリヤダ、クヴィテラシヴィリ、コフトゥン、田中、リー (7.25)、一方ビシェンコ(7.00)は彼と同点でした。

上述の選手の何人かはミス、それも多くのミスを犯しました。デルファはジンのトランジションがよほど気に入らなかったのでしょう。

それでも彼の音楽を表現する能力よりはましでした。Interpretationでデルファはジンに20位の得点を与えています。

ジンは表彰台争いの直接のライバルでした。実際、彼は2.39点差でフェルナンデスを上回り、銅メダルを手にしました。

デルファのジンに対するバイアスが最も高い13.67だったのは偶然でしょうか?

次はパトリック・チャンの番でした。

ショート3位のチャンはクワドの数がフェルナンデスと同じ唯一のスケーターで、ショートの点差は6.92でした。

彼は大きなミスを2つ犯しました。

最初の3アクセルでは手をつき、明らかに躊躇した後で2サルコウを実施しますが、コンビネーションではなくシークエンス(コンビネーションは無効)と判断され、2サルコウの得点は加算されず、GOEマイナスでした。

そして2本目の4トゥループはステップアウトで両手を氷につき、GOEで大きくマイナスされました。チャンはメダル争いから自ら脱落し、デルファの彼に対するバイアスも0.73とかなり控え目でした。

単なる偶然かもしれませんが、平均値だけ見て、試合の動向全体を調べなかった人にとっては大しておかしな数字には見えないだろうという認識だったのかもしれません。

 

最後から2番目にリンクに降りた宇野昌磨はショート2位でした。
彼がジンの次にデルファから不利な採点をされたのは単なる偶然でしょうか?

彼には平均より9.14点も低い得点を与えています。

最終滑走者はフェルナンデスでした。
他の選手達には既に得点が与えられ、デルファは彼の表彰台を助けるために出来るだけのことはしました。

残念ながらハビエルは多くのミスを犯し、総合4位で大会を終えました。

しかし、デルファは高めの得点を与え、彼の評価ならフェルナンデスは銅メダルでした。

全選手を考慮した場合の彼の平均バイアス値は6.36ですが、最終順位でフェルナンデスを上回った選手だけに的を絞って計算すると、平均バイアス値は14.72になります。

 

言うまでもなく、下に挿入した表では、計算を簡単にするためにSkating Scoresに記載された平均値を反映しましたが、個々の試合の動向に注目すると、多くの数字に関する懸念は更に大きくなります。

 

最初の挙げた6ヵ国に議論を戻し、この6ヵ国の全体的なバイアスを見てみましょう。

私はショートとフリーに分け、それぞれのバイアス平均値を計算しました。

ショートとフリーを分けたのは、いつも同じジャッジがどちらのプログラムも採点する訳ではありませんし、選手の同国ジャッジが常にジャッジパネルにいるとは限らないからです。

例えば、オリンピック団体戦女子ショートにおけるフランスジャッジ、アンソニー・リロイのナショナルバイアスは4.08でした(得点的には高い数値ですが、彼は他の4人のジャッジと同様、マエ=ベレニス・メイテを9位にしていますから、順位的には大きなバイアスではないと言えます)。

ショートプログラムの後、フランスは10位でしたから、フランスの選手達はフリーに登場せず、リロイはナショナルバイアスに影響されることなく、フリーの採点を行いました。

幾つかの大会では、一定の順位内には入らなかった選手はフリーに進出出来ません。また、稀なことですが選手がショートの後に怪我をしてフリーに出場出来ないこともあります。

この表はシーズン別のナショナルバイアスと、4シーズンの平均バイアス値です。
バイアス値の高い国から降順に並べました。

AFUの列の数値が示しているように、偏向採点が最も露骨なのは中国ジャッジ、そしてロシアジャッジ、イタリアジャッジ、アメリカジャッジ、カナダジャッジ、日本ジャッジの順に続きます。

6点以上のナショナルバイアス値は赤字で示しました。
中国とロシアのジャッジは4シーズン中3シーズンでこの大台を超えています。
イタリア、アメリカ、カナダのジャッジは1シーズンだけ、日本のジャッジは1度も越えていません。

太字はナショナルバイアスが顕著に感じられたシーズンを示しています。
中国、イタリア、アメリカ、カナダの4ヵ国の数値が最も高いのがオリンピックシーズンなのは驚くことではありません。

最も重要な大会で選手達はより助けられています。
例外はロシアで、ジャッジが公表されるようになった最初のシーズンの数値が最も高くなっています。オリンピックではバイアスが目立たないように少し抑えたのかもしれませんが、それでも非常に高い数値です。

日本は断然低く、しかもどんどん下がっています。まるで自国選手に与えた得点が偏っていることに気付き、修正するために働いているかのようです。

表全体でバイアス値が最も低いのは日本ジャッジの過去2シーズンです。2つのプログラムの合計が3.00以下と言うのはかなり低い数値です。

日本よりやや高いものの、過去2シーズン、かなり低い数値に抑えているのはカナダです。しかし、2つの国の間には根本的な違いがあることを留意しなければなりません。

日本は主要大会のメダル争いに参加していますが、今のカナダにはメダルを狙える選手はいません。

平昌オリンピックの銅メダリストで世界選手権のメダル(2015年と2016年は金)を4度獲得しているメーガン・デュハメル/エリック・ラドフォードはオリンピックシーズン後に引退しました。オリンピック銅メダリストで2018年世界女王のケイトリン・オズモンドについても同じです。

2018年世界選手権の男子シングルではキーガン・メッシング(15位)とナム・ニューエンの残念な演技によってカナダ男子は枠を1つ失いました(2枠から1枠)

現在のカナダは過去数年間の輝きを失い、暗黒期に陥っています。

このことがカナダジャッジの採点に影響を与えたでしょうか?
それは分かりません。

ロシアとアメリカは男子シングルのバイアス値が高くなりました。
イタリアもそうです。奇妙なことですが現在のイタリアは女子より男子の方が強いのです。

上の表はシーズン別のバイアス値の比較ですが、カテゴリー別に比較することも出来ます。

中国はボーヤン・ジンで男子シングル、そして特にウェンジン・スイ/ツォン・ハンでペアのメダルを争います。

この2カテゴリーのバイアスがあまり強い選手のいない女子シングルのバイアスより強いのは偶然ではないでしょう(バイアスが「弱い」と書くのはためらわれます。いずれにしても高い数値ですから)。

ロシアはペアを最も推していますが、男女シングルとの差はほとんどありません。
イタリアジャッジはペアを推す傾向があるようです。

アメリカは明らかに男子に力を入れており、大分前からメダルの望みが薄い女子とペアはあまり推していません。

カナダはあまり男子に興味はないようですが、カナダ男子が獲得した最後の重要なメダルはソチのおけるパトリック・チャンの銀メダル、最後の世界選手権メダルは2013年のチャンの金メダルだったことを留意しなければなりません。

確かにチャンは2016年の世界選手権で金メダルを獲得しますが、羽生不在の大会でした(この時期、彼はリスフラン関節損傷と闘っていました)。また、当然のことながら、スペイン人は四大陸選手権に出場出来ませんから、当時の世界王者も不在でした。

しかしながら、2015年以降、チャンが優勝したのはグランプリ大会だけで、それ以外の大会で表彰台に上ることはありませんでした。

カナダ男子のメダルの可能性は2010年バンクーバーと2014年ソチに比べて著しく下がりました。

最後は日本です。

日本は女子を控え目に推しています。このナショナルバイアス値より低いのはカナダの男子、アメリカとイタリアのペア、アメリカの女子だけです。

輝かしい成功を収めているにも拘らず(2014-2015年シーズンからの平昌五輪までの四年間、羽生結弦は五輪金1個、世界選手権金1個、銀2個、グランプリファイナル金3個を獲得。彼は出場した全ての試合で1位か2位です。宇野昌磨は五輪銀1個、世界選手権銀2個、四大陸選手権金1個、銀1個、銅1個、グランプリファイナル銀2個、銅1個)、男子シングルに対するナショナルバイアス値は極めて低く、ペアは実質全く助けていません。

これらは各国の傾向ですが、ジャッジ個人に注目すると、ジャッジによって動向はかなり異なります。確かに中国ジャッジの平均バイアス値は高いですが、全てのジャッジがなりふり構わずナショナルバイアスを行っている訳ではありません。

例えば、ファン・ヤンは過去2シーズン、男子1試合、女子1試合、ペア2試合のジャッジを行っていますが、ナショナルバイアスは極めて低く1.46です。

一方で、男子3試合、女子7試合のジャッジを務めた日本ジャッジの小林明子のナショナルバイアス値は8.17です。

個々のジャッジのバイアス値に関する表は別の記事で公開します。
既に膨大な量の数字を皆さんにお見せしましたから、今日はこの辺で終わりにします。

☆筆者プロフィール☆
マルティーナ・フランマルティーノ
ミラノ出身。
書店経営者、雑誌記者/編集者、書評家、ノンフィクション作家
雑誌等で既に700本余りの記事を執筆

ブログ
書評:Librolandia
スポーツ評論:Sportlandia

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☆超人的なペースで膨大な調査と執筆を続けているマルティーナさんは全14回に及ぶフィギュアスケートにおけるスキャンダルと不正ジャッジの歴史を解説した超大作「ジャッジ、ジャッジ団、公正な評価」を書き上げ、先日は「チャンピオン探し:アメリカのフィギュアスケート」というタイトルの超長文記事を投稿していました。

ちなみにこの「ナショナルバイアス」シリーズも既に第3回まで進んでいます。

「アメリカのフィギュアスケート、チャンピオン探しの歴史」は、アメリカにおけるフィギュアスケートの栄光と衰退の歴史を振り返り、現在のネイサン推しに繋がっていく経緯を考察した非常に興味深い内容ですが、テキストだけ抽出してWord文書に貼り付けてみたところ、31ページ、文字カウントしたら8万文字もありました!😱
400字詰め原稿用紙200枚分の分量で、これはもはや論文の域です。

ネイサン出現以降のシーズンを解説した段落だけ抜粋して訳そうかとも思いましたが、そうするとこの論文(もはや記事ではなく、「論文」と呼ばせて頂きます)のコンセプトが失われ、筆者の伝えたいことがきちんと伝わらない気がしました。

現在、マルティーナさんはご自分の自由になる時間は全てジャッジと採点の調査・分析・執筆に充てているそうです。

忙しい彼女がそこまでするのは、最近のジャッジング傾向に心底激怒しているからだそうです。

そして、羽生君と直接のライバルに対する採点の比較・分析だけでは、単なるファンの言いがかりと片付けられてしまうと考え、このように全選手と全大会の採点まで調べ、更にこのような偏向採点が「今」に始まったことではないことを示すために、遥か昔の大会の資料まで集め、データと根拠を示してフィギュアスケート史における不正ジャッジとスキャンダルの歴史を解説する記事を執筆されているのです。

いずれも綿密な調査と確固たるデータに裏付けされた素晴らしい記事なので翻訳したいとは思っていますが、何しろ膨大な量なので、どの記事から手を付けようか迷っているところです。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu