マルティーナ・フランマルティーノさんのジャッジシリーズより
「ナショナルバイアス」第2弾です。
マルティーナ・フランマルティーノ著
2020年11月5日
前回の記事で(正確には更にその一つ前の記事でも)、ジャッジのナショナルバイアスがより露骨な国を示した2つの表を投稿しました。
私がどのようにしてバイアス値を計算したかを説明し、計算の元になった数字を示さずに平均値だけを記載しました。
今回は元の数字をご紹介します。
データを転記した後、何度も見直しましたが、これだけ膨大な数字になると何かを見落とした可能性は常に付きまといます。もしミスや記入漏れに気が付いたら知らせて下さい。元のファイルを修正し、画像を作り直します。
前記事で述べたように、平昌オリンピック団体戦上位6か国のジャッジを調べました。
今回は、この6ヵ国の各ジャッジが採点した試合と彼らのナショナルバイアス値をまとめてみました。
バイアスナショナルが露骨な順に中国、ロシア、イタリア、アメリカ、カナダ、日本の完全なデータです。
注)ナショナルバイアス値とは、自国選手と他国選手に対する平均からの逸脱点の差。
中国:
ご覧のように、各ジャッジが採点した試合と、彼らのショートとフリーのバイアス値、及び両プログラムの合計を示しました。
更に男子シングル、女子シングル、ペアに分類しました。
全ての数値を入力した後で、「要約」の表で、各国のそれぞれのジャッジの平均値をまとめました。
要約
中国ジャッジの表一番下のルイ・ジャオ(Rui Zhao)を例に各数値について説明しましょう。
ジャオは男子ショートプログラムを1度だけ採点しました。この時の彼女のバイアス値は2.89で、この数値はQ51に示されています。
どの試合か確認するには別の表を参照してください。
2019年にフランスで開催されたジュニアグランプリ大会だということが分かります。
2.89の下の「1」の数字はジャオが1試合のみで2.89のバイアスだったことを示しています。
最後の行、Q53は男子ショートプログラムにおけるジャオのバイアス平均値を示しています。
彼女の場合、1試合しか採点していませんので、当然51と53の数値は同じです。
列Rは男子フリーの数値です。
男子フリーにおけるジャオのバイアス値は16.25です。
しかし、この数値は3つの試合、2016年JGPタリン杯(4.12)、同年のドイツ大会(10.46)、昨シーズンのフランス大会(1.67)の合計です。3試合の平均値は5.42です。
S53の8.31という数値はショートプログラム(2.89)とフリープログラム(5.42)の平均値の合計です。
他の2カテゴリー(女子とペア)についても同じ方法で計算しました。
最後の3列はこのジャッジの3カテゴリー全てのバイアス平均です。
AC53の2.41という数字は次の数式から算出されました:
(Q51+U51+Y51)÷(Q52+U52+Y52)
言い方を変えると、行51のショートプログラムのバイアスを足し(2.89+1.02+12.95)、ジャオが採点したプログラム数(1+1+5)で割りました。
フリーの計算方法も全く同じです。
最後の7.08という数値は2つのプログラムのバイアス平均値の合計で、このジャッジの全試合における総括的なバイアス値を示しています。
最後の2つの表では幾つかの数字を太字にしました。
赤の太字はマイナスのバイアスです。幾つかのケースではジャッジは同国選手に他の選手達に与えた得点より平均に対して低めの得点を与えています。
あまり頻繁に起こることではありませんが、全ての国のジャッジで何度か起こっています。
過剰なバイアスは太字の少し大き目のフォントで表記しました。
どのようなケースを過剰なバイアスと判断するのか?
私は平均との乖離がショートプログラムで3.00以上、フリーで6.00以上、両プログラムの合計で9.00以上のケースについて、過剰なバイアスと定義することにしました。
この基準については以前の記事で解説しています:
この記事の中で、私はスケーター達が獲得した得点が4.50点高かった、または低かったと仮定した場合、結果が変わった試合がどれだけあったかを示しました。
なぜ4.50点なのか?
それは、あるスケーターのスコアに適用されたマイナスのバイアスに、対戦相手のスコアに適用されたプラスのバイアスを加算すると9.00になるからです。
私の計算の中に入っていない試合を例に挙げましょう。
まだジャッジが匿名だったソチオリンピックの女子の試合です。
アデリーナ・ソトニコワは224.59点で金メダル、キム・ヨナは219.11点で銀メダルでした。ソトニコワの得点から4.50引くと220.05点、キムの得点に4.50点足すと223.61です。合わせて9点の変動があるとメダルの色は入れ替わります。
3.00、6.00、合計で9.00という数字は計算しやすいように私が設定し、この数値を基準にチェックする作業を行いました。
この数値未満なら許容範囲に思えますし、ISUも自国選手に1試合で9.00は受け入れがたいバイアスと判断しているからです。
何故、そう思うのか?
平昌オリンピックでペアの採点をしたフアン・フェンはナショナルバイアスでISUから資格停止処分を受けました。
https://sportlandiamartina.wordpress.com/2020/10/25/di-giudici-giurie-e-giudizi-equi-14/
この大会におけるフアンのバイアス値はショート4.03、フリー4.80、合計8.83でした。
ISUがフアンを処分したなら、理論的に考えて、私達は9.00以上のバイアスを行った全てのジャッジを調査し、資格停止処分にすべきだと言っていいはずです(本来なら永久的に資格停止すべきでしょう)。彼らが同国選手に与えた得点が寛大過ぎたのではなく、他のジャッジ達の得点が厳格過ぎたと証明出来るなら話は別ですが。
ロシア
要約
イタリア
要約
アメリカ
要約
カナダ
要約
日本
要約
これだけ多くのジャッジのナショナルバイアスについて計算しましたから、ランキング表も作成することにしました。
上の表の各ジャッジの3行目(平均値)の数値を基に、ナショナルバイアスが大きい順にジャッジを並べました。
各ジャッジ名の隣に国名を表記しました。
これが6ヵ国のジャッジ達のナショナルバイアス値順のランキングです。
今日のところはこの表で終わりにします。
次の記事では個々のケースについて見ていきます。
☆筆者プロフィール☆
マルティーナ・フランマルティーノ
ミラノ出身。
書店経営者、雑誌記者/編集者、書評家、ノンフィクション作家
雑誌等で既に700本余りの記事を執筆
ブログ
書評:Librolandia
スポーツ評論:Sportlandia
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☆百聞は一見に如かずとはこのことですね。数字が全てを物語っています。
敢えて言葉で説明する必要はないでしょう。
マルティーナさんは個々のジャッジ、個々の大会、個々の選手に対する得点にフォーカスして更に掘り下げていくそうです。
ちなみにこの「ナショナルバイアス」シリーズは「ナショナルバイアス~中国/1」、ナショナルバイアス~中国/2」まで進んでいます。