Sportlandiaより「ヴァルター・トイゴ(+2019年グランプリファイナル)」

前回に引き続き、書店を経営するライター、マルティーナ・フランマルティーノさんのブログから。

ジャッジに関する分析記事第4弾
今回はイタリアジャッジ、ヴァルター・トイゴの分析です。

 

原文>>

 

マルティーナ・フランマルティーノ著
2020年8月7日

 

新型コロナウィルスで世界は変わり、私達はこの事態に適応しなければなりません。
スポーツ界も同様です。

私達全員が味わっている小さな不自由や中止になった幾つかのイベントは大した惨事ではありません。でもこのブログのテーマはスポーツですから、スポーツについて話したいと思います。

感染した人々についてもここでは触れません。
職を失った人、練習が出来ない人など多くの人が問題を抱えています。
ISUはこの事態を認識しており、当事者の健康を第一に考えます。どんな風に?

2020年世界フィギュアスケート選手権について見てみましょう。
パンデミックが原因で開催されませんでした。
しかし、中止を決定したのはISUではなく、ケベック州保健省でした。大会中止の決定が下されるまで、ISUの方針はアンケートを記入させ、体温を測らせることでした。
しかし、WHOによる正式なパンデミック宣言さえ、ISUにとっては試合や、無数の人々が殺到することが予想されるレッドカーペットを中止するに十分な理由とはならなかったのでしょうか?

3月11日から正式にパンデミックだと宣言されているにもかかわらず、3月13日から14日にはノッティンガムでシンクロナイズドスケーティングの世界選手権が予定通り開催されました。

3月7日から8日までオランダでスピードスケートの大会が行われましたから、ISUはその数日後にシンクロナイズドスケーティングの世界選手権を開催することに何の問題もないと判断したのでしょう。

パンデミックのせいで、まずルールに関してひと悶着ありました。新しいルールが発表され、撤回され、最終的に間違った条項だけが適用になりました。
でも、常にミスなく完璧にやるなんて不可能ですよね?

(あまりにも長いので、ジュニアグランプリ中止に至る経緯、チャレンジャーシリーズへの日本選手派遣中止などに関する話はとりあえず割愛します)

 

そして今度はシニアにグランプリ大会に対する決定が行われました:


これは8月4日付けのコミュニケーションNo.2339です。私は全てのコミュニケーションをダウンロードして保存することを覚えました。何故なら時々、消えてしまうことがあるからです。

いずれにしても最終的な情報と技術的詳細は出来るだけ早く発表されるそうですが、今のところ具体的なことはまだ何も決まっていないようです。

確かに、不安定な状況で、短期間で状況が変わってしまう可能性があります。

いずれにしても、3月にパンデミック宣言が行われ、感染者数は増え続けています。
ISUは大会開催のための規定を考案中だそうですから、どのようにするのか分かりませんが、遅かれ早かれ発表されるでしょう。

ほぼ決定なのは、国内大会になるということです。ほぼナショナルと同じ試合になりますから、国内選手権を2度やる意味があるのかと私は思います。

勿論、開催国の選手に加え、開催国を練習拠点とする選手、開催国への渡航制限のない地理的地域の選手も出場することが出来ます。

ジャッジに関しては・・・パンデミックの隠れた悲劇の一つがここにあります。開催国のジャッジというのが必須条件になりますから、私達は可哀そうなヴァルター・トイゴをジャッジ席で見ることは出来ません。

先シーズンはイタリアにはグランプリファイナルがありましたから、償いをすべきでした。実際、トイゴはトリノにいました。
しかし、今シーズン、イタリアで開催されるグランプリ大会はありませんから、トイゴは採点出来ません。

それでは、彼が近年ジャッジを努めた大会を見ていきましょう:

オリンピック、世界選手権、ファイナルを含むグランプリ大会、ジュニアとシニアの両方、3カテゴリーで採点を行っています。

トイゴがジャッジ席に登場しなかったシーズンはありません。
これらの試合が全てなくなってしまった今シーズン、彼はどうやって生きていくのでしょう?
ロンバルディア杯はありますが、同じレベルではありません。

いずれにしても彼は強い人間で、自分の考えに自信を持っており、誰の影響も受けず、採点する際、何の助けも必要とせず、ただ同僚のジャッジ達の得点を盗み見るだけで十分なのです。ですから、私は彼が何とか生き延び、可能になるや否やジャッジ席に彼の姿を再び見ることになると確信しています。私はそうならないことを願っていますが、ジャッジを任命するのは私ではないのです。

上の画像を見ましょう。
右の表はジャッジが公表されるようになってから彼が採点した大会、左は匿名ジャッジ時代の大会です。

匿名時代の採点を検証出来ないのは残念です。ISUが全てのデータを公表してくれればいいのですが、これだけ時間が経過していますから、ジャッジ情報が秘密だった時代の採点データが今もどこかに保管はされているか疑問です。

しかも、ISUは情報を拡散せず、隠す傾向があります。私は過去に確かに存在した文書を探し、その痕跡を見つけることが出来なかったことがこれまでに何度もありました。

左の表にはグレーの行があります。
これはトイゴがかなり長い期間、採点を行っておらず、グレーはその時期を示しています。一体何が起こったのでしょうか?
彼はジャッジの資格を停止されたのです。
しかし、ISUの公式サイトにはその事実を示すコミュニケーションNo.1669の痕跡はありません。No.1628からNo.1834に飛んでおり、間のコミュニケーションは削除されています。削除されたその他のコミュニケーションに何が書いてあったのかは分かりませんが、トイゴに関するこの文書は当時、私は保存していました。

misconduct and of violation of the duties of Judges and the ISU Code of Ethics(ジャッジ義務の違反、及びISU倫理規定違反)により2年間の資格停止。
Googleでトイゴの名前で検索すると、今でも何かが見つかります:https://www.isu.org/inside-isu/legal/disciplinary-decisions/292-case-no-2010-01-walter-toigo/file

数日前にご紹介した記事のリンクをもう一度貼ります:https://www.nbcnews.com/storyline/winter-olympics-2018/figure-skating-lets-judges-who-break-rules-return-judge-another-n845441

私ならこのようなケースについては2年間の資格停止ではなく、永久的に資格を剥奪します。
なぜばら、スポーツ倫理という観念を全く持ち合わせていない人間が、ある日突然、この考えに目覚めるとは思えないからです。
しかし、ISUは彼らがやらかした事の重大さに拘わらず、皆を赦そうとするのです。

2002年オリンピックのスキャンダルを例に挙げましょう。
1人のジャッジが、自国連盟の会長に圧力をかけられ、試合の結果をわざと不正操作したと告白しました。
彼の得点が金メダルの行方を決定しましたから、この意味においても重大でした(17位と18位を争ったわけではないのです)。

しかし、不正を行った2人のジャッジはどちらも資格を剥奪されることはありませんでした。その後のことはこの記事に面白くまとめてあります:https://www.latimes.com/archives/la-xpm-2002-may-04-sp-olycol04-story.html

ロサンゼルス・タイムズの記事が消えることはないと思いますが、念のためにスクリーンショットを撮っておきました:

興味深い部分を赤で囲みました。
匿名のコラムニストは資格の一時停止は軽すぎると見なしており、資格の剥奪を望んでいますが、当時のISU会長、オッタヴィオ・チンクワンタは資格停止は短過ぎず、長過ぎず適切であるとコメントしています。

その少し下、ダグ・ウィリアムスは「幸先の良い第一歩」と発言しています。
一体何に向けての「幸先の良い第一歩」なのでしょうか?

腐敗を受け入れたくないのなら、悪さをした子供にするように軽く頭を叩いて「もうしないと約束して」と言うのではなく、腐敗した者を追放すべきでしょう?

システムが如何に間違っているか見えるのは部外者だけなどということが可能ですか?

ちなみに、このダグ・ウィリアムスもその数年後に資格停止処分を受けますが、このエピソードを示す文書も何故かISUのサイトから消えています。

そう、彼も私が特に観察しているジャッジの一人です。

トイゴの話に戻りましょう。
2年間の資格停止期間が終わり、晴れて復職した彼が最初にジャッジを務めた大会は何だと思いますか?

世界選手権です。

イタリアにはこの大会に派遣する誠実なジャッジが他にいなかったのでしょうか?
自分の同胞、自分の国を代表する人間を恥じることは、私にとって気持ちのいいことではありません。

そしてトイゴの存在は、彼にポストを与えるために脇に追いやられた全ての誠実なジャッジに対する侮辱です。

それでは実際に検証可能なものを見ていきましょう。

トイゴが採点した全ての試合は、幾つかの統計と共にこちらからご覧になれます:https://skatingscores.com/official/ita_walter_toigo/

私はその幾つかに焦点を当てました。

まずはナショナルバイアスから始めましょう。

2017年世界ジュニア選手権のペア(イルマ・カルダラ/エドアルド・カプトが実際でもトイゴの評価でも15位)、2019年のリガ杯とジュニアグランプリ大会、2019年の中国杯(ニコル・デッラ・モニカ/マッテオ・グアリーゼが実際でもトイゴの評価でも4位)、イタリア選手が出場していなかった2016年NHK杯(ペア)、2018年NHK杯(ペア)、2019年グランプリファイナル(ジュニア及びシニアのペア)は省略しました。
その他の試合の表はこちらです:

2017年中国杯、銅メダルだったカーステン・ムーア=タワーズ/マイケル・マリナロは、トイゴの評価ではニコル・デッラ・モニカ/マッテオ・グアリーゼ(トイゴ採点では銅メダル)とヴァレンティーナ・マルケイ/オンドレイ・ホタレックに抜かれて何と5位に転落するところでした。

2017年NHK杯の上位4選手の結果は変わりませんでしたが、エフゲニア・メドヴェデワとカロリーナ・コストナーとの点差が大きく縮まるところでした。

オリンピックはトイゴはペアのショートプログラムを採点しました。フリーでは多くのジャッジが別のジャッジと交代し、ショートでは不在だったロシア、フランス、アメリカのジャッジがフリーのジャッジパネルに加わりました(アシスタント・テクニカル・スペシャリストはどちらのプログラムでもアメリカ人でした)。

誰が多く、誰が少なくというゲームの中で、トイゴはマルケイ/ホタレックには実際と同じ7位の得点を与えますが、デッラ・モニカ/グアリーゼは彼の評価によれば9位ではなく5位でした。

 

2019年国別対抗戦に関しては話が更に長くなります。
この大会では絶対的得点ではなく、各カテゴリーで何位だったかが重要になります。

従って、私は表に全ての得点を書き入れました。

得点の多少の誤差はありますが、男子ショートプログラムではマッテオ・リッツォもダニエル・グラッスルも実際の順位のままでした。

フリーでは、リッツォの順位はそのままですが、平均より10点高い得点を与えられたグラッスルは2つ上の順位でした。誤差がこれより大きな得点が与えられたのは2017年中国杯のデッラ・モニカ/グアリーゼだけです。

女子シングルではマリーナ・ピレッダは1つ順位を上げ、ロベルタ・ロデギエーロはそのまま、フリーはその逆でした。

ペアではデッラ・モニカ/グアリーゼがショートでもフリーでも順位を1つ挙げました。

これらの誤差を合計し、ライバル国の仮定順位を考慮すると、フランス4位(75ポイント)、カナダ5位(73ポイント)、イタリア6位(69ポイント)だった実際の結果に対し、トイゴ採点ではイタリアが76ポイントでフランス(73)とカナダ(72)を上回って4位でした。

 

最後の大会、2019年中国杯
トイゴはマッテオ・リッツォに実際と同じ3位の評価を与えますが、彼より下位の3選手の得点が大幅に下げられています。

実際、SkatingScoresの表を見ると、フリーではトイゴはジャッジの中で露骨な偏向採点を行っていたことが分かります:https://skatingscores.com/1920/gpchn/men/bias/

 

この分析の最後の章は、トイゴが採点した羽生結弦が出場した大会に関するものです。

最初の大会、2016年NHK杯
トイゴは他のジャッジ達と同じ点を羽生に与え、ネイサン・チェンに厳しい評価を与えました(実際には、チェン以外にも多くの選手が厳しく採点されました)。

どちらのプログラムでもトイゴは羽生に対して技術点に関しては他のジャッジと同じ得点を与え、演技構成点については平均より全体的にやや低目(フリーのトランジション以外)に評価しました。

チェンに対してはGOEに関してはショートプログラムでは平均よりやや低め、フリーでは平均と同じ評価を与え、演技構成点についてはどちらのブログラムでも非常に厳しい評価を与えました。

 

2019年オータムクラシックインターナショナル

演技構成点で非常に酷い扱いを受けたイスラエルのマーク・ゴロドニツキーの得点が目を引きます。
羽生はこの大会、ショートプログラムで自身12回目となる、そして旧ルール最後の歴代最高得点を叩き出し、フリーは大惨事でした。

何故そうなったのかはここでは掘り下げません。重要なのは各選手がリンクで行ったことです。

試合はハビエル・フェルナンデスが優勝し、フリー5位だった羽生はショートプログラムで積み上げた点差のおかげで銀メダルでした。

全てのジャッジが羽生を技術点で6位(例外は厳しい評価でカナダのニコール・ルブラン・リシャールより下にしたトイゴのみ)、演技構成点でフェルナンデスに次ぐ2位(またしても例外はフリー2位だったミーシャ・ゲーにより高い点を与えたトイゴのみ)の評価でした。

クライマックスは昨シーズンのグランプリファイナルです。

ショートプログラムで羽生は大きなミスをします。
4トゥループのコンビネーションの着氷が乱れ、セカンドジャンプを付けることが出来ませんでした。結果、このエレメントは正当にジャッジ全員から-5を与えられました。
Performanceがいつもより低くなるのは理解出来ますが、8.78は低過ぎませんか?

コンボ以外は完璧でした。
Interpretationが8.75?本当に?
本当に本当に本当ですか?

奇妙だったのは羽生のコンポーネンツの得点だけではありません。

間違った評価とは、スケーターが過小評価された場合だけとは限りません。そのスケーターに対する評価がある程度正しくても、ライバル選手が過剰評価されることも間違った評価です。

 

チェンの3アクセルが+4?

この際、助走の長さは目をつぶりましょう。でも着氷を見て下さい。

着氷後、1秒も経たない内にもう一方の足を氷に置き、エレガントとは言い難いステップで大急ぎで立ち去っています。

これは流れのある着氷ではありません。つまりエフォートレスではありませんからプラス要件の3)を満たしていないことになります。どんなに寛大に見ても+3以上を与えるべきではないジャンプです。フランスのアンソニー・リロイ、ロシアのオルガ・コジェミヤキナについても同じことが言えます。

しかし、トイゴの意見では、チェンには+4と+5しか相応しくなかったのですね。着氷と同時に大急ぎで逃げ去ったコンビネーションでさえも。

この場合、小さく跳んでいますが、振付要素ではなく、「逃げ」です。試合を見ることに慣れていて、最低限の注意を払っていれば誰にでも分かることです。テクニカルである必要はありません。

トイゴはフリーでもチェンに+4と+5しか与えませんでした。一方、羽生に対しては+5はゼロ、+4も3つだけでした。

 

チェンがコレオシークエンスでつまずいたことは前にお話ししました。このコレオシークエンスに対する評価は正当化しようがありませんが、このエレメントに関してはジャッジが集団失明に陥ったようです。
ジャンプについて話しましょうか?

出に流れがあったジャンプ、あるいはすぐに難しいステップに繋げていたジャンプが1つでもありましたか?
チェンはどの着氷でもバランスを取るために大急ぎでもう片方の足を着き、逃げ去っていました。+4以上に値するジャンプは1本もありませんでした。

しかし、フランスジャッジのアンソニー・リロイから6個(ジャンプ要素は全部で7個です)、中国ジャッジのウェイ・シーから7個(4サルコウと3アクセルへの+5を含みます。このシーはショートプログラムで羽生の同じジャンプに+4を与え、羽生が+5を獲得するにはルールが定めるように5要件ではなく、7要件を満たしている必要があるのではないかという疑念を抱かせました。何故なら彼のこのジャンプは6要件全てを満たしていたからです。他の選手は4項目、または選手によって3項目しか満たしていなくても+5をもらえるのはきっと練習熱心な彼らに対するご褒美なのでしょう。羽生にだけ必要な7要件目は何でしょう?誰にも分かりません。ジャンプをしながらコーヒーを1滴もこぼさずにジャッジに持っていくことでしょうか?)、オーストラリアジャッジのエリザベス・バインダーから1個(他のジャッジに比べて厳格でしたが、羽生に対してはチェンより更に厳格でした)、日本ジャッジの前田真美から2個、そして当然のことながらトイゴから7個、アメリカジャッジのウェンディ・エンツマンから4個(3アクセルにショートの羽生の3アクセルと同じ評価+4を与えました。羽生の3アクセルは入りと出にツイヅルを入れた巨大なジャンプでしたが、チェンのアクセルは助走が長く、幅と高さも控え目で、着氷後大急ぎで逃げ去っていました)、ジョージアジャッジのサロメ・チゴギッツェから2個(ショートプログラムで羽生の4サルコウを+3と評価し、同じ評価をチェンの4サルコウに与えました。ジャンプの前に一種のコレオシークエンスを実施し、簡単に軽々と跳んでいた羽生に比べ、チェンは助走から実施し、着氷後の流れもありませんでしたが)、カナダのデボラ・イスラムから2個(彼女も両者の4サルコウを同じ+4と評価しました)。

技術点を見ると、トイゴが最も寛大で、アメリカジャッジさえ大幅に上回る得点をチェンに与えています。

これは4フリップ-3トゥループのコンビネーションへの準備です。

チェンがカメラに対してリンクの左端で振り返って後ろ向きに滑って行くところか始めます。幾つかのクロスオーバー、簡単なステップ(チョクトーだと思いますが、間違っていたら教えて下さい)、そして再び向きを変えてフリップの準備をします。特別なステップはなく、標準の入りと言えます。3枚目の画像はリンク右端でトゥを突いている瞬間です。

1枚目から3枚目までの画像までに8秒が経過しています。翻訳すると少なくとも40メートルの助走ということになります(リンクの長さは60メートルです)。彼の軌道はリンクを斜めに横断していますから、助走の長さは最大ということになります。

GOEマイナス要素で「長い助走」というのがありませんでしたか?
-1から-3のはずです。
エッジを見ましょう。エッジを確認するのはテクニカルパネルの仕事です。テクニカルコントローラーは日本の岡部由起子、テクニカルスペシャリストはスロヴェニアのヤン・セヴァンでしたが、彼らはこの時、別の何かを見ていたのでしょう。

スクリーンショットはジャンプの細部を見せるスロー映像から撮っています。

例えテクニカルパネルがエッジを見逃しても、ジャッジにもフラットなエッジを見分けて-1から -2と評価出来る能力が備わっていなければなりません。

ブラインダー以外のジャッジ全員(トイゴも含む)が+4か+5の評価でした。基礎点はエレメントの難度を示しています。チェンが難しいエレメントを実施していることは誰も否定しません。しかし、GOEはこのエレメントがどのように実施されたかを示すものですから、当該要件を満たさないエレメントに高いGOEを与えるべきではありません。

こちらは4ルッツです。

一段目は助走です。リンクの端から端まで横断する5秒間の助走の中で私が見つけることが出来たのは簡単なチョクトーだけです。

2段目は着氷です。2枚目の画像では明らかにバランスを崩しているのが分かります。しかしチェンは優秀で、イーグルで上手く切り抜けていますが、全くエフォートレスではありません。

 

こちらはアイスコープの測定値です。残念ながら、アイスコープは少ししかありません。

チェンの4ルッツ(トゥジャンプ)と羽生のショートの4サルコウ(エッジジャンプ)の比較です。もう一方の足でアシストしながら跳ぶトゥジャンプはエッジで踏み切るジャンプより幅があることはご周知の通りです。

この4ルッツは本当に1)の「very good heigth and very good lenght」(高さと幅がある)の項目を満たしていると思いますか?

この項目を満たしていないと+4以上に値しません(エフォートレスの観点から見ても既に+4以上に値しません)。ステップもありませんでした。

プロトコルに並ぶ+4以上のGOEは一体何を評価したのでしょうか?
しかし、もっと面白いのが回転です。

回転不足のジャンプでは基礎点が11.50から9.20に下がり、GOEは-1から-2になります。しかし、上述したようにテクニカルパネルもジャッジも別の何かを見ていたのでしょう。
ジャンプを観察するのは止めた方がいいのかもしれません。回転不足と判定されなかったジャンプはこの4ルッツだけではありませんが、私はグランプリファイナルについてではなくトイゴについて考察していますから、ここではこれ以上掘り下げません。

確かにトイゴはグランプリファイナルでチェンのプログラムに夢中になったジャッジの一人でした。

スピンを見てみましょう。最後のコンビネーションスピンでチェンはシットポジションでちゃんと2回転していますか?

スクリーンショットはチェンがフライングをしてから、上体を起こしてキャメルポジションになるまでを捉えています。

このようなシットポジションではVマークが付くべきです。Vが付くと、基礎点が3.50から2.63に下がり、プラス要件の2)「controlled, clear position(s) 」(inc. height and air/landing position in flying spin)=良くコントロールされた、明確な姿勢(フライングスピンの場合には高さ、空中/着氷姿勢を含む)を満たしていないことになりますから+4以上を獲得するのは不可能になります。

 

技術面はこのぐらいにして、演技構成点を見ましょう。
プラグラムからジャンプ、スピン、ステップシークエンス、コレオシークエンス、更にクロスオーバーと何もせずに氷上をただ滑っている部分を取り除いてみましょう。

エレメントとエレメントの間で彼は何をしているでしょう?

このスクリーンショットは私にとっては非常に退屈な作業でしたが、視覚的に興味深いものが撮れました。最初のポジションを見せるため、音楽が始まる前、静止しているところから始めました。

クロスオーバー以外では一連の簡単なステップ、そして4F+3Tのコンビネーション

 

羽生:

スクリーンショットの枚数がより多いことに気が付きませんか?
理由は簡単です。ステップの数がより多いのです。身体もより傾斜しています。

羽生は重心の移動がより大きく、よりエッジを使っています。すなわちskating skills でより高い評価に値します。また、重心の移動はより体力を消耗させることも忘れてはなりません。

コンビネーションから4ルッツまでの間、チェンは実質何も行っていません。ただリンクを移動しているだけです。

羽生のスクリーンショットも多くはありませんが、イーグルを入れ、エッジをアウトからインにチェンジしています。

ここでは僅かなステップの間にイーグルがあります。そしてチェンは4トゥループのコンビネーションへの準備に入ります。

4ルッツからフライングスピンまでの間、羽生はごく僅かのステップしか入れていませんが(その中にはクロスオーバー1回も含まれています)、この2つのエレメンツの間には僅か4秒しかなかったことにも注目しなければなりません。このような高難度のジャンプの直後にスピンを入れることは、途方もないリスクを伴います。
もしジャンプを失敗したら、スピンの準備が出来ず、このエレメントのレベルを落とす可能性があるからです。

実際、過去に起こったことです。2016年世界選手権で彼は最後のジャンプ、3ルッツで失敗しました。転倒はしませんでしたが、氷に手を付き、スピードが落ちました。結果、この後のスピンは予定のレベル4からレベル3にレベルを落としました。 この時のスピンは本当にジャンプと密接していましたが、転倒ではなくもっと小さなミスでもこのような問題が起こったのです。

チェンはより慎重で、コンビネーションを終えてからスピンに入るまでに13秒の時間があります。いずれにしても最初の一歩(文字通り、私達が歩く時のような一歩です)の後、ツイヅルや明らかに音楽を表現するために挿入されたムーブメントなど、幾つかの振付が組み込まれています。

 

スピンの後、羽生はステップシークエンスを実施しますが、ここでは省略します。
このエレメントの得点がTESカウンターに現れたところ、つまり彼はステップシークエンスに求められる必須要素と、彼が入れている追加要素(そう、彼はいつも必要以上に多くのことを実施しているのです)を終えたところから再開します。

そう多くはありません。最後の画像では彼は方向転換して3ルッツの準備に入ります。いずれにしてもステップシークエンスの最後の跳んでおり、長い助走の後ではありません。

これは2本目のスピンの3アクセルの間です。

チェンは難しいステップを2~3入れ、後は特別なことはしていません。2:10からクロスオーバーで3アクセルの助走に入り、2:14で振り返り(このジャンプのクラシックな入りのポジションです)、リンクの端から端まで助走した後、2:18で左足を置いて踏み切ります。

これは「long preparation」(長い助走)に該当しませんか?

3ルッツから4サルコウまでの間、羽生はシークエンスに含まれていないステップを実施します。中央の画像のようなディープエッジで。

チェンはここでステップシークエンスを実施しますが、羽生同様、割愛します。

チェンは一握りの簡単なステップ、そして4サルコウの準備をします。

羽生は4サルコウと最初の4トゥループのコンビネーションの間にちょっとしたミニ・コレオシークエンスを行っています。

4トゥループ直前のスリーターン(ステップではなくジャンプの一部と見なしているため)の前までスクリーンショットしました。

4サルコウの着氷が完璧でなかったため、チェンは大急ぎでもう一方の足を氷に置き、1/2秒ほどのイーグルを付けて巧くごまかしました。ごまかすというより、バランスを取り戻すためにそうしたのでしょう。そうでなければバランスを崩していたでしょう。

幾つかのステップ、そして4トゥループの助走に7秒費やします。

動画を見ると、助走はISUのロゴと別のロゴの間隔より長いことが分かります。
これは長い助走ではないのでしょうか?

これは1本目の4トゥループのコンボから2本目の4トゥループのコンボまでです。

もはや、羽生はエネルギーをほとんど使い果たしていました。このプログラム構成はぶっつけ本番でしたし、彼は五輪前の怪我以降、5クワドのプログラムは練習していませんでした。

実際、4T+Eu+3Fの三連続は最後のジャンプが回転不足でステップアウトでした。しかし、このことがその後の彼のミニ・コレオシークエンスを妨げることはありませんでした。

しかも、小さなジャンプまで入れて!
彼にはコンボとコンボの間でエネルギーを節約する必要はないのです。

チェンは着氷の後、またしても大急ぎで逃げ去っています。4トゥループと3ルッツの間には何もありません。

ここでは羽生も出にあまり流れがありませんでした。小さくジャンプして立ち去ります。ここでも彼は何度か小さなジャンプ(方向転換)を入れています。こんなに詰め込んで彼は疲れないのでしょうか?いいえ、彼にとってプログラムを簡略化することは冒涜なのです。
またしてもミニ・コレオシークエンス。アラベスクのようなポーズまで入れています!

このスクリーンショットはアクセル前はバックカウンターまでです。

skating skillsについて話す時もバックカウンターを考慮しなければなりません。3アクセルをバックカウンターから跳ぶことが出来る人が何人いますか?
OK、今回は彼はミスをし、3A/3Aの予定がシングルアクセルに終わりました。
バックカウンターから3アクセルを跳び始めたのは彼が初めてでした。真似しようとする選手はいますが、彼のクオリティには程遠いです。

また同じことを繰り返しますか?
今回は3Lz-3Tです。大急ぎで逃げ去り、2つのステップ、そしてスピンに入ります。

 

羽生はコレオシークエンスを実施します。荘厳なレイバックイナバウアー。
このエレメントを彼のように実施出来る人は誰もいません。
そしてハイドロブレーディング。彼は簡単なことは嫌いですから、ハイドロブレーディングから起き上がるや否やフライングスピンに入ります。誰も行っていないような上下の動きを入れて。

実質、羽生はこのスピンの出と共に、既に3本目のスピンに入っています。

チェンは2本目のスピン、コレオシークエンス、そして最後のスピン。最後のエレメントについてはコメントしません。

フィニッシュ

フィニッシュ

前述したように、私はクロスオーバーとただ滑走しているところ(幾つかの非常に深いチェンジエッジがあったところも含め)は省略しました。

もしかしたら何か見落としたかもしれませんが、チェンのスクリーンショットは89枚、羽生は111枚で22枚も多いです。つまり、羽生の方がずっと多くのことをやっていたことを示しています。また、全体的に彼の方が難しいステップを入れています。

確かにスケートカナダに比べると彼は振付を少し省略し、例えばランゲがなくなっていました。しかし、それでもチェンよりずっと豊かなプログラムですし、小さな乱れは幾つかありましたが、芸術面を損なうような深刻なものではありませんでした。

更に付け加えると、スクリーンショットと動画からでは分からないティテールがあります。

羽生はリンクのあらゆるアングルをカバーしていましたが、チェンは違いました。チェンは羽生に比べるとずっと狭いエリアで滑っていました。

画面では分かりにくいですが、フェンスのロゴを目安にすると、選手がエレメントとエレメントの間でどれほど移動しているか、内側に留まっているか、外側に向かっているかがわかります。

リンクカバレッジは演技構成点のCompositionで評価されるべき要素の一つです。

 

そして、私は一体どうしたらチェンの演技構成点が羽生より高くなるのか説明してもらいたいです。

得点を詳しく見ましょう。

ジャッジ全員がチェンに1番高い演技構成点を与えました。
オーストリアのジャッジだけがPerformanceで羽生に一番高い得点、カナダジャッジがSkating skillsで羽生に一番高い得点、Transitionsでエイモズに一番高い得点を与えました。

そして「手を洗うピラト」 も何人かいました。

注)「手を洗うピラト」とはイエス・キリストの無実を知りながら、死刑判決を容認した総督のことで、はっきりした態度を取らずに責任逃れする人のこと。

フランスジャッジはtransitions、composition、interpretation、中国ジャッジはcomposition、オーストリアジャッジはSkating skills、Performance、Interpretation、ロシアジャッジはSkating skills、Transitions、Composition、アメリカジャッジはSkating skills、Composition、Interpretation、ジョージアジャッジはSkating skillsとComposition、カナダジャッジはSkating skillsとComposition(ただしInterpretationではエイモズを1位にしました)でチェンと羽生に同点を与えました。

まだ2人のジャッジが残っています。

日本ジャッジの前田真美は5コンポーネンツ全てにおいて羽生を2位にしました。ナショナルバイアスとは真逆の行為です。
彼女は羽生に最も厳しかったジャッジの一人でした。

そして、私達の親愛なるヴァルター・トイゴです。

トイゴはComposition以外の全ての項目で羽生にエイモズと同点の2位の得点を与え、Compositionだけはエイモズに次ぐ3位の得点を与えました。結果は?

トイゴは演技構成点はエイモズを2位、羽生を3位にしました。

Performanceを含む3つの項目で8.75。史上彼とチェンしかやり遂げたことのないクワド5本のプログラムに対してです。確かに回転不足とステップアウトがあり、アクセルはシングルになりました。しかし、クワド2本だけで、2本目は回転不足で転倒、3回転のコンビネーションでもサードジャンプが回転不足だったエイモズとPerformanceが同じ評価ということがあり得るでしょうか?

このような採点は絶対に許せません。そして彼の得点だけではないのです。

馬鹿げた得点を与えたのはトイゴだけではありません。
トリノのファイナルは最悪のジャッジ団が注目を浴びた大会となりました。ただし良い意味での注目ではありません。

 

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☆筆者のマルティーナ・フランマルティーノさんの経歴についてこれまで詳しくご紹介していませんでしたが、彼女は雑誌で評論やコラムを執筆されているプロのライターです(既に700以上の記事を執筆されているそうです)。

子供の頃から読書と執筆が大好きで、自分には想像力があまりないからと、小説ではなく、ノンフィクションと評論の分野を目指したそうです。
現在も出版社の締め切りが幾つもあるそうですが、忙しい合間を縫って、このような膨大な調査を実施し、超長文の分析記事を書き上げて下さいました。彼女の並外れた調査力、分析力、そして集めたデータから導き出される結論を論理的に明解にまとめ上げる能力はさすがです。

 

問題のイタリアジャッジについては大会後、イタリアのスケートファンから抗議と非難が殺到したそうで、マッシミリアーノさんが謝罪していました(マッシさんのせいじゃないのに😥・・・)。
イタリアジャッジの振る舞いについて日本のファンと世界中のファンと、そしてユヅル本人に謝りたいと・・・
開催国の解説者が他国選手に対する自国ジャッジの採点を謝罪するなんて前代未聞です。

 

さて、このジャッジ、ヴァルター・トイゴですが、ファイナル以前の大会における羽生君に対する評価を見ると、特に羽生君だけを下げることはしていませんが、全体的に常に平均から乖離していますから、パーカーやマルティネスのように羽生君個人に特に厳しいというより、ただ単に無能なのだと私は思います。

実際、他のジャッジの得点をカンニングしながら採点していたのがバレて資格停止になるようなジャッジです。
ジャッジとしての能力だけでなく職業倫理も欠如しているのは明らかです。

当時の彼は着任したての新米ジャッジだった訳ではなく、資料に残っているだけでも2005-2006年シーズンからISUの国際大会でジャッジを務めていますから、少なくともジャッジ歴5年でした。しかし2年間の資格停止処分を受けたにも拘わらず、今も相変わらずデタラメな採点を続けていますから、心を入れ替えてルールを1から勉強し、公正で正しい採点をしようと努力しているとはとても思えません。

私の疑問は、何故このような曰く付きのジャッジが世界選手権や五輪やファイナルなどの重要な国際大会に派遣されるのか?
と言うことです。

グランプリ大会のジャッジは開催国が選ぶそうですから、トリノのファイナルのジャッジにトイゴを任命したのはイタリア・スケ連ということになります。

イタリアにはもっとまともなジャッジが他にいるはずです。

何故、わざわざ資格停止の前科のあるジャッジを選ぶのでしょう?
マッシミリアーノさんやロレンツォ・マグリさんが何度か指摘しているように、イタリアの連盟も非常に保守的で閉鎖的な体質だそうですから、何をやらかしてもスケ連から重用される何かがこのジャッジにはあるのでしょう。

フィギュアスケートやスポーツに限らず、イタリアはコネがものを言う国です(この傾向は南に行けば行くほど酷くなります)。

イタリアが面白いなと思うのは、非常に厳格な法律を制定しながら、必ずどこかに抜け穴があることです。

例えば、イタリアのお役所手続きは手間と効率の悪さで世界でも最悪レベルと言われています。営業許可にしても建設許可にしても何かの認可を取る場合、正規の手続きを踏むとなると、規定が求める山のような書類と証明書を揃えなければならず、お問合せしようにも役所の電話は繋がらない、窓口に行けば事務所をたらい回しにされるという具合で事が一行に進まず、途中で挫折したくなるのです(イタリア人は弁護士や代行業者をもうけさせるためにわざと難しくしていると言っています)。

カフカの「城」という小説がありますが、この中で描かれている理不尽、不条理がまさにイタリアのお役所手続きのシステムそのものです。

しかし、このような面倒な手続きもコネがあれば、必要書類が揃っていなくても信じられないほど迅速にスムーズに解決出来るのです。
これがいわゆる抜け穴です。

フィギュアスケートのルールにおけるシリアルエラーのようなものです。

この「知り合いだから便宜を図ってあげる」というのがお役所手続き程度ならまだいいですが、融通する内容の規模が大きくなり、組織的に行われるようになると、それは「マフィア」です。

イタリアで「マフィア」とは、映画などに出てくる町中で銃撃戦を繰り広げる犯罪組織だけを指している訳ではありません。

特定の権限と権威を持つ者同士による便宜の図り合いや付度もマフィアなのです。

建設業界における談合などもそうです。

コンペなどが最初から結果が合意されていた出来レースだった、なんて話は発覚して騒がれたものだけでも結構ありますから、表沙汰になっていないケースは数知れないでしょう。

イタリアのスケ連がマフィアとは言いませんが、マッシさんやマグリさんのお話を聞いていると色々あるようです。

フランスのスケ連は更に酷いようです。

一連のスキャンダルを受けて、アイススポーツ連盟(FFSG)会長だったディディエ・ゲヤゲが辞任しましたが、ゲアゲと言えば2002年ソルトレイクシティ五輪の不正ジャッジを巡るスキャンダルの中心人物の一人ですよね?
そんな人物が失脚せずに、再び連盟会長に返り咲けること自体が驚愕です・・・

 

トリノの採点についてはもうあまり触れたくありませんが・・・
日本のジャッジについて一言付け加えると、このジャッジは自国選手の完璧な4ルッツに+3を与えています。
また、羽生君のショートのイーグルから実施された完璧な4Sに+4、ネイサンのフリーの4Sに+5を与えていました。

詳しく調べればおかしな採点がもっと色々出てくるでしょう。

羽生君に対してはナショナルバイアスは全くありませんでした。
むしろ、ナショナルマイナスじゃないですか?

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu