Sportlandiaより「世界選手権2021:男子ショートプログラムのGOE」

お馴染みマルティーナさんの分析シリーズ。
世界選手権男子ショートにおけるGOE評価について分析して下さっています。

原文>>

マルティーナ・フランマルティーノ著
(2021年3月27日)

前記事でPCSについて少し書きましたので、今度は幾つかのGOEをチェックしています。

テレビでスケートのプログラムを見ながら、スケーターのスピードやリンクカバレッジを理解するのか容易ではありません。あるカメラから別のカメラに何度も切り替わりますから、リンクサイドにいる人と同じ概観を得るのは困難です。ジャッジ(及び観客)はテレビの前の視聴者より良く見えるはずです。

このため、公式映像の方が近く、細部が良く見えますが、観客撮影の動画が公式動画では見えない概観を提供してくれることがあります。従って、どちらの動画を興味深いです。私は演技を楽しむために(そう・・・彼は頻繁に私を楽しませてくれます)公式動画を見ますが、時には観客撮影の動画も探します。

ストックホルムは無観客でしたが、2つ動画、羽生結弦ネイサン・チェンの演技を撮影してくれた人がいました。その動画から数枚のスクリーンショットを撮りました。羽生から始めます。これは最初のジャンプ、4サルコウです。

上段はジャンプ前の準備です。最初のスクリーンショットで彼はスプレッドイーグルを実施しています。2枚目のスクリーンショットでは彼はスプレッドイーグルを終え、3枚目では既にジャンプ前のステップを開始しています。GOEプラス要件のブレット4)、ステップから実施されるジャンプの完璧な模範です。

2段目はジャンプです。中央のスクリーンショットで彼は離氷し、3枚目でちょうど着氷しています。ジャンプの幅を見てみましょう。ISUのマークを目安にするとよく分かります。ジャンプはGOEプラス要件ブレット1)の幅を満たしています。

サルコウの後、彼は4トゥループ-3トゥループのコンビネーションジャンプを実施します。

1段目の最初のスクリーンショットで彼はステップを終えています。2枚目で彼はトゥループの一部であるスリーターンを開始しています。ステップを終え、準備に入ります。GOEプラス要件ブレット4)を満たしています。2段目の最初のスクリーンショットで彼は踏み切っています。1段目2枚目のスクリーンショットからこのスクリーンショットにかけて、彼はリンクの広い範囲をカバーしています。彼の滑りに非常にスピードがあるのが分かります。2段目2枚目は着氷です。最初のジャンプは巨大です。3段目はセカンドジャンプ、3トゥループです。彼は氷上の文字から離れたところにいますので、(動画以外で)ジャンプの幅を理解するには、スクリーン下部、観客席の欄干の垂直の棒を目安にして下さい。カメラの角度も少し変わりますが、彼がどれだけ跳んでいたかが分かります。ここでもGOEプラス要件1)を満たしています。

スクリーンショットでは全てを見ることは出来ませんが、実際このコンビネーションジャンプはプラス要件6ブレットを全て満たしており、+5と評価されるべきでした。しかし、正しい得点を出したジャッジは一人もいませんでした。

サルコウはエフォートレスではなかったので+3が正しかったとしても(しかし2人のジャッジが0を出していました!)、このコンビネーションには+5以外の得点を正当化する理由は何もありません。

最後のジャンプはアクセルです。

1段目はバックカウンターです。彼がどれだけ跳んでいるか見えますか?
スクリーンショットを撮るまでもなく、私の自宅の壁さえ羽生がいつもバックカウンターからアクセルを跳ぶことを知っています。このジャンプにブレット4を与えないジャッジはアイスリンクに入る資格がありません。
そして、またしても本当に巨大なジャンプでした。幅を測る際に注意して下さい。彼は対角線上の軌道で実施しています。

着氷は彼比では最高ではなかったかもしれませんが、他のどのスケーターにとっても素晴らしい着氷です。そして、羽生にだけ他のスケーターとは異なるルールを適用すべきではありません。例え羽生にはもっと素晴らしい着氷が可能だからといって、全てのスケーターにとってこのジャンプがエフォートレスという現実は変わりません。このジャンプはエフォートレスであり、6ブレット全ての要件を達成していました。
正しい得点は+5だけです・・・そしてジャッジ1はふざけているのですか?
この3アクセルに+2?
+2は即時解雇に値する評価だと私は思います。

そしてジャッジ1、イギリスのリサ・デヴィッドソンは4サルコウに0、コンビネーションジャンプに+2を与えていました。ちなみに彼の全てのジャンプに対してジャッジが与えた間違った得点の数は、正しい得点の数を上回っています。

それではチェンのジャンプを見てみましょう。最初は4ルッツでした。

1段目の最初のスクリーンショットでチェンはステップを終えています。彼はリンク中央の星マークを超えたところです。その後、彼は滑走します。確かにルッツはより長めの助走を必要するジャンプですが、3枚目のスクリーンショットで彼はISUロゴの中央にいます。そして彼はまだ踏み切っていません。これは重要なことです。確かに彼は踏み切ろうとしていますが、ブレット4を満たすには助走が長過ぎます。

2段目のスクリーンショットはジャンプです。1枚目は踏切、2枚目は着氷です。ジャンプは小さく、ブレット1を満たしていません。このジャンプで彼は転倒しますから、GOEは必然的に-5になりました。しかし、テクニカルパネルが気付かなかった問題がありました。

1段目は踏切、2段目は空中、3段目でも彼はまだ空中にいます。4段目、彼は氷上にいます。このジャンプは回転不足で、基礎点は11.50から9.20点に下がるべきでした。テクニカルパネルはチェンにqを与えることで、彼に制裁を加えるふりをしました。qはGOEで減点されるだけで、基礎点は変わりません。既に転倒によって-5ですから、qが得点に影響を与えることはありませんでした。実際、テクニカルパネルは間違ったコールによってチェンに1.15点贈りました。

2つ目のジャンプは3アクセルでした。少し前の記事で私はチェンのスキッド(踏切時の横滑り)が過剰だと批判しましたが、今回の彼のジャンプは改善されていました。許容範囲のスキッドです。

1段目の最初のスクリーンショットでチェンはスプレッドイーグルを実施し、2枚目で踏み切っています。この場合、ジャンプの前にステップがありますからブレット4に値します。不運なことにカメラが少し動きましたので、2枚目のスクリーンショットからジャンプの幅を理解するのはほとんど不可能です。動画を見なければなりません。

ジャンプは小さく、ブレット1は満たしていません。この場合、+3以上の得点を出してはいけないはずです。5人のジャッジが+4を与えています。何故でしょう?

最後のジャンプはコンビネーションジャンプです。冒頭のミスの後、コンビネーションをリカバリーしたのは見事でした。エッジについてはよく分かりません。私は演技を見ながらある考えを持ち、リプレイを見ながら別の考えになりました。このジャンプは、エッジがインサイドかフラットかを理解するためにもっと良く見えるカメラが必要であることを示す証拠です。

1段目は全て長い滑走です。最初のスクリーンショットで彼は最後のステップを終えています。助走がどれだけ長いかを皆さんに見せるために、無駄に何枚もスクリーンショットを撮りませんでしたが。

1段目の最後のスクリーンショットでジャンプの入りのステップを始めますが、このステップはジャンプの踏切の一部で、「ジャンプ前のステップ」ではありません。4枚のスクリーンショットで軌道が曲線状なのが分かります。彼はフリップの準備に長い時間を要しています。
そしてご存じでしょうか?
長い助走(long preparation)にはGOEで-1から-3の減点があります。

2段目はジャンプの踏切から着氷です。何の問題もありません。3段目はセカンドジャンプ、3トゥループです。チェンは全く動いていません。彼は上に跳び上がり、組み切った場所とほぼ同じ場所で着氷しています。
拙劣な幅(-1から-3)が適応されるべきジャンプではなかったですか?
私は「スケーターに有利に」という原則に賛成ですから、減点ではないと思いますが、プラス要件のブレットもありませんでした。幅がないので最高でも+3、ここに長い助走を加えると、大目に見ても+2が妥当な評価でした。9人中5人のジャッジが間違った得点を与えています。

テクニカルパネルとジャッジの名前は前記事にも書きましたが、再掲載します:

  • レフェリー Mr.Philippe Meriguet (フランス)
  • テクニカルコントローラー Ms.Leena LAAKSONEN (フィンランド)
  • テクニカルスペシャリスト Mr.Konstantin KOSTIN (ロシア)
  • アシスタントテクニカルスペシャリスト Mr.Filip STILLER BOROWICZ (スウェーデン)
  • ジャッジNo.1 Ms.Lisa DAVIDSON (英国)
  • ジャッジNo.2 Ms.Ursula STAHL (オーストリア)
  • ジャッジNo.3 Ms.Iryna MEDVEDIEVA (ウクライナ – 以前はアゼルバイジャン国籍でした)
  • ジャッジNo.4 Ms.Pia ALHONEN (フィンランド)
  • ジャッジNo.5 Ms.Salome CHIGOGIDZE (ジョージア)
  • ジャッジNo.6 Ms.Inger ANDERSSON (スウェーデン)
  • ジャッジNo.7 Ms.Christiane MILES (スイス)
  • ジャッジNo.8 Mr.Sviatoslav BABENKO (ロシア)
  • ジャッジNo.9 Mr.Miroslav MISUREC (チェコ)

羽生に対する得点が辛いことに私はすぐに気が付きました。
しかし、ジャッジ達はどの選手に対しても同じように厳しかったのでしょうか?

ショートプログラムでは転倒すると自動的にGOE-5になるはずです。私はチェンのコンビネーションで言及した2つの減点をオレンジ枠で囲みました。厳格に採点すれば適用される可能性のあった減点であり、自動的に適用される(必須の)減点ではありません。一方、今言及しているルールを赤枠で囲みました。

この文章に別の解釈の余地はありません:ショートプログラムでは、必須要件を満たさないジャンプ要素の最終的なGOEは-5でなければなりません。

宇野昌磨は転倒した3アクセルにサロメ・チゴギゼとインゲル・アンダーション から-4を貰っています。私が引き出すことができる唯一の論理的な結論は、宇野昌磨は立ってジャンプを終わらせる必要がないということです。彼は転倒しても許されるのでしょう。

彼は高いGOEを貰っていませんが、それでも宇野にとっては、例えばフリーで氷に片手を付いたり、ステップアウトしたジャンプより酷いミスではなかった、ということなのでしょう。
2つの異なる試合における2人の異なるジャッジであることは分かっています。しかし、四大陸選手権では、ステップアウトで片手を氷を付いた、ほとんど助走無しで実施された羽生の巨大なジャンプに2人のジャッジが-5を与えました。
しかし、ルールは解釈する必要があることを私達は知っています。私は全く同意出来ませんが、そうであることは知っています。

私は転倒ではなかった全てのジャンプに与えられた得点をチェックしました(2本のダブルジャンプのコンビネーションも考慮しませんでした)。

下の表に各ジャッジが全ての必須ジャンプに与えた全ての得点をまとめました:

転倒しなかったアクセル(2回転か3回転)、ソロジャンプ(3回転か4回転)、コンビネーション(少なくとも3回転+2回転)です。

ここでは各ブレットを見たかったので、個々のジャンプのGOEの高さは無視しました。

羽生の4サルコウに対してジャッジ1とジャッジ2が0、ジャッジ3とジャッジ4が+3を与えています。C-K列は各ジャッジ(J1からJ9)の出したGOE、L列で全ジャッジのGOE平均値を計算しました。9人のジャッジの意見では、羽生の4Sは+2点と少し、コンビネーションは+3点と少し、アクセルは+4と少しの加点に値するジャンプでした。鍵山の4S+3Tはほぼ+3.5に値するジャンプでした。羽生のアクセルが3.54、鍵山のアクセルが少し低い3.46を獲得していますが、大きな問題ではありません。

それでは9人のジャッジのGOE平均が最も高かったジャンプはどれでしょうか?
これがランキングです:

全選手中、最も優れたジャンプは羽生の3Aだということが分かります。しかし、羽生のコンビネーションがチェンの3Aより低い評価というのはどうなんでしょうか?

・・・

言葉がありません・・・

以下はランキングの続きです:

最後のスクリーンショットを2枚投稿しても寝ることにします。イタリアはもう夜中で、土曜日はハードな1日になるでしょう。

以下に全てのジャンプ要素に対して各ジャッジの与えたGOEのランキングを作成しました。
この表では例えば、ジャッジ5にとっては、チェンの3Aの方が羽生の3Aより高い加点に値したことが分かります。その他にも多くのファンタジーストーリーが見られます。それともホラーストーリーでしょうか?

色はそれほど重要ではありません。分かりやすいように+5、+4、+3・・・と得点ごとに色分けしました。

 

☆筆者プロフィール☆
マルティーナ・フランマルティーノ
ミラノ出身。
書店経営者、雑誌記者/編集者、書評家、ノンフィクション作家
雑誌等で既に700本余りの記事を執筆

ブログ
書評:Librolandia
スポーツ評論:Sportlandia

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マルティーナさんが作成して下さった各ジャッジのGOEを選手及びジャンプ別にまとめた表を見ると、ジャッジ達がルールで定められたGOE要件に関係なく、如何に好き勝手に採点していたかが分かります。

ISUコミュニケーションN.2254のGOE採点ガイドラインに記載されたGOEプラス要件はこちらです:

プラス要件

  1. 高さおよび距離が非常に良い(ジャンプ・コンボおよびシークェンスでは全ジャンプ)
  2. 踏切および着氷が良い
  3. 開始から終了まで無駄な力が全く無い(ジャンプ・コンボではリズムを含む)
  4. ジャンプの前にステップ,予想外または創造的な入り方
  5. 踏切から着氷までの身体の姿勢が非常に良い
  6. 要素が音楽に合っている

マイナス要素はこちら


ソース

 

ストックホルムでジャッジ席に座ったジャッジの皆さんは、自分の胸に手を当て、己の良心とプロ意識に従い、ルールが定める基準に則って、全選手に対して公正に採点したと断言することが出来ますか?

2002年ソルトレークシティー五輪で発覚した不正採点スキャンダルの後で、採点により客観性と透明性を与えるために現行ルールのベースであるTESとPCSから成る採点システムが考案され、得点が細分化され、評価基準がより正確に定義されました。
しかし、幾ら得点を細分化し、細かい評価基準を定めたところで、これを適用する立場にあるジャッジ達がルールを守らず、好き勝手に採点していたら、6.0旧採点システムの頃と何ら変わりはありません。

この大会で採点がおかしかったのは男子シングルだけではありません。
女子とペアの試合でも妙な採点が見られました。
マルティーナさんは女子とペアで同様の分析を行い、採点の矛盾を浮かび上がらせています。
数値は日本女子が過小評価され、ロシアとアメリカの選手が有利に採点されていたことを示しています。

このままで・・・本当にいいのでしょうか?

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu