Sportlandiaより「世界選手権2021:男子ショートプログラムのPCS」

お馴染みマルティーナさんの分析シリーズです。世界選手権男子ショートの演技構成点を検証して下さっています。

 

原文>>

 

マルティーナ・フランマルティーノ著 (2021年3月25日)

男子の試合が始まりました。最初のスケーター達がリンクに降りる前にジャッジの名前が発表されました。ISUは彼らの国籍を明記していません。おそらく彼らにとっては重要なことではないのでしょう。しかし、私はそうは思いませんので、国籍情報を追加しました。

以下がジャッジパネルのメンバーです。

  • レフェリー Mr.Philippe Meriguet (フランス)
  • テクニカルコントローラー Ms.Leena LAAKSONEN (フィンランド)
  • テクニカルスペシャリスト Mr.Konstantin KOSTIN (ロシア)
  • アシスタントテクニカルスペシャリスト Mr.Filip STILLER BOROWICZ (スウェーデン)
  • ジャッジNo.1 Ms.Lisa DAVIDSON (英国)
  • ジャッジNo.2 Ms.Ursula STAHL (オーストリア)
  • ジャッジNo.3 Ms.Iryna MEDVEDIEVA (ウクライナ – 以前はアゼルバイジャン国籍でした)
  • ジャッジNo.4 Ms.Pia ALHONEN (フィンランド)
  • ジャッジNo.5 Ms.Salome CHIGOGIDZE (ジョージア)
  • ジャッジNo.6 Ms.Inger ANDERSSON (スウェーデン)
  • ジャッジNo.7 Ms.Christiane MILES (スイス)
  • ジャッジNo.8 Mr.Sviatoslav BABENKO (ロシア)
  • ジャッジNo.9 Mr.Miroslav MISUREC (チェコ)

 

最初に私の目を引いた名前はスヴャトスラフ・バベンコ (Sviatoslav Babenko)です。

えっ???

彼はまだいるのですか?

何故スケーター達は彼にジャッジされなければならないのでしょうか?皆さんは彼の名前を覚えていないかもしれませんが、私は以前、彼について書いています。

 

Mr.バベンコは1999年の世界選手権でウクライナジャッジのアルフレッド・コリテックと組んで結果を操作したことで有名になりました。このエピソードについてはこの記事で取り上げています。

記事はイタリア語ですが、英語の記事が引用されており、分かりやすい動画もあります。

このエピソードから私達は何を学ぶことが出来ますか?
第一に私はバベンコもコリテックも信用していません。コリテックはもうジャッジではありませんが、バベンコは今、ストックホルムのジャッジ席に座っています。何故か?理由は分かりません。

第二にカメラは非常に重要だということです。最も重要な大会では、大会全体を通してジャッジ達を撮影するカメラを設置し、動画はISUチャネルで永久に表示され続けるようにすることを私は望んでいます。そんな動画を見る人はほとんどいないでしょうが、正しく行動していないジャッジを見つけるのに役立ちます。

第三に、ロシア連盟による抗議の後、処分は軽減され、力のある連盟の抗議がスケーターに対する公平性より尊重されることが証明されました。

 

この記事の中で私は過去4年間にバベンコがジャッジを務めた試合について書いています。バベンコの二度目の資格停止に関する公式文書はこちらです:

https://www.isu.org/inside-isu/legal/disciplinary-decisions/559-case-2017-02-mr-babenko/file

次に私の目を引いたのはサロメ・チゴギゼの名前です。 Ms.チゴギゼはバイアスが最も露骨なジャッジの一人であり、幾つかの大会ではジョージアのスケーターだけではなく、ロシアの選手も支援していることに私は気づきました。

下の表は全ジャッジのナショナルバイアス値です:

これはナショナルバイアスのデータですが、本格的なクロスチェックを始める必要があります。ただ、このような調査には膨大な時間を要しますので、取り敢えず、幾つかの統計を行いました。

PCSで一番高い得点を獲得したのは誰でしょうか?

 

羽生のように見えますが、本当にそうですしょうか?

以下の重要なルールを思い出さなければなりません:

プログラムにシリアスエラーが含まれる場合、得点の上限が以下になる:
Skating Skills, Transitions, Composition:最高9.75
Performance及びInterpretation:最高9.50

シリアスエラーとは、転倒、プログラム中の中断、及び構成及び音楽との関係の全体性、連続性、流れに影響を与える技術的ミスのことである。

このような上限は非常にPoorからOutstandingまで全てのレベルのスケーターに適用されなければならない。

 

そこで私は各スケーターの達成可能な満点(転倒のなかったスケーターは10.00点、1回転倒したスケーターはPCS項目に応じて9.75または9.50、2度転倒したスケーターは9.25または8.75)をE列に記入しました。転倒があった場合、D列に転倒の回数を記入しました。F列にはそのスケーターにとって獲得可能だったPCS最高点を実際の得点と比較した達成率(%)を記しました。G列は5コンポーネントの平均値です。全選手のデータを2枚のスクリーンショットに分けて掲載しました。その下にランキングをまとめた表を掲載しました。

総括表ではG列の数値(5コンポーネント平均値)だけを考慮しました。私は2つのランクング表を作成しました。左の表(I-J)はジャッジが出した得点を高い順に並べました。左の表(L-N)では各スケーターにとって獲得可能だったPCS最高点に対する達成率(%)が高かった選手を順番に並べてみました。左右の表では幾つかの違いがあります。演技から受ける印象より達成率が高かったスケーターを太字で強調しました。

 

一番高かったのは・・・ネイサン・チェンです。
達成率において、彼は羽生より高い演技構成点を貰っています。意外ですよね?

5位のヴィンセント・ジョウについても議論しなければなりません。
ヴィンセント・ジョウ?
彼のPCS達成率がミハイル・コリヤダやケヴィン・エイモズやキーガン・メッシングより高いなんてあり得ますか?
勿論、彼らだけではありませんが、リストが長くなり過ぎますのでここでは全員の名前は挙げません。

私は少しマゾっ毛がありますので、プロトコルを詳しく調べてみました。5コンポーネントで演技内容に応じて獲得可能だった最高点を貰ったスケーターを赤枠で強調しました。羽生に対する10.00点、そしてチェンに対するSS、TR、COの9.75、PEとINの9.50です。

羽生には10.00が2個、これは一目で分かります。
ではチェンは10.00(あるいは彼にとって満点に相当する得点)を幾つ貰ったと思いますか?
本当に見たいですか?
気絶するかもしれませんよ?

チェンに対しては10.00(満点)に相当する得点が12個も贈られ、10.25点に相当する得点までありました。チェンを愛したジャッジは大勢しました。イリーナ・メドベデワ (10.00では平凡過ぎたのでしょう。10.25点に相当する得点を与えています)、サロメ・チゴギゼ(彼女にとってはチェンは全項目10.00に相応しい演技でした)、クリスチャン・マイル、そしてスヴャトスラフ・バベンコです。

ジャンプについても書かなければなりませんが、これは別の投稿にすることにして、ちょっと新鮮な空気を吸ってきます。私はまさにそれを必要としています。

☆筆者プロフィール☆
マルティーナ・フランマルティーノ
ミラノ出身。
書店経営者、雑誌記者/編集者、書評家、ノンフィクション作家
雑誌等で既に700本余りの記事を執筆

ブログ
書評:Librolandia
スポーツ評論:Sportlandia

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そう言えばトリノのファイナルではジャッジ席が後ろから見えないように物々しい黒幕で覆われていました。

見られたら困ることが何かあるのでしょうか?
奇しくもトリノには隣のジャッジをカンニングしながら採点してるのを後ろの席のジャーナリストに見られてバレてしまったヴァルター・トイゴがいました。

シリアスエラーと「q」は、ジャッジの都合に応じて出し入れ自在の便利な調整ツール、言ってみれば「スペーサー」のようなルールじゃないかと思えてきました。

女子ショートプログラムでは梨花ちゃんの2つのジャンプ要素にqが付き、GOEが削られました。
一方、スローで見ても明らかに1/4以上回転が足りていなかったネイサン選手の4ルッツはqでした(解説のラファエラ・カッツァニーガさんはリプレイを見返しながら「彼には悪いけど回転は全く足りていない」と断言し、マッシミリアーノさんは「少なくともURだった」と言っていました)。
この場合、既に転倒によってGOEは最大の-5引かれていて、qが付いてもこれ以上減点されることはありませんから、一種の救済措置だったと言えます。もし回転不足(<)なら、GOEマイナスに加えて基礎点も20%下がるところでした。

ネイサンのPCSについてはアメリカのジャーナリストさえ苦言していましたから、贔屓目に見ても正当化するのが困難な評価だったのでしょう。

ジャンプ要素全滅だったヴィンセント・ジョウ選手がPCS40.47を獲得したことについて、マッシミリアーノさんはペアや女子の試合の実況中にも繰り返し苦言していました。

ヴィンセントと言えば、マッシミリアーノさんとアンジェロさんはエッジが使えていない、ローラースケーターのようにブレードがフラットな状態で滑走している、スケーティングの基礎が出来ていないと酷評していました。

今シーズンのヴィンセント選手はジャンプの入りにステップを入れたり、トランジションを増やしたり、スケーティングとコンポーネントの強化に取り組んでいるのは見ていて分かりますが、それでも他の選手達とスケーティングを見比べると(トップ選手は勿論、マッテオ・リッツォ、ジュンファン・チャ、ミハル・ブレジナ、デニス・ヴァシリエフスといった中堅選手と比較しても)スケーティングの滑らかさやエッジワークにおいて明らかに見劣りし、相対的に見てノーミスの完璧な演技でも40点に届くかどうか、というのが妥当な評価だと思います。スケーティング・マスターのハン・ヤンより演技構成点が高いとか、ふざけているとしか思えません。

彼がアメリカの選手でなかったら、果たして同じ得点が出ていたでしょうか?

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu