マルティーナさんの分析記事。
今回はジャンプGOEのプラス要件、1) 高さおよび距離が非常に良いがテーマです。
マルティーナ・フランマルティーノ著 (2021年1月24日)
ジャンプを評価する必要条件には高さと幅が含まれています。
こちらはISUが定めたルールです:
+4と+5を得るには太字で強調された最初の3ブレットを満たしていなければならない。
最初のブレットは「高さおよび距離が非常に良い」です。
マイナス項目の中に「スピード、高さ、距離、空中姿勢が拙劣」という項目があり、-1から-3の減点と決められています。
*参照:2019-2020シーズンにおける価値尺度(SOV),難度レベル(LOD),GOE採点のガイドライン和訳
ルールはプラス要件とマイナス項目の両方で高さと距離について言及しているのです。ジャンプの評価基準において高さと距離が非常に重視されているのは明白です。
しかし、どのようなジャンプが高さおよび距離が非常に良い(平均ではなく「非常に良いです=Very good」)と判断されるのでしょうか?
少し前までは私達は肉眼でのみ評価していました。
今では幾つかの補助テクノロジーが存在します。
2019年世界選手権で、日本のテレビはアイススコープをしていました。
そしてこの大会後、私はジャンプの測定結果を確認しました。テクノロジーが利用出来る、と言うだけでは不十分です。ミスを減らすために、まずは最も重要な大会であらゆるテクノロジーを使用するべきです。
埼玉世界選手権のプログラムではほぼ全選手の3アクセルが測定されました。
下の表に29人のスケーターのデータをまとめました(ただしショートプログラムに出場したスケーターは35人でした)。転倒したスケーターのデータが欠けていると推測しますが、チェックしている時間は私にはありません。全てに時間を割いている余裕は私にはないのです。全てのチェックは私ではなく、ISUが行うべきです。
測定データ表:
マイヤーホーファーとヴィルタネンは3アクセルではなく2アクセルだったので表から除外しました。
全てのスケーターのデータをチェックしたい人は、以下のショートプログラムの動画で全てのデータを見ることが出来ます:
私はデータをExcelファイルに書き写し、数字で少し遊んでみました。
これはISUの計算ではありません。ISUはどのぐらいの高さ、または幅が「良い」(Good)なのか一度も明言したことはありません。彼らは曖昧なままにしておきたいのです。
プラス要件のブレットをカウントする正式なメソッドが確立されていない以上、私達は然るべきメソッドに従ってブレッドを与えなかったジャッジ達に対してルール違反だと批判することは出来ません。それに彼らは私達が持っているこれらの数値データを持っていません。これらの数値データを考慮すると、ジャッジ達の与えた得点が明らかに間違っていても、私達は彼らにジャンプの高さと幅を見極める能力がなく、最適なテクノロジーが必要だと主張することしか出来ません。
公正なジャッジなら誰でもより正確な得点を与えるための援助を喜ぶと私は思います。
下の表では全ての3アクセルの高さと幅を実施したスケーターのアルファベット順に並べました。最初のBからDの列を見ていきましょう。
黄色で強調されている数値は、高さまたは幅が最も優れていたジャンプです。赤色表示は高さまたは幅が最も劣っていたジャンプです。
これらのジャンプについては疑問の余地はありませんが、他のジャンプの大小はどう判断すればいいでしょうか?
私は幾つかの計算を行ってみました。
37行目は全てのジャンプの高さ、または幅の合計です。38行目は27本のジャンプで計算したことを示しています。39行目は平均値です。40行目は上段の平均値を、各選手のジャンプの測定値と同じように小数点以下を四捨五入しました。
高さの測定値が最も高かったジャンプは70cmです。この測定値から平均値の59cmを引くと 11cmになります(C42)。
11を2で割ると5.5cm(C43)。
平均値(59cm)に平均と最も高さのあるジャンプの差(11cm)の二分の一(5.5cm)を足すと64.5cmになります(C44)。私は65.5cm(小数点を切り捨てて64)より高いジャンプは「高さが非常に良いジャンプ」、それ以下はそうではないジャンプと考えました。
同じように平均値から、平均ジャンプと最も低いジャンプ(47cm)と差を2で割った数値を引くと53cmになりました(C47)。私は高さが53cm未満のジャンプを「高さが拙劣なジャンプ」と考えます。
G列では高さが64cm以上のジャンプを黄色、53cm未満のジャンプを赤色で強調しました。
同じ計算をジャンプの幅を示すD列で実施し、H列では高さと同様、幅の非常に良いジャンプを黄色、幅が拙劣なジャンプを赤色で強調しました。
私が設定した高さ、および/あるいは幅が非常の良い(あるいは拙劣)の範囲内に収まるジャンプはほとんどありません。
しかし、もしかしたら平均値からかけ離れた測定値を持つ1人のスケーターが、数値を狂わせているのかもしれません。そこで、最も高いジャンプと最も低いジャンプ、そして最も幅の長いジャンプと最も短いジャンプの数値を除外し、もう一度同じ計算を行いました。
下の表がその結果です。
最初の表との違いはそれほど大きくありませんが、確かに違いはあります。「高さが良い」の基準になる高さが60cmに下がり、最初の表では3人しかいなかった黄色で強調されたスケーターが新しい表では11人になりました。ジャンプの幅では該当する選手が5人から6人に増えました。
一方、高さが拙劣のジャンプは53cm未満から54cm未満になりますが、該当する選手は4人のままでした。拙劣な幅のスケーターは6人から5人に減りました。
これはあくまでも私が仮定した基準に基づいた仮説です。
ISUはこのようなシステムを採用していません(私の意見では似たようなシステムを導入すべきだと思いますが)。ルールによれば、高さと幅が非常に良いジャンプだけがブレット1の要件を満たし、最初の3つのブレットの要件を全て満たした上で、更に他のブレットを1つ以上満たしているジャンプだけが+4または+5に値します。
今回、私は踏切、ジャンプがエフォートレスか否か、ステップの有無、着氷などの他の特徴は見ていません。敢えてブレット1だけに焦点を絞りました。
ルールによれば、羽生、クヴィテラシヴィリ、メッシング、サモーヒンのジャンプだけが「高さと幅が非常に良い」という要件を満たしています。つまり彼ら以外で+4または+5を貰った選手達は、ジャッジの採点ミスだった、ということになります。
ブラウンの3アクセルは高さはありましたが、幅はかなり短いジャンプでした。ジャッジ4、Bettina Meier (スイス)、ジャッジ7、Anny Hou(台湾)、ジャッジ8、Saoia Sancho (スペイン)は何を見ていたのでしょうか?
宇野の3アクセルは幅はありましたが、高さは本当に拙劣でした。+5が2個、+4が4個???
少なくとも田中の3アクセルは高さは非常に良いですが、幅がありません。しかしルールには高さと(and)幅、と書かれています。高さか(or)幅、ではありません。従って彼もまたブレット1と+4の基準を満たしていなかったことになります。
7人のスケーターがルールによれば値しなかった+4を1個以上与えられました(1人は+5を2個貰っています)。ISUは何時になったら存在するあらゆるテクノロジーを駆使し始めるのでしょうか?ISUが審査の正確さと競技の公平性を気にしないのであれば、フィギュアスケートはオリンピック競技に相応しくない、と言う人々はもしかしたら正しいのかもしれません。
最後になりますが、ブレットではスピードは重要ではありません。
フィギュアスケートはスピードを競うスポーツではありませんし、カウンターから入るジャンプはクロスオーバーから入るジャンプよりスピードは落ちますが、カウンターから跳ぶ方がずっと難しいですから、より高いGOEに値します。
しかし、スピードが無さ過ぎると、GOEでマイナスされます。
どんな時にスピードが無さ過ぎると判断されるのでしょうか?
私はスピードについても高さと幅と同じ計算を行い、全選手の数値(左)と全選手の数値から最速と最遅を引いたバージョン(右)を表にまとめました。
この計算で仮説的な「非常に遅い」に該当した選手は2人、または3人だけでした。ビシェンコのジャンプは高さはありますが、幅が短く、スピードがありませんので、この2つの特徴だけで-2に値します。低く、スピードが遅かったセレフコのジャンプはおそらく-3。あるいは私が厳し過ぎるかもしれませんから、ビシェンコが-1、セレフコが-2と仮定しましょう。
ビシェンコの場合、ブレット1の「高さと幅が非常に良い」がありませんから、最高でもGOE+3、そこから「幅とスピードが拙劣」の-1で、+2が妥当だったことになります。
セレフコのジャンプは回転不足で<マークが付きました。従って最低でも-2引かれます。可能な最高GOE+3から<による-2、「高さとスピードが拙劣」の-2、従って大目に見ても-1が妥当でした。
表彰台争いをする選手達に対しても、ベスト10(そして翌シーズン世界選手権のための2枠)を狙う選手達に対しても、フリー進出を争う選手達に対しても採点ミスがありました。
ブレット1を満たしているかどうかの判断を、ジャンプのサイズとスピードの測定値から計算するのではなく、ジャッジ達だけに任せると、例え彼らに善意があっても、ミスが起こってしまうことをISUは知っていますか?
大会後の全ての統計が物語っています。
埼玉ではこのデータを使用することは不可能でしたが、次の世界選手権ではこれらのデータを使用し、ジャッジではなく、コンピュータによって3アクセルがブレット1に値するか否かを判断させることが出来るはずです。あるいは、世界選手権に間に合わなくても、オリンピックではどうですか?
ここでは3アクセルのデータだけを検証しました。ISUは全ての主要大会における男子、女子、ペア(ペアはより難しいと思いますが)の全てのジャンプを測定し、全種類のジャンプ(2回転、3回転、4回転、トゥループ、サルコウ、ループ等)について平均値を計算すべきです。まだデータはあまり多くありませんが、ISUは現時点で存在するデータを使用し(例え1種類のジャンプに関するデータしかなくても、ないよりはマシです)、今後、可能なあらゆる大会で更なるデータを集め、出来るだけ早く、AIを使用したジャッジングシステムにこれらのデータを入力すべきです。
全ての大会が同じではないことは分かっていますが、それは問題はありません。
2020年世界選手権における男子ショートプログラム出場に必要な技術点のミニマムスコアは34点でした。欧州選手権と四大陸選手権では28点でした。出場に必要なミニマムスコアは大会によって異なります。大会によって出場資格の基準を変えられるように、ジャンプのサイズの基準も大会によって変えられるはずです。
世界選手権で収集したデータを次の世界選手権またはオリンピックに使用し、欧州選手権のデータは次の欧州選手権に使用し、グランプリ大会のデータは次のグランプリ大会で使用する、という具合に。
この記事の執筆に当たり、私は英語の単語を探すのに多くの時間を費やしましたが、計算には大して時間はかかりませんでした。つまり、データさえ集めれば、計算にはそれほど時間はかからないのです。
ジャッジ達はこれまでと同じように採点し、ボタンを押してブレット1を与えるか否かを知らせます。そして、コンピュータが、もし必要なら彼らの得点を修正するのです。
ISUは真剣に考えて下さい。ISUは公正な大会を望んでいますか?
もし「Yes」なら、あらゆるテクノロジーを使用するべきです。もし「No」なら大会は茶番になってしまうでしょう。
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☆+4と+5の必須条件となるブレットは以下の3項目です。
1)高さおよび距離が非常に良い(ジャンプ・コンボおよびシークェンスでは全ジャンプ)
2)踏切および着氷が良い
3)開始から終了まで無駄な力が全く無い(ジャンプ・コンボではリズムを含む)
つまりトゥジャンプなのにフルブレード+プレロテで踏切っているロシア女子の4ルッツと4フリップは明らかに「Good Tale-Off」(踏切が良い)ではありませんから、最高でもGOE+3ということになります(ロシアの国内大会ではバカ高いGOEが出ていましたが)
そしてマイナスの方にも踏切に関する項目があります。
「拙劣な踏切」(-2 to -3)
従ってクリーンでない踏切のジャンプ(最高でもGOE+3)で、本来前向きまたは後ろ向きのジャンプを後ろ向きまたは前向きで踏切る180°以上の重度のプレロテジャンプはここから-2か-3でGOE+1か0が妥当だと思うのですが
「長い準備」(Long preparation)もマイナス項目です(-1 to -3)。
つまり、ルールに従うなら、高さ、または幅が「非常に良い」(Very good)ではないジャンプで、助走の長いジャンプは0から+2が妥当な評価、ということになりますが、実際に試合ではそのように採点されているでしょうか?
スウェーデンのスケーター、アレクサンデル・マヨロフがチートジャンプに苦言し、ジャンプの判定にAIを導入すべきだとツイッターで提唱しています。
そしてご丁寧に具体的なテクノロジーまで提案してくれています。
Imagine being able to use Hawk -eye video system to analyze rotation of figure skating jumps.
No more human errors!
It can also probably be made to detecting wrong edge jumps and counting spins.Is it only me who had this idea for a long time? @ISU_Figure pic.twitter.com/GD28awjHCU
— Alexander Majorov (@majorov3) January 30, 2021
I wrote an email to Hawk Eye @Hawkeye_view with questions regarding if the technology is possible to use in figure skating.
3 target questions asked:
– downgraded jumps
– pre – rotations
– edges on take offI let you all know when I have the answer!#makefigureskatingfair
— Alexander Majorov (@majorov3) February 1, 2021
こうやって元選手が声を上げてくれるのは心強いですね。
現在では多くのスポーツ競技の審査でAIが導入されています。
ISUも時代から取り残されないためにも、フィギュアスケートの試合でAIを取り入れる時が来ているのではないですか?