Sportlandiaより「SkateForward:天と地のレクイエム」

書店を経営するライターのマルティーナ・フランマルティーノさんが羽生君の振付動画のプログラムをひとつずつ追想する記事を書いています。

どれも素敵ですが、「天と地のレクイエム」について考察しているこの記事は特に素晴らしかったのでご紹介します。

 

 

原文>>

マルティーナ・フランマルティーノ著
2020年5月15日

羽生結弦のエキシナンバーはしばしば2011年3月11月の震災に繋がっていると言っていいでしょう。

松尾泰伸が地震の被害を受けた幾つかの地域で撮影された動画を見た後に作曲した長さ10分の曲、「Requiem for the Great East Japan Earthquake 3.11」に宮本賢二が振付しました。

 

表現するのが難しいピアノソロ曲ですが、即座にこの曲に魅せられた羽生結弦はエキシビション曲を抽出し、「天と地のレクイエム」と命名しました。

 

衝撃、絶望、無力感という最初の感情が、闘いたいという願望と希望へと変わっていきます。何故なら苦しみの中から前に進むための力が湧き起こってくるからです。

他のプログラムで彼が観客とコネクトし、演技を見ている人々とコミュニケーションを取ろうとしているとすれば、 このプログラムでは完全に自分自身の世界に没頭しています。

演技の最後で微笑むだけでなく、感極まって涙するほどに・・・

 

ここでご紹介するのは2016年世界選手権での演技です。

この時期、彼は左足に強い痛みを抱えており、フィギュアスケートをやめなければならず、これが最後の演技になるかもしれないという不安を抱いていました。

リスフラン靭帯損傷と診断されたのはそのすぐ後のことでした。

怪我と治療・・・そして翌シーズン、4ループを成功させたのです。

 

 

3月22日の記事でもレクイエムについて書かれていますが、こちらも素敵でした。

 

羽生結弦:天と地のレクイエム

2020年3月22日

 

原文>>

 

日曜日、レッドカーペットイベントの日のはずでした。

今年の世界選手権は中止になりました(レッドカーペットが無くなったことを残念がっている人は誰もいないでしょうが)。

でも、だからといってスケート無しで過ごさなければならないという訳ではありません。

羽生結弦はしばしば試合のエキシビションで過去の競技プログラムを披露しますが、時にはショーのために作られたプログラムも滑っています。

 

中でも重要なものの一つが2015-2016年シーズンのプログラムです。

彼は宮本賢二に自分が伝えたいメッセージを説明し、彼に助けを求めました。

宮本は長いリサーチの後で、ヒーリングミュージックの作曲家、松尾泰伸が地震の被害を受けた幾つかの地域で撮影された動画を見た後に作曲した長さ10分の曲、「Requiem for the Great East Japan Earthquake 3.11」を彼に提案しました。

表現するのが難しいピアノソロ曲ですが、羽生は即座にこの曲に魅せられ、松尾に会って曲の意味について彼と議論した後でエキシビション曲を抽出し、「天と地のレクイエム」と命名しました。

この新しいタイトルの選択には、このプログラムを特定の震災(それが如何に被害の大きな災害だったとしても)から切り離し、彼が巻き込まれた震災以外の災害に遭った人々も自分の演技で抱擁しようという意図が込められていました。

全ての動きは雷のように力強く、刃のように鋭く、同時に流麗で見事な調和を生み出していました。 衝撃、絶望、無力感という最初の感情が、闘いたいという願望と希望へと変わっていきます。何故なら苦しみの中から前に進むための力が湧き起こってくるからです。

他のプログラムで彼が観客とコネクトし、演技を見ている人々とコミュニケーションを取ろうとしているとすれば、 このプログラムでは完全に自分自身の世界に没頭しています。

演技の最後で微笑むだけでなく、感極まって涙するほどに・・・

このプログラムを最初に披露したのは神戸でのアイスショーでした。

2011年の地震の被災地にはまだ多くの仕事が残されていますが、復興~いいえ、彼が好むように「再生」という言葉を使いましょう~は着々と進んでいます。1995年の地震の後の神戸のように・・・

 

 

上述の文章の大部分は私が現在執筆中のもっと長い原稿から引用しています。

 

 

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マルティーナさんは羽生結弦という人物とその競技人生を描いた「羽生結弦伝」を書き上げ、出版するために現在、出版社を探しているそうです。

ここでご紹介した記事は570ページにも及ぶ全編からの短い抜粋だそうです。

以前、このブログでも翻訳させて頂いた「羽生結弦入門」という超絶に長い記事の中で

「私は簡潔に総括しました。あくまでも私の基準での「簡潔な総括」ですが。
彼について本格的に語るなら、私は冗談ではなく500ページは書かなければなりません」

と書かれていて、私も「いつか羽生君について500ページ書いて欲しいです」なんてコメントしていましたが、本当に500ページ以上のバイオグラフィーを完成させていたとは!!!😲

ちなみにマルティーナさんにとって簡潔な総括だった「羽生結弦入門」の原文はA4サイズWord横書きで7枚分(全部で21,446文字)、400字詰の原稿用紙に換算すると54枚分でした!
つまりA4の1ページが原稿用紙7枚半に相当しますので、570ページだと原稿用紙4000枚を軽く超える計算になります😱

羽生君が五輪二連覇した凄いスケーターだということぐらいしか知らないイタリアのライトなお茶の間ファンや読者に彼の栄光と試練が交錯する競技人生、被災地支援、この競技への貢献と献身、意志の強さ、優しさ、気高さ、純粋さといった人間としての素晴らしさも知ってもらいたいと思って執筆したそうです。

出版社が見つかって本が実現するといいですね。

570ページの羽生結弦伝なんて日本でも出てないんじゃないですか?

是非、イタリアの読者に読んでもらいたいです!

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu