Vada a Terra Bluより「氷上のプリンス、羽生結弦の現象学」

小説家でジャーナリストのアンジェラ・メッシーナさんのブログ「Vado a Terra Blu」(蒼い地球に行く)に今年1月に掲載された記事がとても素敵だったのでご紹介します

原文>>

2019年1月4日


イントロ
中国の解説者は2018年平昌冬季オリンピックの羽生結弦のプログラムの後、漢詩の一句を用いてこうコメントしました:

「運命は勇者にささやいた、嵐には逆らえないと。勇者はささやき返した、わたしが嵐だと」

まさに羽生はそうでした。
概説するのが難しい「フィギュアスケート」において、運命と嵐を超えていくのが常に彼であることを願いましょう。

23歳の羽生は2014年ソチ大会で獲得したオリンピック金メダルを韓国でも守り、その地位を証明しました。(1948年と1952年のアメリカのディック・バトン以来)66年ぶりに男子シングルで五輪二連覇の快挙を成し遂げた最初の男子になりました(女子では素晴らしいカテリーナ・ヴィットが1984年と88年に最後の二連覇)。
彼は日本の、そして世界のジュニアの大会で勝ち始め、シニアでは2015年バルセロナと2017年ヘルシンキの世界選手権で金メダルを勝ち取り、自己ベストである世界最高得点を何度も更新しました。
つまり圧倒的なのです。
彼のような人は他に存在しません。

2017年4月にフィンランドで披露されたプログラムの振付は満場一致で史上最高と見なされています-史上最も難しく、芸術的で、完璧で美しいプログラム。

私達の時代(10年ぐらい前から今日まで)は氷上で滑る人々によって「クワド時代」、すなわち4回転ジャンプ時代(これまでにアクセル以外の全てのジャンプが実施されています。というのも4Aは最も難しいジャンプだからです)と定義されています。
プログラムにより多くのクワドを入れ、より多くのジャンプを後半に移動しようとするトップ選手達による競争は激化しました(後半のジャンプは疲労によって実施がより困難になるため、ボーナスがもらえるのです)。

これに点において羽生は常に驚異的でしたが、彼はライバル達よりクワドの数が少ない時でも、最も高い得点を獲得することが出来るのです。何故なら彼の実施のクオリティは誰にも到達出来ない域にあるからです。
*バルセロナはGPファイナルの間違い

経歴
1994年12月7日に仙台で生まれました。姉を追って4歳の時からスケートを始めました。
子供の頃から喘息を患っています。
9歳の時(何年も後に彼がニュースに飢えたジャーナリスト達に語ったことですが)、スケートを辞めようかと思いますが、すぐに自分に言い聞かせたのです(僅か9歳ですよ!)。このスポーツのために既に犠牲にしてきたこれまでの5年間を無駄にしたくないと。

Youtubeにはまだ子供の彼が屈託のない笑顔でオリンピックで勝ちたい(達成しました!)と発言しているインタビューの動画があります。
彼の成長の過程はウィキペディアに詳述されています。

コーチ達は彼がまだ幼い頃から注目しました。最初は将来有望な少年として、そして将来性が約束された選手として、天才として、チャンピオンとして、そしてスターとして。

2011年3月、彼の故郷は東北地方を襲ったマグニチュード9の地震が引き起こした津波によって破壊されました。
彼が他の選手達と共に練習していたスケートリンクはパイプ類の損壊によって崩壊しました。彼は崩壊する建物の中から四つ這いになって脱出しました。彼とその家族は避難所で数日間を過ごしました。
死者約1万6000人、無数の負傷者と行方不明者を出しました。
この震災の際、彼の同郷の人々は彼が別の場所で練習を続けられるよう、寄付金を集め、彼を助けました。

オリンピックで勝った羽生は自分に対する故郷の人々のこの連帯感を覚えていました。
パレードを行い道路の両側を埋め尽くす9万人を越える人々に祝福されました。
彼は世界中のチャンピオン達(その中には彼の友人でもあるロシアの金メダリスト、エフゲニー・プルシェンコも含まれていました)と共に自分の町でアイスショーを企画し、約15万ドルを集めました。
被災地に対して寄付を続け、日本赤十字のアンバサダーを務めています。
彼をノーベル平和賞にノミネートしたい人はきっといるでしょう。

2012年まで阿部奈々美コーチに師事し、その後、元スケーターでもう一人の有力なスケーター、スペインのハビエル・フェルナンデス(美青年で偉大な選手)の才能豊かなコーチであるブライアン・オーサーに師事するためにカナダのトロントに移住しました。
羽生はフェルナンデスの4回転ジャンプを賛美していたので、オーサーの元で練習したかったと語っています。

2人は練習と試合を共有しました。親友・・・おそらくそれ以上の存在。
Youtubeにはロマンティックな音楽をバックに二人の心温まる瞬間を描いた動画が幾つもあります。
いずれにしても27歳のフェルナンデスはつい最近現役を引退し、マドリッドに戻りました。

ソチの2014年冬季オリンピックで、羽生は実況の女性解説者がコメントしたように満開の「打ち上げ花火」のような素晴らしく輝かしいショートプログラムを披露しました(フィギュアスケート史上初めて100点を超えたショートプログラムでした)。

バルセロナでの2015年世界選手権ではSEIMEI(私の一番のお気に入り)と命名された音楽で圧倒的な得点330.43を叩き出しました。更に驚異的なHope & Legacy では更に成熟した、当然のことながら途方もないこのプログラムに解説者達は適切な形容詞を見つけることが出来ませんでした(「うっとりさせられる」は彼らがひたすら繰り返した言葉のひとつでした)。
演技後のブライアン・オーサーとトレーシー・ウィルソン(カナダの元スケーター、コーチ、振付師)と共に得点を待つキス&クライのひと時も見逃してはなりません。
驚愕したトレーシー・ウィルソンのリアクションを見て下さい。

最近のアンケートによれば、ファンの間で最も好評だったのはこのプログラムでしが、羽生が2018年にオリンピック金メダルを再び獲るために選んだのはSEIMEIでした。

彼の姿を最後に見たのは優勝で終えた2018年末のロシアのロステレコム杯でした。
右足首(ジャンプで着氷する足です)に痛みを抱えながら、彼が最初に認められ始めた国、ロシアにオマージュを捧げるために出場することを望みました。
強い痛み止めを服用して競技し、松葉杖を使って表彰台に到達しました (バックヤードを撮影した動画では、彼が助けを借りずに表彰台にエレガントに上るために、怪我をしていない方の脚でイスに飛び乗る練習をしている様子が映っています)。

その後の日本での大会にも出場出来ませんでした。
おそらく2019年3月に競技に戻ってくるようです。
コーチが漏らした情報によると、羽生はおそらく遅かれ早かれ4アクセルに到達するようです。
そうなれば伝説です。
*GPファイナルの間違い

容姿
羽生は身長172センチ、体重53キロで優美に湾曲したほっそりとした身体構造を持ち、より厚みがありがっしりした一般的な運動選手体型のスケーター達とはかなり異なっています。
日本のチャンピオンは非常にかわいらしい顔立ちと透明感のある笑顔、賢しい眼差しを持ち、まさにアニメから抜け出してきたようです。

骨格は繊細で、おそらくこれが彼が練習し続けている無数の3回転、4回転ジャンプによって度々起こる右足首の問題の原因なのでしょう。

ジャンプ
フィギュアスケートにおいて最もハードでスペクタクルな技術的要素です。
昔からスピードを出して踏み切るため、助走によって準備し、跳躍と回転を助けるために腕はバランスのいい位置に置きます。
ただし、この体勢を整えるための準備段階は(明らかに必要不可欠ですし、容認されていますが)、よりエレガントなプログラムに亀裂を生じさせてきました。

カロリーナ・コストナーのより崇高なフリープグラム(彼女がまさしく崇高だったことは何度もあると私は思います)でさえも、この準備段階によって魔法が中断されます。
私はいつもこのことに気づき、残念に思っていました。

羽生はこの問題を解消しました。彼は芸術的なプログラムにおいてジャンプは確かによりアスレチックな部分ですが、完璧に実施すればそれ自体が芸術になると発言しています。
羽生のジャンプに準備はありません:迅速な助走を生かし、一時休止することなく、自分自身を回転させて生み出されるジャンプ。
しかし、実況中に解説者が強調しているようにほとんどの場合、「何もないところから突然現れる」のです。しかも非常に難しい入り方から。

彼のジャンプは並外れて高さと幅があり、その着氷はまるで氷がクリームで出来ているように非常に柔らかく、着氷と同時に流れるように滑ります。
ジャンプから次の振付要素への移行段階は存在しません。
足が氷に触れる前から、ジェスチャーによる表現は、既に完全にスコア(総譜)の中に戻っているのです。しかも非常に難しいトランジションによって。

コレオシークエンスと音楽
観客とファンはジャンプだけでなく羽生の途方もないステップシークエンスにおける調和の見事な高速ステップにも夢中になります。
マニアックな美の追求(非常にエレガントな衣装も含めて)。

私は「白鳥の湖」の反復のような手の使い方は革新的だとさえ思います。
他の選手達がバランスを取り、押すために上肢を使っているのに対して、この若い日本人は全ての動作で暗示的なディテールに満ちた美しいレースのようなポーズの連なりを構築し、これら全てが非常に精密なジェスチャーを織り上げているのです。
全てが途切れることのない流れの中で音楽に縫い込まれていきます。

スコアの各アクセント、各テンポが、ステップ、ジャンプ、そして非常に凝ったスピンに自由に、そして自然に一致しているという点においても革新的です。
つまり、オーケストラのパート、アリア、レチタティーヴォを伴うオペラからモーダルミュージックの催眠的な流れへと交互に移行するのです・・・

「オペラ座の怪人」の曲に乗せたプログラムでは、羽生はオーケストラが強いアクセントで爆発させる瞬間にピタリと合わせて4回転ジャンプを着氷しました。
その後、音楽が一旦中断すると、ユヅルはまるで彼自身が音楽を止めているように手を握ります。

彼のプログラムは音楽の中にある。彼が音楽なのです。

SEIMEIの主要リズムを刻む強拍に乗せた非常にシンプルなステップを私は何度見ても見飽きることはありません。腕を胴から離して横に開き、まるで皇帝のように圧倒的な物腰で進んでいくのです。

そしてショパンのバラード1番を使ったショートプログラム、テンポの速いピアノの音階のパートは、まるで羽生がスケート靴で鍵盤の上を跳ね回りながら弾いているようです。

倫理
羽生は現在、大学の通信教育課程に在籍しています。
人間科学を専攻し、このテーマにおける全ての研究はスケートに向けられています。
素晴らしいドキュメンタリーの中で公開された彼のノートには1本のジャンプに繋がる方法、時間、力、勢いが細かくメモされていました。

SEIMEIの冒頭では息の音が聞こえます。これは彼の息なのです。
ドキュメンタリーでは彼がどんな風に息を録音したか見ることが出来ます。
このように、時には彼自身が曲を編集するのです。
自分を落ち着かせ、リズムを与えてくれるからだと彼は説明しています。
これはこのチャンピオンの性格を物語る数多くのエピソードの一つです。

インタビューの中でフェルナンデスが語っているように、羽生は研ぎ澄まされたメンタルと頭脳の持ち主です。
このことは、彼が試合前と試合中の集中力が最大限に高まった状態から、演技を終え、観客とコーチに挨拶し、感謝し、コーチとふざける初々しい少年に早変わりする様を観察すれば、すぐに感じ取れます。

彼はリンクサイドまで「彼についてくる」マスコット、ウィニー・ザ・プーを持っています。
ファン達は試合の度にプーのぬいぐるみを彼に向かって投げ、彼はこれらを慈善団体に寄付します。

日本人ですから、礼儀正しいことはそれほど驚くことではありませんが、羽生はこの点においても傑出しています。
日本の国旗は完璧に畳んでからフェンスに置きます。同国の宇野昌磨はそのまま無造作に横に置いていました。

どこへ行っても敬意を払われましが、彼は皆に道を譲ります。
製氷係を助けて氷に形成された穴を修理し、機具を動かす手伝いをします。
「そんなことをさせるわけにいきません」と言われれば、彼は「僕はスターではなくアスリートだから」答えるのです。事実を言えば日本では(勿論、日本だけではありませんが)、彼はスターでもあるのです。

彼の競技に対する責任感と観客に対する敬意は2014年中国で皆が見ました。
試合の衣装を着て行う6分間練習のためにリンクに入った数分後、中国の選手と衝突して氷上に倒れ、こめかみと顎を切りました。
何という衝撃でしょう!!

助けを借りて立ち上がり、応急処置を受け、頭に包帯を巻かれた彼は・・・・競技することを望んだのです(ほとんど特攻隊のようなリスクがありましたから、この決断は批判されました)。
ジャンプで5度転倒しました(これほど脆く、不完全な姿を見せることを受け入れることは彼にとって簡単ではありませんでした)。

彼は傷を負い、汗を流しながら得点を待ちました。得点は当然のことながらミスによって減点されていましたが、それでもその時点で彼は首位に立ちました。この瞬間、ユヅルは解き放たれたように泣き崩れました(まさにドラマのシナリオそのままの血と汗と涙です)。

私は歴史に残るこの選手と彼の数々の試合を読者の皆さんに知ってもらいたいと思いました。
これらは知性と決意と犠牲と美の心温まる証です。

おそらく彼は伝説になるでしょう。
彼のノートから読み取れる4Aの文字。

そして私は彼のことを行いが謙虚な若者として、氷上だけでなくオフリンクにおける模範としても紹介したいのです。

希望を与えてくれる人間。

このブログ「Vedo la Terra blu(蒼い地球に行く)」のモットーのように・・・
純粋な氷も蒼いのです。

私は自分のささやかな役割を果たします・・・彼の新たな歓びを願い、待つことを。
#happynewyearYuzu #getwellsoonYuzu #arigatoyuzu

ついさっき素敵なニュースが入ってきました。
ハビエル・フェルナンデスがトロントに戻ってきたそうです。
ユヅのため?

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☆著者のアンジェラさんは複数の雑誌(哲学、ファッション、スポーツ、旅行等)のライターを務め、小説を何作も発表されている方です。
羽生結弦という人物を彼のフィギュアスケート、人間性、性格、容姿、被災地との絆といったあらゆる側面から描いた素晴らしい記事です。

羽生君の金言
「芸術とは…明らかに正しい技術、徹底された基礎によって裏付けされた表現力、芸術であって、それが足りないと芸術にはならない」

まさにこのコンセプトに基づいた彼のスケートが見事に的確に描写されています。

Rai Sportのアリアンナ・セコンディーニさんは羽生君を「氷上の純粋な芸術」と称え、ガゼッタ・デッロ・スポルトは「スケート靴を履いた芸術」と形容しています。

それにしても漢詩を使った中国解説者の名解説、イタリア語にも訳されていたんですね!

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