ポッドキャストKiss&Cry II第7回「トリノGPF~羽生結弦vsネイサン・チェン」

第7回(最長バージョン154分)から
トリノGPFについての話題、男子50%、女子30%、ペア+アイスダンス+ジュニア20%ぐらいの割合です。
とりあえずシニア男子シングルに関する部分を訳しますが、途中で視聴者からの的外れな質問が入って脱線したりしていますので、重要な部分だけを抜粋・要約します。

Listen to “Kiss&Cry Reloaded – Puntata 7” on Spreaker.
出演者
フランチェスコ・パオーネ(司会)(F)
マッシミリアーノ・アンベージ(ジャーナリスト、冬季競技アナリスト)(M)
アンジェロ・ドルフィーニ(元ナショナルチャンピオン、国際テクニカルスペシャリスト)(A)

F:ジュニアの話題で採点の話が出たけれど、この3~4日間というもの男子シングルの試合の採点について議論が過熱している。
ネイサン・チェンが優勝したのは仕方がないとして、得点については多くの人があり得ないと言っている。
これに関して君達の意見は?

M:まず前提として、ネイサン・チェンの優勝は妥当で、これについては議論の余地はなかったと言っておかなければならない。
ネイサン・チェンは2つのプログラムを大きなミスなく揃え、羽生はミスをしたからチェンが優勝したのは当然だ。

事実を言えば、羽生がショートのコンビネーションでミスをした時点で勝負の行方は決まっていた。
この瞬間から羽生は大差で追う立場になり、ほとんど不可能に近い逆転を試みるという強い意志によって、頭の中で様々な考えを巡らせ、限界に近いプログラムに挑まざるを得なくなった。
チェンのフリーはネガティブといよりポジティブな印象だった。

問題は各エレメントを注意深く分析すると、彼に与えられたGOEにはルールが定める+5、+4、+3の基準が反映されていないことだ。

僕はこの採点システムは当初考案された通りに機能していないと思う。
ただそれはジャッジが無能、または彼らに悪意があるからではないと思うし、そうでなければ、僕は水曜日の夜、ここでフィギュアスケートの話をせずに家で家族と犬の世話をした方がいい。

僕は年間1万本のプログラムを研究・分析している。
というのも、イタリアとその他の国の10~18歳のスケーターの両親達が僕のところに意見を聞かせて欲しいとプログラムの動画を送ってくるから、プログラムの分析・研究し、評価を与えることには慣れている。

しかし限られた時間内でリアルタイムで、演技構成点も同時に評価しながら、全てのプラス/マイナス要件を考慮して12個のエレメントのGOEを採点することは客観的に見て不可能だ。
この採点システムを使って適切に採点することは人間の能力の域を超えている。

このジャンプは凄く綺麗だったから+5を与えようといるジャッジがいるかもしれない。
しかしこれはルールで求められている要件ではない。
ジャッジは僅かな時間内にコンポーネンツも採点しなければならない。
しかも最初にプラスを付けたジャンプがテクニカルパネルのレビューで回転不足やエッジエラー等と判定された場合、それぞれのケースに応じてルールで決められているマイナスを適用しなければならなくなる。

つまりこの採点システムを試合中の限られた時間で正しく適用することは不可能なのだ。
勿論、だからといってネイサン・チェンの優勝が妥当ではなかったと言いたいわけではない。
彼は優勝に相応しかった。
しかしながら、ネイサン・チェンの幾つかのジャンプの評価は間違っていた。
イタリアジャッジはネイサン・チェンの3アクセルに+5を与えた理由を僕に説明して欲しい。
例えば、ネイサン・チェンの4サルコウに羽生結弦の4サルコウと同じGOEを与えたジャッジは彼らのジャンプをもう一度見直すべきだ。

羽生はフリーのトランジションを少しシンプルにしたけれど、それでもジャンプの入りの難しさは明らかにチェンを上回っている。

僕はジャッジが無能だと言いたいわけではない。
しかし、このような限られた時間でGOEの要件を全て考慮しながら評価するのは不可能なのだ。
だからジャッジ達は何となく+5.+4.+3と与えているが、これはルールに従った採点方法ではない。

羽生のショートの3Aに+4を与えたジャッジは、6項目あるプラス要件の+5獲得に必要な3項目(4,5,6)の内、2つを満たしていなかったと判断したということになる。

一体何を満たしていなかったのか?

音楽に合っていなかった?
冗談だろう?
羽生は病的なほど音ハメにこだわる選手で、音に合っていないと気持ち悪くて跳べないほどだ。
だから第1にジャンプは音楽に合っていた。

独創的で意表を突く難しい入り方じゃなかった?
もし羽生のショートの3Aの入りが独創的じゃないなら、僕達はスタジオを畳んで立ち去ろう。

空中姿勢が良くなかった?
少し軸が曲がっていたことが1回ぐらいあったかもしれないけれど、GOEでマイナスになるほどではない。

だから+4を付けたジャッジは上述の3項目のどれが足りなかったのが説明出来なければならない。

僕はジャッジがこの項目のどれかが足りないと判断したとは思わない。
あの瞬間、これらの項目を考慮しながら採点しなければならないという考えに及ばなかったのだと思う。
今シーズン、このようなケースが数多く見られている。

A:確かにそうだ。
軸がやや曲がっているという理由で+5ではなく+4を与えるジャッジがいるかもしれない
だが、実際にはプラス要件は6項目あって、1項目(空中姿勢)を満たしていなくても+5だ。
しかし、短い時間でこういったことを思い出しながら採点するのは非常に難しい。

M:僕はジャッジではないけれど、実際に非常に難しいことだということを肌で感じている。
だからもう少しルールをシンプル化するなどの対策を講じなければならない。
なぜならこの採点システムはもはや機能していないし、選手に与えられるGOEにはルールが反映されていない。

ネイサン・チェンはアスレチック面において並外れたパフォーマンスを滑り切った。
しかし彼が全てのジャンプを降りたからといって、全てのエレメンツにGOE+5を与えていいということにはならない。

彼のフリーはポジティブ以外の何物でもなかった。
しかしながら、選手が実施するエレメンツのクオリティが適切に評価されていないと、試合を公正な目で見ることは難しくなる。

羽生は別の理由で敗れた。
何度も言っているように、全てはショートプログラムで入らなかったコンビネーションから始まった。

しかし、ショートプログラムを細かく分析すると、羽生が実施した非の打ちどころのない完璧なジャンプ、4サルコウと3アクセルで+5満点を獲得していないことが分かる。
+3や+4を与えたジャッジはこのジャンプに何が足りなかったのか説明出来なければならない。

こういったことは羽生結弦だけでなく、ネイサン・チェンや他の多くのスケーターの採点にも見られる傾向だ。

僕はこの採点システムを考案された当初の意図通りに試合中に適切に適用することは不可能だと言いたい。
短時間で12個のエレメンツをルールの基準を守って正確に評価することは不可能だ。
+3/-3の頃の方がまだ良かった。評価がより簡単だったからだ。
それでも、非常に良い+3、良い+2、まあまあ+1、疑問がある0という具合に採点されていることは感じられていた。

A:でも7段階だから11段階に比べて差異は少なかった。
この採点システムは非常に巧妙に構築されているけれど、ジャッジに与えられた時間内で採点するには複雑過ぎるし、客観的にみて困難だという君の意見に僕も同感だ。
そして僕の見方ではもう一つの概念がある。

キャリアが非常に長く、6点満点の旧採点時代から採点しているジャッジ達は、まず選手同士を比べて順位を判断するという相対評価の考え方が残っているのかもしれない。
現在の採点システムは絶対評価で、ライバルに関係なく氷上で披露されたエレメンツを既定の基準に則って評価しなければならない。
しかし、未だに6点満点の旧採点システム脳が残っているジャッジ達は、相対評価で採点する傾向があるのかもしれない。

例えばシングルになってしまった羽生のアクセルに比べて、ネイサン・チェンの3アクセルは綺麗に成功したから+5や+4を与えてしまう。気持ちは分からなくないが、冷静に分析すると難しい入り方から実施されていないし、ルールが求める+4、+5の要件を満たしてなかった。

しかし、短い時間でこのように細かく分析するのは難しいし、実際にファイナルにおけるネイサン・チェンの演技は圧巻で、着氷に流れのないジャンプは幾つかあったけれど、ミスは最小限で、しかも技術的に非常に難しいプログラムだったから、全体的に高めの得点を与えたのかもしれない。しかし、後で冷静になってこのプログラムだけをルールの基準と照らし合わせて分析すると、幾つかのエレメンツの評価は適切でないことが分かる。

しかし、その場で個々のエレメンツを適切に評価するのは難しい。
だからこそ、僕達はこうやって個々のエレメンツについて分析し、議論するのが好きだ。

僕達の見方では羽生は並外れたエレメンツを披露し、彼がファイナルで持ち帰ったエレメントはポジティブな印象を与えた。
何よりも4ルッツ。
4ループも素晴らしかった。

GOEの存在は大きいし、難しい入り方は6項目あるGOEプラス要件の一つだ。
しかし、難しい入り方によって、ジャンプを跳ぶのがより難しくなり、他の項目を満たせなくリスクがある。しかし、難しい入りはPCSのトランジションの評価にも反映されなければならない。

しかし、戦略という面において新ルールのGOEの各要件を注意深く分析すると、こんな見方も出来る。
現在のルールでは高スピードから実施された幅と高さがあり、空中姿勢も良いジャンプは+4を獲得することが出来る。更に音ハメして跳べば+5を獲得出来るかもしれない。

M:男子シングルの試合を分析するのは非常に難しい。
羽生は何故、このような特徴を持つプログラムを考案するのか?
彼のプログラムは常軌を逸した難度の尋常ではないプログラムだ。
GOEやPCSで思うような評価が得られない場合、スケーターが考えるのは、もし技術的に可能なら場合、基礎点を引き上げることだ。

ファイナルにおける羽生とネイサン・チェンを分析すると、二人がノーミスだった場合、羽生の方が基礎点の高いプログラムを滑ったことが分かる。
満点を想定したGOE合計ではチェンの方が小数点高い。

スピンの基礎点(羽生のフライングシットスピン3点に対してチェンの足替えキャメルスピン3.2点)が0.20点羽生より高いから、GOEで0.10
4ループに比べて4フリップの方が0.50基礎点が高いから0.25上回る。

これらを考慮して計算すると、GOEが満点と仮定した羽生のプログラムはチェンのGOE満点のプログラムを0.80点上回る。

羽生は大差を挽回しなければならなかったから、このようなプログラムに挑戦した。
今大会中の羽生の4回転ジャンプの確率は試合でも練習でも宇宙的に高かった。
試合でミスをした4T-3Tはランスルーで失敗していたけれど、その後すぐに跳び直して成功させていた。
4ルッツは数本しか跳んでいなかったけれど、その数本はほぼ全部成功していた。
実際、フリーの日には6分間練習で完璧な4ルッツを決め(史上最も美しい4ルッツの一つだった)、本番でもほぼ同レベルの4ルッツを成功させた。

つまり、彼はここ一番でハードルを引き上げることが出来る能力を見せつけた。
今回はアスレチック面が少し足りなかった。
プログラム開始から2分半後には明らかに疲れているのが分かった。
しかも5本目のクワドを入れるためにいつもよりトランジションを削り、クロスオーバーと両足滑走を増やさざるを得なくなった。

しかし、彼の最終目標はクワド4種5本のフリーを完成させることだから、トロントの練習では似たようなプログラムを練習していたのかもしれない。
だから試合で5本のクワドを成功させたことは大きな収穫だったと思う。

勿論、彼はこれからクオリティを磨き、予定された全てのエレメンツが試合で入るよう練習を積まなければならない。
今この瞬間、ネイサン・チェンのように安定感のある選手に勝つには「完璧」が求められる。
これは事実だ。

しかし、僕が言いたいことは、もし二人が共にノーミスだった場合、ネイサン・チェンが羽生結弦を上回るということはあり得ないということだ。
もしそうでなければルールが守られていないということになる、

P:しかしマッシミリアーノ、今この瞬間も視聴者から同じ質問が続々と寄せられている。
全員、君の分析を評価する一方で、最近のGOE爆盛は結果を左右し始めていることを危惧している。
そして多くの人がこう指摘している。
OK、採点システムが複雑過ぎて機能していないこと、これによって誤審があることは分かった。
しかし、何故いつも一方通行に誤審されるのか?
つまり常に有利に間違われる選手と、常に不利に間違われる選手がいるのは何故なのか?
この事実の裏には、ここまでに君達が議論した内容以外の別の理由があると思わない?

M:皆さん、僕は何と言えばいいのか?
グランプリシリーズが始まった時から、僕は指摘していた。
シニアではなくジュニアのグランプリシリーズだ。

アリサ・リウという名のスケーターに彼女が披露するエレメンツの実際のクオリティとはかけ離れたバカ高いGOEが与えられるのを僕達は見た。
客観的にこのような現象は初めて見た。

彼女は彼と同じ国籍、同じルーツを持つ選手だ。
2022年のオリンピックがどこで開催されるのか知らない人はいないだろう。
だけど、僕は政治の話はしたくない。
何故なら、僕は政治に興味はないし、ネイサン・チェンは何も盗んでいないからだ。
僕はネイサン・チェンが何かを盗んでいるとは言いたくない。

しかしネイサン・チェンと羽生結弦がエレメントとエレメントの間にやっていることを分析すると、ネイサン・チェンと結弦では全く違うことが分かる。
羽生結弦は勝つためにあまりにもリスクが高く、体力の消耗が激しいフィギュアスケートをやっている。

確かにネイサン・チェンの方がスタミナがあるからフィジカル面では上回っていると言う人がいるかもしれないが、ネイサン・チェンのプログラムは羽生結弦のプログラムの半分しか体力を消耗しない。

A:羽生もフリーではやむを得ず繋ぎを少し減らしてよりクワドを増やす方向に向かっているけれど
ショートでは僕の考えは知っているよね。
2人共ノーミスならネイサン・チェンが羽生結弦を上回ることは考えられない。
今回、ネイサン・チェンが110点に達したから少し考えさせられたけれど
ネイサンの方が基礎点は高い

M:羽生の4サルコウの基礎点9.7に対してチェンの4ルッツは11.50だ。
アドバンテージは基礎点だけでなくGOEにもある。
チェンの4ルッツのGOE満点を5.75なのに対し、羽生結弦が4サルコウで獲得出来るGOE満点は4.85だ。

しかし、2人が完璧なショートを滑った場合、羽生が上回る。
理由は3アクセルだ。
羽生の3アクセルは+5だ。
この点に議論の余地はない。
そして、演技構成点の話をすると、彼らの間には巨大な差がある。

僕は別の試合を見たかった。
僕はこういう試合展開が見たかった。
羽生がショートをノーミスで滑って首位に立つ

A:その通り

M:今回、ネイサン・チェンのショートプログラムが非常に寛大に評価されたことを考慮すると、点差は1点ぐらいだったかもしれないけれど、いずれにしても羽生が首位だっただろう。
そして羽生が彼のクラシックなフリープログラムを完璧に滑り、GOEとPCSでほぼ満点を獲得して勝つ。
これが僕の夢見ていたファイナルだった。
そうなれば、あらゆる意味において宇宙的なファイナルになったはずだった。

しかし羽生はショートでミスをした。
ミスも試合の一部だから仕方がない。
結果、試合はあのような結果に終わった。

しかし、結果をまとめるとこうだ。
チェンが出した世界最高得点334点は、僕の見方では氷上で披露された内容には値しない得点だったと思う。
この総合得点から色々な得点を引いていかなければならない。
いずれにしても試合に勝ったのはネイサン・チェンだった。

<ショートでコーチ不在だった件について>

M:グランプリファイナルでは各スケーターにつきコーチ1人しか同行できない。
クリケットクラブには今回のファイナルに進出した選手は他にいなかったから、トリノに行けるコーチは一人だった。
日本スケート連盟はオーサーではなくジスラン・ブリアンを指名した。
ブリアンは結弦がトロントで最も多くの時間を一緒に過ごしている、おそらく彼に一番近い人物だ。
結弦は非常に高難度のフリープログラムに挑戦し、もしかしたら更に構成を上げるかもしれないから、ジャンプのコーチであるブリアンの方が適任だと判断したとオーサーは説明している。

もしブラウンがファイナルに進出していたらオーサーとブリアンの二人がトリノに来ることが出来たから色々な状況をよりスムーズに管理するが出来ただろう。
選手にとってコーチの存在はロジスティックスやその他の細かい点において必要不可欠だ。
しかしトラブルが発生してブリアンはフランクフルトで足止めされ、トリノ到着が遅れることになった。

従って、羽生はショートプログラムとその前の公式練習に一人で立ち向かわなければならなくなった。
そしてショートプログラムでミスがあった。
問題はショート翌日の公式練習も一人だったことだ(笑)
その公式練習の終盤15分、彼はひたすら4アクセルだけを練習し始めた。
回転し切っていたジャンプもあったけれど、激しく転倒していた。
これは(コーチ不在の)普通ではない影響だ。
怪我をするリスクもあった。
もしブリアンかブライアン・オーサーがいたらこのようなことは起こらなかった

A:なかったね(笑)

M:いずれにしてもフリープログラムの戦略は変わらなかっただろう。
10点以上の点差があったから、持てるカードを全て出して、あらゆるリスクに挑戦する必要があった。
でもコーチがいたら、このような困難な状況をより適切に管理することが出来ただろう。

このような重要な大会で、よく知らない国でコーチ無しで競技することは簡単ではなかったはずだ。

A:僕達はみんなキス&クライに一人で座る彼を見て驚いた。
たださえ特定の状況において情動をコントロールするのは簡単なことではない。
しかも羽生の気性は僕達全員が知っている通りだ。
もしコーチがいたら、僕達がパラヴェーラで目撃したようなことは起こらなかっただろう(笑)。

試合がこのような展開になったことは残念だった。
しかし、時間を巻き戻すことは出来ない。
ようやくブリアンが到着し、状況を修正した。
間違いなくプランBも想定していたのだろう。
しかしながら、このような大会ではプレッシャーや練習やエネルギーを管理するためのサポートが必要だ。
今回はそれが無かった。
本当に残念だったけれど、仕方がない。

M:心配している人もいるけれど羽生は気丈に受け止めていると思う。
エキシビションの練習中に他の出演者達とじゃれ合ったり、ロシアの選手やコーチ達とふざけていた彼を見れば分かる。
これが羽生結弦なのだ。

でも注意して欲しい。
これから別のゲームが始まる。
きっとアンジェロには気に食わないゲームだと思うけれど、新たなゲームに向けて羽生はショートの構成も変えてくるだろう。
もし彼の4ルッツが安定したら、状況は一転する。
もし4ループが、彼が練習で何度も決めていたように、簡単に決められるジャンプになったら、状況は二転する。

翻訳すると、彼が頭の中に何があるのか僕達には想像出来ない。
このネイサン・チェンとの二連敗は彼を苦しめているはずだ。
彼の第二のホームであるカナダでの世界選手権で雪辱を晴らすために、彼はあらゆることをするだろう。
今シーズンのグランプリシリーズではようやくカナダのジンクスを打ち破ることが出来た。
だから今後どう変化していくか楽しみにしていよう。
そして、ファイナルで考案されたフリープログラムの構成が今後、安定していくか、つまり後半も高いクオリティで滑れるようになるか見守ろう。

プログラムの構成について考察すると、ネイサン・チェンのプログラム構成は天才的だと僕は思う。
ネイサン・チェンは得点を稼ぐマシンだ。

確かに羽生もネイサン・チェンもクワド5本だが、ネイサン・チェンはより高得点を稼げるジャンプを前半に固めている。
フリーの最初の3つのジャンプ要素の基礎点と実際にネイサン・チェンが持ち帰った得点を見て欲しい。
彼は心身共にフレッシュな前半冒頭に高得点のジャンプ要素を実施している。
高難度ジャンプは体力だけでなく精神力も消耗するが、彼は前半に跳ぶことでこの非常に高難度のジャンプを全て成功させている。
実際、ネイサン・チェンは最初の3本のジャンプ要素で50点以上稼いでいる。
だから僕はネイサンの構成が非常に巧妙だと思うのだ。

一方、結弦はどうか?
彼は誰よりも基礎点に細心の注意を払う選手だ。
結弦は冒頭に4ループを入れ、後半にコンビネーションジャンプを固めている。

プログラム開始から3分後に4T/eu/3F
ネイサン・チェンも同じコンビネーションを跳んでいるけれど、プログラム開始45秒で実施している。
そして前人未到のジャンプシークエンス、3A/3A。恐るべき難度のエレメントだ。
彼は3Aを4回続けて跳ぶことも出来るけれど、プログラムの最後に跳ぶとなると別問題だ。

そして4T/3T
彼が時々ミスをする要素だ。
彼はジュニアの頃からセカンドジャンプが3Tのコンビネーションで時々ミスをすることがあった。
勿論、彼にとっては並外れたクオリティで跳ぶことの出来るジャンプだけれど、プログラム開始から2分後に跳ぶとなるとハードだ。
実際、トリノでは4T-2Tになってしまった。

だから2人のプログラムを比較すると、ネイサン・チェンの方がより楽に得点が稼げる構成になっているのが分かる。

羽生の3本目のジャンプは3ルッツ、そして最後の2分間に高難度コンビネーションが集中している。
一方、ネイサン・チェンの方がプログラム全体にジャンプがバランスよく配置されているから、ジャンプとジャンプの間に休むことが出来る。
勿論、結弦の方がリスクを冒している分、全てが完璧に決まったら当然、チェンを上回る。

ネイサン・チェンは何故3アクセル2本にしないのか?と尋ねる者がいるかもしれない。
答えは簡単だ。3アクセル2本は割に合わないからだ。
3アクセル2本にすると3トゥループを2本跳べなくなる。
ネイサン・チェンは前半に4F/3Tのコンビネーションを跳び、4トゥループを2本跳ぶ。

最後のジャンプ要素にはオプションが2つある
3A/2T
これはアクセルがあまり得意ではない彼にとって非常にリスクのあるオプションだ
基礎点は9.30+後半ボーナス10%

一方3Lz/3Tだと5.9+4.2+後半ボーナス10%で11点以上稼ぐことが出来る。
しかも、3ルッツはネイサン・チェンにとって簡単なジャンプだ。
だから僕はネイサン・チェンのプログラムが構成という点において天才的だと言っているのだ。
難度/得点という点において非常に効率よく得点を稼げる。

演技構成点に話に戻るけれど、ショートプログラムで羽生とネイサン・チェンのPCSが同じというのは考えられない。
特に自由裁量の余地がほとんどないスケーティングスキルとトランジションについては勝負にもならない。
確かに羽生は80%の出来だったかもしれないけれど、それでも彼がこの点においてより優れていることは議論の余地がない。

より主観が入る他の項目に関しては、ネイサン・チェンの演技の方が好みという人がいるかもしれない。
それでも僕はその他の項目においても羽生が上回っていると思う。
勿論、大きなミスがあった場合、幾つかの項目でチェンが上回ることがあるかもしれない。

A:フリーで羽生は幾つかのトランジションを削っていた。
ネイサン・チェンの強みは4ルッツ、4フリップを高い確率で跳べることだ。
一方、羽生は難しいトランジションをてんこ盛りに入れているけれど、プログラムをあまりにも難しくすると、ジャンプをミスするリスクが高くなるから諸刃の剣と言える。
今回、クワドを5本入れるためにやむを得ず、トランジションを削ったが、これが正しい戦略かどうか僕には分からない。
高難度ジャンプと難しいトランジションはハイリスク/ハイリターンなのでちょうどいいバランスを見つけるのは難しい。

M:確かに羽生はトランジションを削ったけれど、それでもネイサン・チェンよりは豊かなプログラムだ。

<4アクセルについて>

F:視聴者からの最後の質問。
結弦の4アクセルの印象は?

A:ハハハ

M:まずこのような挑戦を目撃したことは驚異的なことだった

A:狼狽させられた(笑)

M:まさかこのような代物を見られるとは思ってもいなかったから
このジャンプがどれほど難しいエレメントなのかが分かった。

現地で実際に見た、そして映像でも見返したこのジャンプは僕の想像を遥かに超えていた。
僕が受けた印象は、回転は出来ているけれど、まだ着氷に至っていないトリプルジャンプを練習している少女達から受ける印象に似ている。

ジャンプを完成させるには、まだ幾つかの点において何かが足りないと思う。
このジャンプを完成するまでに後ぐらいの時間を要するのか僕には分からない。

A:4アクセルの挑戦を見られたことは、狼狽させられたけれど、間違いなくスペクタクルだった。
永遠に続くジャンプ
本当に永遠に終わらないジャンプ、空中に永遠に留まっているジャンプという印象を受けた。
驚異的なスピードから跳んでいる。
危険なジャンプというイメージも僕に与えた(笑)
完成までそれほど遠くないと思う。
僕はこれほど完成に近い4アクセルは初めて見た

M:でも今日明日に完成するジャンプじゃないよね

A:それはない。まだ何かが足りない。
でも完成までそれほど遠くないと思う。

M:同じようにトリプルジャンプに挑戦する少女達もいずれ着氷出来るようになるからね。
でも問題は、転倒の仕方が悪いと怪我をするリスクの高いジャンプだということだ。
実際、トリノではヒヤッとする転倒があった。

歴史と羽生のために、彼がいつかこのジャンプを試合で成功できることを願っているけれど、僕は彼がトリノで試した構成を完璧に滑って、クオリティでネイサン・チェンを上回るという2人の対決を見たい。それで十分だ。
4アクセルはもっと先でもいいと思う。

でも羽生には全てが可能だ。
彼がある意味で全能(神)だから。
でももし彼が4アクセルを成功させたら・・・涙だね
それどころか号泣だ

A:そうだね。

*********************
☆何回かに分割して投稿した方が読みやすいのかなとは思いましたが、あまり途中で切りたくなくて最後まで一気に訳しました(女子に関する話題も追って訳したいと思います)
最後まで投げ出さずに読んで下さった方ありがとう

ファイナルのチケットを買った時(今年の夏)、私はOrigin持ち越しで、最初のジャンプが4Aだと思っていましたので(笑)、1本目のジャンプがよく見える席(キスクラ側のショートサイド)を買いました。
結果的に1本目のジャンプは4ループだったけれど(美しいジャンプだった)、まさか公式練習で4アクセルを見られるとは思いませんでした!
アンジェロさんが「永遠に続くジャンプ」と形容していましたが、人類の限界とか物理の法則とか地球の重力を超えたジャンプでした。
いや本当に凄いものを目撃しました。

羽生君は言い訳にしませんが、ショートのミスはコーチ不在の影響もあったと私は思います。
選手は現地入りしてからリンクの状態を確認し、ジャンプとコンディションを調整していくという非常にデリケートな作業をショートプログラムまでの2度の公式練習で行わなければなりません。
しかし、不慮のアクシデントで常に同伴してくれるはずのコーチがいなかったために慣れない国で練習以外の事にも神経を使わなければならなかったはずです。
しかも、エレナさんの報告によればファイナル中、日本のテレビ局の総勢70名ものスタッフと公式以外の9台の追加カメラが常に羽生君について回っていたそうですから、精神的なサポート役でもあるコーチがいなかったことで、無意識の内に余計なストレスが蓄積されていったのではないかと思います。

タラレバを言っても仕方ありませんが、もしショートノーミスなら、フリーはクワド4本でクオリティで勝負するという戦略もあったのかもしれません。
でも、結果的に4ルッツとクワド4種5本の成功に繋がりました。
この経験が今後、きっと生きていきますね。

そして全日本に出場してくれて本当に本当に本当にありがとう!!!
そして本当にお疲れ様でした。

私は仕事で1カ月の間に日本-イタリアを2往復したことがありますが、肉体を使う仕事ではないにもかかわらず、時差と長時間フライトのせいで身体的にかなりハードで、移動後3日ぐらいは1日中眠かったです。

羽生君は5週間でトロント-札幌、トロント-トリノ、トロント-東京を往復し、しかも毎回クワド合計6本または7本+繋ぎテンコ盛りの誰よりも体力を消耗する鬼プログラムを合計6本(+エキシ)滑り、取材やメディア対応も誰よりも多くこなしていたのです。

しかも彼の場合は注目度もプレッシャーも他の選手達とは桁違いですから、心身の疲労は限界を超えていたのではないかと思います。

羽生君は惑星ハニューの住人で、あまりにも超自然的な存在ですから、つい忘れてしまいそうになりますが、身体は人間なのです。

いつもの彼なら「勝ちたいです」とか「王座を奪還したいです」とか勝利にこだわる発言をするのに、最初のインタビューで「とにかく大きな怪我無く終えることが一番重要と自分に言い聞かせ続けている」と言っていたのが印象的でした。
疲れている時や体力が低下している時の方が怪我のリスクが高くなりますから、ギリギリの状態なのかなと思っていました。

そんな中での完璧なショート
Otonalは神の演技でした。
Originもミスはあったけれど美しかった。
本当に…言葉にならないほど美しかったです。

優勝した宇野君を抱きしめて心から祝福する羽生君と感極まって涙する宇野君の感動的な表彰台を見て、羽生君が初めて全日本王者になった2012年全日本の表彰台を思い出しました。
勝者なのに蒼白でうつむいていたあの時の羽生君の顔を私は忘れません・・・
自分はただ一生懸命スケートをやっているだけなのに、見ず知らずの他選手のファンから一方的に敵意を向けられる
誰よりも辛い思いをした羽生君だから、可愛い後輩に自分と同じ思いをさせたくなかったのですね。
負けた時にこそ真のチャンピオンの器か否かが分かる

連戦の疲労が限界に達する中、死力を振り絞って戦った結果、2位。
失望や喪失感は膨大だと思うのに、あんな笑顔で宇野君を祝福できる羽生君のファンでよかった・・・

四大陸選手権も出場するんですね
今シーズン、まだ2試合も見られるなんて幸せです。
今はゆっくり休んで英気を養って下さい。
2020年が素晴らしい年になりますように。
羽生君が健康で、彼が思い描く演技が試合で実現出来ることを願っています
どうかステイヘルシーで

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