マッシミリアーノさんのフィギュアスケート専用ポッドキャスト『Tutti con Ambesi』から
今回は当然、マッシミリアーノさんが『人類初の月面着陸』に匹敵すると形容した羽生結弦選手のNHK杯神演技の考察です。
非常に長いので抜粋・一部要約します。
出演
マッシミリアーノ・アンベージ(イタリア・ユロスポ実況/コラムニスト)
アンジェロ・ドルフィーニ(元フィギュアスケート選手で元イタリア・ナショナルチャンピョン、イタリア・ユロスポ解説)
マ:NHK杯では羽生結弦が壮麗な2つのプログラムを僕達にプレゼントしてくれた。
おそらくこの競技の歴史を変えるプログラムになるだろう。
当然のことながら、毎年、限界を引き上げ続けているこの選手は一体どこまで到達出来るのだろうと疑問が湧いてくる。
テレビでもポッドキャストでも何度も言っているように、彼が挑戦する相手は他の選手ではなく、自分自身。彼は自分自身が到達可能な限界と戦っている。
非常に驚異的だ。
アンジェロ、君から羽生結弦について語ってくれる?
ア:皆さん、こんばんは
彼は2つの完璧なパフォーマンスを僕達にプレゼントしてくれた。
ただ完璧なだけではなく、ショートでは2本の4回転ジャンプを決めた。
昨シーズン当初は、4回転3本(うち1本は後半)のフリー、後半4回転のショートを滑るつもりでいたが、今回のNHK杯では更にその上を行く構成を披露した。
問題は彼がプランする構成の難度ではない。
構成の難度という点では、ごく僅かとは言え、彼と同じような野心的な構成に挑戦している選手はいるし、ジン・ボーヤンのように更に高難度のプログラムを滑る選手もいる。
羽生結弦が圧倒的なのは、プログラムの冒頭から中盤、そして最後までこれらのエレメンツを実行するクオリティ、そしてそれ以外の部分のクオリティだ。
羽生が高難度なプログラムを滑る時、同時に傑出したクオリティのスケーティングも維持し、力強く表現された振付け、極めて高難度なエレメンツの前後にすらふんだんに散りばめられた非常に豊かで複雑なトランジション、最高レベルのスピン、圧倒的なレベルのステップ・・・つまり正直に言って、フィギュアスケート史上前例のないホールパッケージの選手で、今後、誰かが彼に近づく、または並ぶことが出来るとは思えない。
マ:彼の試合前、試合中、試合後のコメントはいずれも興味深かった。
NHK杯の前、結弦は中国のジン・ボーヤンに注目していると発言した。
おそらく結弦は彼と共にこの競技を進化させられると思っているのかもしれない。
彼は4ルッツ-3トゥループのような前代未聞のコンビネーションジャンプを軽々決めることが出来るこの少年に多大な称賛の念を抱いていることを強調した。
興味深いのは、大会終了後、当然のことながら、自分が成し遂げた演技への歓びを表明すると同時に、自分の演技のちょっとした欠点について述べていたことだ。
彼の見方によれば、彼のあの演技はまだ完璧には到達していないと言うのだ。
このことは彼の気質を物語っている。
勿論、スクリーンに322という得点が表示された時はびっくりしただろう。
だって全く想像も出来ないような数字だった訳だから。
でも彼は得点ではなく、自分の感覚をベースに演技を分析している。
そしてこういう結論に達した。
「OK、でも僕はまだ現役を続行するし、これはオリンピックでも引退試合でもない。
僕はもっと進化出来ると確信しているし、皆を感動させられる演技をもっとしたい」
彼のこのコメントは通訳され、その場にいた関係者達に深い感銘を与えた。
更にこの時、結弦はこの競技の過去15年間の変遷を考察し、4回転ジャンプの歴史についても深く掘り下げた。
こんなことは誰もが出来ることではないし、彼がフィギュアスケートの未来についても非常に明確な見解を持っていることが分かる。
僕達は先シーズンの経験が彼をどう変えたかを理解するために、何度も彼の性格と先シーズン、彼が直面した苦難について話してきた。
そして何度もプルシェンコの名前を出した。何故ならこのロシアの天才選手は、羽生結弦の意図をいち早く察した人間のひとりだと思うからだ。夏のショー期間中、一緒に練習しながら、きっと想像も絶するような代物を目撃していたに違いない。
僕達は試合で結弦のお手本のような4サルコウだとか、4トゥループ/3トゥループのコンビネーションだとか、人類には禁じられている入り方から跳ぶ3アクセルのコンビネーションだとかを見ることが出来る。
でもきっと練習ではもっと別のことに挑戦しているはずだ。
着氷出来ないにしても4アクセルに挑戦し、4ループに挑戦して着氷し・・・
4ルッツは1度だけまぐれで降りたことがあると彼は発言したけれど、おそらく実際は何度も成功させていると僕は思う。
実際、プルチェンコは、羽生結弦は次のオリンピックで少なくとも3種類の4回転ジャンプを入れるだろうと予想していた。
でも羽生結弦はこの競技の2002年からの歴史を仔細に分析した結果、4回転ジャンプを何本跳ぶかではなく、どのように跳ぶかが重要だと言う結論に達した。
つまり6本の4回転ジャンプを6回の長い長い助走から跳ぶのではなく、3本、または4本の4回転ジャンプを難しいトランジションや複雑なステップシークエンス、またはイーグルを前後に散りばめて跳ぶことが重要だと。
このことから彼が如何に究極のレベルを追及しようとしているかが分かる。
4回転ジャンプをフリーで3本跳ぶ選手は他にもいる。中には4本跳ぶ者もいる。
でも彼のような跳び方をする選手はいない。
難度のレベルが0から10まであるとしたら、彼はレベル11の跳び方をしている。
30~50メートルの助走から跳ぶわけではない。複雑怪奇なトランジションから跳んでいる。
3アクセルをステップから跳ぶのは彼にとっては自然なことなのかもしれない。
でも4回転ジャンプの前にこのようなステップを入れることはまさに狂気の沙汰だ。
だからこそ僕達はフィギュアスケートの転換期がやってきたと言った。
何故なら彼は他の選手を遥かに上回るレベルにいるからだ。
つまり、彼が健康で、3か月間、何のアクシデントもなく練習出来たら、一体どこまで到達出来るのか想像も出来ない。
ア:当然のことながら、君は彼のより高難度ジャンプの入り方の難しさとクオリティを強調した。
僕が驚愕したのは羽生のコメントと分析から読み取れる彼の聡明さだ。
彼がジャンプの本数ではなく、クオリティ、入り方に趣向を凝らし、如何にプログラムに自然に組み込むかという話をした時、まさにこの点においてプルシェンコの分析とは異なっていることが分かる。
採点システムの研究の仕方が違う。
おそらく文化的な違いもあるのかもしれないが、日本、中国などの極東の国、ロシア、アメリカではアプローチの仕方が異なっている。
ロシアとアメリカではアプローチの方向性は真逆だが、考え方は共通している。
どういうことかと言うと、ロシアは4回転ジャンプに重点を置くルールを押している。一方のアメリカはショートプログラムを規制するルール改正を押している。
でもベースにある考え方は共通している。
つまり、自国の選手の長所を分析し、彼らが有利になるルールを推奨しようとしている。
中国と日本は違う。
自国の選手の特長に関係なく、ルールはルールと受け止め、そのルールの方向性に則ってレベルを上げる戦略を立てる。
顕著なのが羽生の発言だ。
「GOE+3が付く質の高い3アクセルを後半に跳べば4回転ジャンプと同じ得点になる。ルールを読み解き、究極のレベルを追及する」
これが彼の考え方だ。
ジン・ボーヤンとそのスタッフも同じことをやっている。
マ:これは非常に興味深いテーマだ。
何故ならこの大会の後、間違いなく現在の採点システムは見直されることになると思うからだ。
国際スケート連盟の幹部もNHK杯での出来事に衝撃を受けたに違いない。
実際、幾つかの連盟からはルール変更の幾つかの提案が来ているらしい。
でもこの話題はポッドキャストの後半で掘り下げる。
羽生結弦の分析に話を戻す。
結弦は幼い頃、2002年のオリンピックをテレビで見ていた。
☆ここで、4回転ジャンプを3本跳んだゲーブル、プルシェンコ、ヤグディンが活躍した4回転ジャンプ全盛期の2002年のオリンピック、プルチェンコ無双時代の2006年のトリノ五輪、新しい採点システムが導入された当時、ISU関係者もコーチもジャーナリストを含む専門家も、このシステムの均衡が崩れる日が来るとは予想もしていなかった。4回転ジャンプ衰退期、4回転ジャンプを跳ばなかったイヴァン・ライサチェクが金メダルを獲得したクワドレス時代のバンクーバー五輪、4回転ジャンプの基礎点が上がりこのジャンプに挑戦する選手が増え始めたバンクーバー以降までのフィギュアスケートの変遷を解説
マ: ソチまでの4年間、レファレンスとなったのはショートで1本、フリーで2本クワドを入れていたパトリック・チャンだった。
以降、その他の選手も4回転ジャンプの本数を増やすと同時に、演技構成点に相当する部分を向上するためにトランジションもより豊かにした。勿論、それが出来た者と出来ない者とがいるけれど。
羽生結弦はこのような状況に誕生した完璧な統合体だ。
☆ここで、いち早くルールに対応した中国、日本、カナダ、プルシェンコ以降傑出した才能に恵まれず苦戦しているロシア、4回転時代に乗り遅れたアメリカ(アメリカ・スケ連はSPのクワド禁止、またはFSではクワド最高2本までという馬鹿げたルール改正を提案しているらしい)について簡単に説明
マ:バンクーバー五輪の年に世界ジュニアを制した羽生結弦はシニアに上がり、まるで全てが予め青写真に描かれていたように着々と進化していった。
毎シーズン、プログラムに何かしら新しいことを追加した。
そして、先日のNHK杯で僕達が見たプログラムに到達した。最後に加速して。
計画では彼は長野で披露したプログラムを今シーズン初めから挑戦するつもりだったが、先シーズンは複数の身体的問題に見舞われて構成を上げられなかった。
今シーズンのフリーは本来なら3フリップの代わりに3種類目の4回転ジャンプ、4ループを入れたかったんだと思う。
3フリップは元々彼にとってあまり得意ではないジャンプだったが、この複雑な入り方によってこのフリーのフリップはクラクラするほど美しいジャンプになった。
なぜあまり得意ではないジャンプだったのか?
羽生はかつてこのジャンプをインサイドではないエッジで跳んでいた。
でも僕が思うにこの難しい入り方によって今では絶対的安定感を誇るジャンプになった。
最近は試合でも練習でも、エッジを間違ったことは僕が記憶する限り一度もない。
彼がどこまで到達出来るのか、今の段階で言うことは難しいけれど、彼の意図は明らかだ。
彼はこの競技を深く理解していて、プレスカンファレンスでは僕が今言ったことを4~5分に要約して説明した。
彼はゲームの掟をよく分かっていて、今の彼なら技術点で120点、100点満点の演技構成点では95点以上を持ち帰れることを知っている。
だからこそ、より大きなウエートを占める技術点を極めることが重要になるのだ。
GOEで+2、+3の加点を稼げば技術点で120点に到達する。
これはパトリック・チャンと比較した前回のポッドキャストのテーマだけれど、彼が氷上に持ち込むクオリティと多様性はジャンプを跳ぶことをより難しくし、当然ミスのリスクが高くなるけれど、これらが完璧に決まった時、傑作が生まれ、ジャッジと観客は目を奪われる。
パトリック・チャンがクリーンなプログラムを滑った時、スピードとスケーティングの滑らかさは素晴らしく、この点において史上に前例のない比類のない選手であることに間違いはないけれど、彼のプログラムはよりシンプルだ。
現在の採点システムでは羽生が披露するプログラムに誰も太刀打ち出来ない。
演技構成点では彼に対抗出来るパトリック・チャンにも、そして全てをクリーンに滑れば技術点で120点を獲得出来る可能性はあっても、演技構成点で10~15点は劣るジン・ボーヤンにも。
つまりここまでを要約すると羽生結弦は完璧なマシンだということだ。
勿論、今シーズンもそうだったように、エンジン全開になるまで少々時間がかかるし、怪我をしないと言うのが前提だけれど。
彼は腰幅の狭い細身の身体構造によって驚異的な速度で回転することが出来る。
そして健康でいるというのが必須条件だ。
でも彼が健康なら限界がないように僕には思える。2018年の平昌オリンピックで5クワド、5トリプルのフリープログラムを披露しても僕は驚かない。
ア:(笑)驚異的だね。全くその通り。羽生は完璧な統合体で、個々の観点において彼に近づく、あるいは上回ることが出来る選手がいるかもしれないけれど、これほど全てを兼ね備えた選手は世界中何処にも見当たらない。
燦々と輝く才能。
彼がベストの演技をした時、全てのライバル達とは別の惑星のものになる。
この非常に正確で具体的な議論に僕が唯一付け加えたいことは、羽生結弦は黄金期を迎えた現在の男子シングルにおいて無敵だということだ。
ジン・ボーヤンとパトリック・チャンについては先ほど触れたけれど、ボーヤンはジャンプにおいて、パトリック・チャンはスケーティングスキルにおいて前例のない素晴らしい選手だし、ハビエル・フェルナンデスだって2種類の4回転ジャンプを自在に跳び、そのキャラクターや氷上でのカリスマ性、エンターテイメント性の高いプログラムを作り上げる能力において傑出している。洗練された素晴らしい表現力と傑出した技術を兼ね備えたデニス・テンも加えよう。
どの選手も別の時代ならフィギュアスケート史におけるどの時代でも間違いなくタイトルを総なめにしていたであろう選手達ばかりだ。
でも羽生はこうした傑出した選手達に50点もの大差をつけて圧勝する。
これこそが驚異的なことなのだ。
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☆うまく抜粋、要約して何とか1回にまとめようとしましたが、無理でした・・・
ひたすら羽生君の話なので削れる部分がほとんどないし・・・
それにしてもマッシミリアーノさんの予言が次々に現実になっていますね。
以前ご紹介したポッドキャスト(『羽生結弦』思考をフォーカスする (その1)、(その2)、(その3)、(その4)、(その5))の考察が決してマッシミリアーノさんの暴走(妄想)などではなく、実は的確かつ正確な分析であったことが判明
考察その1:NHK杯までには羽生は磨き上げられ、途方もないことをやってくれる気がする。300点越えとか
→300点越えどころか320点越え。しかもショート、フリー、トータルスコアの記録を全て大幅に更新
考察その2:先シーズンは怪我で構成を上げられなかった。もし先シーズン予定通り構成を上げていたら今シーズンはショートをクワド2本の構成にするつもりだった
→来季まで待てず、グランプリ2戦目からいきなりクワド2本の構成に
考察その3:最終的にはフリップの代わりに4Loを入れ、平昌までには最低でもクワド3種4本の構成にするつもりである
→羽生君の発言を聞いていると来季から4Loを入れる気満々みたいですよね・・・
しかもフリーの4回転ジャンプの数が4本から5本に増えていますね・・・